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【第2回】メディア・プラットフォーム(PF)の戦略ストーリー

メディア・プラットフォームのユニバース ~メディア・プラットフォームはどこまで広がり、そのとき日本企業はどう戦うか~

前回は、米国の巨大メディア・プラットフォーム(以下「PF」という。)が競争上優位に立つ条件を抽出することを試み、「コンテンツ」と「場」に分けて6つの条件を提示した。しかし、こうした条件は分断されたものではない。成功しているPFは条件をつなげて戦略ストーリーとすることで価値を大きくし、なおかつ他社が模倣することを困難にするという、大きな戦略優位性をもたらしている。

本レポートでは、PFの戦略ストーリーを紐解くことでその内実を検証し、新たに戦略を考える際の材料を提示したい。

6つの条件をストーリーとして練り上げる

これら6つの条件を、A社に当てはめる。A社は、SVOD PFとして、ライセンス調達に加え、オリジナル作品への注力→コンテンツの閉鎖性・集目性・集積性による差別化→ユーザー流入→データ蓄積→発見性向上→視聴時間増加→継続率向上→投資回収→さらなるコンテンツ投資、という自己強化ループを回す構造にある。

A社は、自ら巨額の資金を投じて世界各国でオリジナル作品を制作し、その権利も全て自社で保持することで、集積性・集目性・閉鎖性を自社で管理する垂直統合モデルを構築してきた。その一方で、ある大手競合他社は、複数社による合弁会社として設立されたため、主力コンテンツの多くを親会社からの供給に依存していた。各親会社が自社PFを強化する戦略に転じた時点で、コンテンツ提供は減少・制限され、閉鎖性も低下した。さらに、親会社の利害関係にも左右されやすかったため、A社のようなループ構造を強化できず、結果として、コンテンツ所有・戦略的意思決定・グローバル展開等、多くの点で他社依存や調整コストを抱えることになり、A社との間に構造的な差が生まれた。つまり、「集積性・集目性・閉鎖性というコンテンツの中核条件を自社の意思でコントロールし、戦略ループを一貫して回せるかどうか」が、両社の決定的な分岐点であったといえる。

次に、B社の戦略ストーリーを見る。B社は、広く開放されたUGC PFとして、コンテンツ集積→ユーザー流入→データ蓄積→発見性向上→視聴時間増加→広告収益→収益のクリエイター還元→クリエイターの増加→さらなるコンテンツ集積、という自己強化ループを回し続ける構造にある。また、可動性(検索・埋め込み・SNS連携・デバイス)によってユーザーを呼び込み、価格(無料)による摩擦をなくしてその場で視聴者に転換させ、集積性と発見性がユーザーの視聴を定着させるという、ループへのユーザー常時供給の仕組みも働く。

市場におけるシェアの高い企業は、前述の6つの条件の中でも、特に集積性等の量的側面を高め続けることで他社との差を広げることが多い。しかし、これら6つの条件は全てを兼ね備えることができるわけではなく、トレードオフの関係を含んでいる。閉鎖性が低い、すなわち開放性があるほど集積性は高まりやすいが、集積性が高まるほど利便性は下がりやすい。閉鎖性を高めると、集積性の障壁になったり、価格を高めやすくなったりする。集目性にはコストがかかるため、価格も上がりやすい。また、広告モデルにした場合には、広告が利便性を下げることも起こりやすい。可動性が高まると、閉鎖性を阻害し、価格を上げにくくする。

オリジナル作品とデータ活用で視聴・継続率を高め、投資を循環させる戦略。
UGC集積と無料視聴を軸に、広告収益と還元で成長を循環させる戦略。

重要なのは、これらの条件をストーリーとしてつなげていくことで、全体として差別化を図ることにある。ストーリーの先に生み出される顧客価値が、他のプラットフォームと差別化できているかどうか、すなわちバリュー・プロポジションを、自社の持つ資源を見定めながら練り上げていく必要がある。例えば、B社の事例が示すように、集積性・発見性・価格(無料)を重視する一方、集目性や閉鎖性への投資を相対的に抑えるといった、ストーリー性のある戦略的意思決定により、強固な競争優位性が生まれる。

PF市場での競争は、このストーリーが顧客価値に適合し続けられるかによって左右される。そのとき、PFの新陳代謝も含めて、今後の市場を形作っていく上で、何が武器となり得るかが問われる。

戦略ストーリーを後押しする技術とルールという選択肢

PFには多くの先端技術が実装されているが、特にレコメンデーションやパーソナライゼーションの一層の高度化が、今後の市場動向を左右する要素となるであろう。A社は、同じ作品でも人によってサムネイル画像を変えており、何を並べるかに加えて、どう見せるかまで個人ごとにレコメンデーションを最適化している。さらに、作品にタグを付け、趣味の近い視聴者グループごとに合う作品をまとめてレコメンデーションする仕組みによって、Discoverabilityをさらに高めている。

一方、C社は生成AIを活用し、レコメンデーションをより高度化している。例えば、視聴履歴から、背筋が凍るようなサスペンスや目を見張るようなパフォーマンス等、興味に合うテーマをAIが自動で生成し、そのテーマごとに関連作品をたどれることを可能としている。また、パーソナライゼーションの文脈では、自らの視聴箇所までの物語の要約を生成し、継続的な視聴を促す機能も提供されている。

今後、エージェントAIがさらに普及すると、レコメンデーションやパーソナライズの在り方も変化し、視聴体験も再構築される。現在は「一覧を見て自分で選ぶ」ことが基本であるが、エージェントに条件を伝えれば候補が絞られ、対話で調整し、そのまま再生を開始したり視聴計画を組んだりできるようになる。レコメンデーションの主体も、プラットフォームからエージェント側に移行していくことが想定される。そうなると、コンテンツプロバイダーにとっては、作品のメタデータ(テーマ・ムード・長さ等)を充実させ、エージェントに選ばれることが競争の軸になる。さらに、エージェントが複数プラットフォームを横断検索する場合、プラットフォーム自体もエージェントに選ばれる競争にさらされ得る。APIの整備や検索のしやすさが、配信先として選ばれるかどうかを左右する可能性がある。

こうした技術に加えて、ルール面も大きな武器となり得る。そもそも、PFを取り巻く法律は極めて多様である。コンテンツ・モデレーション規制、データ規制、個人情報保護規制、消費者保護関連規制、競争法、AI規制、アプリ規制、プロミネンス規制や表現関連規制等、枚挙にいとまがない。重要なのは、これら1つ1つを深く理解した上で、単体ではなく束として捉えた動きを事業戦略に反映させることにある。例えば、EU市場でいえば、AI規制は単体で成り立っているわけではないため、データ規制(EUデータ法)や個人情報保護法(GDPR)も併せて捉えた範囲の中で、PF特化の規制の動向を探り、自社の取り得る選択肢の幅を考えることが求められる。

ここで「選択肢の幅」と記した理由は、ルールについては順守のみが議論の焦点となるなど、どうしても日本企業には「守り」のイメージが残るためである。これは一概に否定されるものではないが、ルールには武器となる「攻め」の側面も十分にある。例えばフランスでは、特定のPFに対して、フランス語又はフランス地方言語の作品への投資義務や、カタログの一定割合を欧州作品やフランス作品に充てる義務が課されている。こうした規制を受けて、フランス産のPFは戦略を講じている。

この点は、メディア文脈で議論に挙がりやすいIP等の知財を想定すると、より分かりやすい。IP等の知財は、それらを他者からどのように保護するかが重要であると同時に、それらを使ってどのように収益化するかも重要な戦略要素である。これらは、あくまで知財を取り巻く法的又はソフトローの枠組みの中で検討される。この枠組みも刻々と変化し得る。生成AIによる知財の在り方への問い直しのように、技術や社会情勢、利用者動向等の多様な要素を踏まえた枠組みの捉え方及び捉え直しが肝要である。例えばデロイト トーマツでは、グループ内の法律家チームや知財チームと連携しながら、戦略への意味合いを検討し、クライアントとの議論につなげている。

技術とルールは、新規又は既存のPFの戦略ストーリーを後押しする大きなレバーとなり得る。自社のPF戦略の中に6つの条件を組み込んだ姿を考えていくときに、新たな戦略上の角度や起点となるためである。これらを総体として捉え、自社らしい戦い方を紡いでいくことは、十分に検討に値する。

執筆者

三室 彩亜 / Saia MIMURO パートナー
合同会社デロイト トーマツ|Monitor Deloitte

メガトレンドを起点としたビジョンや中長期戦略の策定、事業計画、新規事業等の立案、リスクマネジメント等を担う。メディアの社会的な価値や、情報の届け方、それを支える制度研究にも長年携わっている。


本井 中庸 / Nakanobu MOTOI シニアマネージャー

合同会社デロイト トーマツ|Monitor Deloitte

メガトレンドやシナリオを起点としたビジョン策定や、長期の全社/事業戦略、事業ポートフォリオ策定、事業戦略視点のルール形成、組織実行、ガバナンスの支援を実施。
 

濱岡 晃雄 / Akio HAMAOKA マネージャー
合同会社デロイト トーマツ|Monitor Deloitte

メディア・食品/飲料業界の大手企業を中心に、中長期戦略・事業ポートフォリオ変革、政策/規制対応、経営計画策定等、外部環境分析から戦略・構想策定、経営意思決定支援まで幅広いプロジェクトに従事
 

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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