2026年2月3日、デロイト トーマツ グループは「デロイト トーマツ Well-being経営フォーラム」と題し、「企業における従業員のウェルビーイング」について、有識者の視点や先進企業の実践事例を交えながら、企業が取り組むべきウェルビーイング経営の姿について考えるセミナーを開催しました。
2026年2月3日、デロイト トーマツ グループは「デロイト トーマツ Well-being経営フォーラム」と題し、「企業における従業員のウェルビーイング」について、有識者の視点や先進企業の実践事例を交えながら、企業が取り組むべきウェルビーイング経営の姿について考えるセミナーを開催しました。
(写真左から)
株式会社ハピネスプラネット 代表取締役 CEO 矢野 和男氏
株式会社 丸井グループ 取締役上席執行役員CWO 専属産業医 小島 玲子氏
デロイト トーマツ グループ CETL(Chief Executive Thought Leader)、デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 松江 英夫
2025年の世界幸福度ランキングは55位と、先進7カ国で最下位に甘んじている日本。そういった中で企業経営にもウェルビーイングを取り入れる機運が高まっているものの、実践には課題もある状況だ。幸福と経済価値を両立させるウェルビーイング経営を実践するには、何をすればよいのか。
2026年2月3日、デロイト トーマツ グループは「デロイト トーマツ Well-being経営フォーラム」と題し、「企業における従業員のウェルビーイング」について、有識者の視点や先進企業の実践事例を交えながら、企業が取り組むべきウェルビーイング経営の姿について考えるセミナーを開催した。
本セミナーでは、デロイト トーマツ グループが2025年8月に発刊した『ウェルビーイングのジレンマ 幸福と経済価値を両立させる「新たなつながり」』に登場する有識者も登場し、書籍には収録しきれなかったエピソードも交えながら議論を交わした。
イベント冒頭では、デロイト トーマツ グループ Personal Well-being working group リーダーの橋本純子が、ウェルビーイングへの取り組みについて説明した。
デロイト トーマツでは、経営方針の冒頭に「People First」を掲げ、独自指標の「幸福なプロフェッショナル度」を測定している。この数値を、現在の71%から2030年までに90%へ引き上げる目標を設定している。また透明性を高める取り組みとして、組織の事業活動や人材施策、地球環境への取り組みを開示した「Impact Report」を毎年発刊していることを紹介した。
続いてデロイト トーマツ グループ Personal Well-being working group Deputy リーダー 石黒綾が、昨年発刊した『ウェルビーイングのジレンマ 幸福と経済価値を両立させる「新たなつながり」』の内容を紹介した。
同書は「個人の幸福」と「企業の経済価値向上」がトレードオフであると捉えられがちであることを「ウェルビーイングのジレンマ」と呼び、それをどう乗り越えるかを論じている。
ジレンマを解決するためのフレームワークとして、ステークホルダー(従業員、顧客など)の幸福と企業価値の重なりを最大化するための3ステップ「顕在化 → 結束化 → 経済化」を提唱。幸福と経済価値向上は必ずしも二項対立ではないことを示す。
また石黒は、健康経営や福利厚生ではなく、経済成長の指標としてウェルビーイングを捉え直し、「ウェルビーイング先進国」を目指すための提言についても紹介した。
企業におけるウェルビーイング経営の実例として、書籍にも登場する丸井グループとデロイト トーマツ グループの2社の事例が紹介された。
はじめに、株式会社 丸井グループ 取締役上席執行役員CWO(チーフウェルビーイングオフィサー)専属産業医 小島玲子氏が登壇した。丸井グループは創業95年、あと5年で100周年を迎える伝統企業だ。そんな丸井グループは2011年頃、経営危機に直面した。その原因を、小島氏は「社会の変化に対し、自らが変化できない企業文化」にあったと分析する。
「企業の成長=人の成長」であるという考えのもと、トップダウンの「やらされ仕事」から脱却し、社員一人ひとりがやりがいを持って働ける環境にするため、丸井グループは企業文化という「OS(オペレーティングシステム)」の書き換えに着手した。
そのカギとなったのが「手挙げの文化」の醸成だ。中期経営計画会議への参加から異動・昇進まで、10年以上かけてさまざまなイベントを「手挙げ方式(公募制)」とし、社員が自ら動くことを促した。その結果、現在は9割近くの社員が自ら手を挙げる、主体的な組織へ変貌したと小島氏は説明した。
小島氏は次なる課題として「挑戦マインドの向上」を挙げた。社員が「好き」を入り口に「フロー状態(没頭し、創造性を発揮しやすい状態)」に入りやすい組織を目指し、さまざまな施策を実施している。「能力の活用」×「挑戦度合い」の2軸でフロー状態を定義し、インパクトKPIとして測定している。
小島氏は「企業文化は戦略に勝る」というドラッカーの言葉を引用し、「企業文化や人の力が企業価値や社会の価値につながっていくのだと思います」と締めくくった。
続いてデロイト トーマツ グループ ボード議長 永山晴子が登壇し、グループの取り組みについて紹介した。デロイト トーマツでは、アスピレーショナル・ゴール(目指すべき姿)として、「人とひとの相互の共感と信頼に基づく『ウェルビーイング社会』」を掲げている。震災から10年後の2021年、グループとして「経済価値だけではなく、社会価値を生み出していくべきである」という考えを示すために、あるべき社会の姿を定義したものだ。
このアスピレーショナル・ゴールを目指すには、まずグループに属する社職員一人ひとりのウェルビーイングを確保することが重要だ。そこで3層の円が重なるウェルビーイングのモデルをつくった。中央に個人(パーソナル)、その外側に社会(ソシエタル)、最も外側に地球環境(プラネタリー)の3つのウェルビーイングを配置し、それぞれが循環し、個人の幸せが社会や地球環境への貢献につながることを示した。
個人のウェルビーイングをどう言語化するのかも議論があったポイントだ。単に楽で楽しい状態ではなく、職業人、プロとしてクライアントや社会に価値を提供していくことを「プロフェッショナル・ウェルビーイング」と設定し、デロイト トーマツが目指すべき個人のウェルビーイングだと定めた。
永山は、ウェルビーイングに向けた具体的な取り組みとして、毎年10月を中心とした前後数カ月に実施する集中ボランティア月間の「Impact Month」や、社会課題に取り組む団体に寄付するとともに社職員が伴走者として携わる「デロイト トーマツ ウェルビーイング財団」、さらに傾聴と対話を主軸においた「I’m All Ears(傾聴)研修」などの活動を紹介した。
休憩を挟み、イベント後半は「ウェルビーイングの課題と将来」と題したパネルディスカッションを実施した。企業の事例紹介でも登壇した株式会社 丸井グループ 取締役上席執行役員CWO 専属産業医 小島玲子氏、株式会社ハピネスプラネット 代表取締役 CEO 矢野和男氏、デロイト トーマツ グループ CETL(Chief Executive Thought Leader)、デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 松江英夫の3名が登壇し、松江のファシリテーションで進行した。
はじめに3名の登壇者が、自身のウェルビーイングの捉え方について話した。
矢野氏は、日立製作所に43年間在籍した研究者で、20年以上にわたり人間や組織の行動データを収集して解析し、「人が幸せで生産的な状態」とはどのようなものかを科学的に解析してきた。5年前に日立製作所からスピンアウトして株式会社ハピネスプラネットを設立し、研究成果の社会実装を目指している。
矢野氏は幸せを「快・不快」の1軸ではなく、「挑戦」と「スキル」の2軸で捉えるべきだという。双方が高い状態が「フロー」状態であり、これをスパイラル状にまわし続けるプロセスこそが、個人にとっても組織にとってもウェルビーイングな状態だと強調した。
小島氏は25年の産業医としてのキャリアを通じ、仕事で心身を壊す人を何千人も見てきた、と振り返る。何十年にもわたって日中の8時間を費やす仕事がもし苦役だとしたら、人は幸せになれない。だからこそ、「仕事が苦役でない世界」、人が幸せに働ける社会に少しでも貢献したいと、小島氏は力強く語る。
健康を通じて「人と組織の活性化」に貢献したいと考えて大学院で研究も行ったが、自身はあくまで研究者ではなく実務家である、と小島氏はいう。「企業の中にどっぷりと入り、実際にどう実践するかという点にこだわり、社会の様々な方と協力しながら取り組んでいきたい」と思いを語った。
松江は、デロイト トーマツのアスピレーショナル・ゴール策定の当事者の一人である、と自己紹介した。当初はパーソナル・ウェルビーイングを掲げたが、個人の自己実現と組織のベクトルが合わないというジレンマに直面したという。その解決策を考える中で、苦しみながらも、組織の目的と個人の幸福の重なりを最大化する「プロフェッショナル・ウェルビーイング」という概念に至った、と振り返った。
続いて松江は、AI時代における組織と人間の役割について質問した。
矢野氏は、「AIは人の仕事を奪うのではなく、人の力を増幅する」という考えを示した。生成AIを活用することは、「600人の優秀な専門家」を部下に持つのと同じことであり、個人の思考速度や分析能力が100倍レベルで向上すると強調した。
個人がAIという強力な武器を持つことで、組織のあり方も変わる、と矢野氏は言う。従来の階層型の組織は崩壊し、全員が(AIという部下を持つ)エグゼクティブとしてフラットにつながる組織構造へ移行すると予想した。これからは組織の歯車ではなく、個人で自律して仕事を遂行する、まさにウェルビーイングな状態になっていくと矢野氏はいう。一方で、「AIと協働できるかどうか」によって、その流れに乗れる人と乗れない人が出てくるとも指摘した。
小島氏も矢野氏の意見に同意し、労働集約型から知識創造型へ移行していく中で、言われたことをやるのではなく、「自ら問う力」が重要になるという。そのとき重要になるのがリベラルアーツ(専門分野に偏らない自由な教養)だ。丸井グループでは歴史、哲学、文学などのリベラルアーツを重視し、社内に図書館を作って読書会を行うなど、考える力を磨ける環境に投資をしていると説明した。
松江は、AIによる効率化で生まれた時間を人員削減に充てる使う経営者が多いが、本質は付加価値創造への「シフト」であるべきだと強調する。日本人は「正解を早く出す」訓練は受けているが、「余った時間でどんな価値を出すか」「どんな問いを立てるか」を考える力が弱く、現場が戸惑っているのが現状だという。
松江は、デロイト トーマツでも若手コンサルタントが「AIやITなどのツールを使いこなすこと」が自己定義になりがちで、不安を感じているという。自身がこの業界に入った30年前のように、「ホワイトボードと仲間がいれば価値が出せる」というコンサルタントの原点にマインドセットをリセットするいい機会かもしれない、と語った。
次に話題は「日本企業にウェルビーイングや変革をどう根付かせるか」に移った。
丸井グループでも「手挙げ文化」を醸成するには時間がかかった、と小島氏はいう。最初は手を挙げてくれた少数の熱意ある社員、いわゆるファースト・ペンギンに、徹底的に良い思いをしてもらうことを心がけたという。それを見た周囲が「やった方が楽しそう」と感じるようになると、同調圧力がプラスに働き、少しずつマインドセットが変わったと振り返る。あるティッピングポイントを超えると、逆に手を挙げない方がマイノリティになり、「手を挙げない方が取り残されるのではないか」という不安を覚え、マインドセットの変革が加速した。昇進や異動といった組織の仕組みの中にも「手挙げ」を組み込み、「行動を変えることで意識を変える」アプローチを取ったという。
創造性は生物の進化と同様に「このままでは生き残れない」という危機感から生まれる、と矢野氏は考察した。組織においては、経営者は「黙っていると会社は潰れる」という危機感を持っているが、一般社員には伝わりにくい。この危機感のギャップを埋め、全員が当事者意識を持つことが創造性につながり、ウェルビーイングの土台になるという。
さらに矢野氏は現在の生成AIは、過去の模倣は得意だが、未来への広がり、つまり創造性の面には弱いという。それは「次に来る確率が高い単語を選ぶ」という生成AIの決定論的な仕組みの限界だと指摘する。真の創造性の源泉は「量子論」にあり、その核心は「順序性」にあるという。「ビンタの後にハグをするのと、ハグの後にビンタをするのではまったく意味が違う」と矢野氏はユーモアを交えながら説明。人間は一人ひとりが異なる「経験の順序」を経て今に至っている。その固有のプロセス(ストーリー)こそが創造性の源泉であり、AIにはない価値なのだと力強く訴えた。
松江は、ウェルビーイング経営の本質は外部の指標や流行の手法を取り入れることではなく、個人も組織も、どうありたいのかという「自らの主観」に矢印を向け内省することにある、と語る。AI時代だからこそ、人間らしい「主観」と「順序(ストーリー)」に価値が生まれる、と矢野氏の話に同意した。
最後に、登壇者が一言ずつメッセージを発信し、イベントを締めくくった。
「ウェルビーイングで大事なのは創造性です。創造性の本質は量子論であり、その根幹は順序性にあります。一人ひとりが唯一の順序を辿っていることに着目してください」(矢野氏)
「ウェルビーイングに対するアプローチはいろいろあります。お互いに情報交換し、ノウハウを伝え合いながら広げていくことが、仕事が苦役ではない社会につながると信じています」(小島氏)
「一般的に語られる方法論より、本質と向き合うことが大切です。自らを主語に置き、それぞれが自分らしい『オーセンティック・リーダーシップ』を発揮すれば、日本企業はもっと輝ける大きな伸びしろがあると思います。」(松江)
2時間半にわたり、企業経営におけるウェルビーイングの重要性とその実行について考察した「デロイト トーマツ Well-being経営フォーラム」は、盛況のうちに幕を閉じた。
日時:【配信期間】2026年3月4日(水) ~ 2026年4月30日(木) 17:00(日本時間) 申込締切:2026年4月30日(木) 12:00(日本時間)
この記事は書籍『ウェルビーイングのジレンマ 幸福と経済価値を両立させる「新たなつながり」』から一部抜粋・編集したものです。インタビューの全文は書籍をぜひご覧ください。
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