本調査レポートはダイベストメント(事業売却)の最新動向をもとに、企業の成長戦略における変化について取り上げています。戦略的にダイベストメントを取り入れることは、企業の成長を加速させる有効な手段となりつつあります。
本レポートは、デロイトが2026年にグローバルで発行した「2026 Global Divestiture Survey」の日本語版です。Global Divestiture Surveyは隔年で実施している調査であり、「Divestiture」(日本語版では「ダイベストメント」)に関する定点観測として、案件や実務上の動向等を調査することを目的としています。
ダイベストメントとは、株式の売却のみで完結するシンプルなM&Aだけではなく、企業内の事業の一部や子会社を分離・切り出したうえで売却するカーブアウトを含むM&Aの取引形態を指します。こうした分離・切り出しを伴うM&Aは、事業ポートフォリオ再構築や事業再編の一環として実行されることが多く、一般的に難易度・複雑性が高いため、入念な検討に加え準備・体制構築・プロセス設計が不可欠です。
日本国内でも、ダイベストメント1関連の案件を含むM&Aは活発化の傾向にあります。本調査内にも記載していますが、2025年上半期は前年同期比で3倍を超え、取引金額総額も過去最高を記録しています。上場している大手企業を中心に、事業ポートフォリオ改革が実行フェーズへと移行し、加速している状況です。これまでの日本企業は、グローバル比較において複数の事業セグメントを有する割合が高い一方で、事業ポートフォリオの見直しや組み替えが十分に進んでいないと指摘されてきましたが2、現在はポートフォリオ改革の実行が本格化しつつあります。
日本におけるこのような動きの背景には、「株式市場での明暗」「アクティビスト株主の活発化」などが挙げられます。日経平均株価は2024年に続き2025年も過去最高値を更新し、市場全体としては活況を呈しています。一方で、PBR(株価純資産倍率)の改善要請に対応する企業に対しては、東京証券取引所がリストの公表・要請・フォローアップを継続しており3、個別企業単位ではPBR改善に向けた取り組みを強化する動きも広がっています。また、2025年上半期の株主総会では、アクティビスト株主からの提案を受けた企業数が過去最多となり、取締役会構成や事業ポートフォリオの見直しを求める動きが顕著です4。
資本市場からの要請に対し、ダイベストメントを単なる一過性のイベントとしてとらえるのではなく、コア事業に注力し、新たな領域(AI・デジタル化の加速・脱炭素対応・サプライチェーンの強靭化など)に投資するためにも、企業が戦略的な意思をもってダイベストメントを検討・実行することが求められています。
ダイベストメントのように事業の一部または全部の切り出しや、グループからの子会社の分離を伴う案件では、取引対象となる事業の範囲を明確に定義する必要があります。加えて、対象事業単体では事業運営が成り立たないケースも多く、経理・人事・情報システムなどのコーポレート機能が取引対象に含まれない場合、スタンドアロンイシュー(単独運営に向けた課題)への対応がM&Aの意思決定・準備・交渉のプロセスにおいて重要となります。
特に買い手は戦略的な適合性や成長・シナジーの機会を重視するため、買い手を意識したストーリー作りや準備をしっかり行っておくことが、高い売却価格やスピーディーな意思決定にもつながります。なお、日本では買い手が事業会社であるケースが多く、スタンドアロンイシューへの対応も買い手側で可能な場合が多いですが、ファンドなどの投資会社はこうした機能を基本的に保有していないため、対象事業や売主側に対応を求められることになります。
「2026 Global Divestiture Survey」でも、ダイベストメントにおける取引価格(売却価格)や取引完了までの期間(準備~DD~契約交渉~クロージング)への影響について言及されており、意思決定体制の整備、プロジェクト関与者の確保、財務・税務情報の整備、ダイベストメントプラン・Day1プランの策定、スタンドアロンイシューへの対応など、準備段階での取り組みが案件の成否に大きく影響することが示されています。M&Aプロセスは機密性が高いため、限られたメンバーと情報で進められることが一般的ですが、カーブアウトを伴うダイベストメントの場合には、期待する効果(特に金額・期間)を実現するためにも、十分な体制と準備を整えたうえで臨むことが重要です。
また、事業ポートフォリオレビューを定期的に実施し、注力するコア事業領域の検討を継続的に行うとともに、ダイベストメントの検討においては、ダイベストメント後の売り手のコスト構造が変化することからストランデッドコスト5も念頭に置いた戦略的な検討を実施することが肝要となります。
今後、日本においてもプライベートエクイティファンド等の投資会社による関心がさらに高まり、買い手となる案件が増加することが見込まれる中、ダイベストメントを効果的に実現するための戦略と準備は、企業の競争力を左右するさらに重要な要素となっていきます。
本レポートが「ダイベストメント」を検討されている方々の、より効果的な実現の一助となれば幸いです。
脚注
1.ダイベストメント/Divestment(英語ではDivestitureとも表現されます)は売り手を意識した用語ですが、M&Aの取引形態の特徴を表す「カーブアウト」と表現されることもあります。
2.経済産業省「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」
事業再編実務指針(https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/20200731003-1.pdf)2026/2/13アクセス
3.資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(プライム・スタンダード市場) | 市場区分の見直しに関するフォローアップ | 日本取引所グループ(https://www.jpx.co.jp/term-of-use/index.html)2026/2/13アクセス
4.資本市場の圧力を変革につなげるには~DTEAセミナーより~
資本市場の圧力を変革につなげるには~DTEAセミナーより~ | Strategy Institute | FA Portal | デロイト トーマツ グループ(https://faportal.deloitte.jp/institute/report/articles/001561)2026/2/13アクセス
5.ストランデッドコスト(残置コスト):事業売却後に売主側に残るコスト、または売却後のオペレーティングモデルでは最適化できていないコストを指す。経理・人事・ITなどの間接機能に関するコストが典型な例となります。