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衛星を利用した量子通信に関する取り組み

宇宙領域における量子技術の応用 シリーズ第2回

急拡大する宇宙関連事業と量子技術との融合について、現状や今後の可能性を解説する(全3回)

前回は「宇宙と量子技術の接点」について、関連する量子技術や昨今のトレンドを説明した。今回はユースケースの観点から、いくつかの事例を基に、衛星QKDの実現に向けた最新動向や見通しを俯瞰する。

(参照:第1回 宇宙への進出が始まった量子技術

宇宙データセンター

米国SpaceXは、2026年2月に「xAIの買収」を発表した。

この買収1は、AI、ロケット、衛星インターネット、モバイル端末への直接通信、そして世界有数のリアルタイム情報と言論の自由に関するプラットフォームを統合するものであり、「垂直統合型イノベーション・エンジンの構築」と位置づけられている。

そして背景にある具体的なテーマが、「Orbital Data Centers(軌道上データセンター)」の構想だ。

My estimate is that within 2 to 3 years, the lowest cost way to generate AI compute will be in space. This cost-efficiency alone will enable innovative companies to forge ahead in training their AI models and processing data at unprecedented speeds and scales, accelerating breakthroughs in our understanding of physics and invention of technologies to benefit humanity.

xAI joins SpaceX to Accelerate Humanity’s Future(February 2, 2026)より引用)

 

SpaceXのElon Musk CEOは、向こう2年から3年において、コスト効率に最も優れるAIコンピューティング環境は、「宇宙」になるとの見解を示している。

また、Googleが2025年11月に発表した「Project Suncatcher」においても、機械学習の計算能力を宇宙空間でスケールさせることが想定されている2

 

実現には相応の時間を要すると考えられるものの、宇宙空間を利用したAIデータ処理・通信が本格化すれば、高度なセキュリティ技術である「衛星QKD(Quantum Key Distribution:量子鍵配送)」が軌道上データセンターに適用される可能性は、決して小さくないと考える。

今後、宇宙データセンターに関する議論や開発と並行して、衛星QKDへの注目も更に高まっていくだろう。

2025年に急拡大した衛星QKDに関する取り組み

それでは、足元のQKD商用化や衛星QKD実現に向けた取り組みは、どこまで進んでいるのだろうか。

現段階では限定的であるが、地上系QKDは既に一部商用化している。一方で衛星QKDの開発・実証も、ここ1、2年で以下のように急拡大している。

図:2025年に公表された衛星QKD関連の主な取り組み

「静止軌道」を舞台とした仏Thales Alenia Space社と西Hispasat社の協業3

上記2社は、「静止軌道(GEO)上で運用するスペインの量子鍵配送(QKD)システム「QKD-GEO」プロトタイプの開発・製造・検証・妥当性確認フェーズ」の開始を、2025年1月に発表した。

24か月のプロジェクト期間(1億350万ユーロの予算)において、静止衛星に搭載される量子ペイロードの開発や関連する地上セグメントの整備が進められる。

各社の役割
  • Thales Alenia Space:
    スペインおよび欧州各国の企業から成る大規模な産業コンソーシアムを主導
  • Hispasat:
    静止軌道ミッションの設計と事業計画の策定を担当

先行するプロジェクト「Eagle-19」は、低軌道(LEO)における衛星QKD運用を目指すものであったが、本件は、世界初の「静止軌道」からの量子鍵配送システムキャパシティの開発を目指す取り組みである。

運用対象の軌道の拡大は、衛星QKDに対する期待や有用性を示唆しており、宇宙データセンターのようなユースケース候補の拡大と相まって、今後、更に開発が加速していくものと考える。

執筆者

扇 孝一郎/Ogi Koichiro
合同会社デロイト トーマツ
量子技術研究リード

外資系大手IT企業等を経て現職。量子技術の調査・活用戦略の策定からスタートアップへの投資検討支援まで、広範なコンサルティングサービスを提供。国内量子産業の拡大や経済安全保障の観点から、量子サプライチェーンの構築にも取り組んでいる。
 

手塚 宙之/Tezuka Hiroyuki
合同会社デロイト トーマツ
CGO office / スペシャリストリード(量子技術)

前職では半導体物性、半導体回路設計(デジタル/混載/アナログ)に10年に渡り従事。その後、本社R&Dセンターで量子技術の研究をリード。2020年より、慶應義塾大学量子コンピューティングセンターに共同研究員として参画。金融や化学、量子通信の実証など多岐にわたる共同研究に携わる。専門は量子機械学習、量子CAE。博士(工学)。

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