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【Corporate as a Serviceプロフェッショナルに訊く Vol.5】コーポレート部門が「コストセンター」から脱却するカギとは

デロイト トーマツが提案する新たな価値創造のカタチ

優秀な人材が日々の実務に追われ、本来の戦略的役割を発揮できない――。多くの日本企業の経理部門が抱えるこの共通課題に対し、デロイト トーマツ グループ(以後、デロイト トーマツ)は2023年、従来型BPOの枠を超えた新たなソリューション「Corporate as a Service」の提供を開始した。本連載では3回にわたり、Corporate as a Service を提供するプロフェッショナルたちへのインタビューをお届けする。サービス開始から2年間で蓄積されたナレッジをもとに、企業のコーポレート業務が直面する課題や理想的な姿を、専門家の視点と具体的な支援事例を交えながら解説していく。

3回目となる今回は、30年にわたりビジネスソフトウェアの開発をはじめITシステム構築の第一線で活躍してきた藤原修が、日本企業が抱えるデジタルトランスフォーメーション(DX)の課題と解決策を語る。「カスタマイズ至上主義」から脱却し、標準化されたシステムを活用することで企業はどのように変革できるのか。バックオフィスとも称されるコーポレート部門が「コストセンター」から「バリュークリエーター」へと進化する可能性を探る。

インタビュイー

デロイト トーマツ プロダクト&テクノロジー株式会社
レプレゼンタティブディレクター
藤原 修

※ 本ページの記載情報および登壇者の所属は、記事公開時点のものです。
 

日本企業は本来のDXからは程遠い?

―― 近年はデジタル化推進の潮流で、経理・財務部門でもDXに取り組む企業が増加しています。約30年にわたり企業のコーポレート部門と対峙してきた藤原さんから見て、日本の経理・財務部門のDXは現在、どのような状況にあるとお考えですか。

藤原:今は「DX」という言葉自体がバズワードになっていますが、多くの企業が掲げるDXは、本来のDXの概念からは遠いものになっていると私は感じています。

私は真のDXの実現には三段階あると考えています。第一段階は紙や音声等のアナログ情報をデジタル化する「デジタイゼーション」です。第二段階はデジタル化されたデータを活用し、業務プロセス自体を変えていく「デジタライゼーション」です。そして最終段階となるDXでは、デジタル技術を基盤としてビジネスモデルそのものを根本的に変革することを意味します。

私は、多くの日本企業が、まだ第一段階のデジタイゼーションから第二段階のデジタライゼーションに移行するのに留まっている印象を持っています。分かりやすく言うと「今までの机上の作業をパソコンやネットワークを使って効率化する」というレベルに留まっているのです。「デジタル化で作業時間を○%削減できる」という発想で止まっており、その先にある「デジタルでビジネスモデルを変革する」ためには何をすべきかまで発想が及んでいない、というのが率直な感想です。

DXを実現するには、「デジタル上に自分たちのビジネスモデルを構築する」という視点が欠かせません。デジタル技術を単なる効率化ツールとしてではなく、新たな価値創造の基盤として捉え直すことが、これからの企業に求められるアプローチです。
 

―― 「デジタル上にビジネスモデルを構築する」とは、どのような取り組みを指しますか。

藤原:具体例を挙げると、従来の企業は、会計システムを通じて数値を管理するに留まっていました。「デジタル上でビジネスモデルを構築する」とは、そうした会計データをERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客関係管理)のデータと連携させ、リアルタイムでの経営判断や顧客ごとの収益性に基づく新サービス開発を可能にすることを意味します。つまり、単なる業務の効率化に留まらず、デジタル技術を活用してビジネスの根幹を変革することがDXなのです。

近年話題となっている生成AI(人工知能)の活用もDXを推進する上で重要な試金石となります。しかし現状では、多くの企業は「どのように既存の業務に生成AIを組み込むか」という観点に留まっており、業務プロセスの延長線上でしかAIを活用できていません。本来、生成AIの可能性を考えれば、「生成AI自体が業務を担う」という前提で発想を転換する必要があるのです。その上で人間は何ができるのか、どのような新しい価値を創造できるのかを再考すべきなのです。こうした発想の転換ができなければ、真のDXは実現し得ないと私は考えています。

「カスタマイズ至上主義」が引き起こす弊害

―― 日本企業でDXが進まない要因の一つとして挙げられるのが、「既存システムの過度なカスタマイズ」です。藤原さんは過去に、米国企業傘下で会計ソフトの開発を手掛けていました。この点、米国企業と比較すると、日本企業にはどのような課題がありますか。

藤原:根本的な問題として、日米におけるITに対する文化的な違いが挙げられます。米国企業には「請負文化」がほとんど存在せず、システムは自社で内製するか、市販のパッケージを導入するかのいずれかです。彼らは機能性を最重視し、必要とする機能が期待通りに動作すれば、細部にはこだわらず「これで十分」と割り切る合理的な判断を下します。

一方、日本企業はシステム開発をSIer(システムインテグレータ)に委託する傾向が強く、自社の既存業務プロセスに合わせた細かなカスタマイズを重視するケースが多く見られます。ユーザーインターフェースの見た目や画面上のボタン配置、表示形式等に対する要望が細かく、度重なる修正を要求する企業も少なくありません。つまり、米国企業が「既存システムに業務を合わせる」のに対し、日本企業は「システムを業務に合わせさせる」という根本的な思考の違いが存在しているのです。

この考え方の違いが、日本企業のDX推進における大きな障壁となっています。米国企業は、既製のシステムに柔軟に業務プロセスを適応させることで、DXへの移行をスムーズに進めています。一方で、日本企業は従来の業務プロセスを維持しようとする意識が強く、システムをその業務にコストと時間をかけて適合させるため、業務プロセスの抜本的な再構築が進まないのです。
 

―― カスタマイズ文化の一番の弊害は何でしょうか。

藤原:最大の弊害は「技術進化から取り残されること」です。カスタマイズしたシステムは導入時には企業の要望を丁寧に満たした最新のものであっても、年月が経つに連れてその後の技術進化には対応が困難になっていきます。バージョンアップやメンテナンスには膨大なコストと時間が掛かるため、その結果、多くの企業はシステムのアップデートやメンテナンスを先送りにし、結果として陳腐化したシステムを使い続けることになり、デジタル技術の進化に乗り遅れるリスクが高まるのです。

また、業務プロセスに過剰に最適化されたシステムは、いわゆる部分最適に陥りやすく、全社的なDXの推進を阻害します。例えば、部門ごとに異なるカスタマイズが施されたシステムでは、他部門とのデータ連携が困難になり、全社的なデータの統合や、意思決定の迅速化を妨げてしまいます。

こうした課題を解決する手段として注目されているのが、クラウドベースのパッケージソリューションやSaaS(Software as a Service)の活用です。これらはカスタマイズで導入した製品とは対照的に、開発元が継続的に技術進化に合わせてアップデートするため、ユーザーは常に最新の機能や技術を享受することができます。特にサブスクリプション型サービスは、ベンダーとクライアントと長期的な関係を築くビジネスモデルであり、「クライアントと共に成長していく」前提でシステムが構築されています。これが企業にとっても継続的な競争力の源泉となり得るのです。
 

会計標準化が企業にもたらす「ビジネスモデル変革」という価値

―― そうした課題を解決するサービスとして開発したのが「Corporate as a Service」ですね。DXの観点から見て、Corporate as a Service はどのような役割を果たすのでしょうか。

藤原:Corporate as a Serviceは企業のコーポレート部門を対象に、管理業務を含めたさまざまな課題に対して一貫した支援を提供するサービスです。コンサルティング、オペレーション、システムの三要素で構成されており、私が担当するシステム領域では、テクノロジーの進化を的確に捉えながら、長期的視点でビジネスの変革を実現するシステムの開発・提供を行っています。特に経理部門に対するニーズが非常に多い状況です。

システム担当者の観点で言うと、Corporate as a Serviceが提供する標準的なシステムに、クライアントのビジネスプロセスを適応させることがクライアントにとって最も効率的と考えます。なぜなら、日本企業の経理業務は日常業務・月次業務・決算業務といったルーチンワークが多く、そこに過度な独自性を持ち込んでも、本格的なDXやビジネスの成長にはつながりません。そのため、ビジネスプロセスを効率化・標準化することが、Corporate as a Serviceの大きな価値となっています。


―― 標準化できる部分をCorporate as a Serviceが担うのですね。ただ、そうしたサービスはBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)としてすでに市場にありませんか。BPOとCorporate as a Serviceの違いは何でしょう。

藤原:大前提としてBPOとCorporate as a Serviceは目指すゴールが異なります。Corporate as a Serviceはコンサルティングとオペレーションの力を活用しながら、段階的にシステム活用へと導くアプローチです。BPOが企業の業務プロセスの一部または全部を外部委託するサービスであるのに対し、Corporate as a Serviceはデロイト トーマツが標準的なクラウドベースのシステムを提供しながら、クライアントのビジネスモデル自体の変革まで支援するサービスなのです。

Corporate as a Serviceのアプローチを具体的に紹介しましょう。まず、クライアントの業種に精通したコンサルタントと会計のプロフェッショナルが、クライアントの抱える業務課題を可視化し、解決策をクライアントと共に検討します。続いて、実務を担う前橋のオペレーションセンター「Deloitte Tohmatsu Corporate as a Service Operate Center MAEBASHI」が業務プロセスの標準化を進めながら、運用の安定化を図ります。そして最終的にこれらの改善内容をシステム上に実装し、持続可能なデジタル基盤を確立するのです。このプロセスこそが、Corporate as a ServiceがBPOの枠を越えて、企業のビジネスモデル変革を支援するサービスであることの証なのです。


―― 技術的な観点からもう少し深掘りさせてください。Corporate as a Serviceで提供する「標準的なシステム」とはどのようなシステムですか。

藤原:Corporate as a Serviceの核となる技術基盤の1つが、デロイト トーマツが開発した会計支援クラウドシステム「Universal Business Cloud 会計」です。このシステムは、財務会計、管理会計、特殊会計を包括し、経理業務の効率化と高度化を支援するクラウド型会計システムです。日本の会計基準への対応はもちろんのこと、加えて日本語や英語をはじめとした複数の言語や各国の通貨、日本基準やIFRS(国際財務報告基準)等の会計基準にも対応しており、グローバル展開する企業のニーズに応える設計となっています。

Universal Business Cloud 会計は私たちの強みを活かしたシステムです。会計・税務・法務の専門家集団としての知見と、グローバルネットワークを通じた国際的な視点が数多く組み込まれています。ですから、法令改正にも迅速かつ正確に対応することが可能となっています。

―― 会計基準への対応は企業にとって大きな課題ですね。

藤原:一例を挙げましょう。2027年から強制適用される改正リース会計基準への対応は、企業にとって重要な課題です。この新基準では、これまで会社の帳簿に記録されていなかった賃貸借契約(オペレーティング・リース)も含め、ほぼ全ての賃貸契約について、リース資産と負債を貸借対照表に計上する「オンバランス処理」が必要になります。今まで「見えない負債」だったものが、全て財務状況に反映されるようになるのです。詳細な説明は割愛しますが、貸借対照表での計算方法が変更され、カスタマイズした会計システムを新リース会計基準に対応させるには、莫大な時間と労力が必要であり、企業にとって非常に大きな負担となります。


―― 実際にUniversal Business Cloud 会計を導入しているクライアントは、具体的にどのようなメリットを享受しているのでしょうか。

藤原:例えばベトナムで事業を展開しているクライアントからは、「連結会計での作業の負担が大幅に軽減された」との声をいただいています。このクライアントは、現地の会計制度に従ってベトナムの通貨(ドン)で記帳する必要がありますが、日本の本社では円建てでの処理が求められます。通常、この連結作業は非常に煩雑で多くの時間を要します。しかし、Universal Business Cloud 会計を利用することで通貨の換算を含めた処理が自動化されるため、この手間が大幅に削減されました。

グローバル化が進む中で、こうした国際対応能力はますます重要になることは間違いありません。Universal Business Cloud 会計は、単なる国内向けの業務効率化ツールではなく、企業のグローバルビジネスを支えるインフラとしての役割も果たしていると自負しています。
 

「コストセンター」から「バリュークリエーター」への変革を支援

―― DX推進やグローバル化への対応等、今後は経理・財務部門に求められる業務は多岐にわたることを理解しました。将来的にはどのようなスキルを持った人材が求められると考えていますか。

藤原:これからは「自身の変革を自ら生み出せる人材」が求められると思います。今まで以上にITの力を活用して定型の業務を自動化し、その分の労力を新たなる価値創造にシフトさせる。つまり「自らの役割を進化させる」という意識の変革ができる人材です。

従来の経理・財務業務の多くは、デジタル技術の進化により自動化が進むべき領域です。したがって、今後必要なのは単なる経理処理の知識だけではなく、データ分析力、システム思考、業務プロセスの設計能力が不可欠になります。さらには、新しい技術を受け入れて活用できるデジタルリテラシーはもちろん、経理・財務で扱う数値を分析し、経営層にビジネスへの影響を分かりやすく伝えられる「ビジネス翻訳力」もこれからは重要になります。加えて環境の変化に柔軟に対応し、新たな業務プロセスを設計できる「適応力」も欠かせません。

これらのスキルを備えた人材こそが、企業の成長を牽引する存在となるでしょう。逆に言えば、この変化に適応できなければ、日本企業は今後20~30年の間に国際競争力を失うリスクに直面することになると予測しています。

―― 最後に、Corporate as a Serviceが目指す未来像を教えてください。

藤原:私たちが目指すのは、企業のコーポレート業務を包括的に引き受け、デロイト トーマツの知見と仕組みで効率化した上で、その成果をシステムという形でクライアントに還元することです。冒頭でも触れましたが、企業が自力で業務を変革し、DXを実現するのは決して容易ではありません。だからこそ私たちが定型化できる業務を引き受け負荷を削減することで、クライアントは人材の効果的な再配置や、より付加価値の高い業務への集中を実現できるようになるのです。

次世代のコーポレート部門がどのような姿になるのかは、正直私たちも模索の途中です。しかし、Corporate as a Serviceを通じてクライアントと共に成長しながら、テクノロジーと人間の知恵を融合させて企業価値を高めていく。私たちはその最適解をクライアントと共に見つけていきたいと考えています。最終的に私たちが目指すは、企業のコーポレート部門が「バックオフィス」「コストセンター」と見なされる存在から脱却し、「バリュークリエーター」へと進化すること。その未来を創り上げていくことが、私たちデロイト トーマツの使命だと信じています。

Our thinking