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毎日90分の自己研鑽—クライアントに選ばれるプロフェッショナルの条件

~Leaders’ “My Professionalism” Talk~

デロイト トーマツ グループのリーダーたちに「Professionalism」について聞く「Leaders’ “My Professionalism” Talk」。今回は、2026年5月までデロイト トーマツ グループのグループCEOを務めた木村 研一氏に話を聞きました。「毎日90分の自己研鑽」を原点に、個として専門性を磨き、組織として生態系を育む視点を語ります。クライアントに選ばれ続けるための日々の積み重ねと、その先にあるリーダーシップの形とは。確かな自信と価値提供につながる、その源泉を辿ります。

合同会社デロイト トーマツ パートナー 木村 研一

プロフェッショナルについて考える時、個としてのプロフェッショナルと、ファームとしてのプロフェッショナルは、私の中では少し違う顔を持っています。

まず個人としては、一人でできることは本来そこまで広くないからこそ、自分の専門領域を決め、徹底的に磨き込むことが出発点になります。同時に、ずっと同じことだけをやるのも一つの在り方ですが、私自身は横に少しずつ広げることの価値を強く感じてきました。一つより二つ、二つより三つと、隣接する強みを増やしていけば、いつか「この問題はあの人に聞かないとわからない」と言われるオンリーワンに近づいていく。他と同じでは「ポピュラー」にはなっても「プロフェッショナル」にはなれません。差別化の核となる得意分野、勝てる場所を決めることが大切だと考えています。

さらに、たとえ正しい答えを持っていても、相手に届かなければ意味がありません。

いきなり「答えはこれです」と差し出されても、そのタイミングでは困る、社内で説明できない、と受け手が戸惑うことはよくあります。だからこそ、適切な人に、適切なタイミングで、わかりやすく伝える。口頭の説明だけで終わらせず、相手が社内に持ち帰って説明できるよう資料を用意する。私たちは「プロフェッサー」ではなく「プロフェッショナル」の産業に生きています。知っていればいいのではなく、知を「買ってもらえる」「使ってもらえる」状態に仕立てる責任がある。クライアントが困った瞬間に「あ、あの人に聞こう」と真っ先に思い出してもらえる存在になること。その電話一本、メール一通が、こちらのモチベーションを一番高め、伸びる環境をつくってくれるのだと実感してきました。

クライアントと向き合う—不足を糧に、毎日90分を積み重ねる

※大学時代、基礎スキークラブの仲間と

私自身が変わったと感じることができるのは、「自信がついた」と実感できる局面です。就職したばかりの私は、会計士試験に受かっていても、監査業務は何もわからない、用語すらわからないという「何もない自分」でした。そのような中でも、狭い範囲でもコツコツ勉強を重ねるうちに蓄積は生まれます。しかし飛躍のきっかけは、やはりクライアントと直接向き合い、会話の中で「外部のプロフェッショナルとして何が望まれているのか」「どのレベルに達すると評価されるのか」を肌でつかんだ時でした。受注から提供までを自分でやり切り、今もお付き合いが続いている案件は、私にとって小さな自信になりました。単独で、あるいは仲間としっかり対応しきった、小さな案件で評価をいただけた体験は、確かなマイルストーンでした。

では、自信が持てるようになるために、何をすればいいのか。

それは、「毎日90分、休まず勉強すること」です。休日でも、お酒を飲んだ日も、やると決めたらやる。これを続ければ必ずプロフェッショナルになりますし、習慣化されると、やらないことが気持ち悪くなります。

会社法の本を読む、雑誌を読む、新聞を隅から隅まで読む、政治を一定記憶する、過去案件を振り返る、なんでもよいのです。メール処理や目先のTodo潰しではなく、「自分で立ち止まって考える」ことを勉強と定義し、テーマを決めてやり続けること。その積み重ねこそが、自信を下支えします。

プロフェッショナルとは、自分で建てた砂上の楼閣の上に立っているようなものだと、私はよく感じます。まるで人力飛行機のように、漕ぎ続けないと不安定で、漕ぐのを止まれば落ちる。私には強烈な「何者でもない自分」の記憶があります。だからこそ、私は毎日漕ぎ続けるのです。実際、60分の打ち合わせで10の論点が出れば、私がその場で「ちゃんと返せた」と思えるのは3つか4つ程度。残りの不甲斐なさ、課題感、劣等感が、翌日の90分になっていくのです。

クライアントには全部見えています。わかっていないのに頷けば、相手はがっかりすることを避けるために、次から相談の難易度を下げてきてしまいます。だから、4つしか返せなかったなら次回は5つへと、少しでも改善する。その努力が伝われば、向こうの期待値も次第に上がっていきます。クライアントは組織の中でも責任ある方々で、人間的に自分の何倍も優れた方が多いです。ごまかすなど論外で、すぐに見抜かれます。また、たとえ自分の得意分野であっても、会話では「間」も大事です。相手の知識に上乗せして、気分よく話せたとしても、それが成功ではありません。いたらなさを抱え続けることが、次の学びへと必ずつながります。

ファームとしてのプロフェッショナリズム—生態系をつくり、鍛え続ける

ファームという視点に切り替えると、我々デロイト トーマツ グループの中には1000も2000もプロフェッショナル領域があるはずです。そのような中、それぞれの領域でエコシステム、生態系がきちんと働いていることが肝要だと考えています。例えば、ある領域に大家が一人いるだけでは不十分なのです。その人を目指して下から突き上げる人や、その人に憧れて努力する人がいて、常に鍛え合う競争環境が存在すること。そして、クライアントから厳しい注文を受ける現場で揉まれ、育成が回ること。切り花ではなく、根の張った生態系を保ち続けることが大事です。「ずっとトップ」が正しい状態とは限らない。勉強をやめたり、クライアントの前に立たなくなったりすると、一気にその領域でのプロフェッショナルさは陳腐化してしまいます。新陳代謝が健全であってこそ、ファームとしてのプロフェッショナリズムは築かれます。アスリートのように鍛え続けることが前提なのです。

そのうえで、ファームの強さは「一緒にやること」にあります。各生態系で尖った人たちが集まり、案件に作り上げ、クライアントに喜ばれる瞬間の強さは圧倒的です。ただし、そこには工夫が要る。1000の生態系から15を組み合わせるなら、それぞれの個性やバリューポイントを理解し、その人が光る局面に正しく組み入れること。そうでなければ、当人は自分の価値を出せず、やる気を失ってしまいます。どの専門がどの局面で光り、どうするとリスクが出るのかを事前にこちらが把握しておくと、入ってくる人たちは輝きやすい。

私自身、1000の専門領域のすべてはわからないにせよ、100や200の領域で一定の見識を持つことで、事前に議論すれば「こうすれば光る」ということが見えるようになります。そのためにももちろん、それぐらいの領域については一定の見識というものが必要です。

用務員としてのリーダーシップ—プロフェッショナルを光らせ、組み合わせる

また、私が伝えたいのは、プロフェッショナルファームの仕組みの中で、最も偉いのは肩書ではなく、「クライアントに直接対峙して価値を発揮している人だ」ということです。パートナーであれマネジャーであれ、「この人に相談したい」「この人に自社の大事な課題を託したい」「この人なら信頼を高めてもらえる」と思っていただける人こそが、ファームにとっての要です。これはEnablingエリアの方にももちろん当てはまります。

ではグループCEOは何かといえば、その人たちがやりやすくなるように、余計な仕事を増やさず、効率を高め、気持ちよく働けるように、必要な環境や体制を整える「用務員」の役割だと私は考えています。偉いわけではない。学校で言えば教頭先生、球団で言えばジェネラルマネージャーのように、必ずしも現場で教えたりプレーしたりはしないが、現場が機能するための基盤を整える存在です。

優れた「用務員」の素質とは、分野ごとのプロフェッショナルをどうやって光らせるかを徹底的に考える頭と手を持つこと。組織をきっちり機能させ、教育やエシックスといった、クライアントに価値を出す前段の体制を用意し切ること。その積み上げが、現場での価値発揮を最大化します。

プロフェッショナルであり続けるために

プロフェッショナルファームですから、そんなに楽なんてことはありません。やはり、しっかり勉強しないといけません。耳学問には限界があります。体系立てて理解しなければ、うまくいかないのです。環境変化は激しく、クライアントも十分に調べたうえで問い合わせてきます。生半可な知識、聞きかじり、人の知識の借り物では、まともな議論はできない。プロフェッショナルである以上、研鑽を欠かさないことが大前提ですし、そのうえでプロフェッショナルファームにいる意味は、お互いの専門領域を理解し、組み合わせてサービスにつなげることにあります。両輪が重要です。

たとえば、武士がすれ違っただけで相手の力量がわかるように、プロフェッショナル同士もすぐにわかるものです。「かなりの使い手だ」と伝わる佇まいがなければ、相手にされません。クライアントはお金を払う以上本当に真剣ですし、発注権限のある人の人を見る目は確かです。「本当にこの人に頼んでいいのか」と徹底的に見極めている。その視線に耐えるだけの準備と理解が不可欠です。

私自身、個としては専門を磨き横に広げ、適時適切に伝え切ることを心がけ、クライアントとの対話で足りなさを自覚しては翌日の90分を積み増してきました。ファームとしては、生態系を絶やさず、新陳代謝を保ち、尖った力を正しく組み合わせる設計に心を砕いてきました。クライアントに選ばれる存在であるために、そして仲間の力を最大化するために。私はこれからも準備と学びを、毎日積み重ねていきます。