企業はどのように価値創造へ踏み出すべきか。成長戦略の再構築が求められるなか、問われているのは自社の強みをどう生かすかという視点だ。デロイト トーマツが示す3つの切り口から、日本再成長の可能性を読み解く。
※本稿は2026年3月24日に行われた「日経ビジネス主催 日本成長戦略フォーラム 政府が掲げる『17戦略分野』企業が読み解くべきポイント」の協賛社講演のリポート記事です。
「失われた30年」と言われる停滞を経て、日本は今、再び成長戦略と真正面から向き合う局面にある。長川は、「この機会を逃せば、日本の産業プレゼンスを回復するタイミングが失われかねない」と強い危機感を示す。
そのうえで長川が掲げるのが、「課題先進国」から「課題解決先進国」への転換だ。
「少子高齢化や社会保障など、日本が先行して直面してきた課題は、今や世界共通のテーマとなりつつある。日本が蓄積してきた知見や解決の兆しを発信することで、これまでとは異なる形でのプレゼンスを示せるはずだ」と長川。
その中核をなすのが、「信頼」「変化」「融合」という3つの要素である。
日本企業には「世のため人のため」という価値観が強く根付いている。企業は社会の公器であるという意識のもと、長年にわたり社会との関係性を築いてきた。この“信頼資本”こそが、日本の競争力の源泉である。短期的な利益ではなく、長期的な価値創出を重視する姿勢は、サプライチェーン全体の安定性やパートナーシップの強さにもつながる。
また、日本は変化に慎重な国と見られがちだが、トヨタの「カイゼン」に代表されるように、現場に根差した継続的な進化を積み重ねてきた歴史を持つ。明治維新以降の社会構造の転換も含め、本来は変化に強い国である。重要なのは、断絶ではなく、連続的な変化を積み上げる力だ。
そして信頼と変化を結びつけ、新たな価値へと昇華させる中核が融合である。「和を尊ぶ」精神や「和魂洋才」に象徴されるように、日本には外来の技術や思想を独自の価値観と掛け合わせてきた文化がある。
「これら3つを掛け合わせることで、日本発の価値は世界に受け入れられやすくなる」と長川は強調する。その具体像として挙げたのが、技術と人間性の融合だ。
「例えば、日本古来の匠の技をフィジカルAIに載せ替えるだけでなく、そこにおもてなしの精神や人間の感性を組み合わせることで、安心・安全かつ高付加価値なサービスとして海外展開する。単なるテクノロジーの輸出ではなく、“人間らしさ”を内包した価値として届けられることが日本の独自性だ。さらに、企業や産業の垣根を越えたベネフィットシェア型の事業や、産官学の連携による共創も日本ならではの融合の形と言えるだろう」(長川)
デロイト トーマツ自身も、こうした融合を実装する取り組みを進めている。産業振興・イノベーション支援拠点の「SAPPORO Social Innovation Hub」の開設や大学生や企業に所属する社会人約300名が世代や業界を超えて未来を共創するプロジェクト「夜明け会議」などを通じて、人と人をつなぐ場を創出するとともに、量子技術や創薬といった分野への投資・研究開発を展開。場づくりと実行の両輪で成長戦略の具体化を支える。
その根底にあるのは、創業者の等松農夫蔵氏から今も同社に受け継がれる「日本の未来を描き、課題解決に全力を尽くす」という理念だ。日本で誕生し、グローバルネットワークにもその名を刻む同社は、その強みを起点に世界に不可欠な日本産業の創造を図る。
「日本の成長にとどまらず、その知恵を世界へと広げていく。その結果として、より良い未来を創っていきたい」
長川の言葉には、日本の可能性を信じ、そこに懸ける強い思いがにじむ。信頼・変化・融合——これらを掛け合わせることで、日本企業は新たな成長フェーズへと踏み出すことになるだろう。
デロイト トーマツ グループ 執行役 コンサルテイティブビジネスリーダー
合同会社デロイト トーマツ 代表執行役
長川 知太郎
※所属・役職は2026年5月末時点の情報です。