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製造業M&Aの現在地:トレンドと株価・EBITDAによる考察
Industry Eye 第104回 産業機械業界
本コラムでは、製造業を対象としたM&Aにおける近年のトレンド、M&Aを実行した企業の株価およびEBITDAマージンの推移を分析し、M&Aが企業の成長に与えた影響や有効性について考察します。
※本分析は限定的なサンプルに基づくものであり、株価やEBITDAマージンの変動には業績や市場環境、業種特性、為替・原材料価格、会計上の要因など、様々な内外の事象や期待値が影響を与えます。したがって、以下の結果は一つの見方としてご参照ください。
製造業におけるM&Aのトレンド
- 近年、事業の迅速な成長の確保、新技術・人材の獲得、ポートフォリオ再編、事業承継などを背景に、企業のM&A件数は増加傾向にあります。
- M&A全般の件数に関する統計は多い一方で、業界に特化したトレンドの分析、M&Aを実施した企業のその後の成長や効果を分析した事例は限定的です。
- 製造業におけるM&Aのトレンド分析を目的に、重工業など約30社を対象に、直近5年間(2021–2025)のM&A事例約140件を分析しました。
- 直近5年間において平均して年間1件以上M&Aを実施した企業は全体の約46%存在しています(図1参照)。
図1
*年間平均実行数は直近5年間において平均して年間1件以上M&Aを実施した件数
参考:各社ニュースリリース
- また、各社のニュースリリースに記載された情報に基づき、買収・売却の両面から特徴を抽出しました。その結果、シナジー創出による事業成長や事業ポートフォリオの適正化の二つがM&Aの主目的となっていると捉えられます。
買収:
- 表1に示す4つの目的(製品ポートフォリオの拡大、バリューチェーンの拡大、既存業務の効率化、販売エリア・顧客チャネルの拡大)が多くの事例で確認されました。これらの目的から、自社にない製品や機能をM&Aによって獲得し、シナジーをテコに非連続的な成長を狙う動きが、近年の買収目的の主流と考えられます。
売却:
- 売却では、事業ポートフォリオの適正化(非中核事業の売却やカーブアウト等)を目的とするケースが多く確認されました。また、買い手は同業の事業会社が中心ですが、資金力や運営ノウハウを有するプライベート・エクイティによるバイアウトも複数存在していることも特徴的です。
M&A実行と株価推移の関係
- 次に、M&Aが事業成長に及ぼす影響や効果の検証に係る一つの手段として、M&A実行件数と株価推移の関係を比較分析しました。
- 本分析では、M&A実行件数及び買収・売却の内訳に基づき、以下カテゴリーに分類し、カテゴリー毎の直近5年間における株価の上昇率を比較しました。
- 調査対象全体(カテゴリー①)の平均株価上昇率約3.9倍に対し、年間1件以上M&Aを実行した企業群(カテゴリー②)は約4.6倍、年間1件未満の企業群(カテゴリー③)は約3.5倍であり、積極的にM&Aを行った企業群は相対的に株価上昇率が高い結果となりました(図2参照)。
- また、カテゴリー②のうち売却の割合が半数以上を占める企業群(カテゴリー④)では、平均株価上昇率が約5.5倍と最も高い水準を示しています。これは、低収益事業やノンコア事業を売却して事業ポートフォリオを適正化したことが投資家サイドに好材料の一つと見られた可能性もあると考えることができます。
- また、各社のニュースリリースに記載された情報に基づき、買収・売却の両面から特徴を抽出しました。その結果、シナジー創出による事業成長や事業ポートフォリオの適正化の二つがM&Aの主目的となっていると捉えられます。
図2
株価の上昇率(調査日2026/2/10を基準に2021/2/10と比較)
参考:各社ニュースリリース
M&A実行とEBITDAマージン推移の関係
- 同様に、M&Aが事業成長に及ぼす影響や効果の検証に係る一つの手段として、M&A実行件数とEBITDAマージンの関係を比較分析しました。
- 前述した株価の分析と同一のカテゴリーを用い、直近5年間におけるEBITDAマージンの平均変化幅を比較しました。
- EBITDAマージンの平均変化幅は、調査対象全企業(カテゴリー①)が+2.2ポイントに対し、年間1件以上M&Aを実施した企業(カテゴリー②)が+2.5ポイント、年間1件未満の企業(カテゴリー③)+1.9ポイントとなり、カテゴリー②がやや大きいものの、全体として同程度の上昇にとどまり明確な差までは見られませんでした。
- 一方、カテゴリー②のうちM&Aに占める事業売却件数が半数以上を占める企業群(カテゴリー④)は、+3.2ポイントと相対的に高い改善度を示しました。低採算事業のカーブアウトなどによる事業ポートフォリオ改善が寄与した可能性があるとみることもできます(図3参照)。
図3
EBITDAマージンの上昇率(調査日2024年度を基準に2020年度と比較)
参考:各社ニュースリリース
まとめ
- 本調査では、積極的にM&Aを実行する企業群の株価上昇率が高く、とりわけ事業売却を多く行った企業ではその傾向が顕著となりました。一方でEBITDAマージンの改善率はM&A実行件数に問わずいずれも同程度であり、件数そのものがマージンを直接押し上げる明確な関係は確認できませんでした。
- これらの結果から、市場は企業が実施するM&Aに対して一定の評価を与えている可能性が示唆されます。一方で、M&A実施件数が多くても株価上昇率が高いとは限らないことから、クロスセルなどシナジー創出や事業ポートフォリオ見直しに係る成長戦略を市場に打ち出し、PMIを通じた統合実行後にシナジーを実現させしっかり結果を出すまでの実行力を確認していると考えられます。そのため、M&Aが象徴的なイベントの一つではあるが、企業がコーポレートアクションを行い動いていること自体を投資家は好材料と捉え、評価しているものと見られます。
- 今後、事業成長を加速させるM&Aの果たす役割は一層大きくなると見込まれています。事業ポートフォリオを見直し、どの事業を「買う・売る」かのM&A戦略と資本配分を投資家に投げかけ、Day1からの100日計画、組織・文化統合、KPI運用までを着実に遂行し結果を出すPMIまでをやり切れる企業こそが、市場の信頼と評価を獲得できるのではないかと考えます。
執筆者
合同会社 デロイトトーマツ
産業機械・建設
マネジャー 笹倉 康佑
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
ご協力ありがとうございました。