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ファミリービジネス、重要性増す「憲章」の仕組み

ファミリーコンサルティングニュースレター 2026年3月

近年、社外取締役や監査役に代表されるようなコーポレートガバナンス(企業統治)強化の流れの中で、創業家ファミリーのお家騒動に端を発して、企業の事業存続に⼤きな影響を与える例が出てきました。ファミリー内の紛争を予防する仕組みとしてファミリーガバナンスの必要性が認識され、多くの経営者・創業家ファミリーが関⼼を寄せています。

2025年には経済産業省においても「ファミリービジネスのガバナンスの在り⽅に関する研究会」と題して、ファミリービジネスのガバナンスに関する規範策定に向けた様々な検討が始まりました。当社の樋⼝亮輔も委員として参加しています。

中小企業の多くはファミリービジネス

⽇本の企業の⼤多数は中⼩企業です。その多くは創業家ファミリーのメンバーが経営を担い、かつ、株式を保有する同族会社、いわゆるファミリービジネスとされています。

ファミリービジネスにおいては、取締役会や監査役等のコーポレートガバナンスが機能していれば、公正に経営されていると考えられます。しかし、株主であるファミリーメンバーが取締役等を選任することを踏まえると、統制の取れた経営判断・運営のためには、いかにファミリーメンバーが考えを共有した上でファミリービジネスに関わっていくかが重要なポイントとなります。

かつては、ファミリーの「家⻑」たる存在である創業者がカリスマ性と絶対的な権⼒を持ち、その⼦供や孫が後継者としてファミリービジネスを承継していくケースが⾮常に多くありました。しかし、時代が進むにつれ、価値観が多様化しファミリービジネスに関与しないファミリーメンバーも増えてきたように考えます。

【図表1】 時代の変化、価値観の多様化、世代移行が進んでいくことで、ファミリーメンバーの考え方にズレが生じ始める傾向があります

株式の保有方針に対する時代の変化。第1世代は事業運営への理念に対して共有軸が持てていたが、第X世代ではファミリーメンバーの考え方にズレが生まれている。

また、創業時は、⼀⼈ないしは同世代の兄弟姉妹がファミリービジネスの株式を保有し、かつ、経営に関与することで所有と経営が⼀体となって同じ⽅向を向いて経営判断が⾏われます。ただ、次世代以降は彼らの育ってきた環境も異なることから、考え⽅にも必然的に相違が⽣まれます。

【図表2】 世代によってみられる前提条件の変化

世代によってみられる前提条件の変化。兄弟同士の世代・いとこ同士の世代でファミリーにおける前提条件とファミリービジネスにおける前提条件に違いが生まれている。

さらに、⾼度経済成⻑期に創業した企業は創業50〜70年を迎え、創業者から3世代⽬や4世代⽬へのバトンタッチに差し掛かっています。その中で、⽇本全体では少⼦化が進み、後継者候補がいないファミリーもあります。

このような背景から創業家ファミリーがどのようにファミリービジネスに関与するか、株式の承継などについてファミリーの共通指針を検討し、それに実効性を持たせるための仕組みとしてファミリーガバナンスが注⽬されています。

「ファミリー憲章」、ファミリーガバナンスのツールとして検討

そもそも「ファミリーガバナンス」の定義として統⼀的に規定されたものはありません。そこで、ここでは「ファミリーのビジネスとファミリーメンバーとの間で適切な距離感で良好な関係性が維持されるような仕組みを構築すること、または、その仕組み」を指すこととします。

このファミリーガバナンスを導⼊するためのツールとして、「ファミリー憲章」を検討するファミリーが増えています。

このツールはファミリーガバナンス上の課題を明⽂化し、それを検討したファミリーメンバーで署名捺印(なついん)することで、より⼀層ファミリーとしての責任感、連帯感が増し、ファミリーとしての統制の取れた判断を可能にするというものです。ファミリー憲章に唯⼀無⼆の正解はありません。具体的には、以下のような項⽬を大きな柱として、各ファミリーに応じてその内容を作りこんでいくことになります。

  1. ファミリーの範囲・理念・価値観
    まずは、ファミリー憲章を守ってほしいファミリーとはどこまでを指すか、配偶者を含めるか等を検討して、ファミリーの範囲を定義します。

    例えば、「1⼈の⼈間として成⻑するよう精進する(勤勉)」や「⾃⾝の地位や所有物におごることなく、素直な態度で⼈と接する(謙虚)」、「⾃然環境の保護を通じて地域に貢献する」などのように、ファミリービジネスの創業家として⼤事にしたい理念・価値観を整理します。
  2. ファミリービジネスに対する役割
    創業家の役割として、「社⻑職をファミリーメンバーが担い続けるのか(親族内承継)」や「将来的には所有と経営の分離もあり得るのか」といった、後継者指名の⽅針に関する基本的な考え⽅を整理します。

    また、ファミリーメンバーの⼊社ルールを定めておくことも有⽤となります。
  3. 意思決定・解決の仕組み
    ファミリーとしての意思決定に際し、決定⽅法は2つに⼤別されます。1つはファミリーの考えをまとめる役割を持つメンバーとして例えば「当主」という役割を定め、この当主に決定権を与える⽅法です。

    もう1つは、「ファミリー評議会」といった名称の会議体を設置し、その中でファミリーが議論を尽くした上で、株主総会のような決議要件を定めてコンセンサスを得るという⽅法です。

    「当主」もしくは「ファミリー評議会」またはその両⽅の権限、決議事項などを検討します。
  4. 株式の保有方針
    ファミリービジネスの経営に関しては、株主が議決権を行使し、役員等を選任することができることから、株式の保有⽅針の整理は⾮常に重要な項⽬となります。

    ⼀般には、株式は先代からの「預かり物」であり、次世代に分散させずに受け渡していくべきものと位置付けるファミリーが多くあります。その場合、創業者から世代が進んだ場合においてもファミリービジネスの意思決定に関与し続けるためには、⼀定程度の株式を保有する必要があるでしょう。したがって、必然的にファミリービジネスに関与するファミリーメンバーに株式を集約する⽅針となります。

    ⼀⽅で、株式を配当収⼊の源泉や換⾦可能な財産と位置付けるのであれ ば、株式の分散は許容されるため、保有⽅針としては柔軟なものとなります。
  5. 相続等の不測の事態対応
    ファミリービジネスの創業家の財産構成は、株式に⽐重が偏りがちです。そのため、相続が発⽣した場合でも議決権と相続税の納税資⾦を確保しつつ、ファミリービジネスに過度な資⾦負担を⽣じさせない体制を構築する必要があります。

    株式を承継できないファミリーメンバーが現れる場合には、ファミリー全体として納得感があり、公平性も保てるような⽅針を検討する必要があります。
  6. 情報発信
    ファミリーメンバーが、⾮ファミリーを含む経営層や外部株主と認識確認するような場を設けることも検討する必要があります。

    また、経営に関与しないファミリーメンバーに対しても定期的に情報・認識を共有し、相続等が発⽣した場合においても認識に相違が生じないようにする必要があります。

    なお、ファミリー憲章は法的拘束⼒のない紳⼠協定のようなものです。これに実効性を持たせ、ファミリーガバナンスを堅牢(けんろう)化させるためには種類株式、遺⾔書、信託といった法的⼿当てを別途検討する必要があります。

ファミリーガバナンスの効果

ファミリーガバナンスの導⼊は、ファミリーでの意思決定の仕組みを構築し、⻑期的な視点に立った企業の迅速な意思決定を可能とします。

また、ファミリーの⽅向性や使命がファミリー内で共有され、理想的にはファミリーとファミリービジネスの間でも活発なコミュニケーションが⾏われることで、相互の信頼関係が築かれます。その結果、ファミリーメンバー・ファミリービジネスのいずれかに緊急事態が生じた場合に、もう⼀⽅がそれを⽀える関係性が期待できます。

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