ビジネス界において、ダイバーシティや女性活躍はもはや馴染み深い言葉となりました。女性採用比率の向上や管理職への導き、社内制度の改革など「自社」の取り組みを促進させる活動が多い中、その取り組みが「世界基準」で評価されるとはどういうことか、ご存知でしょうか。
先日、G20 EMPOWER(女性の経済的代表性の向上と参画に関するアライアンス)が発表した「Best Practices Playbook 2025」において、デロイト トーマツ グループの取り組みが「FA3(Focus Area 3)」という極めて難易度の高い評価を得たと掲載されました。
FA3が意味するのは「Enabling Women to Lead the Future(女性が未来をリードすることを可能にする)」。これは、社内の数値目標の達成(FA1)や社内の仕組み・制度作り(FA2)を超え、「社会そのものに変革を促し、次世代のリーダーを育む土壌を作ったか」という、極めて高いハードルをクリアした企業に贈られる称号です。
この実績は、一企業の枠を超え、未来をリードする環境醸成を行ったという「公器」としての姿勢が世界に認められた証といえます。
デロイト トーマツ グループが評価された具体的な内容は、これまでの企業の「支援」のイメージを覆すものでした。
一つは、日本で初めて民間企業として導入した「DV(ドメスティック・バイオレンス)被害者支援システム」です。パンデミック禍で深刻化したこの社会課題に対し、全国100か所以上のシェルター確保や無制限の相談窓口設置を、雇用形態を問わず全社員に提供しました。
皆さんの記憶にも新しい2020年以降のパンデミック禍では、国の運営する配偶者暴力相談支援センターへのDVに関する相談件数は年間で約19万件規模となり(前年度比で約1.6倍)過去最多を更新と報じられました。また、DVによる経済損失は、GDPの最大2%に達する国もあるとされています。
今回評価されたデロイト トーマツ グループの取り組みは、単なる福利厚生ではありません。「社員の心身の安全こそが、すべての価値創造の基盤である」と定義し、社会の構造的な欠陥と企業の責任に真正面から向き合いました。
また、次世代へのアプローチとして展開している「Women in Tech」の活動は、一企業の社会貢献という枠組みを超えたインパクトをもたらしたとして評価されました。
小中高生からキャリア層まで幅広い層を対象に1,200人以上へテクノロジー分野の知識に触れる機会を提供し、参加者の98%が「テクノロジーへの関心が向上した」と回答しました。この数字が意味するのは、単なるスキルの習得ではありません。日本のSTEM分野(科学・技術・工学・数学)におけるジェンダーギャップの根底には、「自分には向いていない」という無意識のバイアス(思い込み)や親世代の影響、身近なロールモデルの不在などの環境要因が深く根を張っており、このボトルネックに直接介入し、構造そのものを書き換えようとしているのです。これは、「自社の採用パイプラインを確保したい」といったような、一時的な施策ではありません。
これは、日本全体の深刻なIT人材不足に対し、眠っている潜在能力を掘り起こし、市場全体の分母を広げることに繋がります。「自分もテクノロジーで社会を変えられる」という興味と希望を持った女性たちが、次なるイノベーションの担い手となりえます。
まさに、10年後、20年後の日本社会を豊かにするための「未来への投資」です。
自分たちの専門性を、自社の利益を越えて「国力の底上げ」へと繋げていく。そんなプロフェッショナルとしての気概が、この98%という数字の背後に現れています。
この実績は、私たちに仕事を通じて社会のOSを書き換えることができるという可能性と、そのための「高い視座」の重要性を示したのではないでしょうか。
デロイト トーマツ グループがPlaybookの中で語った一文、「当初の目的は、組織外の女性がテクノロジー分野で活躍できるようにエンパワーすることでした。しかし、性別や専門性を問わず全従業員を巻き込むことで、社内エンゲージメントが向上し、ブランディングも強化されました。このアプローチで、より広いビジネス視点から新たなイノベーションが生まれました。」
ここから私たちが学べるのは、「利他的な活動」と「組織の成長」は強力な相関関係にあるという事実です。
社会の不条理を解決しようとする企業の姿勢は、そこで働く一人ひとりに「自分の仕事が誰かを救い、未来を創っている」という強い誇り(パーパス)を与え、その誇りこそが、困難な課題に立ち向かう創造性の源泉となりえる。私たちが真に仕事に打ち込むことができるのは、自身の安全が守られ、かつその仕事が社会の役に立っていると実感できる時ではないでしょうか。
キャリアを考える際「どのプロジェクトでどんなスキルを得るか」「次にどのポジションを目指すか」など、自分を中心としたミクロな視点から入ることが多いかもしれません。それも決して間違いではありません。しかし、今回の事例では「社会が抱えるマクロな課題から逆算して、自分のキャリアを定義する」という新しいアプローチの一案を提示してくれたのではないでしょうか。
「自分がどうなりたいか」という問いと同時に、「今の社会に横たわるどの不条理を、どう解決したいか?」と問いかけてみてください。
ジェンダーギャップなのか、労働環境の歪みなのか、あるいは教育の不平等なのか、一見、個人のキャリアとは距離があるように思えるマクロな問いを、自分の経験やキャリア観に「接続」させてみるのです。そうして、社会課題という大きな物語の中に自分のキャリアを落とし込んでいくと、日々の業務は単なる「タスク」から、社会を変えるためのプロフェッショナルとしての「一歩」へと意味を変えるのではないでしょうか。
また、その組織が単に利益を上げるためのロジックを持っているだけでなく、「社会のどんな課題に対して、自分たちの専門性をぶつけようとしているか」など、企業を見極める際も、同じ視点を持ってみると良いのかもしれません。
このような視点もまた、まさにリーダーシップのひとつだと思うのです。そんな「自分事化」の先にある新しいキャリアの景色をぜひ想像してみてください。