不確実性を排除すべき対象ではなく、コントロール可能な状態にさせるには何が必要か。連載第3回は、政府が掲げる「重点投資の17分野」の道筋と、官民連携、そしてリスクマネジメントの在り方に焦点を当て、政策研究大学院大学 学長特命補佐・客員教授の角南 篤氏に、デロイト トーマツの仁木 宏一、亀岡 まなみが聞いた。
仁木 現在、日本政府は「重点投資の17分野」を選定し、国としての成長戦略作りを進めています。しかし、そうした国の動きに対して、民間側の取り組みはこれからだと思います。どうすれば、官民一体となって取り組む機運が高まるでしょうか。
角南 政府が選定した17分野は、造船やAI・半導体といったピンポイントの業種にフォーカスしたものから、防衛産業、海洋のように範囲の広いものまで、様々です。そのため、民間側からすると「自分たちはどの分野に関係するのか?」ということが見えづらく、まだ様子見をしている段階なのではないかと思います。今、政府は各分野に投じるリソースや資源の検討を進めており、間もなく具体的な施策や、想定される経済効果が発表される予定なので、その後、民間の参加意欲も徐々に高まっていくはずです。
亀岡 デロイト トーマツは、政策提言に関する業務も行っています。角南先生がおっしゃるように、戦略に基づいて各分野での具体的な検討が着実に進んでいるのを実感しており、民間からの注目も次第に高まっているように感じます。
仁木 官民一体となった成長戦略を盛り上げるためには、日本企業も政府の動きをキャッチアップして、自分たちの事業計画、事業戦略にどう反映していくのかを考えていく必要があると思います。一方で、日本企業は、自社の意思を政策に反映されるロビイングに対して欧米企業に比べると組織的に行えていないように感じます。政府が民間経済の成長を積極的に後押しする姿勢を見せている今、民間も自分たちの要望や意見を強く発信し、一緒になって政策作りを行っていく姿勢が求められるのではないでしょうか。
角南 日本では、ロビイングに関する開示や登録制度などの具体的なルールが整備されていない等の背景があるかもしれませんが、それでも民間からの要望をしっかりと伝え、政策に反映させていくことが重要です。「政府主導による産業政策」よりも、「民間主導による産業政策」のほうが、明らかに実効性や効果は高いでしょう。なぜなら、当事者としてビジネスを一番理解し、その経験を政策に落とし込んでいるからです。今日のように不確実な時代においては、政策作りにもスピードが求められます。国の意思決定を早めるためにも、民間が積極的にリードする、または参加することができれば成功確率は高まるのではないでしょうか。
亀岡 変化が目まぐるしく、不確実性が高い今日においては、成長戦略作りの前提や考え方にも見直しが求められているのでしょうか。
角南 変化がそれほど速くなく、新しい技術や産業の潮流がキャッチアップしやすかった時代には、その流れに沿って、ゆったりと長期的な成長戦略を描くことができました。しかし、今日のように半歩先も不透明な時代には、そうした過去の成功モデルは通用しません。民間経済が変化の速さに対応できるようにするため、国は2000年代初めから、スタートアップ支援や中小企業の第2次創業支援など、民間経済のアジリティ(敏捷性)を高める政策を続けてきました。しかし、この20年の間に世界は日本以上の速さで成長し、技術革新を生み出しています。スピード感のある民間経済を構築するためには、国として企業に投資する予算編成を柔軟に組み、新しい技術のゲームチェンジャーを生み出していく必要があると思います。
仁木 ご指摘の通り、国の予算は単年度で編成されるので、企業は長期的な経営戦略が描きにくかった。それが民間の成長を抑え込んできた側面もあるかもしれませんね。現在の高市早苗内閣は、経済や産業の将来に予見可能性をもたらす複数年度の予算編成に切り替える改革を進めていますが、そうした取り組みによって、民間経済の成長を促すことも重要だと考えます。
角南 民間側も、「これは政府がやるべきこと」といった線引きをせず、自分たちにとって必要だと考えるのなら、一歩先んじて新しいことに取り組み、戦略を立てるという「したたかさ」を持つべきだと思います。時代はどんどん変わっているのに、「国の政策が打ち出されていないから」と待っていては、国家主導でドラスティックに成長戦略を推し進めている国々との競争には太刀打ちできません。
亀岡 国の動きに先んじて民間が踏み込んだアクションをするためには、相応のリスクマネジメントが不可欠となります。デロイト トーマツは、不確実性こそが今日におけるリスクであると捉え、それを排除するのではなく「いかにコントロール可能にするか」が、リスクマネジメントであると考えています。角南先生は、不確実な時代におけるリスクマネジメントのあり方について、どのようにお考えですか。
角南 デロイト トーマツが考えるように不確実性そのものをリスクと捉えるとすれば「国だけ」「民間だけ」では、それを解消することはできません。なぜなら、それぞれが向き合うべき課題や、対処するためのリソースが異なるからです。レイヤーが分かれていると言い換えることもできるでしょう。2つのレイヤーが情報を共有しながら連携することで、初めて不確実性を予見し、それを織り込んだ戦略を立てることが可能になります。現在、政府が進めている成長戦略作りも、同様のアプローチで臨むことが重要だと考えます。
仁木 おっしゃる通りだと思います。私たちも、政府と民間の“橋渡し役”として2つのレイヤーの結びつきを強め、不確実性の時代に求められる実効性の高い成長戦略作りとリスクマネジメントに貢献していきたいと思います。
政策研究大学院大学 学長特命補佐・客員教授
角南 篤氏
2023年より政策研究大学院大学 学長特命補佐・客員教授、現任。その他、内閣府沖縄振興審議会会長、内閣官房経済安全保障法制に関する有識者会議委員 等
合同会社デロイト トーマツ
セントラルガバメントセクターリーダー
パートナー
仁木 宏一
「日本の今を動かす、世界の未来を創る」をミッションに掲げ、産官学連携による産業育成、地方創生などに取り組むチームをリードしている。
合同会社デロイト トーマツ
ガバメント&パブリックサービシーズ
シニアマネジャー
亀岡 まなみ
日本の社会課題解決に寄与する政策立案や自治体の地域未来戦略支援に携わる。パブリックアフェアーズ機能も担う。国会議員の政策担当秘書を経て現職。国会議員や中央官庁との豊富なネットワークを有する。
(所属・役職は、2026年5月末時点のものです)