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税務部門のAI活用は「進め方」が9割

専門家との対話で、自社のAI活用方針を具体化する

税務部門におけるAI活用は、もはや一部の企業だけの特別な取り組みではない。世界の税務・財務リーダー1,000人を対象としたDeloitte Globalの調査「2025 Tax Transformation Trends」によると、次のような結果が示されている。

  • AI活用の最優先事項として「定型的なデータ入力・処理の自動化」を挙げた割合:21%
  • 今後2年間で税務部門に必要な能力の一つとして「専門的なAIスキル」を挙げた割合:45%

Tax Transformation Trends 2025
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こうした背景を踏まえ、税務部門におけるAI活用の議論に不可欠なのは、次の点である。
自社の業務に対し、どの領域から、どの順番で、どの水準の検証を前提にAIを適用していくかを整理し、方針を定めること

しかし、日々の業務への対応に追われる税務部門にとって、じっくりと腰を据えてAI活用の方針を定めることは容易ではない。また、日々進化するAIの動向を追い、自社に最適な方法を選択するためには、専門知識と多くの時間を要する。
こうした税務部門の課題に寄り添うプログラムが、デロイト トーマツ税理士法人が展開する体験型ワークショップ「Tax AI Experience」だ。

「Tax AI Experience」は、AI体験から始まり、2035年の未来像の提示、AIを税務業務にどのように活用するかを具体的に検討するプロセス、業務での活用を見据えたデモ、そして個社ワークショップへと展開される。本プログラムの特徴は、税務とテクノロジーの専門家が、参加企業との対話を通じてAI活用の具体的な第一歩を共に見出す点にある。

以降では、「Tax AI Experience」の流れを概観しながら、参加企業が自社の現状をどのように捉え、AI活用の具体的な方向性を見出していくのか、その過程を見ていきたい。
また、プログラム参加者へのインタビューから、参加を通じて得られた具体的な気づきや学びについても紹介する。

AIを体感し、未来像から現在地を眺める

プログラムは、税務の具体的なトピックからではなく、AIの体感から始まる構成となっている。冒頭ではAIガイドとのリアルタイム音声対話が行われ、参加者に対してAIが問いかけながら、回答内容をその場で構造化して返していく様子が示された。これは単なるアイスブレイクではない。参加者に、現在のAIがどこまで自然な対話を返せるのか、どの程度その場の応答を組み立てられるのかを、まず体感してもらう狙いがある。

AIガイドとのやり取りで、インタビュー内容が構造化された様子

直後に説明されたのがRAGやGraphRAGの考え方だ。生成AIをそのまま使うだけではなく、社内文書や独自データをどう参照させるか、さらに情報同士の関係性までどう構造化するかによって、検索精度と回答の質が変わる。AI活用の成否はモデルの新旧だけで決まるのではなく、知識基盤の設計に大きく左右されることも示された。

次にデロイトは、2035年の社会像を映したスライドを用いながら、AIが補助ツールの段階を超え、業務や意思決定のあり方そのものを書き換えていく未来を提示した。自動運転、新薬開発、スマートシティといった題材は、未来を誇張して見せるためではない。税務もまた、より大きな技術変化の中で再定義されることを伝えている。

続く説明では、AIがビジネス活動に与える影響を考察するため、AI活用のメリットだけでなく、不正確な情報、バイアス、プライバシー、セキュリティといったリスクも提示された。さらに規制や社会的受容といったAIの活用や技術的な進化に影響を与える要素なども示された。AIを「便利な道具」としてだけでなく、企業実装の条件まで含めて捉える進め方である。

実際に参加者からは、イントロの体験について「音声もかなり正確に拾っていたし、受け答えも自然だった」と振り返る。AIをまず体感してから本論へ進む構成が、その後の議論を抽象論にしない土台になっている。 

Tax Four FacesとAI指数が、「どこに使うか」を見える化

その後、議論は税務の実務へと展開される。ここで示されたのが、税務組織の役割を「Catalyst」「Strategist」「Steward」「Operator」の四つで捉えるTax Four Facesと、各業務に対するAI活用の度合いを整理するAI指数である。

税務組織の役割を攻めと守りの両面から俯瞰し、そのうえでAIの適用余地を見立てる枠組みが共有される。

税務組織の役割を「Catalyst」「Strategist」「Steward」「Operator」の四つで捉えるTax Four Faces

この整理が重要なのは、AIで業務を「全部置き換えるか、使わないか」の二択で考えないためである。ステークホルダーとの関係構築や税務調査対応のように、人間同士の信頼やその場の判断が本質となる業務は人の関与が強く残る。一方で、データ変換、定型的な分析、申告関連の反復業務のように、ルール化しやすい領域はAIとの親和性が高い。議論の軸は、ここで「できる・できない」から「どこに、どう使うか」へと移っていく。

本パートについて、参加者からは、AI指数のような整理があったことで、自社で取り組みたいテーマがどの程度AI活用に向くのかを見立てやすかったとの声が聞かれた。「Tax AI Experience」の価値は、AIを抽象的な流行として語るのではなく、自社の業務地図の上に置いて考えられる点にある。

三つのデモとDeep Researchが、AI活用の現実味を提示

続いてのパートは、具体的なユースケースのデモである。業務でAIを活用する際の解像度を高めるのが狙いだ。デモ例として、税務QAチャットボット、消費税取引データの課税区分判定チェック、申告書ドラフト作成、これに加えて公開情報調査を支援するDeep Researchも補助的に紹介された。ここでは一部のデモの概要についても触れておこう。

  • 税務QAチャットボット
    モデルの違いそのものよりもRAGを用いて何を参照させるか、どのように質問を設計するかによって回答品質が大きく変わることが示された。ポイントは、新モデルを導入すれば問題が解決するわけではない、という点である。どの文書を知識基盤に置くのか、どの程度の根拠や補足情報を返させるのか。そうした設計があって初めて、税務の現場で使える水準に近づく。
  • 消費税の課税区分判定チェック
    ERPなどから抽出した大量の取引データに対し、自然言語で整理した判定ルールをAIに適用し、一次チェックを自動化する考え方が示された。人は異常候補だけを重点的に確認すればよくなるため、確認工数の圧縮だけでなく、レビューの観点を明文化する効果も期待できる。

上記のデモ紹介からも分かる通り、「Tax AI Experience」は単なる技術動向を紹介したセミナーとは一線を画す。その真価は、参加者とともに税務とテクノロジーの専門家が同じ場に集い、表面的なユースケースだけでなく、レビュー体制や運用設計といった実践的なテーマまで、共に議論できる環境そのものにある。

この姿勢はデロイト トーマツ グループが日本語で公開している「生成AI:Tax Director が検討すべきこととは?」とも重なる。同資料では、下記のように提言している。

税務における生成AIの一般機能として、文章生成、分類、要約、Q&A、変換、抽出、推論が整理されているだけでなく、Digital Artifact Generation/Validationという方法論を通じて、生成AIを使わない工程の設計や、出力の検証・ファクトチェックまで含めてユースケースを構想すべき

「Tax AI Experience」は、まさにその考え方を、抽象論ではなく体験として見せる場である。

ワークショップでは、参加者の検討テーマを具体化

デモの後はワークショップに移る。これまでのパートで紹介されたインプットやデモで得た気づきをもとに、自社が関心のあるテーマ、注力したい取り組みを整理する。「自社の業務にAIをどう活用できるか?」「実現に向けた障壁は何か?」「実現に向けて取り組むべきことは何か?」などの点から、実際に明日からAIをどう活用するかを検討するパートだ。

個社ワークショップの様子

例えば、「経営層とのコミュニケーションのあり方」について課題感を持っている企業の場合で考えてみよう。「税務における重要事項をどのように報告すれば、経営層の深い理解と戦略的な関与を促せるか?」といった切り口から、AIの活用を検討する。こうした課題に対して専門家チームからは、「AIを単なる作業ツールとしてではなく、多様な視点を取り込みながら論点や構成を検証する、思考のパートナーとして活用してはどうか?」といった示唆出しをするといった具合だ。

専門家との議論を通じて、自社の状況に落とし込んでAI活用を考えることで、単なる情報収集に終わらない、実効性のあるアクションに繋げることができる点こそ「Tax AI Experience」の真骨頂である。 

開催後インタビューから見えた、「Tax AI Experience」の参加価値

ここからは、実際に「Tax AI Experience」へ参加したクライアントのリアルな声を紹介する。今回インタビューに応じていただいたのは、JX金属株式会社 経理部副部長 山川博達氏、経理部税務担当課長 金子博彰氏だ。お二人から、当日の体験を通じて見えてきた手応えと次の論点が率直に語られた。

JX金属株式会社

山川氏は、参加前には「現状、AIでどこまで税務業務ができるのか」に関心があったと振り返る。そのうえで、最も興味深かったのは申告自動化のパートだったという。会計システムから申告書へのマッピングについて、各社がゼロから個別に組み立てるだけでなく、共通化できる部分があれば導入の現実味はさらに高まるという気づきだ。

加えて、議論で示された「AIにあえて任せないで残す仕事」という考え方が印象に残ったと語った。AIの導入を検討する際、その焦点は「自動化できるか否か」に偏りがちである。だが、どの業務を人に残すかという問いが、人材育成や組織の持続性に直結することが改めて可視化された。

金子氏は、「参加前には、最先端の税務領域におけるAI活用に対し、自社がどの位置にいるのか、その現在地を把握したいと考えていた」という。実際に参加してみると、申告自動化などの取り組みにおいて、極端に距離があるわけではないと感じたそうだ。
一方で、導入は一足飛びではなく、段階的に進めるべきだという見方を深めた。具体的には、まずRAGを用いてQ&Aの精度を高め、その後に活用範囲を広げていくイメージである。その前提として、会計システムの整備、申告までの基礎資料作成プロセスの見直し、不要業務の削減といった地ならしが必要になるという認識だ。

また金子氏は、AIを単なる自動化ツールではなく、他部門や他者の視点を得るための壁打ち相手として使う発想にも手応えを感じたという。税務部門だけで考えていると見えにくい、社内外のステークホルダーの観点や、そうした相手に届く説明の方法を、AIとの対話によって補助的に取り込む使い方である。

この視点は、税務部門の価値を社内でどう伝えるかという課題にも繋がる。金子氏からは、「税務領域におけるAI活用は、税務担当者だけでは完結しない。社内の情報システム担当やDX推進側の協力が不可欠だ。そのため、税務部門だけでなく、情報システム担当なども『Tax AI Experience』にともに参加したほうが、より広い視野で議論ができるだろうし、社内のAI活用、DX推進などの一体感醸成にも役立つだろう」という見解も示された。これは、今後「Tax AI Experience」に参加する他社にとっても重要なポイントだろう。

「Tax AI Experience」は、一社でじっくり議論できる形式だからこそ、自社事情を踏まえて具体的な論点整理がしやすい。また、参加前に「AIに何を期待するのか」「どの業務を変えたいのか」を持ち込めば、議論の解像度はさらに上がる。

もはやAIは単に業務を効率化するだけのツールに留まらない。定型的な“守りの業務”をAIに任せることで、税務部門は戦略立案やプランニングといった、より創造的で付加価値の高い“攻めの業務”へとシフトしていくことができる。AIと共に創る、より戦略的な税務の将来を考えたい税務部門にとって、「Tax AI Experience」は有効な起点となり得る。

掲載している情報は本校執筆時点での最新情報です。

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