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有価証券報告書における開示実態調査2026 ~人的資本開示について~

経営戦略から生じる人的資本のリスク・機会から人材施策・指標・目標までを一連のストーリーでつなぐことができている企業はまだ限定的

本調査は、TOPIX100構成銘柄企業を対象に2026年3月期までの有証券報告書を用いて、人的資本の開示内容および役員報酬の実態を調査・分析しました。本調査結果から、「施策・KPI開示」から「経営戦略とつながるストーリー開示」への移行が課題であること、役員へのインセンティブにESG要素を反映する企業は75%で、前年度までの増加基調から減少に転じたことなどが明らかになりました。(本稿は人的資本の開示内容に関する調査結果概要)

主な調査結果

①人材施策や指標・目標の開示は進む一方、経営戦略を起点に、リスク・機会、施策、指標・目標を一本のストーリーとしてつなぐ企業はなお限定的

2026年2月、内閣府令の改正によりSSBJ開示基準が法的開示基準に定められ、人的資本関連項目を含む開示の拡充が図られた。続く2026年3月には、人的資本可視化指針が改訂され、経営戦略と人材戦略の連動における考え方がより詳細に示された。こうした開示要請の強化を背景に、本調査では、人的資本開示における「人材リスク・機会と人材施策の連動」「人材施策と指標・目標の連動」に加え、それらを踏まえた開示パターンを中心に分析した。

<人的資本リスク・機会と人材施策の連動>
  • 人的資本関連のリスクに言及する企業は75%にのぼるが、その多くは「事業等のリスク」での説明(69%)であった。人的資本開示の枠組みの中でリスク・機会に言及する企業は25%にとどまり、人材戦略の起点としてのリスク・機会開示は、再整理の余地が大きい(図表1)
  • リスク・機会を特定する企業(76社)のうち、それに対応する人材施策を体系的に整理している企業は5%、非体系的もしくは部分的な整理を含めても25%であった。「中期経営計画の達成に向け○○に取り組んでいます」といった表面的な説明はあっても、多くの企業では「なぜその施策が必要なのか」「どの経営課題に対応するのか」が読み取りにくい状況である  
人的資本に関する開示を行う企業は75%ある一方、リスクまで説明している企業は25%にとどまる。機会の開示は22%で、25%は人的資本開示自体を行っていない。

図表1 人的資本に関するリスク・機会の開示セクションおよび開示要素
脚注:「開示あり」の内訳に、複数セクションで開示する企業も含まれるため、小計値は各セクションの足し上げとは一致しない 

<人材施策と指標・目標の連動>
  • 93%の企業で、人材施策と何らかの指標・目標との関係が確認でき、指標・目標の開示自体は広く普及している(図表2)
  • 一方、施策は幅広く開示されていても、指標・目標は「女性管理職比率」「育児休暇取得率」「エンゲージメントスコア」などの限定的な項目にとどまる例もみられた
  • また、人的資本リスク・機会との接続まで含めて、施策・指標・目標を一連で示す開示はわずか9%であった
  • 実績開示は単年開示がなお半数を占め、進捗や変化の方向性を十分に評価しにくい。中長期目標を掲げる企業は51%ある一方、「2030年の女性管理職比率」など政府目標に沿った開示にとどまる企業も目立った。自社の経営戦略に即した目標設定は引き続き課題である(図表3)
人材戦略を人材施策と連動して開示する企業は93%だが、リスク・機会を踏まえた戦略との連動を明示する企業は9%にとどまる。

図表2 人材戦略と指標・目標の連動状況

人的資本に関する実績の時系列開示は47%が2年以上を開示する一方、目標開示は51%にとどまる。単年実績のみの開示が53%と過半を占め、中長期視点の開示は限定的である。

図表3 人材関連指標の実績・目標開示

<全体ストーリーの分析>
  • 人的資本に関する「リスク・機会と人材施策の連動」と「人材施策と指標・目標の連動」を掛け合わせると、開示パターンは3類型に整理された

    • リスク・機会、人材施策、指標・目標が連動する「戦略連動型」は9%であった
    • 人材施策と指標・目標は連動するが、リスク・機会との連動はみられない「施策・指標連動型」は85%であり、最も多かった
    • リスク・機会、人材施策、指標・目標の連動がみられない開示分散型/羅列型は6%であった
  • この結果は、多くの企業では人材施策と指標・目標が結びついているものの、それが経営戦略上どの人材課題への対応なのかまでの説明には至れていないことを示している。特に最多の「施策・指標連動型」では、指標・目標がリスク・機会をモニタリングするものというより、施策の進捗を示すものにとどまりやすい傾向がみられた
全体の85%が「施策・KPI連動型」で、取り組みと指標・目標は連動するものの、リスク・機会との連動は不十分。戦略から指標まで一貫して連動する企業は9%にとどまる。

図表4 人的資本に関する開示のパターン

②人的資本に関する幅広い取り組みが記載される一方で、開示指標は「従業員構成」「従業員エンゲージメント」「育成・開発」「職場のインクルージョン」に集中する傾向

各社が開示した人的資本に関する指標を、IFRS検討資料を参考に当社が作成した分類に整理し、傾向を分析した(図表5)。

  • 開示指標・目標は主に「従業員構成」「従業員エンゲージメント」「育成・開発」「職場のインクルージョン」に集中していた
  • 「従業員構成」「育成・開発」「職場のインクルージョン」について掘り下げると、従業員構成では「女性管理職割合」、職場のインクルージョンでは「育児」関連指標の採用が多くみられた。一方、育成・開発関連の指標は、研修実施やキャリア支援などに分散していた
  • エンゲージメント指標は、人材不足の顕在化や投資家の注目を背景に、離職抑止や従業員のモチベーション維持・向上を継続的に把握する観点から採用が広がっていると考えられる
  • 女性管理職割合や育児関連指標は、法制度・政策要請への対応に加え、採用競争力や離職防止の観点からも開示ニーズが高まっている
  • 育成・開発関連指標については、専門人材の獲得競争の激化やDX・AI活用に伴うスキル変化を受け、既存社員の育成やリスキリングの重要性が増していることが背景にあるといえる  
人的資本開示では「従業員構成」(90%)、「エンゲージメント」(69%)、「健康・安全」(55%)の指標が多い一方、経営者・創出価値関連の開示は1割前後にとどまる。

図表5 指標の種類

調査結果へのコメント デロイト トーマツ グループ パートナー 淺井優

2026年2月の内閣府令改正および3月の人的資本可視化指針改定を受け、人的資本開示には、比較可能性の確保に加え、経営戦略と結び付いたストーリーとして説明することがこれまで以上に求められている。今回の調査で明らかになったのは、多くの企業が人材施策や指標・目標そのものは開示している一方、それらを経営戦略上の重要課題と結び付け、リスク・機会、施策、指標・目標を一連で示せている企業はなお少ないという点である。実際、開示パターンを見ると、「リスク・機会、人材施策、指標・目標」が連動する戦略連動型は9%にとどまった。最も多かったのは、人材施策と指標・目標は連動するが、リスク・機会との連動はみられない施策・指標・目標連動型であり、全体の85%を占めた。

この結果は、今後の人的資本開示において、開示全体の構造を経営戦略起点で組み立て直すことが重要であることを示している。人的資本に関する取り組みは幅広く開示されているものの、その多くは経営戦略の実現に影響する人的資本上のリスク・機会を起点として整理されたものとは言い難い。このため、なぜその取り組みが必要なのか、どの経営課題への対応なのか、またそれが企業成長にどのように寄与するのかが読み取りにくいものとなっている。

こうした「読みにくさ」の背景には、人的資本開示に必要な情報や開示所管が社内で分散しやすいという構造的な要因があると考えられる。例えば、経営戦略は経営企画、重要リスク管理はリスク管理部門、人的資本施策は人事部門、サステナビリティ全体の開示はサステナビリティ関連部門が担うなど、実務上は複数のセクションが関与することが多い。このため、各担当部署においてはそれぞれの観点から情報開示を充実させていても、一本のストーリーに落とし込めなくなっていると考えられる。今後の人的資本開示においては、関係部署が共通の問題意識のもとで連携していくことが重要である。

さらに重要なのは、作成したストーリーを一度きりで終わらせないことである。 ビジネス環境の変化やAIの急速な普及により、企業が必要とする人材やスキルは非常に変化しやすい。 そのため、今後は「環境の変化に合わせて、人材戦略や具体的な目標数値を柔軟に見直し、常に最新の状態へ更新し続けているプロセス(PDCAサイクル)」を社外に明確に説明することも必要となる。

調査概要

調査期間 

2026年6月~2026年7月 

調査目的

持続的な企業価値向上に向けたTOPIX100構成銘柄企業の最新の取り組み状況を、有価証券報告書を用いて人的資本及び役員報酬の観点から調査し、現在の日本企業の立ち位置を把握するとともに、今後の取り組みに向けた洞察をまとめる 

調査内容

1. 人的資本開示調査 

  • 「人材リスク・機会と人材施策の連動」「人材施策と指標・目標の連動」「人材指標・目標の採用動向」等 

2. 役員報酬実態調査 

  • 「役員の報酬等」にて開示される役員の報酬制度、構成、業績評価指標等 

調査対象企業 

2026年3月31日時点のTOPIX100構成銘柄の100社 

※ 集計結果を四捨五入して表示しており、数値の合計が100%にならない場合がある

Human Capital

人的資本経営、人的資本開示をサポートする人事コンサルティング

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