本レポートは、メディア関連企業(制作会社、放送局、出版社等)及び、メディア・プラットフォームと自社事業を組み合わせた事業開発・戦略を検討する担当者に向けたものである。
メディア・プラットフォームについて海外企業が隆盛を極める中、そのメカニズムを分析し、自社の戦略に生かすことは極めて重要である。本レポートの中心にある問いは、米国の巨大メディア・プラットフォーム(以下「PF」という。)が、なぜここまで寡占化を進めることができたのかを競争条件から読み解き、その構造の下で、コンテンツプロバイダーやチャレンジャー、フォロワーがどのように自社の戦略を設計、実行するか、という点にある。
PFが優位に立つ条件を正確に抽出できれば、新たな戦略的選択肢も見えてくると考えられる。
今日、メディアと呼ばれるものには、主としてテキスト、音声及び動画がある。これらは、限られた数の専門的な事業者が制作・提供するだけではなく、メディアの水平化(分業化)が進んできた。中でもコンテンツメーカーの領域では、誰もがPFにおいて投稿できるようになって久しい。
世界でAVoDのユーザー数は数十億人を超え、世界中のユーザーがテレビ画面を通じて毎日10億時間以上コンテンツを視聴しているという。北米では300を超えるOTTビデオサービスが乱立しておりi、Deloitteの調査では、米国の消費者は有料SVODだけでも平均4つのサービスを併用しているii。各PFによるオリジナルコンテンツへの投資、料金体系、バンドル施策、広告付きプランといった多様な戦略が、市場競争を激化させている。
OTT市場では、サービス数そのものは増加しているものの、視聴時間という観点から見ると、上位事業者への集中が顕著である。例えば米国では、上位4社でテレビ画面におけるストリーミング視聴時間の約65%を占めているiii。このように、視聴者の「時間」の奪い合いにおいては、一部のPFによる寡占傾向が強まっていることが分かる。
なぜ上位企業はここまでシェアを拡大することができたのか。言い換えれば、こうした競争の勝敗は、どのような条件によって生まれているのか。また、日本のコンテンツ制作企業やPFに市場で勝機はないのかについても、検討する必要がある。
まず重要なのは戦略である。戦略策定を資源配分を考える営みと捉えるならば、資源の要素を効果的に配分し、要素間で連鎖させることが重要である。PFの戦略要素は、大別すると「場」と、そこに載る「コンテンツ」(テキスト、音声、動画等)の2つで理解できる。ここでは、市場上位各社のアニュアルレポートや記事等から、これまでの投資内容を読み解き、カスタマージャーニー分析を経て検証した。その結果を踏まえ、PFが何を狙い、どのように競争優位性を構築してきたかを考察する。そうすることで、現代のPF上位企業が「コンテンツ」と「場」について、どのような条件を有しているかを捉える。
動画配信サービスでは数十万本、音楽配信サービスでは1億曲を抱えることも珍しくない。ユーザーにとって、コンテンツ量は多いほど望ましい。往々にして、「見尽くした」と感じたとき、ユーザーは解約する。チャーンレート(Churn Rate。解約率)を下げるには、目当てのコンテンツに接触し続けることが重要と考えられる。そのため、後述するように各サービスはレコメンデーションや一気見に力を入れ、ユーザーが連続的にコンテンツに接触することを狙っているが、その前提として一定量のコンテンツが必要である。
こうしたコンテンツは、全てがヒット作である必要はない。むしろ、新旧や有名・無名の作品が織り交ざっているのが実態である。ここで起きている現象は、ECサイトで従来から言われている「ロングテール」と捉えると理解しやすい。毎年新たに生まれる大量のコンテンツのうち、いわゆるヒット作と呼ばれるものはほんの一部である。むしろ、無名作品や過去作品が大量にあることで、ユーザーの多様な嗜好に応え続けることができる。また、そのように量を担保することで、レコメンデーションの精度も高めることができる。さらに、近年着目されているファンダム(Fandom)を取り込もうとすると、無名であっても一部のファンに評価される作品を抱える必要がある。このため、米国動画PF(SVoD)のA社はコミュニティごとに人気のあるコンテンツ群を把握している。コンテンツを大量に準備するには、多様であることが望ましく、また多様でなければならない。この量と多様性を抱えられることは、PFの根幹である。
もっとも、この多様性が無条件にもたらされるわけではない。大きく3点の制約がある。第1に、コンテンツ調達コストはコンテンツ数に比例しやすく、かつ継続的に発生しやすいことである。世界的にコンテンツ制作費用と放映権料は高まり続けている。したがって、集積性をコストの観点から見れば、資本力のある市場上位企業がより有利となりやすい。第2に、多様性といっても無限ではないことである。実際には、特定のジャンルや傾向で一定の絞り込みを行うことが、自社PFの性質を強化し、次なるコンテンツとユーザーを呼び込みやすくする。例えば、A社には報道コンテンツは基本的に存在してこなかった。第3に、量と質を両立することの難しさである。大量のコンテンツを抱える中では、社会的批判を受けるものが生じる可能性がある。コンテンツの中には差別的内容や、児童の生命に悪影響を及ぼすものも指摘されている。UGC(User Generated Content)を含むPFでは、フェイクニュース等の管理についても批判を受ける。加えて、コンテンツは生ものともいえるものであり、今年の評価と30年後の評価が一致するとは限らない。その時代の価値観や法規制に合わせて、自社の抱えるコンテンツを評価・管理し続ける営みが求められる。
大勢のユーザーが視聴する、いわゆるヒット作は、PFをユーザーが選ぶ大きな要因の1つであり続ける。PF上の視聴回数上位のコンテンツが、全視聴回数の大半を占めることも珍しくない。
ヒット作を提供するために、A社を中心としたSVOD PFは、オリジナルコンテンツ制作のために巨額の投資を行っている。また、そうしたPFの動きも相まって、多くの視聴者を集めるライブスポーツの放映権料は年々高騰している。こうしたヒット作をPF上で提供するには、優れた制作ノウハウ及び調達ノウハウが不可欠である。これらの在り方にも、各PFによる違いがある。従来から保有していたノウハウや、スタジオの買収・設立によって自社内にノウハウを蓄積する「自社ノウハウ型」、多くのアマチュア又はセミプロにコンテンツ制作を担ってもらう「UGC型」、自社ノウハウだけでなく、他のプロや事業者との連携体制を構築する「エコシステム型」が見られる。A社はこのエコシステム型に当たり、190か国以上で展開するグローバルプレーヤーとしての利点を生かして活動している。メディア制作のプロや事業者は、コンテンツを「作る」ことと「届ける」ことの2つの営みを担いうるが、その両方でリスクを抱えることは容易ではない。コンテンツに係る諸コストを回収できない可能性があるためである。そのため、たとえ良質なコンテンツが各地域で作られていたとしても、それらを世界中に届けることは事実上難しかった。A社は、世界各地の制作会社に「作る」コストを支払いながらコンテンツを調達している。そのコスト負担の在り方については、二次利用の権利等も含め、今後変化が求められるであろう。しかし、本質的には、A社の「届ける」力、すなわちディストリビューションを武器として、各地域のコンテンツを世界に配信し、ヒットさせる機会を提供できることが強みと捉えられる。各地域の制作会社が抱えていたディストリビューションコストを引き受けたのである。A社にとって、1つの制作会社がヒット作を連発することは至難である。加えて、1国内だけでのヒットでは、そのコストを回収できるとは限らない。そのため、世界中のできるだけ多くの制作会社から調達し、世界中に配信することでコスト回収を行うという、ポートフォリオの観点が取り込まれたのである。「作る」ことと「届ける」ことに係るコスト負担及び分散がA社の強みであることは、今後も変わらないであろう。
他方で、SNSはどのような集目性を有しているのであろうか。前述のUGC型が主であるが、実際には一般ユーザーだけでなく、多くの事業者も参加している。中でも報道ジャンルは、SNS内でも高い集目性を有しながら、長年培われた高いノウハウや倫理観が求められる、制作が極めて難しいジャンルである。ユーザーにとっても、SNSは報道ジャンルに接触する大きな機会となっている。他方で、国内外でSNS事業者が報道ジャンルに支払う金額は十分ではないとされており、この点の是正は社会的にも望まれる。
PFに競合関係がある以上、「ここでしか見られない」コンテンツは武器となりやすい。そのため、各PFは毎年新たなオリジナルコンテンツを配信し続けている。このようなコンテンツの特定PFにおける閉鎖性が武器であることは、今後も変わらないであろう。
他方で、閉鎖性は常に武器であるとは限らない。閉鎖性を低くすること、すなわち開放も戦略的な選択肢である。なぜなら、閉鎖性はPFにとって有利な条件に見えやすいが、ユーザーにとっては不便でもあるからである。どのPFでも視聴できる方が、実際には視聴数自体は伸びやすい。米国動画PF(AVoD)のB社がその典型例であり、埋め込み動画等を用いながら、多くのPFでB社のコンテンツが視聴できる。こうして視聴数を獲得することでネットワーク効果が生まれ、さらに視聴数が伸びやすくなる。また、自社制作コンテンツを他社PFでも視聴できるようにすることで、収益を得る事例も多い。前述の集目性の高いコンテンツ及び低いコンテンツに対し、それぞれ閉鎖性を持たせるか否か、またそのときどのように持たせるかは、PFの戦略の現れといえる。
PFが整備し、磨き上げてきたユーザビリティが私たちに与える影響は大きい。SNSが短文であることや、ショート動画PFを使うことによって、私たちのメディアへの接し方だけでなく、考え方や感覚までも変化している。
インフラ面でいえば、A社は自社のグローバルコンテンツ配信ネットワークを構築することで、効率的なストリーミングを狙っている。UI/UXの観点でいえば、今後PFにとってより重視される利便性は、Discoverabilityにある。これの意義を考えるに当たり、まずはこの世の全てのコンテンツを集めた架空のPFを想定するとよい。そうしたPFは果たして使いやすいであろうか。おそらく、ユーザーが見たいコンテンツを見つけることは困難になり、不満は高まる一方であろう。大量のコンテンツによって集積性を高めながらも、それらに埋もれずにユーザーが見たいものを見せることで、視聴量を増やす必要がある。そのために鍵を握るのがレコメンデーションである。例えば、ある音楽PFのレコメンデーションは、リスナーに再生を促すことで、ユーザーの利用時間を大きく増加させた。では、レコメンデーションを高度化すれば、ユーザーが見たいものを継続的に提示できるのであろうか。実は、レコメンデーションと見たいものを見ることは、時に相反する。レコメンデーションは基本的に、ユーザーの過去の視聴履歴等のデータを基に個別最適化を行うことで成り立っている。そうすると、ユーザーが普段見ているものしか推薦できなくなり、飽きが生じてしまう。そこで、各PFは一定のセレンディピティを取り入れる工夫をしている。この設計には各社の個性が表れ、絶え間ない改善が求められる。
では、一定程度のセレンディピティを備えたレコメンデーションがあれば、問題は解決するのであろうか。事はそう単純ではなく、そうしたレコメンデーションに載せるコンテンツを、どのように伝えるかがさらに重要となる。サムネイルやレコメンデーション文言のパーソナライズ等、多様な伝え方が模索・実装されている。また、そうした技術的工夫に加えて、プロミネンス(露出性)も鍵を握っている。PFのトップ画面では、全てのコンテンツが同じ大きさ・画角で訴求されているわけではない。明らかに重点的に訴求されるコンテンツが上部に大きく表示されている。プロミネンスはPFの顔でもあり、収益にも影響を与える。
PFに対してユーザーが支払う価格は、サービスの命運を握る。しかし、その価格は固定的なものではない。むしろ、その価格に対する操作性こそがPFの特徴である。
まず、大まかにPFの価格構造を年間単位で捉える。Revenue((WTP〔Willingness To Pay。支払意向価格〕×12か月)×(ユーザー数×(1-Churn Rate)÷100)+手数料〔他PF経由で得る収入等〕)-Cost(売上原価〔コンテンツ制作費用、コンテンツ償却費〕+マーケティング費用〔キャンペーン等による割引費用〕+技術開発費用+一般管理費)=年間利益といった構造となる。そのとき、この年間利益をいくら残したいかは検討要素となる。
加えて、ここでいうWTPは、本稿で述べた集積性等の他の条件や、競合の価格によって変動し続ける。ユーザー側のWTPの変動に対し、PF側も多様な形で価格を操作することで対応できることが重要である。2013年以降にA社が米国で幾度も料金改定をしているように、単純な金額の上下は迅速に行われる。それにとどまらず、対価モデル自体も操作される。最も分かりやすいものが広告モデルの導入である。SVOD事業者であるA社をはじめ、各社が広告モデルを導入してきた。一方で、AVOD事業者であるB社もサブスクリプションモデルを一部導入している。A社が広告モデルに長年反対していたように、広告モデルにはユーザーの利便性を低下させる懸念がある。WTPに影響を及ぼすため、何らかの方法で補える見通しが立ってから広告モデルを導入する必要がある。
本質的には、ユーザーが支払う対価は金銭だけではない。時間とデータも対価である。広告モデルにおいては、コンテンツ接触時間は広告収入と比例関係にある。視聴データは広告の精度を高めるために活用できる。これら全てを選択肢として持っていることが、PFの価格操作性である。新たな選択肢を取ったとき、ユーザーの反応を何で測るか、それに応じて何を変えるか、いつ動くかは、シナリオとともに事前に準備しておくことが望ましい。
今日のユーザーは複数のPF間を移動することができる。例えば米国動画PF(SVoD)のC社は他社のPFと接続しているし、B社も同様のサービスを展開することで追随している。PFがユーザーの誘導量を増やしたり、コンテンツ購入費用を増やしたりしたいときには、有効な手段といえよう。他方で、自社のオリジナルコンテンツを実質的に他社PFに開放することにもなる。そのため、コンテンツの「閉鎖性」で述べたように、そのコンテンツの性質や扱い方を検討した上で判断する必要がある。
また、他社PFに動線を作るのであれば、より重視しなければならない点はDiscoverabilityである。単に他社PFに置いただけでは、他のコンテンツに埋もれてしまう。そうすると、単にコンテンツの「閉鎖性」を低下させることになりかねず、重要なオリジナルコンテンツの扱いとしては望ましくない。他社PF上のユーザーの動線や判断を時系列で詳細に捉えた上で、自社コンテンツのDiscoverabilityを少しでも高められるよう、現場レベルでの綿密な契約交渉が鍵を握る。
三室 彩亜 / Saia MIMURO パートナー
合同会社デロイト トーマツ|Monitor Deloitte
メガトレンドを起点としたビジョンや中長期戦略の策定、事業計画、新規事業等の立案、リスクマネジメント等を担う。メディアの社会的な価値や、情報の届け方、それを支える制度研究にも長年携わっている。
本井 中庸 / Nakanobu MOTOI シニアマネージャー
合同会社デロイト トーマツ|Monitor Deloitte
メガトレンドやシナリオを起点としたビジョン策定や、長期の全社/事業戦略、事業ポートフォリオ策定、事業戦略視点のルール形成、組織実行、ガバナンスの支援を実施。
濱岡 晃雄 / Akio HAMAOKA マネージャー
合同会社デロイト トーマツ|Monitor Deloitte
メディア・食品/飲料業界の大手企業を中心に、中長期戦略・事業ポートフォリオ変革、政策/規制対応、経営計画策定等、外部環境分析から戦略・構想策定、経営意思決定支援まで幅広いプロジェクトに従事
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
出所一覧
i Nielsen, Streaming Shatters Multiple Records in December 2025 with 47.5% of TV Viewing, according to Nielsen’s The Gauge™, 2026/1,
https://www.nielsen.com/news-center/2026/streaming-shatters-multiple-records-in-december-2025-with-47-5-of-tv-viewing-according-to-nielsens-the-gauge/
ii Deloitte, 2025 Digital Media Trends: Social platforms are becoming a dominant force in media and entertainment, 2025/3/25,
https://www.deloitte.com/us/en/insights/industry/technology/digital-media-trends-consumption-habits-survey/2025.html
iii Parks Associates「Streaming Video Tracker」