品質不正が発覚した際は、企業価値の毀損のみならず人的被害を最小限にとどめるためにも、迅速な対応が必要だ。本稿では、品質不正問題が発覚した際に対応すべき事項を、初動対応のポイントとともに解説する。
品質不正は、最悪の場合多数の人命を奪う極めて深刻な事故につながる可能性もあるため、品質不正が発覚した際は、迅速な対応が必要である。企業価値の毀損のみならず人的被害を最小限にとどめるためにも、部門横断の対応体制を速やかに構築し、不正内容の特定とともに人命等への影響度を把握すべきだ。
品質不正の可能性があるとの一報を受けた場合、まずは初期的な事実確認を行う。例えば特定の製品について検査の未実施や検査結果改ざんの事実が判明したのであれば、それがどの程度製品の安全性に影響を及ぼしているのかを把握する。同時に、当該製品の流通先について把握する。この際、1次販売先のみならずエンドユーザーも含めた商流全体を把握することが重要となる。影響度を検討した結果、安全性へ及ぼす影響が軽微であれば再検査を含む応急処置を施し、顧客の理解を得たうえで製品の出荷を継続することも可能である。一方、消費者の生命・健康・安全に関わるような重大な影響があると判断した場合、出荷停止はもちろん即時の事案公表や出荷済み製品の回収といった判断を行わなければならない場合もある。被害及び事業への影響を最小限に留めるためには、この一連のプロセスをできるだけ速やかに実施することが重要だ。
影響度の検討結果に基づき初動対応体制を構築する。主たる目的は、正確かつ迅速に発生事象を把握し、重要性のある情報を経営層と共有することにある。経営層へ重要な情報が報告されなかったり、情報の共有が遅れたりすれば、対応が後手に回る。企画、法務、総務、人事、広報、経理財務といった主要な本社部門のみならず、今後の展開・対応を考慮し、関連製品などに熟知したメンバーの選定が必要となる。様々な部署から関係者を集める必要がある一方で、情報統制も求められる。取引先や従業員などステークホルダーに対して誤った事実や憶測が広がると、混乱が生じるため、対応にあたるメンバーは必要最小限に限定すべきだ。
初動対応体制の構築後は、より正確に発生事象を把握し対応の優先度を決定するため、必要な情報を追加で収集し、その影響度を評価することになる。以下の5つの観点が重要だ。
① 人的影響
初期調査の開始までに人的影響は暫定評価しているが、この評価が誤ると重大性な影響が生じるため、初期調査の段階でも追加情報に基づき改めて影響度を評価する
② 法的影響
営業停止処分、業務改善命令、ISOやJISの認証取消などの行政処分の可能性や、エンドユーザーからの損害賠償の訴訟リスク等の影響度を評価する
③ 事業者への質的影響
自社が供給する製品の技術水準を検討し、競合他社が代替製品を供給できるか等を評価する
④ 金銭的影響
製品出荷の停止・出荷済製品の回収・全量検査、顧客との契約解除、損害賠償請求額等の金銭的影響を評価する
⑤ 関与者および証拠保全の検討
不正実行者の立場によっては証拠隠滅が可能となる場合があるため、実行者の特定および適切な証拠保全の方法を把握する。例えば、米国のeDiscoveryのように所定の方法での証拠保全が要求される場合、外部専門家との連携が必要となる
品質不正においては、当初の想定を超える用途やユーザーの広がりが事後的に判明することがよくある。事実確認を進めながら、追加情報を入手する度に上記①~⑤の直接的な影響を再評価することが望ましい。この影響度の評価に基づいて対応の優先度を決定することになるが、特に人的影響は、優先度を高く対応すべきだ。人的影響が軽微であれば、出荷済製品の回収までは不要なケースもある一方、人的影響が重大であれば、他の項目の評価に関わらず、顧客に対して製品の使用を速やかに周知し、出荷済製品の回収を行わなければならないこともある。人的影響の大きい製品の特定漏れが発覚した場合、それにより対象顧客への連絡が遅れ、深刻な人身事故が起こる可能性がある。そのため、対象製品は、業務に精通した製造・生産管理・検査・営業等のメンバーが一堂に会してあらゆる可能性を勘案し、熟考を経たうえで特定していく。また、類似の品質偽装が他の製品でも起きていないかも含め、網羅的に検討を行うべきだ。その際、上述した直接的な影響のみならず、外部報道等により社会的な信用が失われるリスクといった間接的な影響についても検討することとなる。対外的な説明責任を果たす必要がある場合は、社内の調査とは別に、第三者性の高い調査が必要となる。調査委員会の委員の指名等を急ぎ、早急かつ徹底した事実確認と原因究明を行わなくてはならない。調査結果は、適宜顧客等へ説明し、信頼回復に取り組む必要もあるだろう。顧客への説明資料作成、顧客訪問、回収済製品の検査実施・再出荷、再発防止策の策定・実施など、短期的かつ高負荷の緊急対応に耐えうる有事対応体制を構築することが必要だ。
合同会社デロイト トーマツ
フォレンジック & クライシスマネジメント サービス
マネジャー 清水 隆之
シニアコンサルタント 髙山 彰