競争法(独占禁止法等)違反は課徴金等による金銭的なものに限らず、レピュテーションや事業継続にも及び、サプライチェーン全体に波及する場合もある。本稿は、経営における競争法リスクを全体的にとらえ、現場での注意点と実務で使える対応策を示す。
競争法(独占禁止法等)は、違反するとそのインパクトは課徴金等による金銭的なものに限らず、レピュテーションや事業継続にも及び、サプライチェーン全体に波及する場合もある。近年は、中小受託取引適正化法(取適法、旧下請法)により規制が強化され、特に製造業や小売PB事業では、価格協議の証跡不備や買いたたき行為に対する取締りのリスクが顕在化している。
公益通報者保護法や不正競争防止法が、「労働者保護」や「営業秘密保護」など企業の事業活動の外縁を規律するのに対し、競争法は価格・数量・取引条件・相手方選定といった企業の意思決定の中枢を直接的に規律する。独占禁止法第2条第6項の「不当な取引制限」は、他社と共同で価格や数量等を制限して競争を実質的に制限する行為を禁じるが、現場から見れば「どこから違反になるか」が分かりにくい。しかも価格決定は業績に直結するため、カルテル・談合など違反の動機は強く、協議は密室化しやすい。また、管理部門が「競合他社との接触ルール」や「接触記録の作成」を設けても、証跡が残りにくく、例外運用が現場任せになりがちだ。すなわち、リスク軽減のために事業者が取るべき措置が法令上明確でなく、措置を講じても抑止効果に留まりやすいという特異性がある。
競争法違反は、顧客・業界・サプライチェーン・競合他社など、広範な関係者に影響を及ぼす。また、違反した場合に科される課徴金は、違反によって得た利益に相当すると考えられる額を返還するという位置づけで設計されており、金銭的なインパクトも大きい。制裁のメッセージも強く、高額となる場合もある。近年の電力会社事案では、総額1,000億円超が科された。
競争法リスクの低減を困難にする背景には、(1)経営環境認識の不足(制度動向・当局の優先課題の把握が不十分)、(2)「コンプライアンス部門任せ」の発想(事業構造との整合がない統制設計)、(3)抽象的な指示で現場運用を放置する企業文化、といったことが挙げられる。例えば、量産終了後に金型を下請に無償保管させた場合、取適法の「不当な経済上の利益の提供要請」に該当し得る。しかしながら、管理部門が「申し出があれば保管費用を払う」といった抽象的な方針策定にとどめ、具体的な判断や対応を現場任せにすると、当局から違反を指摘されるということが起こりうる。リスクを低減するには、競争法リスクを経営課題として位置付けることが不可欠だ。そして、トップがリスク許容度を定め、事業モデルと整合する統制を設計するべきである。
特に小売PB事業では、原価高騰と適正取引推進の潮流の中で、短期的には証跡不備や買いたたきへの取締りが強化され、中長期には支配構造の是正や優越的地位の濫用規制強化が見込まれる。具体的に、以下のような対応が推奨される。
(a)価格協議の実施義務化に対応した商談記録・決定経緯の記録・管理
(b)価格の適正性チェックの厳格化
(c)粗利確保と法令遵守を両立できる組織・統制設計
(e)ビジネスモデルの再設計やM&Aによる水平統合の選択肢検討
競争法対応は、局所的・形式的対応では足りない。違反のインパクトは大きく、発覚後の対応にかかるコストも高くなるため、経営としての覚悟と全社的な制度設計が必要である。その上で、足元では取適法対応の具体化が鍵となる。その際、形式的なルール整備だけでなく、意思決定の過程に透明性を埋め込むことが、実効性のあるリスク低減につながる。
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(2026.2.27)
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