世界最高峰の金融機関を目指すための、戦略的リスクマネジメントの神髄とは何か。連載第4回は、三井住友フィナンシャルグループ(以下、同社グループを総称して「SMBCグループ」)のリスクマネジメントについて、安地和之グループCFO兼グループCSOに、デロイト トーマツの高谷健太郎、北川愛子が聞いた。
高谷 SMBCグループは、2026年4月に「世界をつなぐ日本発のトラステッド・パートナー」という新たなビジョンを発表されています。 このビジョンには、どのような思いが込められているのでしょうか。
安地 私たちはこれまでも、グローバル金融グループとして世界中のお客様に多様なサービスを提供してきました。
その一方、日本での事業を振り返ると、長らく低金利が続いたこともあり、相対的に厳しいビジネスを余儀なくされてきました。しかし、昨今の金利上昇や、日本経済のモメンタムが徐々に回復してきたことなどが追い風となって、今日の日本のビジネス環境は、世界的に見てもかなりいい状況にあります。その日本に中枢を置く金融グループとしてのプレゼンスを生かし、世界をつなぐ金融サービスを提供したいという思いを、「日本発」というフレーズに込めました。
高谷 そのビジョンを具現化するためのアプローチとして、2026年度に新たな中期経営計画がスタートしました。新中計の狙いについてお聞かせください。
安地 中期経営計画の計画期間は3年間ですが、まずはその時間軸を超え、「10年後にはどうなっていたいか?」というアスピレーション(志)を設定するところから始めました。
具体的には、「世界最高峰の金融機関の1つになること」をゴールに設定し、その証しとして、15%前後のROTE(有形株主資本利益率)を達成することを長期目標に定めました。それだけ稼げる力を付けるため、事業ポートフォリオの変革に取り組んでいきます。
北川 事業ポートフォリオ変革は、どのように進められるのでしょうか。
安地 大きく3つの領域で取り組んでいきます。1つは、コア中のコア事業である日本の商業銀行業務を徹底的に強くすること。2つ目は、安定的に収益が伸ばせるトランザクションバンキングやアセットマネジメントの強化。3つ目は、リスクは高いけれど、相応のリターンが期待できる投資銀行業務やアジア業務などへの挑戦です。1つ目と2つ目で“足腰”をしっかりと鍛え上げ、3つ目の領域へと果敢に挑む計画を描いています。
高谷 金融機関には、リスク管理に関して非常に保守的なイメージがありましたが、私どもも国内大手金融機関への業務提供を通じ、最近は金融機関の企業風土や人事制度なども大きく変わってきているように感じます。その要因は何でしょうか。
安地 今日のビジネス環境は、かつてのように予め想定されるリスクが発生するといった状況ではなく、常に不確実性が存在する状況に変わっています。ですから、リスクマネジメントも戦略と一体化した形で進めていかなければなりません。新たな中計で事業ポートフォリオを3つの領域に大別したのも、その考え方によるものです。つまり、「リスクとうまく付き合える事業ポートフォリオにする」ことが大切だと考えているのです。
北川 デロイト トーマツは、国内外の銀行業務の専門知見を生かしたAI導入やガバナンス、セキュリティ等の業務を提供しています。その中で近年とくに影響の大きさが懸念されている項目が、AIの利活用に伴うリスクです。SMBCグループはAIの利活用を積極的に推進されていますが、どのようにガバナンスを利かせているのでしょうか。
安地 AIに限った話ではありませんが、当グループでは、何か新しいことをやるときには、コントロールできる能力を同時に備えることを大前提としています。その上で、AIガバナンスに関しては、アーキテクチャーを堅牢にすることと、ルールをしっかりと定め、厳格に運用することの2本柱で臨んでいます。
安心して使える環境が整い、ルールが明確になっていれば、利活用は広がっていくものです。それがサービスの向上、新しいサービスの創出につながり、お客様により良い価値を提供できるきっかけになります。
高谷 投資銀行業務やアジア業務については、果敢にリスクを取っていくというお話でしたが、「社長製造業」を標榜されているデジタル子会社をはじめとする新規事業に関するリスク管理はどのようにされていますか。
安地 新規事業については、まず「先行してやる」こと。次に「遅れたら、なるべく早くキャッチアップする」こと。それでもダメだったら「やめる」ことの3段構えでリスクを管理しています。どこよりも早く事業を立ち上げるのは難しいことですが、後発の不利をなくすためには先んじる必要があります。ただし、常に先行できるとは限りません。そこで、遅れたときには私たちが長年培ってきた現場力やAIの力を総動員して、追い付き、追い越すことを目指します。それでも追い付けない、勝てないとなったら、潔く「やめる」という決断を下すわけです。
高谷 撤退の基準は決めているのでしょうか。
安地 数値としては、長期的にROTEが15%、短期的に13%といったターゲットを事業特性に合わせて決めています。また、「トールゲート方式」と言って、ここまでのKPIを達成しなければ、次の投資は行わないという関門を設けています。大きな投資になるほど、失敗の確率は下げなければなりません。それをできる限り下げるために、数値とプロセスの両面でガバナンスを利かせています。
高谷 最後に、SMBCグループの強みについてお聞かせいただけますか。
安地 私たちの強みは「早く動く力」や「現場の強さ」ですが、それに加えて、今後は「不確実性と付き合える力」をもっと養っていかなければなりません。VaR(Value at Risk)のような統計的なリスク管理も行いますが、想定外のことが起きれば統計は崩れます。ストレステストやシナリオプランニングなどの能力を強みと言えるレベルまで高めていきたいと考えています。
高谷 私たちデロイト トーマツも、お客様のリスクテイクを支え、経営判断に生かせるリスク管理を目指してまいります。本日はありがとうございました。
株式会社三井住友フィナンシャルグループ
グループCFO兼グループCSO
株式会社三井住友銀行 取締役専務執行役員
安地和之 氏
1993年4月、株式会社住友銀行入行。2020年4月、三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部長。2021年4月、同 執行役員。23年4月、同 常務執行役員。25年4月、同 執行役専務。25年4月よりグループCFO兼グループCSO。
合同会社デロイト トーマツ グループ
銀行・証券セクターリーダー
パートナー
高谷 健太郎
グループ全体の銀行・証券セクターリーダーとして、とくにメガバンクをはじめ、大手金融機関向けアドバイザリー業務を統括している。専門は金融リスクマネジメント。
デロイト トーマツ サイバー合同会社
金融インダストリー担当
シニアマネジャー
北川 愛子
サイバーセキュリティおよび個人情報保護・プライバシーを専門とし、金融機関に対して、グループガバナンスの高度化やサイバーセキュリティ態勢強化に関するアドバイザリー業務に従事している。
(所属・役職は、2026年6月末時点のものです)