デロイト トーマツ グループが世界共通のパーパス「Making an impact that matters」を制定して約10年。パーパスドリブンな組織への進化を目指し、さまざまな取り組みを実施してきた。具体的にどのような取り組みを進め、どんな未来を見据えているのか。日本でのパーパス施策をリードする福島和宏、櫻井希、Cho Minkyoungに聞いた。
デロイト トーマツ グループ CEVO(Chief Executive Value Officer)福島和宏
デロイトが世界共通のパーパスである「Making an impact that matters」を打ち出したのは約10年前のこと。これは「クライアントのため、メンバーのため、そして社会のために、デロイトは常に最も重要な課題に挑戦し続ける」という姿勢を明確に示すものだ。しかしこのパーパスが「日本ではまだ腹落ちする形で浸透していない」と、福島は率直に語る。
Deloitte Network Purpose
「世界共通のパーパスである『Making an impact that matters』は、クライアント、メンバー、社会それぞれに対する私たちの存在意義を示す言葉です。これを日本のメンバーに浸透させていくためには、より内面的な価値観と結びつけて表現する必要があると感じています。」
そこで、世界共通のパーパスを、日本では「志」という言葉で再解釈した。福島は「パーパスを単なるスローガンではなく、内面に根ざした“志”として自分ごと化してほしい」と語る。
「パーパスを単なるスローガンだと捉えるのではなく、自分が内面で大事にしているものとの結びつきを意識して、日々の行動に反映してほしいと考えています。」
福島はパーパスを意識することで、メンバーの視座が高まり、視野が広がり、より深く考えられるようになることを期待しているという。目の前のコア業務を遂行するだけでなく、そこに関連する社会課題を意識して価値創出を目指すようになることこそが、パーパスドリブンな組織の目指す姿だ。
パーパスを単なる理念にとどめず、実際のアクションへ落とし込むため、デロイトでは「サステナビリティ」「インクルージョン」「トラスト」の3領域を戦略ドライバーとして設定した。この三本柱を軸に、2033年までにグローバル全体で30億ドル規模の社会的貢献投資を行い、教育やスキル開発、気候変動対策、AIへの信頼構築といったテーマに取り組んでいく。
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員/AP Purpose Leader 櫻井希
デロイトのパーパスはグローバル共通の理念だが、その浸透にあたっては地域ごとの文化的背景や社会課題に合わせた形で進めている。櫻井は、合計8地域18カ国で構成されるアジア太平洋(AP)のパーパス・リーダーとして、グローバルのパーパスと足並みをそろえつつ、各国のお客様やメンバー、地域社会に合わせたパーパスの浸透を進めている。
「アジアは多様性が非常に大きい地域です。パーパスの根幹はグローバルで共通ですが、どのような社会課題と向き合い、どんなインパクトを創出するかは地域によって異なってきます。」
コンサルタントとしての櫻井の専門分野は組織人事のコンサルティングだ。だが通常業務と並行してパーパスのプロジェクトに取り組むことで、ウェルビーイング、健康経営、ダイバーシティなど、コンサルティング業務だけでは気づかなかったような幅広い視野を持つことができたという。さらに国境を越えて多様な事例を共有できる点も、プロジェクトの醍醐味だと櫻井は語る。
「例えばインドではクリニックの病床効率化を支援したり、中国の地方部では親が出稼ぎに出ている子どもたちにメンタリングを提供したりするなど、日本国内だけでは経験できないような事例がリアルタイムで共有されます。」
「インドでは国の発展を支えるネイションビルディングが中心です。一方、シンガポールではトラストワーシーAI(信頼されるAI)や就業する人間に与える心理的な影響や求められるリスキリングが重点分野となっています。こうした国ごとに異なる多様な施策があることが、結果的にAP全体のインパクトの幅を広げ、深みを与えています。」
櫻井は、「グローバルファームとして各国の社会課題に取り組み、グループ内で共有できることにメンバーとして誇りを感じる」とデロイトならではの強みを強調した。
Deloitte Tohmatsu Cyber LLC, Senior Consultant / Cho, Minkyoung
2024年、カナダ・モントリオールで開催された「One Young World(OYW)*」には、世界190を超える国や地域から若手リーダーが集結した。その場で日本代表のひとりとして参加したのが、サイバーセキュリティやAIガバナンス領域を専門とするCho Minkyoungだ。Choはグローバル・ヤング・パーパス・リーダーとして「レスポンシブルAI(責任あるAI)」のワークショップを主導し、シーメンスやユニリーバなどの業界のスペシャリストたちとともに、ユース(若者)の視点から議論した。
*非営利団体である「One Young World(OYW)」は、次世代リーダー達が集まる世界最大級の国際プラットフォーム。毎年開催されるグローバルサミットは「若者のダボス会議」とも称される。
「OYWでは、AIを社会善のために使う『AI for Social Good』や『責任あるAI開発』をテーマに各国の専門家たちと話し合いました。何が正しく、何を重視すべきかは、国や文化によっても異なります。そんな中、国境を越えて『正しいインパクトとは何か』を考える貴重な機会でした。」
Choは、テクノロジーとガバナンスの交差点に立ちながら、持続可能なイノベーションの在り方を模索している。透明性・公平性・堅牢性・安全性・説明責任を重視したAIソリューションの提供、アライアンスやネットワークを活用した持続可能な未来の構築を推進する上で、多様な視点に触れ、さまざまな角度から社会課題について議論したOYWでの経験は大きな財産となるはずだ。
「デロイトはAIの信頼性だけでなく、教育、エネルギー効率化、医療アクセスなど幅広い分野で社会的価値を生み出しています。国を超えて活動する仲間たちとのネットワークができたことも、今回のOYWの参加の大きな成果です。」
パーパスは単に掲げるだけでなく、一人ひとりが自分ごととして捉え、考え方や行動に落とし込むことが重要だ。約10年前に「Making an impact that matters」というパーパスを設定したデロイトだが、組織への浸透へ向けてさらなる進化を見据える。それぞれのメンバーが自分の業務の先にある、クライアント、仲間、社会に対する重要課題に挑戦する意識を持つことで、より高い視座を持って世の中に価値を提供していけるようになる。
デロイト トーマツ グループは、今後もメンバー一人ひとりの「志」がつながり合い、パーパスを原動力に駆動する組織を目指していく。