サービス業や情報・通信業などにおける架空売上の不正事例が多く発生しています。物品の販売とは異なり、無形のサービスは売上の実在性を検証することが困難なことが多くあります。本稿では公表されたサービス業や情報・通信業における不正の調査報告書を分析し、業界特有の不正リスクとその対策について考えます。
近年、売上の実在性が問題となった会計不正の調査報告書が多く公表されている。
日本公認会計士協会「上場会社等における会計不正の動向(2025年版)」(経営研究調査会研究資料第12号)によれば、上場企業の会計不正の公表会社数は年々増加しており、粉飾決算の手口別では売上の過大計上は最も多い。また、業種別でもサービス業、卸売業、建設業、情報・通信業が上位を占めており、これらの業種における収益認識にリスクがあることは、日々、会計不正リスクに対処している方々の感覚と合致しているのではないだろうか。
本稿では、特に無形財を扱うサービス業や情報・通信業に着目し、これらの売上の実在性が問題となった事案を分析する。そのうえで、これらの不正の原因、固有のリスク、再発防止策を考えたい。
サービス業や情報・通信業の会計不正事案を、調査報告書をもとに原因分析の内容と財務諸表への影響を要約した。
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会社 |
事案の概要 |
原因分析 |
個別財務諸表への影響(当社による概算) |
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サービス業 |
売上高の概算計上分について、取締役主導で長期にわたりエビデンスを改ざんし、売上の過大計上が行われていた |
①恣意性の入りやすい方法での売上計上 |
売上高:約10%減少 |
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情報・通信業 |
実体のない架空循環取引が行われていた。また、虚偽の成果報告により取引を維持・拡大した |
①事業に関する知見の不足 |
売上高:約 20%減少 |
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情報・通信業 |
利用実態を伴わない売上が架空計上されていた。また、広告宣伝費などの名目で代理店などを経由し回収した。更に、改ざんや実態と異なる説明も行われた |
①売上拡大と上場志向 |
売上高:約80%減少 |
原因分析のうち、不正のトライアングルにおける「機会」に焦点を当てると、ビジネス固有の恣意性の入りやすさ、経営管理側のビジネスに関する理解不足、ガバナンス・モニタリングの機能不全が挙げられている。
このように、架空や水増しによる売上計上が比較的容易であり、それを発見することが出来ない環境であったがゆえに、過去から積み重なった不正会計の発覚が遅れ、発覚したときには財務諸表へのインパクトが大きい重大事案となってしまった。
次に、サービス業や情報・通信業に特有の不正リスクについて考える。これらの業種として主に次のような業界固有のリスクが考えられる。
無形財を扱う業種のため、実物資産の移転を伴わずシステム上のデータに基づき売上高が計上されることになる。そのため、情報の改ざんが行われるリスクが高い一方で、役務が実際に提供されたことを証明することが困難なケースがある。
物品の売上と同様に、サービスの納品書、得意先による検収書をエビデンスとして残すことをルール化し、売上の実在性を担保することに努めている企業も多くある。しかし、書面以外でサービス提供の実態を直接検証することが困難なことが多く、特に得意先との共謀が疑われるケースにおいては、監査や不正調査が難航することがある。
また、顧問契約によるコンサルティング業務や、少額のサービス契約などは、売上計上にあたってエビデンスを省略するような例外規定を設けている企業も少なくない。
このように事後の検証可能性が担保されておらず、社内外のモニタリングが困難である特徴がある。
サービス開始当初はシンプルであった取引形態も、企業の成長や顧客ニーズの多様化により、契約内容や収益形態が多様化・複雑化することがある。
例えば、広告業の報酬形態も、純広告と呼ばれる広告枠の買い切りから、ネット広告の拡大も相まって、クリック課金、インプレッション課金、エンゲージメント課金など多様化している。さらに、契約内容によって報酬形態も細分化されるため、企業として内部統制を整備して管理すべき売上のパターンも急速に拡大したことを意味する。
また、多様化・複雑化した結果、特定の担当者、特定の部署のみ収益構造を理解しているというような実態もあるのではないか。これに加えて、担当者間の結びつきの強さにより取引がブラックボックス化する傾向もあり、共謀による売上の過大計上、さらには資金循環を伴う横領などに発展するケースがある。
不正がエスカレートして金額規模が大きくなれば、社内外のモニタリング対象になる可能性もあるが、例えば、不正実行者が「国家プロジェクトで秘匿性が高く、社内であっても情報共有は制限されている。そのため、見せられるエビデンスが無い。」といった説明を行い、モニタリングから逃れるケースも散見される。
サービス業や情報・通信業における売上の実在性が問題となるような事案を防止するためにはどのような施策が考えられるのであろうか。調査報告書では次のような再発防止策が提言されている。
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再発防止策の種類 |
具体的な改善策 |
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企業風土・コンプライアンス意識 |
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モニタリング・ガバナンス強化 |
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内部統制強化 |
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再発防止のための基礎となる組織風土やガバナンス強化は大前提であるが、サービス業や情報・通信業の売上の実在性に対する管理強化としては、「売上計上を可能な限りシンプルにし、検証不能なものや恣意性が入るものは排除すること」や、「管理側の会計リテラシーおよびビジネスの理解度を高めること」に取り組むべきことが特徴的と言えるであろう。
サービス業や情報・通信業に注目して売上の実在性に関するリスクとその対策について考えてきた。
売上の実在性の検証が難しく、不正の発覚が遅れるビジネスの性質である以上、「不正が潜伏しているかもしれない」と余談を持たない姿勢が必要である。また、少額の不正が発覚した場合においても、金額的なインパクトが大きいことが一般的な業界であるため、「氷山の一角かも知れない」と考え、その根本原因を深堀することが求められる。不正が発覚してはじめて実在性の検証に関する問題に直面するのでは遅いと言わざるを得ない。何も起こっていない今だからこそ、「サービス提供の実在性はどのように検証しているのか」と自社や担当する会社の内部統制を調べなおしてみてはいかがだろうか。
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合同会社デロイト トーマツ
フォレンジック & クライシスマネジメントサービス
シニアマネジャー山崎 英樹
(2026.6.3)
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