※ デロイト トーマツが寄稿した 「日経ヴェリタス 電子版」 2025年7月17日記事を転載しております。元記事はこちらよりご覧いただけます。
複数の不動産を所有している不動産オーナーの方は、将来を見据えた計画と準備が重要です。
その具体的な内容に入る前に、まずはマクロの視点から世界の不動産投資に目を向けてみましょう。世界各国の不動産を投資・所有する場合、さまざまな要素を調査する必要があります。例えば、地価の動向や、人口の変化、資金調達の仕組みや賃貸運用のルール、天災地変リスク、さらに税制面における取得、保有、売却、そして相続時の影響などです。これらは投資判断を行う上で欠かせない情報であり、不動産を所有するという決断に至るまでには、相当な検討が必要となるでしょう。
世界の中でも先進国の主要都市である東京、ニューヨーク、ロンドン、シンガポールの4都市は、しばしば不動産市場の比較対象として取り上げられます。これらの4都市の一等地は、それぞれの国で異なるルールや特性を持ちながらも、なぜ世界中から注目され続けているのでしょうか。その理由には、いくつかの共通点が挙げられます。
では、皆様が所有されている不動産は、このような共通点のうちいくつが当てはまるでしょうか。
また、所有する不動産について、地価動向、人口動向、天災地変リスク、税制などのポイントを把握されているでしょうか。投資目的で不動産を購入される方は、多角的な視点で市場を検証し、慎重に意思決定を行っていると思います。しかし、親などからの相続により不動産を引き継いだ方の場合、同様の視点で所有不動産を評価し、管理している方は少ないのではないでしょうか。
不動産オーナーの方々にとって重要な考え方・ポイントの結論は 「全体最適の視点で客観的に考え、課題を抽出し、解決し、準備すること」 です。
これは不動産オーナーや相続以外でも通じる考え方・ポイントです。
下記は私たちが不動産オーナーへアドバイスする際、大切にしているプランニング手法をご紹介します。この手法は、読者の皆様がご自身でも実践出来る内容ですので、ぜひ参考にしていただければと思います。
最初のステップで大切なのは、客観的に少し厳しめに自己分析を行うことです。以下の手順で進めてみましょう。
まず、ご自身を中心とした親族図を作成します。この際、相続人それぞれの性格や家族構成、財産に関する考え方、現在の状況、さらには相続人間の関係性も正確に書き出してみましょう。次に、少し難易度が上がりますが、ご自身の財産の棚卸しをしましょう。可能であれば、相続税の試算やご家族全体のキャッシュフローの現状や、余裕があれば将来の予測数値も簡易的に把握することをおすすめします。顧問税理士がいらっしゃれば、相続税について相談してみるのも良いでしょう。
さらに、余裕がある方は、所有不動産の周辺環境についても分析してみてください。具体的には、地価動向、人口動向、天災地変リスクといった要素を調べて書き出してみましょう。残念ながら日本は少子高齢化や不動産の二極化が進んでおり、各都市の中心地や発展が予測される地域等を除けば、将来的に厳しい結果が予想されるケースが多いのも事実です。
加えて、共有・借地・借家といった権利関係、財産承継、法人の場合は事業承継・企業不動産(CRE)戦略といった視点から課題を抽出できると、より具体的な計画が立てやすくなります。
Step1で抽出した課題を緊急性と重要性という2つの軸を基に優先順位付けていきましょう。基本的には優先順位の高いものから1つずつ確実に解決していくことが重要です。そのためには、具体的な計画を立て、それを着実に実行していく必要があります。
例えば、相続税の納税資金を事前に把握し、将来に備えて計画的に確保しておくことは、重要な施策の一つですが、簡単なことではありません。そのため、専門家の助言を受けながら、実現可能な範囲で進めていくことが求められます。
理想的な施策は、ご自身が元気な間に全体最適の視点で課題をできる限り解決し、長生きをすればするほど、その対策の効果が実感できるようなものが望ましいです。
残念ながら誰しも人生の終わりの時が訪れます。お迎えがきた際には、相続人が意思を引き継ぎ、四十九日の期間を喪に服して過ごしながら、相続税の申告、遺産分割、納税を無理なく済ませられるよう、事前に準備を整えておくことが大切です。そのためには、遺言書の作成や、相続人間で共有するための具体的な計画を立てておくことが効果的です。また、もし家族間に争いの芽がある場合には、Step2の段階でそのリスクを想定し、家訓のとりまとめやファミリーガバナンスの整備に取り組むことが望ましいです。
配偶者にもいずれお迎えが訪れる時がやってきます。その際、財産の一部は配偶者に引き継がれ、Step3と同様の生活を維持できるようにしておきたいものです。しかし、Step3の時とは異なり、親がいない状況で子どもたちだけで決定を行うことになります。そのため、事前の準備が欠かせません。
また、後継者がスムーズに財産を引き継げるようにするためには、不動産に関する教育を事前に行い、実務経験を積ませることが重要です。こうしてStep1から始まった流れが途切れることなく、次世代へとサイクルが回り続けるようにすることが理想です。
まさに人生100年、老後に難しい課題を残さず、心穏やかに老後を過ごすためには、ご自身が健康で元気なうちに、早め早めの準備を進めることが大切です。心と身体の健康を保ちながら、長生きを目指すためにも計画的な行動が求められます。特に、適切な不動産投資は安定したキャッシュフローを生み出すため、投資ポートフォリオを構築することで、家族や一族の繁栄の基盤を築くことが可能です。「全体最適の視点で客観的に考え、準備すること」を意識しながら、一歩を踏み出してみてください。それが、将来的な安心と豊かさをもたらす第一歩となるはずです。
蝋山 竜利 (ろうやま たつとし)
デロイト トーマツ税理士法人
ファミリーコンサルティング パートナー
公認会計士・税理士・不動産鑑定士。2002年、有限責任監査法人トーマツ入社。2012年に出向、その後転籍。組織再編経営承継等に関する税務を中心とした総合コンサルティングサービスを提供している。2024年6月デロイト トーマツファミリーオフィスサービス合同会社執行役に就任。
大屋 健太郎(おおや けんたろう)
デロイト トーマツ ファミリーオフィスサービス合同会社
ファミリーコンサルティング マネジャー
2013年総合財産コンサルティング会社に在籍。10年間、富裕層向けに財産コンサルティングを実践する部門に従事。相続・事業承継スキーム、不動産ビジネス全般、M&A、各種信託案件等の個人やファミリーのコンサルティングを実践。2023年にデロイト トーマツ税理士法人に入社し、出向、その後転籍。