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リアルタイム音声AIがもたらすビジネス変革

人と自然に対話するAIエージェントで変わる業務体験とは

近年、生成AIの進化がもたらす変革が多くの分野で注目を集めており、その中でもリアルタイムで自然な音声対話を実現するAI (以下、リアルタイム音声AI)が急速に発展しています。また、リアルタイム音声AIはビジネスにおいても活用が大いに期待されています。例えば現場の点検作業では、従来は点検表とペンを手に作業し、不明点があれば作業を中断してナレッジ確認や問い合わせを行う必要がありましたが、スマートグラスを介してハンズフリーでAIと対話することで、その場で迅速に解決・判断ができるようになります。同様にコールセンターでも、従来はオペレータのスキル差による対応品質ばらつき、マニュアル・内部確認中の顧客待機などが問題でしたが、AIが直接顧客対応を担うことでそれらの問題を解消できるようになります。このようにリアルタイム音声AIは、人手とデバイス手動操作を前提としてきた従来ビジネスの在り方を変え、人との接点や業務プロセスを根本から刷新し始めています。

本稿では、リアルタイム音声AIの主要な技術トレンド、ビジネスへの影響、ユースケース、そしてデロイト トーマツの取り組み事例に至るまでを幅広く取り上げながら、その潜在的な可能性と今後の展望について考察します。

リアルタイム音声AI技術革新の現状

ここでは、リアルタイム音声AIに関連する技術革新のうち、重要なトレンドを解説します。

  • リアルタイム処理
    リアルタイムとは、ユーザーが話しかけてからAIが応答するまでの待ち時間が極めて短いことを指します。近年のリアルタイム音声AIアプリは、ユーザーの発話中に同時進行で音声認識・応答生成をリアルタイムで行えるようになっており、AIと人の会話のテンポがますます自然になっています。これにより、AIは人間の思考プロセスに遅れることなく追随し、真の対話パートナーとなり得ます。
  • マルチモーダル対応
    近年のAIは「マルチモーダル」、すなわち複数の種類のデータを扱えるよう進化しています。例えば、ある最新モデルは動画・音声・テキストの同時入力をサポートし、出力面でも多言語のテキストおよび音声による回答ができるようになっています。これにより、例えばユーザーがスマートフォンで撮影している動画をAIに見せて「これについて教えて」と話しかけると、AIが動画をリアルタイム解析しつつ音声で解説してくれる、といった対話も実現します。
  • 会話の自然さ・多言語対応
    リアルタイム音声AIの評価軸として近年急速に重視されているのが「人らしい会話」と「言語の壁を感じさせない対話体験」です。最新のリアルタイム音声AIでは、抑揚・間・感情トーン、相槌や割込みがほぼ人同等の自然さとなっています。加えて、複数の言語を1モデルで扱い、発話中に言語が混在しても、話者の声質を保ったまま多言語でスムーズに応答できるようになっています。こうした技術革新によって、AIとの会話に音声トーンや応答遅延によるストレスがなくなり、AIを使う心理的な壁が大きく低減します。ビジネスにおいては、この心理的な壁がないことが非常に重要であり、それによってAIの活用が促進され、応用範囲が大きく広がります。

リアルタイム音声AIによるビジネスの変革

ここでは、音声対話のリアルタイム処理性能や自然さ向上、マルチモーダル対応といった技術の進化を背景に、リアルタイム音声AIがどのようにビジネスを変えていくのか、そのインパクトを概観します。

  • ユーザー体験の高度化
    リアルタイム音声AIは、人とAIが自然かつ即時に対話できる環境を実現することで、これまでにない新しいユーザー体験を生み出します。
    例えばプラントエンジニアリングの現場では、機器の故障や異常を発見した際に、端末を使ってマニュアル確認や報告するために一度作業を止める必要がありました。これに対し、リアルタイム音声AI搭載のスマートグラスを活用すれば、作業員はハンズフリーのまま視界に機器を捉え、「このアラートの原因と対処法は?」と質問するだけで、AIから音声で最適な手順のガイドを受けられます。 これにより作業を中断することなく迅速な対応が進められ、さらに作業後も、AIとの対話履歴と映像内容から報告書を自動作成することで作業負担を軽減できます。
  • 暗黙知の可視化と活用
    リアルタイム音声AIは、これまで形式知化が難しかった「暗黙知」を可視化し、組織全体で共有・活用する新たな可能性を切り拓きます。
    例えば製造現場では、従来は熟練者が無意識に行っていた判断や作業のコツは、本人が言語化することが難しく、現場で感覚的にしか伝えられませんでした。これに対し、リアルタイム音声AIは熟練工の作業映像をリアルタイムで解析し、通常と異なる動きや判断の瞬間を検知。「トーチの角度を変えたのはなぜですか?」といった具体的な問いを投げかけることで、本人も意識していなかった思考のプロセスや判断基準を引き出します。これにより、感覚的だった「コツ」が具体的な言語や数値データとして、効率的に形式知化されます。
  • 業務プロセスの変革
    リアルタイム音声AIは、業務の効率化にとどまらず、業務のあり方そのものを抜本的に変える可能性を秘めています。
    例えば営業業務で、「①準備(資料作成等)→②商談→③事後対応(報告書・見積作成等)」というプロセスにおいてリアルタイム音声AIを導入すれば、①準備:AIを仮想顧客に見立てロールプレイ、②商談:同席させたAIに商談内容を解析させタイムリーに必要資料を提示、③事後対応:メンター役AIとの商談振り返りを通じて報告書・見積を自動作成、といった活用が可能になります。
    このように、リアルタイム音声AIを用いて作業自動化や新規の価値創出ができるよう業務プロセスを再構築すれば、営業担当者は顧客対応に専念でき、営業サイクル全体のスピードと質が大きく向上します。

リアルタイム音声AIのユースケース例

ユーザー体験の高度化 – システム操作

リアルタイム音声AIに、ユーザーが利用するシステムの操作マニュアルを事前投入しておき、その上でPCデスクトップ映像を共有しながら音声対話を実行。従来はシステムの使い方が分からない場合、ユーザー自らマニュアルを探したり問い合わせ用チャットボットに質問文や画面キャプチャを入力したりする必要がありましたが、本AIによりユーザーは分からないことをAIとのリアルタイムな音声対話によって解決できます。

暗黙知の可視化と活用 - ベテラン社員の技能伝承

リアルタイム音声AIによるインタビューを通じ、ベテラン社員の長年の経験やそれを通じて培った暗黙知を形式知化。従来のAIや限られた人的工数では難しかった、各ベテラン社員の経験や性格などに寄り添ったインタビューを都度柔軟にAIが考えるため、技能伝承が進みやすくなります。

(参考)

業務プロセスの変革 – コンタクトセンター

リアルタイム音声AIがオペレータとして顧客と直接対話し、問い合わせを自動対応・解決。解決できない場合は会話要約や推奨アクションを人のオペレータに提示し、対応終了後には通話分析結果を顧客毎ダッシュボードに蓄積。従来のAIでは難しかったこれらの高度な対応を一気通貫で担えるようになったことで、人はイレギュラーケースのみ対応する業務プロセスへと変革できます。

(参考)

 

業務プロセスの変革 – 市場・顧客反応の事前予測

リアルタイム音声AIを用いて人にインタビューを行った結果を基に、多様な個性や深層心理を再現したAIエージェント集団を構築し、新商品などへの反応を事前にシミュレーション。これにより、従来の時間・コストがかかる市場調査では困難だった深層心理の把握が可能となり、ニーズにあった商品・サービスをより正確かつスピーディに届けることができるようになります。

(参考)

まとめと展望

本稿で解説したリアルタイム音声AIは、ビジネスのあり方を根底から覆すポテンシャルを秘めています。ここではその未来を正しく見据え主導していくために、「技術」「ビジネス」「推進体制」の視点から本稿の要点と今後の展望を整理します。

  • 技術
    リアルタイム音声AIの技術は、低遅延化、マルチモーダル化、会話の自然さといった方向で急速に進化しており、そのスピードは今後さらに加速していくでしょう。このような状況下で問われるのは、単に最新技術を追いかけるだけではなく、自社のデータや業務と掛け合わせ、ビジネス価値に転換する「戦略的構想力」です。構想力をベースに 技術の本質を見極め、迅速な意思決定で実行に移せる企業こそが、市場での競争優位性を確立します。
  • ビジネス
    リアルタイム音声AIは、単なるチャットボットとしてだけでなく、人との接点や業務プロセスの変革に適用することで、大きなビジネスインパクトを生む技術です。例えば、AI搭載スマートグラスで現場作業をハンズフリー化、仮想顧客に見立てたAIでロールプレイ、ベテランの暗黙知をインタビューAIで形式知化するなど、従来は実現困難だった変革が可能となります。こうした変革は、これまで人が担ってきた判断や操作の多くをAIが代替・支援することで、顧客接点の質、従業員の能力拡張、技能伝承といった企業活動の根幹を再定義します。その結果、あらゆる業務プロセスにAIが深く組み込まれ、「AIが常に傍らにいる世界」が当たり前になっていくでしょう。
  • 推進体制
    リアルタイム音声AIの潜在能力を最大限引き出すためには、単なる技術の導入に留まらない、組織全体での変革が求められます。しかし、多くの企業が部門最適化を目的とした小規模な概念実証(PoC)に終始してしまい、全社的な投資対効果を見出せないまま終わるケースは少なくありません。この「PoCの壁」を乗り越えるには、まず経営トップがリーダーシップを発揮し、全社横断でのAI活用方針と投資の重点領域を明確に定める必要があります。その上で、戦略、人材、データ基盤、ガバナンスといった実行要素を部分的に導入するのではなく、全体を統合し強力に推進する体制を構築することが、変革の成否を分ける鍵となります。

AIによるビジネス変革基盤サービスとトータル支援プログラムのご紹介

本稿で述べた「技術」「ビジネス」「推進体制」の3つの視点を高いレベルで融合させ、これら多岐にわたる専門要素を全て自社だけで迅速に整えることは、多くの企業にとって大きな挑戦となります。この挑戦を包括的に支援するため、デロイト トーマツは「AI Factory as a Service」を提供しています。これは、AIに関する最先端の研究と実践知を基盤に、戦略策定からインフラ構築、人材育成、ガバナンス設計までをワンストップで提供するプログラムです。単なるツール提供に留まらず、組織文化の変革までを視野に入れ、企業の生成AI活用の本格的な導入を伴走支援します。

(参考)

リアルタイム音声AIなどのAIと共に創る未来にご興味をお持ちの方は、ぜひデロイト トーマツにお問い合わせください。

リアルタイム音声AIがもたらすジネス変革

執筆者

齊藤 剛
デロイト トーマツ コンサルティング シニアコンサルタント

松川 達也
デロイト トーマツ コンサルティング シニアスペシャリストリード

※このページの内容は2025年10月時点のものです。

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