デロイト トーマツ グループのリーダーたちに「Professionalism」について聞く「Leaders’ “My Professionalism” Talk」。今回は、デロイトジャパンで初の女性税務・法務ビジネスリーダー、溝口 史子氏に話を聞きました。寄り添う姿勢から、時にあえて寄り添わない提案へと変化した過程と、その背景にある価値観を語ります。ロンドンで学び、ドイツに渡ってドイツ税理士の資格を取得した溝口 史子氏のプロフェッショナルとしての原点とは。
デロイト トーマツ グループ 税務・法務領域ビジネスリーダー 溝口 史子
今回、あらためて「私にとってのProfessionalism」を見つめなおしてみようと、デロイト トーマツ グループのCTaO(Chief Talent Officer)である神山さんが作成した、熱い思いが込められたプロフェッショナリズムに関するスライドをじっくりと見てみました。
そこで実感したのは、このスライドに書かれていることは私にとってはすべてが至極当たり前に自分の中にあるものばかりだ、ということでした。
「クライアントに真摯に向き合うこと」
「期待された責任を果たすこと」
「クライアントとともに苦難を乗り越え、成果を掴み取ること」
「それにより、深い信頼と達成感を得ること」
「自己研鑽が存在意義であること」
「困難から逃げずに乗り越えること」
これらはすべて、私自身のコアに根付いている価値観そのものです。子供の頃、私の母は医師として夕食を食べながら海外の論文を読んでいました。私の場合も自己研鑽は責任感ではなく専門家としての興味関心から生まれています。
私は新卒で自治省(現在の総務省自治局)に勤めた後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに留学し、2001年にドイツのデュッセルドルフに渡り、PwCドイツの税務・監査法人に研修生として入社しました。
当時の自分は、ドイツ語も流暢でない市場価値も高くない立場でした。それでも、私自身のコアに根付いている価値観そのままに、生活をかけて働いていました。つまり、徹底的にクライアントに寄り添うことを実践したのです。
結果、日本人のクライアントからは非常に好かれていました。ドイツ人のパートナーたちは一様に不思議がっていました。「日本人のクライアントは、なぜかフミコのことが大好きだ」と。ドイツ人のパートナーたちは日本語がわからないので、私がクライアントと何を話しているのかはわからないけれど、とにかく日本人クライアントが足しげく相談に来てくれるし、食事にも呼んでくれているし、どんどん受注をしてくる、と。私が日本人クライアントたちから信頼を得ていることは、確実にドイツ人パートナーたちには伝わっていました。
しかし、今でも「安い・早い・うまい」が顧客満足度を高めるというのが信条ですので、「TAXの専門家でもないのに、スコープや予算を握ってくる」「最後のデリバリーが不十分だとケチをつけてくる」など、ドイツ人パートナーやマネジャーには扱いにくい人と見られていました。
そこで、専門知識を蓄え自分で業務を遂行できるようにならなければと考え、「TAXの専門家」となるべく、ドイツの税理士資格を取得するために一年間勉強しました。ドイツの緯度はほぼ北海道と同じで、論文答案を書きながら窓の外に眺めた、雪が下から上に降る吹雪の景色は綺麗でした。
2004年当時、給与は手取り1500ユーロ弱で、そのうち家賃が1050ユーロで消え、残額は約500ユーロ(6万円)。塾代はアルバイトや、貯金を取り崩しました。結果、晴れて2005年にドイツの税理士の資格を無事とることができたのです。
渡独後7年ほどして、晴れてマネジャーとなり、日本に出向になりました。
その頃、欧州のVAT(付加価値税)でお困りの企業の相談が舞い込み、ホワイトスペースだと感じ、2009年に専門書を出版しています。これがきっかけで後日、デロイト トーマツ グループに参画することになります。
VATは日本の消費税にあたり、欧州で広く導入されている取引税ですので、相談を受ける際には海外でのビジネスをつぶさに聞き取るところから開始します。「クライアントに言われたことを、言われたままに忠実に実行するだけでは、自分が提供できるはずの本来の価値を提供できていない」。そう気付いたのはこの頃だったと思います。クライアントが「何をしたいか」を100%理解することは重要ですが、それ以上に自分が考える最善の方法を提案することこそがサービスだ、と考えるようになりました。
例えば、DDP(通関後現地渡し)の取引条件を変えて洋上取引にしたり、貨物の水揚げ地をフランクフルトからアムステルダムに変えていただいたりするだけで、税務上有利になる場合があります。大抵は事業計画の最終段階で相談が来るので、計画通りだと頓挫、または全く割に合わない税コストが発生することが予見される場合もあります。
元々、おせっかいで自分の美味しいと思うものを人にも薦める性格もあり、クライアントに言われたことを忠実に実現するのではなく、クライアントが本当に叶えたいことを実現するために、時には突き放し「寄り添わない」ことも必要だと考えるようになりました。
駆け出しの頃の自分は実力がなかったため、言われたことを最小限のコストで着実に実現することに邁進していました。徹底的に寄り添うことで、クライアントから全面的な信頼を得ていたのです。しかし、当時はその信頼が実力を少し上回ってしまうこともありました。辛かったですね。自分には対応できないことを依頼されてしまった時は、他の人、つまりドイツ人の同僚に動いてもらわなければいけない。資格をとって自分でデリバリーができるようになることだけを考えていましたが、結果的には、他人に動いてもらうためには認められる必要がありましたので、資格をとってドイツ人に信用されたことはチームワークにも絶大な効果がありました。
ご相談の数だけはハンパなかったので、(失敗も含めて)経験値はどんどん積み上がります。こうして実力が伴っていった時、最終的には、クライアントから「やりたいこと」を言われても、瞬時に、一見関係なさそうな「ここを変えれば上手くいきますよ」と、クライアントに寄り添わない提案ができるようになりました。こうしてクライアントに気付きを与え感謝されたその時こそ、「信頼」が「尊敬」に変わった瞬間だと実感しています。
ぜひ皆さんも、ご自身の価値観となる「Professionalism」を実践し、クライアントから「尊敬」される存在となり、真のクライアントの望みを叶えていっていただきたいと思っています。
日本で初の女性首相が誕生しましたので、このタイミングでぜひ、日本人女性の皆さんへ、デロイトジャパンで初の女性の税務・法務ビジネスリーダーを務めている私からエールを送らせてください。
世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数によれば、日本は148カ国中、残念ながら118位という位置にあります。指数には政治、経済、教育、健康の4分野がありますが、日本が低スコアなのは政治(1に対して0.2)と経済(0.6)です。
今回、高市首相がその政治の分野でトップに就かれたということは、本当に素晴らしいことです。日本がジェンダーギャップを埋めていくためには、地方議会や国会の女性議員の数などから変わっていくのかと思っていましたが、自分も税務・法務ビジネスリーダーという立場になって思うのは、この分野の変革にはトップが変わることが一番早く、最も大事だということです。
高市さんには大いに期待しています。私は経済の分野でジェンダーギャップの解消に向かっていきたいと思っていますので、ぜひ日本の女性の皆さんには、ご自身の「Professionalism」を大事に育て、どんどん活躍していってほしいと願っています。