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贈与税・相続税の納税猶予特例、迫る計画書の提出期限

ファミリーコンサルティングニュースレター 2025年10月

※ デロイト トーマツが寄稿した 「日経ヴェリタス 電子版」 2025年9月18日記事を転載しております。元記事はこちらよりご覧いただけます。

 

中小企業庁の調査(2023年12月13日公表)によると日本の会社の約99.7%は中小企業です。国税庁が公表している会社標本調査結果によると23年度分の法人数は295万6717社、日本証券取引所の調査によると23年の上場会社数は3933社となっており、全体の約99.9%は非上場会社です。中小企業・非上場会社は日本経済の中枢を担っているといえます。
日本は海外に比べて相続税率・贈与税率が最大55%と高く、納税のために財産を手放す例も少なくありません。非上場会社は自社株式を親族内で承継するケースが多く、自社株式を納税資金確保のために手放すとなると、自社の存続に大きな影響を及ぼし、円滑な事業承継が困難になる可能性があります。
円滑な事業承継のための対応策の一つとして、贈与税・相続税の納税負担を軽減する措置として「事業承継税制」(贈与税・相続税の納税猶予)があります。

納税猶予、特例制度とは?

納税猶予制度は、後継者が、非上場会社を経営していた先代経営者から贈与・相続によりその会社の株式を取得し、その取得した株式に係る贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。09年度税制改正において創設された納税猶予制度(一般制度)に加え、18年度税制改正では10年間の措置(27年12月31日までの贈与・相続に適用される特例制度)が創設されました。
一般制度と特例制度の主な違いは下表の通りです。

特例制度では、27年12月31日までの贈与・相続について適用という期限付きではありますが、納税猶予の対象となる株式数の制限(一般制度では株式総数等の3分の2まで)の撤廃や、納税猶予割合の引き上げ(一般制度では税総額の80%が限度となっているところ、特例制度では税総額の100%を猶予可能)等の措置がなされています。
特例制度の適用を受けるためには特例承継計画(事業承継の予定時期、承継時までの経営見通しや承継後5年間の事業計画等を記載し、認定経営革新等支援機関による指導及び助言を受けたもの)を、26年3月31日までに、所轄の都道府県に提出る必要があります。特例承継計画の提出期限は税制改正により、24年3月31日から26年3月31日に延長されました。一方で、特例制度自体の期限(27年12月31日までの贈与・相続)については延長されていないため、留意が必要です。

納税猶予の手続き

納税猶予制度の適用を受けるためには、所轄の都道府県知事による認定(円滑化法認定)を受ける必要があります。認定の有効期限は、後継者ごとに、最初に納税猶予の適用を受ける贈与・相続に係る贈与税・相続税の申告期限の翌日から5年を経過する日までとなっています。当該期間中には、認定ごとに次号継続報告が必要になるため、一度申請したら終わりというわけではありません。 

納税猶予の主な案件

納税猶予制度では、先代経営者、後継者、対象会社それぞれに細かい要件が設けられています。主な要件は下表のとおりです。

意外と漏れやすいポイントは、対象会社要件のうち、「中小企業者要件」「従業員要件」「収入金額要件」です。

「中小企業者要件」 のポイント

中小企業者の判定については、会社の業種目ごとに要件が異なるため留意が必要です。例えば卸売業を営む会社においては資本金1億円以下または従業員数100人以下の場合に中小企業者に該当しますが、ソフトウェア業・情報処理サービス業・旅館業を除くサービス業は、資本金5000万円以下または従業員数100人以下の場合に中小企業に該当します。

「従業員要件」 のポイント

常時使用する従業員の数が1人以上であることが必要です。ここでいう「常時使用する従業員」とは、原則として、厚生年金保険又は健康保険のいずれかの加入者となっている従業員を指します。
また、一定の外国子会社が存在する場合は要件が1名から5名に増加するため、本制度適用に際しては、対象会社の資本関係を確認しておく必要があります。

「収入金額要件」 のポイント

主たる事業活動から生じる収入金額があることが要件になっています。事業会社の資産管理会社において納税猶予を適用しようとする場合、資産管理会社では事業会社からの配当収入のみ発生し、事業収益が無い場合も多いため、当該要件については留意が必要です。

納税猶予の流れ

先代経営者である贈与者が死亡した場合には、猶予されている贈与税は免除されますが、納税猶予に係る贈与により取得した対象会社株式は、先代経営者から後継者が相続又は遺贈により取得したものとみなされて、相続税の課税を受けることになります。ただし、その際に、都道府県知事による一定の確認(円滑化法の確認)を受け、一定の要件を満たす場合、相続税の納税猶予の適用を受けることができます。また、納税猶予の適用を受けた相続税は、対象会社株式を次の後継者へ、納税猶予の適用を受ける贈与により承継した場合には、その贈与株式に対応する部分の税額は免除されます。このように、その時々において一定の要件を充足する納税猶予の適用に係る承継をしていくことで、納税猶予を継続することが可能と考えられます。ただし、28年以降の贈与・相続においては全額の納税猶予とはなりませんので、留意が必要です。

納税猶予の打ち切り事由

納税猶予制度の適用に係る株式承継後、対象会社にて一定の組織再編成の発生や、対象株式の譲渡等が行われた場合等には、猶予された税額の納付が必要になる場合があります。今後の事業計画に一定の制約がかかる可能性があるため、将来の事業計画も見据えた制度適用の検討が重要です。

同族会社等の行為計画否認規定

納税猶予制度には、いわゆる同族会社等の行為計算否認規定が設けられています。当該規定に基づき、納税猶予制度の適用により先代経営者・後継者又はその同族関係者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させると認められる場合、税務署長は、納税猶予制度の適用について一定の決定を行うことができます。各適用要件を形式的に満たすためだけに経済合理性に欠ける取引等を行う場合には、当該行為計算否認規定が適用される可能性があります。

納税猶予制度の活用に向けて

特例制度の適用を受けるための期限としてまず注意すべきなのは、特例承継計画書の提出期限です。提出期限は26年3月31日までとなっています。特例承継計画書の準備を進めつつ、あわせて他の適用要件を満たしているかどうかを確認することが肝要です。また本制度には、株式承継時に満たす必要がある要件と、承継後も引き続き満たす要件があります。本制度適用に際して、対象会社のビジネスに合致した持続可能な形となっているかが重要です。現在だけではなく将来も見据え、専門家の助言を得ながら総合的に検討をしていくことが求められます。

執筆者

梅村 芳志 (うめむら よしゆき)

デロイト トーマツ税理士法人
ファミリーコンサルティング パートナー

税理士。2010年に日系大手税理士法人へ入社。事業承継を中心とした業務に従事する。同法人の地区事務所長に就任し、事務所立ち上げから規模拡大を指揮した実績を有する。2020年5月にデロイト トーマツ税理士法人へ入社。2024年6月にデロイト トーマツ ファミリーオフィスサービス合同会社執行役へ就任。

鑄谷 真太郎(いだに しんたろう)

デロイト トーマツ税理士法人
ファミリーコンサルティング マネジャー

税理士。他の税理士法人を経て、2016年に同税理士法人へ入社。国内外のM&Aに関する税務ストラクチャリングやデューデリジェンス業務に従事した後、現在は、非上場会社のオーナー家等に資産承継・経営承継支援サービスを提供している。

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