本調査は、TOPIX100構成銘柄企業を対象に2026年3月期までの有証券報告書を用いて、人的資本の開示内容および役員報酬の実態を調査・分析しました。本調査結果から、「施策・KPI開示」から「経営戦略とつながるストーリー開示」への移行が課題であること、役員へのインセンティブにESG要素を反映する企業は75%で、前年度までの増加基調から減少に転じたことなどが明らかになりました。(本稿は人的資本の開示内容に関する調査結果概要)
2026年2月、内閣府令の改正によりSSBJ開示基準が法的開示基準に定められ、人的資本関連項目を含む開示の拡充が図られた。続く2026年3月には、人的資本可視化指針が改訂され、経営戦略と人材戦略の連動における考え方がより詳細に示された。こうした開示要請の強化を背景に、本調査では、人的資本開示における「人材リスク・機会と人材施策の連動」「人材施策と指標・目標の連動」に加え、それらを踏まえた開示パターンを中心に分析した。
図表1 人的資本に関するリスク・機会の開示セクションおよび開示要素
脚注:「開示あり」の内訳に、複数セクションで開示する企業も含まれるため、小計値は各セクションの足し上げとは一致しない
図表2 人材戦略と指標・目標の連動状況
図表3 人材関連指標の実績・目標開示
図表4 人的資本に関する開示のパターン
各社が開示した人的資本に関する指標を、IFRS検討資料を参考に当社が作成した分類に整理し、傾向を分析した(図表5)。
図表5 指標の種類
調査結果へのコメント デロイト トーマツ グループ パートナー 淺井優
2026年2月の内閣府令改正および3月の人的資本可視化指針改定を受け、人的資本開示には、比較可能性の確保に加え、経営戦略と結び付いたストーリーとして説明することがこれまで以上に求められている。今回の調査で明らかになったのは、多くの企業が人材施策や指標・目標そのものは開示している一方、それらを経営戦略上の重要課題と結び付け、リスク・機会、施策、指標・目標を一連で示せている企業はなお少ないという点である。実際、開示パターンを見ると、「リスク・機会、人材施策、指標・目標」が連動する戦略連動型は9%にとどまった。最も多かったのは、人材施策と指標・目標は連動するが、リスク・機会との連動はみられない施策・指標・目標連動型であり、全体の85%を占めた。
この結果は、今後の人的資本開示において、開示全体の構造を経営戦略起点で組み立て直すことが重要であることを示している。人的資本に関する取り組みは幅広く開示されているものの、その多くは経営戦略の実現に影響する人的資本上のリスク・機会を起点として整理されたものとは言い難い。このため、なぜその取り組みが必要なのか、どの経営課題への対応なのか、またそれが企業成長にどのように寄与するのかが読み取りにくいものとなっている。
こうした「読みにくさ」の背景には、人的資本開示に必要な情報や開示所管が社内で分散しやすいという構造的な要因があると考えられる。例えば、経営戦略は経営企画、重要リスク管理はリスク管理部門、人的資本施策は人事部門、サステナビリティ全体の開示はサステナビリティ関連部門が担うなど、実務上は複数のセクションが関与することが多い。このため、各担当部署においてはそれぞれの観点から情報開示を充実させていても、一本のストーリーに落とし込めなくなっていると考えられる。今後の人的資本開示においては、関係部署が共通の問題意識のもとで連携していくことが重要である。
さらに重要なのは、作成したストーリーを一度きりで終わらせないことである。 ビジネス環境の変化やAIの急速な普及により、企業が必要とする人材やスキルは非常に変化しやすい。 そのため、今後は「環境の変化に合わせて、人材戦略や具体的な目標数値を柔軟に見直し、常に最新の状態へ更新し続けているプロセス(PDCAサイクル)」を社外に明確に説明することも必要となる。
|
調査概要 |
|
|---|---|
|
調査期間 |
2026年6月~2026年7月 |
|
調査目的 |
持続的な企業価値向上に向けたTOPIX100構成銘柄企業の最新の取り組み状況を、有価証券報告書を用いて人的資本及び役員報酬の観点から調査し、現在の日本企業の立ち位置を把握するとともに、今後の取り組みに向けた洞察をまとめる |
|
調査内容 |
1. 人的資本開示調査
2. 役員報酬実態調査
|
|
調査対象企業 |
2026年3月31日時点のTOPIX100構成銘柄の100社 |
※ 集計結果を四捨五入して表示しており、数値の合計が100%にならない場合がある