企業を取り巻くリスクが多様化・複雑化する中で、経営層はどのようなリスクマネジメントを行うべきなのか。その解をデロイト トーマツ グループの永山晴子と高津秀光が語った。
高津 今、企業を取り巻く環境は、AIをはじめとするテクノロジーの急速な進歩や、サイバーセキュリティ、地政学、サプライチェーン、気候変動などのリスクの高まりによって、多様化・複雑化を極めています。経営層は、こうした変化を単なる「ネガティブなリスク」として捉えるのではなく、「成長の糧」へと転換することが重要だと考えます。永山さんはデロイト トーマツ グループ(以下、デロイト トーマツ)のボード議長(取締役会の議長に相当)ですが、ご自身も含め、企業の経営層はリスクにどう向き合うべきだとお考えですか?
永山 一般的にリスクは「怖いもの」というイメージが強く、従来の日本の経営では、「できるだけ回避しよう」と考えるのが主流でした。しかし、何が次のリスクになるのか予測困難な今日においては、リスクを避けるだけではなく「成長のために覚悟を持ってあえて適切にリスクを取っていく」という考え方が広く受け入れられつつあります。
例えば、経済産業省が公表している「社外取締役ガイドライン」では、社外取締役の心得の一つとして、「経営陣の適切なリスクテイクをサポートする」ことが提言されています。国も、企業がリスクを回避するだけでなく、適切に取ることの重要性を訴えているわけです。
高津 デロイト トーマツは、グローバルファームとして世界各国の知見やネットワークを活用する一方で、組織形態としては、日本のパートナーだけで資本構成されるパートナーシップ制を採用しています。株式会社とは異なる形態ですが、リスクマネジメントにおいては何か違いがあるでしょうか?
永山 パートナーシップ制を一般の会社に当てはめると、社員たちが自ら出資し、共同オーナー兼経営者となって会社経営に参画しつつ、日々の業務も行うというものです。上場企業は、株主をはじめとする外部のステークホルダーの要望を受けやすいのに対し、当社は経営層である日本のパートナーが100%所有するので、仕組みとして外部の視点を取り入れるために、当社のボード(取締役会に相当)には、社外取締役に相当する外部の方々にご参加いただいています。内部だけでは見落としがちなリスクやマネジメント手法についてご教示いただき、強固なガバナンス体制の下で意思決定を行っています。
高津 永山さんはデロイト トーマツの経営層の一人として、また、監査のプロフェッショナルとして、企業の取締役の方々と対話される機会が多いと思います。取締役の方々のリスクマネジメントに対する捉え方に、何か変化は感じますか?
永山 多くの方々が、リスクを「避けるためのマネジメント」から、「あえてリスクを取るためにマネジメントすべきもの」に捉え直しているように感じます。その背景の一つとして考えられるのは、サステナビリティ開示の一環として「マテリアリティ(重要課題)」を掲げる企業が増えていることです。マテリアリティには、リスクと機会の両面が含まれることが多いので、課題を成功のチャンスとして捉える傾向が強まっているのではないかと思います。
高津 私はデロイト トーマツでリスクアドバイザリーを担当していますが、その立場から見ると、多くの上場企業は、コンプライアンス違反防止やインシデントへの対応といった従来型の「守り」のリスクマネジメントには注力してきたように感じます。しかし、中長期的な成長を見据えた「攻め」のリスクマネジメントに関しては、まだ十分に実践できていない企業も少なくないように見受けられます。
これまでは、リスクマネジメント部門を中心とし、法務やコンプライアンス、情報システムといったコーポレート部門がリスクマネジメントを主導してきましたが、「攻め」のリスク管理をするためには、トップマネジメントや各事業部門の積極的な参画が求められるようになるのではないでしょうか。
永山 高津さんのご指摘の通りだと思います。とくに、経営層がどれだけリスクを許容できるかということが、「攻め」のリスクマネジメントを実践できるかどうかの分かれ道になると思います。
高津 それでは、果敢に挑戦できる企業にするためには、どのような仕組み作りが必要だと思いますか。
永山 失敗を恐れず、挑戦できる組織文化の構築が不可欠だと思います。そのためには、トップが挑戦することにコミットし、適切なリスクテイクであれば結果を許容するカルチャーを醸成する必要があります。リスクテイクの判断基準を企業のミッションや経営戦略に結びつけることも、チャレンジを促す重要なポイントだと思います。
高津 2025年12月1日に3社が統合し、合同会社デロイト トーマツが発足しました。この統合をボード議長の立場からどのように見ていますか?
永山 これまでもクライアントのために密接に連携してきた3社が統合し、1つの法人になったことで、より整合性の取れたワンストップサービスが提供できるようになりました。今日のビジネスリスクは、様々な要素が複雑に絡み合っているので、1つの専門分野だけでは解決できない課題が増えています。3つの専門性の高い法人がより緊密に連携することは、そうした時代の要請に応えるために不可欠な決断だったと言えます。今後ますます多様化・複雑化するビジネス環境に対応しながら、「攻め」の経営を実践するための支援を提供してまいりますので、ご期待ください。
合同会社デロイト トーマツ
パートナー
デロイト トーマツ グループ
Consultativeビジネス
Strategy, Risk & Transactions リーダー
高津 秀光
2026年6月より現職。オペレーション変革、リスクマネジメント、グループガバナンス強化、グループ再編などの業務に従事。リスクアドバイザリー事業における戦略・事業企画の統括、Risk, Regulatory & Forensicリーダーを経て、デロイト トーマツ グループStrategy, Risk & Transactions リーダーに就任。
Risk, Regulatory & Forensic:事業戦略実現のためのリスクマネジメント、産業・事業特性に応じたグローバル規制対応、不正等の事象発生に際しての迅速な事実調査・原因分析・再発防止策といったデロイト トーマツにおける事業領域。
デロイトアジアパシフイック ボード議長
デロイトグローバルボードメンバー
永山 晴子
2026年6月より現職。日本基準およびIFRS基準の監査業務、連結財務諸表作成支援、IFRS導入支援等の業務に従事。また、企業会計基準委員会、日本公認会計士協会の各種委員を務め、会計基準の開発に携わる経験を有する。2022年7月から2026年5月までデロイトトーマツグループ及び有限責任監査法人トーマツ ボード議長。
(所属・役職は、2026年6月時点のものです)