東京証券取引所の上場企業3,522社を対象にしたAIを活用した調査と、平均時価総額3兆円以上の企業(67社)を対象にした専門家による目視調査の二つの手法を用いて、直近事業年度(2026年3月期まで)の有価証券報告書を多面的に分析しました。
本分析では、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示状況を、AIを活用した調査(以下「AI調査」という)と専門家による目視調査(以下「専門家調査」という)の二つの手法により調査しました。
AI調査は、2025年4月1日から2026年3月31日までに決算期を迎え、かつ2026年6月30日までに当該期間の有価証券報告書を提出した東京証券取引所上場企業のうち、EDINETから過去3年分の有価証券報告書を取得でき、かつ、当該期間に決算期の変更がなく、継続して有価証券報告書を提出している3,522社を対象にしています。調査の対象となる有価証券報告書のセクションは、有価証券報告書の第2【事業の状況】の2【サステナビリティに関する考え方及び取組】であり、加えて1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】、3【事業等のリスク】、4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】も対象としています。
専門家調査は、同期間に有価証券報告書を提出した東京証券取引所プライム市場上場企業のうち、直近決算期を含めた過去5事業年度の平均時価総額が3兆円以上の67社を対象としています。2027年3月期以降サステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の適用が義務化される最初の企業群を対象とすることで、SSBJ基準の適用を見据えた開示がどの程度進んでいるかを把握することを目的としています。調査の対象となる有価証券報告書のセクションは、主に第2【事業の状況】の2【サステナビリティに関する考え方及び取組】ですが、関連する記載がある場合には、【従業員の状況等】や【コーポレート・ガバナンスの状況等】などもあわせて確認しています。
AI調査による上場企業3,522社の有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示は、記載量・対象テーマともに継続して増加しています。平均記載量は、2024年から2026年にかけて約1.3倍に増加しており、各企業が継続してサステナビリティ情報の開示を積極的に進めていることがうかがえます。開示の中心は「人的資本」「気候変動」ですが、「生物多様性」「情報セキュリティ」「水」など、自社事業に重要な影響を与えるテーマの開示も増加しています。
図表1 時価総額別「サステナビリティに関する考え方及び取組」の平均記載量の年度推移
「中東情勢」「地政学リスク」などの外部環境変化に関連するワードや、「AI」「生成AI」「高度化」といったテクノロジー関連ワードが増加しました。また、「収益基盤」「最適化」「資本効率」などのキーワードの増加からは、資本コストを意識した経営や収益基盤の強化により企業価値の向上を意識した記載が見られます。
近年の不正アクセスによる情報漏洩やランサムウェア被害の増加などを背景に、「サイバー攻撃」「不正アクセス」「地政学」「生成AI」などのキーワードが増加しています。企業が事業継続やサプライチェーンへの影響を重大なリスクとして識別し、その影響や対応策を開示する傾向が強まっています。
専門家調査では、温室効果ガス(GHG)排出の当期実績値を開示している企業は47.8%、前期の実績値を開示している企業は29.9%でした。また、目標値のみの開示にとどまる企業は20.9%であり、GHG排出の当期実績値を集計し、適時に開示できる体制整備をさらに進めていく必要があると考えます。
図表2 GHG排出量実績値の開示対象年度
また、現在の財務的影響を定量的に開示している企業は16.4%、予想される財務的影響を定量的に開示している企業は20.9%にとどまりました。財務的影響としては、炭素税、研究開発費、電力コスト、気候関連の適応策のための投資額、気候関連の投融資額などを開示する事例が見られました。一方で、予想される財務的影響を開示している企業では、移行計画もあわせて開示する傾向が見られます。予想される財務的影響(定性的情報のみの開示を含む)を開示している企業は68.7%で、そのうち約8割が移行計画を開示しており、GHG排出削減目標の達成に向けた移行戦略と財務的影響を関連付けた開示が進みつつあります。
図表3 財務的影響の開示状況
注)開示の割合は、該当するSSBJ基準の開示要求に準拠しているかどうかは評価しておらず、開示要求で求められている事項に関連する開示が行われていると判断できる場合には、開示されているとみなして集計しています。
さらに、気候レジリエンスの評価については、過半数の企業でシナリオ分析の実施及びレジリエンス評価結果が開示されている一方で、開示情報の粒度には差が見られます。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)ベースから、SSBJ基準適用を見据えたより具体的な開示へと前進している状況が確認されました。
人的資本の指標については、法令対応のための開示項目としてではなく、経営計画の実現に向けた人材戦略の進捗を示す指標として開示する企業も見られます。企業価値向上のために必要な人材像を起点に、育成・確保・配置の戦略を企業独自のKPIと結び付けて示す詳細な開示が見られる一方で、施策紹介にとどまる開示も見られました。2026年2月の企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「開示府令」という)の改正に伴い、経営戦略と人的資本戦略を関連付けて、人材を経営戦略実現のための源泉・経営資源と捉える開示が多く見られました。一方で、経営戦略との関連付けがない、もしくは関連付けはされているが両者の関係が不明瞭な開示や、人的資本の戦略ごとに対応する指標が明確でない事例もあり、戦略と指標の対応関係の明確化が今後の課題と考えられます。
人的資本に関連する指標の集計範囲(バウンダリー)については、連結ベース(一部の指標のみ連結ベースを含む)、もしくは提出会社と重要な子会社を集計した指標を開示している企業は67.2%でしたが、指標のすべてを連結ベースで開示している企業は少数でした。連結ベースで開示していない企業のうち、その理由を開示している企業は15.8%にとどまっており、集計範囲の明確化には改善余地があると思われます。
図表4 人的資本に関連する指標集計範囲(バウンダリー)の開示状況
AI調査では、テキスト解析を機械的に行っており、XBRLデータのタグ情報に基づく抽出に伴うタグ情報と文章の不一致による欠落や、生成AIの誤判定などによる誤りが含まれる可能性があります。また、画像形式で埋め込まれた情報は解析対象外です。
専門家調査については、現時点では有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示については、細かな事項は開示府令では規定されず、各企業の現在の取組状況に応じて柔軟な記載が可能な枠組みとなっているため、網羅的にカウントできていない可能性や、一部重複したカウントとなっている可能性があります。
また、本分析における開示状況の割合は、SSBJ基準の各要求事項に準拠している企業の割合を示すものではなく、関連する開示が行われていると判断できる場合に開示ありとして集計したものです。
1. 本分析のポイント(エグゼクティブサマリー)
2. 調査の概要
3. 全体傾向
4. サステナビリティ情報の開示分析
4.1 ガバナンス
4.2 リスク管理
4.3 気候関連
4.3.1 戦略
4.3.2 指標及び目標
4.4 人的資本
4.4.1 戦略
4.4.2 指標及び目標