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生成AIのビジネス活用―見えない課題の抽出に有用

従業員エンゲージメント向上への活用事例から

生成AIのビジネス活用事例として、従業員エンゲージメント向上における活用を紹介します。単なる業務の効率化に留まらず、人の目のバイアスが掛からない、という生成AIならではの特長が分析結果の生成に奏功しています。

昨今、ビジネスにおける生成AIの利用率は急上昇しており、先日のデロイト トーマツの調査においてもプライム上場企業のうち95%以上が何らかの生成AIを導入している結果となった。生成AIが品質の向上や、これまでにはない価値をもたらしているケースも生まれてきているが、現時点では業務効率化を目的に利用しているケースが多い。

組織・人事の業務も、生成AIが活用される領域として、加速度的に業務に用いられることが増えている。人材の配置や育成、採用においても生成AIを使用したツールや製品が存在し、当たり前のように使用している企業も増えてきている。中でも人的資本開示の流れを受け、注目が高まっている従業員エンゲージメントの向上は生成AIの活用領域として注目される領域だ。

従業員エンゲージメントについては、何等か手を打っている、という企業が大半だと感じる。一方で、これまで各企業に導入されてきた様々なツールでは、サーベイやインタビューの定量的な分析に留まり、捉えどころのない社員の価値観や思いが、デジタルに分析されてきた。その結果、当社にはよくこんな声が寄せられている。

「エンゲージメントサーベイを実施したが、数値結果だけ見てもよくわからない」
「様々な属性に切り分けて集計・分析しているが、何が課題かわからない」
「結局サーベイを実施しているだけで、改善の施策を打てていない」

組織の目指す方向性に向けて、従業員エンゲージメントを高めたい、そのためにサーベイを実施する、という流れは非常に合理的であるにも関わらず、その結果が活用できていないという現状にはもどかしさを感じざるを得ない。  

こういった問題に対して、有用なツールが生成AIだ。なぜならば、生成AIは自然言語の解析を得意としており、こういったソフトイシューと呼ばれる価値観や思いを理解し、それを可視化することに長けているためである。当社でも、生成AIを活用したエンゲージメント向上ツール「Engagement Agent™」の提供を開始した。

 

とある企業(A社)では、年に1回エンゲージメントサーベイを実施し、結果を集計し、都度全社・組織別で何を実施していくべきかを検討していた。しかしながら、これまでの集計結果上、スコアが低いところは固定的であり、「報酬」「評価」「ワークライフバランス」の項目に集中していた。そのため、人事制度の見直しや働き方改革は適宜実施してきたものの、従業員エンゲージメントが高まっているという肌感覚は得られていないという状況であった。

そこで、今までのサーベイ結果を何ら変えることなく、抽出したローデータを「Engagement Agent™」に投入したところ、「組織ビジョンへの共感」や「キャリア形成」について課題があるということが表出した。この結果から言えるのは、従来の分析の通り「報酬」「評価」「ワークライフバランス」に対して、社員が“不満”な状態ではあるものの、それらの要素は組織が目指す方向性に対する熱量の大きさ(=エンゲージメント)には結び付いていないということである。逆に、「組織ビジョンへの共感」や「キャリア形成」のスコアを高めることができれば、自ずとエンゲージメントが高まってくるという結果が示された。このように、単純な集計から見えてくるスコアの高低だけではなく、生成AIを活用した深い分析を実施していくことで、エンゲージメント向上のための適切な課題の抽出が可能となる。また、「Engagement Agent™」は、当社の知見を学習させていることから、課題に対する施策案も表出され、エンゲージメントの向上に“一歩近づく”ツールとなっている。A社からも、「今まで何か月も集計・分析にかけていたが1週間で完了した」「ようやく、従業員や組織の状態が分かった気がする」などのお声を頂いている。  

「Engagement Agent™」については先行して活用した和歌山県庁からの声もあわせて紹介したい。

年々複雑・多様化する行政課題に対してより的確に対応できる組織づくりのため、地方自治体において人材育成・確保の重要性が従前に増して高まる中、和歌山県庁では、組織のパフォーマンス向上を図る上で重要となる要素は、人事制度のみならず、組織文化、勤務環境等、多方面にわたると考えられていた。そこで、職員エンゲージメントの実態を把握、分析することで、組織の強み、弱みを明らかにし、組織力向上のため重点的に取組むべき内容を特定したいと考えられ、先行的に本ツールを活用された。

実際に「Engagement Agent™」を活用した結果として和歌山県庁の担当者からは「弱みや強みを把握できたこと、また重点的に改善すべき点や改善を行った場合の波及効果を予測できたことは、対応策の立案にあたって非常に参考になった」との声を頂いた。和歌山県庁では、調査結果を基に検討したエンゲージメント向上に向けた取組を実施していく予定であり、それらの効果検証のためにも、継続的に職員エンゲージメントを把握する必要性を感じている、とのことだ。

 

生成AIは人手の工数を削減する「業務効率化」もさることながら、人の目ではバイアスが掛かって今まで把握できてこなかった課題を洗い出し、さらにその解決にむけてサポートする「業務高度化」の一助となり得る。人事領域での活用を事例に紹介したが、様々な可能性を考え、皆さまの業務においても、活用の幅を広げていただきたい。

参考リンク:Engagement Agent™に関する製品紹介

執筆者

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Human Capital Offering
ディレクター 梶木 香

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