近年、社外取締役や監査役に代表されるようなコーポレートガバナンス(企業統治)強化の流れの中で、創業家ファミリーのお家騒動に端を発して、企業の事業存続に⼤きな影響を与える例が出てきました。ファミリー内の紛争を予防する仕組みとしてファミリーガバナンスの必要性が認識され、多くの経営者・創業家ファミリーが関⼼を寄せています。
2025年には経済産業省においても「ファミリービジネスのガバナンスの在り⽅に関する研究会」と題して、ファミリービジネスのガバナンスに関する規範策定に向けた様々な検討が始まりました。当社の樋⼝亮輔も委員として参加しています。
⽇本の企業の⼤多数は中⼩企業です。その多くは創業家ファミリーのメンバーが経営を担い、かつ、株式を保有する同族会社、いわゆるファミリービジネスとされています。
ファミリービジネスにおいては、取締役会や監査役等のコーポレートガバナンスが機能していれば、公正に経営されていると考えられます。しかし、株主であるファミリーメンバーが取締役等を選任することを踏まえると、統制の取れた経営判断・運営のためには、いかにファミリーメンバーが考えを共有した上でファミリービジネスに関わっていくかが重要なポイントとなります。
かつては、ファミリーの「家⻑」たる存在である創業者がカリスマ性と絶対的な権⼒を持ち、その⼦供や孫が後継者としてファミリービジネスを承継していくケースが⾮常に多くありました。しかし、時代が進むにつれ、価値観が多様化しファミリービジネスに関与しないファミリーメンバーも増えてきたように考えます。
【図表1】 時代の変化、価値観の多様化、世代移行が進んでいくことで、ファミリーメンバーの考え方にズレが生じ始める傾向があります
また、創業時は、⼀⼈ないしは同世代の兄弟姉妹がファミリービジネスの株式を保有し、かつ、経営に関与することで所有と経営が⼀体となって同じ⽅向を向いて経営判断が⾏われます。ただ、次世代以降は彼らの育ってきた環境も異なることから、考え⽅にも必然的に相違が⽣まれます。
【図表2】 世代によってみられる前提条件の変化
さらに、⾼度経済成⻑期に創業した企業は創業50〜70年を迎え、創業者から3世代⽬や4世代⽬へのバトンタッチに差し掛かっています。その中で、⽇本全体では少⼦化が進み、後継者候補がいないファミリーもあります。
このような背景から創業家ファミリーがどのようにファミリービジネスに関与するか、株式の承継などについてファミリーの共通指針を検討し、それに実効性を持たせるための仕組みとしてファミリーガバナンスが注⽬されています。
そもそも「ファミリーガバナンス」の定義として統⼀的に規定されたものはありません。そこで、ここでは「ファミリーのビジネスとファミリーメンバーとの間で適切な距離感で良好な関係性が維持されるような仕組みを構築すること、または、その仕組み」を指すこととします。
このファミリーガバナンスを導⼊するためのツールとして、「ファミリー憲章」を検討するファミリーが増えています。
このツールはファミリーガバナンス上の課題を明⽂化し、それを検討したファミリーメンバーで署名捺印(なついん)することで、より⼀層ファミリーとしての責任感、連帯感が増し、ファミリーとしての統制の取れた判断を可能にするというものです。ファミリー憲章に唯⼀無⼆の正解はありません。具体的には、以下のような項⽬を大きな柱として、各ファミリーに応じてその内容を作りこんでいくことになります。
ファミリーガバナンスの導⼊は、ファミリーでの意思決定の仕組みを構築し、⻑期的な視点に立った企業の迅速な意思決定を可能とします。
また、ファミリーの⽅向性や使命がファミリー内で共有され、理想的にはファミリーとファミリービジネスの間でも活発なコミュニケーションが⾏われることで、相互の信頼関係が築かれます。その結果、ファミリーメンバー・ファミリービジネスのいずれかに緊急事態が生じた場合に、もう⼀⽅がそれを⽀える関係性が期待できます。