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有価証券報告書における開示実態調査2026 ~役員報酬実態について~

ESG指標のインセンティブ反映割合が減少し、直近の増加基調からトレンド転換


本調査は、TOPIX100構成銘柄企業を対象に2026年3月期までの有価証券報告書を用いて、人的資本の開示内容および役員報酬の実態を調査・分析しました。本調査結果から、「施策・KPI開示」から「経営戦略とつながるストーリー開示」への移行が課題であること、役員へのインセンティブにESG要素を反映する企業は75%で、前年度までの増加基調から減少に転じたことなどが明らかになりました。(本稿は役員報酬の実態に関する調査結果の概要です。人的資本の開示内容に関する調査についてはこちらをご参照ください。)

主な調査結果

①ESG指標のインセンティブへの反映割合は前年から減少、増加基調からトレンド転換。LTIにおけるTSRの採用割合は引き続き拡大し株主価値重視の流れが継続

役員へのインセンティブ導入状況について、97%の企業が短期インセンティブ(以下、「STI」)もしくは長期インセンティブ(以下、「LTI」)のいずれかを導入していた(STI:97%、LTI:95%)。
本年度調査において、ESG指標を採用する企業の割合は前年と比べ減少した。その結果、STIでは前年度3ポイント減少の39%、LTIでは前年度4ポイント減少の48%となった。
「TSR(株主総利回り)」は、前年から3ポイント増加で、43%の企業で採用されていた。直近3年間では最も採用割合が高くなり、2024年調査と比較すると10ポイント増加となった。(図表1)

図表1 業績評価指標TOP5(目標管理指標を除く)

2026年調査では2025年と比べて、STI・LTIともにESG指標の採用割合が減少。STIでは42%→39%、LTIでは52%→48%となった。

脚注:LTIには、短期業績評価を株式で付与する企業を含む

②STIに収益性指標が多く用いられる傾向はグローバルと共通。一方、LTIについて米国・英国と比較すると日本企業におけるTSR・EPSの採用割合はなお限定的。

STI(短期インセンティブ)においては、「当期純利益」(44%)、「営業利益」(38%)、「売上高」(15%)といった収益性指標が多く採用される傾向にある。この傾向は米国や英国でも同様であり、短期的な業績向上は国内外を問わず、経営陣に共通して求められる役割であることを示している。
一方、LTI(中長期インセンティブ)における財務指標としては、「TSR(株主総利回り)」が最も多く用いられる点は米英と共通しているが、その採用率には顕著な乖離が見られる。米英では約80%の企業がTSRを導入しているのに対し、日本は43%にとどまる。
また、LTIにおける「EPS(1株当たり利益)」の採用割合についても、米国が30%超、英国が50%超である一方、日本は9%にとどまる。日本企業においてもグローバル基準を意識した指標選定が進みつつあるものの、実態としての指標の浸透度には依然として大きな開きが存在する。(図表2)

図表2 STIおよびLTIに用いられる業績評価指標(日本)

STIは営業利益・当期純利益・ESG指標、LTIはESG指標・TSR・ROEの採用が高い。ESG指標はSTI39%、LTI48%と主要評価指標として定着。

脚注:対象はTOPIX100社のうち、STI導入企業および業績連動型のLTIスキームを導入する企業。LTIには、短期業績評価を株式で付与する企業を含む(STI: 97社/LTI: 95社)

③STI・LTIへのESG要素の反映割合はいずれも日本・英国・米国で減少。直近の増加基調からのトレンド転換。日本企業における主要なESG要素は、「気候変動」「人的資本」であった

STI・LTIいずれかのインセンティブにESG要素を反映する企業の割合は75%と前年度調査から3ポイント減少し、2020年以降初めて減少に転じた。また、STIあるいはLTI単体で見てもESG要素を反映する企業の割合は減少している。
ESG要素を反映する企業が減少する傾向は、英国・米国とも共通している。背景には第2次トランプ政権の影響があったものとみられ、米国では直接的な影響があったほか、英国でも米国進出企業を中心に間接的に影響を受けたと考えられる。(図表3)
日本においては、TOPIX100銘柄の入替等が割合減少に影響しており、ESG要素を完全に排除した企業はSTIにおいて1社、LTIにおいて1社と限定的であった。そのため、現時点ではESG要素を排除する企業が多いとまでは言えないものの、今後の動向に注視が必要な状況である。 

図表3 業績連動報酬にESG要素を反映している企業の割合

ESG指標の活用について日本は減少傾向にある。英国は比較的高水準を維持しているもののやはり減少傾向、米国は短期中心で長期採用は低水準にとどまる。

データソース: (日本)TOPIX100構成銘柄企業/(米国)S&P500に含まれる100社(時価総額上位)、(英国) FTSE100社の開示情報
脚注:日本データには個人目標にESG要素を反映させる場合を含む/米国の2022年以前のデータはS&P500を対象とした参考データ(Deloitte US)

日本におけるインセンティブ報酬へのESG反映について、詳細に確認したい。業績連動報酬に反映されるESG要素の中でも、特に「気候変動」および「人的資本活用」が多く用いられている。(図表4、5)
「気候変動」はSTIでは36%、LTIでは65%の企業がインセンティブに紐づけている。指標の内容を具体的に開示している企業では、温室効果ガス削減に関する目標が用いられている。
「人的資本活用」については、STIでは61%、LTIでは63%の企業がインセンティブと連動させている。STI・LTIに共通の傾向として、従業員エンゲージメントに関する指標が最も多く用いられ、採用割合はSTIでは61%、LTIでは40%となった。
従業員エンゲージメントに次いで、多く用いられた指標は女性管理職比率等の従業員構成に関する指標である。採用割合はSTIでは22%、LTIでは27%となった。
サステナビリティ開示の対象拡大や人的資本可視化指針の浸透に伴い、「気候変動」「人的資本」を中心にESG指標は引き続き報酬に反映され続けると考えられる。

図表4 短期インセンティブに反映されるESG要素(日本)

短期インセンティブでESG要素の連動が進展。人的資本活用が61%で最多、気候変動も36%へ増加し、環境・社会指標の活用が拡大している。

図表5 長期インセンティブに反映されるESG要素(日本)

長期インセンティブでは気候変動(65%)と人的資本活用(63%)が中心。人的資本は前年比10pt増加し、ESG連動の重点分野として拡大している。

脚注:対象はTOPIX100社のうち、STIもしくはLTIにESG指標を採用する企業

また、各企業でのESG指標の採用数を見ると、STIでは69%、LTIでは60%の企業が3指標以下としている一方で、LTIでは7指標以上を用いる企業が10%となった。指標が多くなることで、優先順位や各指標の重みが曖昧になってしまうため、指標の絞り込みや、役員報酬に反映する意義の整理が重要である。(図表6)

図表6 インセンティブに反映するESG要素の数

短期・長期ともESG指標は1~3項目での設定が約6~7割を占める一方、長期では7項目以上を設定する企業も1割存在する。

脚注:対象はTOPIX100社のうち、STIもしくはLTIにESG要素を反映する企業

調査結果へのコメント

デロイト トーマツ グループ パートナー 淺井優

LTIに紐づけられる財務指標として「TSR(株主総利回り)」を採用する企業が引き続き増加し、本年度調査では43%となった。日本企業においても株主価値を意識した報酬設計が着実に浸透していることがうかがえる。一方で、米国・英国では約80%の企業がTSRをLTIに組み込んでいる状況と比較すると、日本と米英企業との差はなお大きい。
また、「EPS(1株当たり純益)」についても、米国では30%、英国では50%の企業が採用しているのに対し、日本では9%にとどまった。
これらの結果から、日本企業においては、株主価値や利益成長をより明確に意識した報酬設計への見直し余地が残されていると考えられる。その際には、TSRやEPSも含め、自社の事業・戦略と整合した指標を選択することが重要である。

非財務指標については、ESG要素を採用する企業の割合が日本・英国・米国ともに増加から減少に転じた。2020年以降続いてきた増加基調から、トレンド転換がみられた。トランプ政権による反ESG・反DEIの影響の可能性があったものと想定されるが、今後の動向は継続的な観察が必要である。
また、日本企業が報酬に反映するESG要素としては「気候変動」および「人的資本活用」が特に用いられていた。気候変動では温室効果ガス削減目標、人的資本では従業員エンゲージメントや女性管理職比率等が中心であり、サステナビリティ開示の拡充や人的資本可視化の進展を背景に、これらのテーマが役員報酬制度においても重要性を増していることがうかがえる。
加えて、採用するESG要素の数を見ると、STI・LTIともに3指標以下に絞る企業が多数派である一方、LTIでは7指標以上反映する企業も10%存在した。
これらの結果から、今後の役員報酬設計においては、ESG要素を幅広く盛り込む事よりも、自社の事業・組織の状況や戦略に照らして重要な指標を見極めていくことがより重要になると考えられる。あわせて、選定した指標を「なぜ役員報酬に紐づけるのか」「どのような変化・企業価値向上につなげたいのか」、を投資家やステークホルダーに説明できる形で整理・発信していくことが求められる。

調査概要
調査概要

項目

内容

調査期間

2026年6月~2026年7月

調査目的

持続的な企業価値向上に向けたTOPIX100構成銘柄企業の最新の取り組み状況を、有価証券報告書を用いて人的資本及び役員報酬の観点から調査し、現在の日本企業の立ち位置を把握するとともに、今後の取り組みに向けた洞察をまとめる

調査内容



①    人的資本開示調査

「人材リスク・機会と人材施策の連動」「人材施策と指標・目標の連動」「人材指標・目標の採用動向」等

②    役員報酬実態調査

「役員の報酬等」にて開示される役員の報酬制度、構成、業績評価指標等

調査対象企業

2026年3月31日時点のTOPIX100構成銘柄の100社

※ 集計結果を四捨五入して表示しており、数値の合計が100%にならない場合がある
* 2024年調査出所:デロイト トーマツ グループ「有価証券報告書における開示実態調査2024」
  2024年3月31日時点のTOPIX100構成銘柄企業の99社
* 2025年調査出所:デロイト トーマツ グループ「有価証券報告書における開示実態調査2025」
  2025年3月31日時点のTOPIX100構成銘柄企業の99社
* データソースは特に記載のない場合はTOPIX100構成銘柄企業の開示情報

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