途上国の水道セクターでは、現地政府の財政制約やODAの減少により、資金需要に対する大きな資金ギャップが生じており、その解消には民間資金の活用が不可欠となっています。本稿では、資金ギャップの現状を概観したうえで、公的資金を触媒とした民間資金を呼び込むブレンデッド・ファイナンスの手法とその進展について、ケニアの事例を用いて紹介します。この事例を通じて、民間資金の活用が進む途上国における水道セクターで求められる事業の特徴を示します。
世界銀行は、SDGs目標に掲げられた2030年までに「安全に管理された水供給および衛生への普遍的アクセス」を達成するため、「世界は、現在の年間支出のほぼ3倍にあたる1,314億〜1,408億米ドルを毎年支出する必要がある」と指摘している1。
また、WHOなどが実施した調査によれば、アジア、アフリカ、南アメリカの途上国20カ国において、国家目標達成に必要な資金に対する利用可能な資金の割合は、都市部の水道セクターですら62%にとどまる(図1)。
図表1:国家目標達成に必要な資金に対する利用可能な資金の割合
データソース:World Health Organization and the United Nations Children’s Fund (UNICEF) (2025), State of systems for drinking-water, sanitation and hygiene Global update 20252
また、調査対象国では、国家目標を達成に向けた資金ギャップが大きい分野として、「サービス拡大のための資金」、「運転・維持管理費」、「人的能力の強化」が挙げられている。すなわち、SDGs達成に資する新規投資資金だけでなく、日々の運転・維持管理に充てる資金も不足している状況である。図2のとおり、都市部の水道セクターであっても、運転・維持管理費カバー率(水道料金または世帯負担で賄える割合)が80%超となっている国は約4割にとどまり、多くの国で費用回収を達成できていない。さらに、2021年から2024年にかけて、当該割合は低下し悪化傾向にある。
図表2:運転維持管理費の80%超を水道料金または世帯負担で賄えている国の割合
データソース:World Health Organization and the United Nations Children’s Fund (UNICEF), 2025, State of systems for drinking-water, sanitation and hygiene Global update 20252
しかし、2024年のDAC加盟国によるODAコミットメント額は前年比で9%減となり3、2025年は米国によるUSAID解体に加えて、ドイツおよびフランスがODAを減少させる傾向にある。そのため、限られた公的資金や譲許的資金を触媒的に活用し、民間資金の呼び込みを加速させる必要がある。
資金ギャップを減らすための民間資金の活用の方法は、グローバルに様々な方法が模索されてきた。ここでは、その一例としてケニアを取り上げる。ケニアでは、世界銀行や米国、ドイツ、オランダなど複数のドナーが、限られた公的資金を効率的に活用しつつ、水道セクターに民間資金を呼び込む取り組みを模索・実践してきている。
ケニアは、東アフリカに位置し、人口は56百万人で、一人当たりGNIは2,090米ドルの中所得国である。政府債務はGDP比70.0%と高く、公共支出のための財政負担が困難であるという課題を抱えている。そのため、ケニアの国家水・衛生投資計画(NAWASIP 2022–2030)は、2030年までにセクター目標を達成するために必要な追加事業費4,660億ケニアシリング(約5,680億円、1シリング=1.21909円)の内、PPPで3,130億ケニアシリングを、水道サービス事業体(Water Service Provider、以後WSP)の借入で820億ケニアシリング(約999億円)を賄うことを打ち出している4。
水道サービスの提供は、全国47の郡政府が所有するWSPが担っている。各郡政府の下には複数のWSPが設立されており、規制対象の公的なWSPは95社にのぼる。このため、WSPの1社ごとの事業規模は小さく、財務余力に乏しいという特徴がある。さらに、WSPよりも小規模な水供給事業者も多く存在する。
水道サービス面では、「安全に管理された水へのアクセス」は全国で59%にとどまり、無収水率は全国平均44%と高水準で、収益性や資金余力を圧迫している。全国平均の運転・維持管理費カバー率は98%と、概ね費用回収が進んでいる。
制度面では、世界銀行の支援の下でセクター改革が進展し、水道セクターを所管する水・衛生・灌漑省から一定程度独立した規制機関であるWASREB(Water Services Regulatory Board(ケニア水サービス規制委員会))がライセンス許認可や料金監督も行っており、水道セクターのパフォーマンス監視を担う仕組みが整いつつある点も特徴的である。
図表3:ケニアの水道セクターの概要
図表4のとおり、ケニアにおける水道事業者の民間資金活用の取り組みは、資金ソースの観点から三つに大別できる。これらの取り組みは、ブレンデッド・ファイナンスと呼ばれることが多い。以下で、代表的な取り組みとその進展状況を示す。
図表4:ケニアにおける主要な取り組み
ケニアでは、商業銀行などの金融セクターによる国内信用供与がGDP比55.6%10(2023年)と相対的に高いという市場特性を背景に、WSPによる商業銀行からの借入拡大が模索されてきた。端緒となったのは、2014年の世界銀行等による支援で開始されたOutput-based Aidプログラムであり、商業銀行借入の元金返済の60%を補助金で賄うことでリスク軽減を図った。
その後、2024年から進められているK-WASHによるファンドは、元金返済に対する補助金はなく、より持続性を高めるべく商業性の高いスキームへの移行が進められていると評価できる。
以下では、大きく元金返済に対する補助金があるスキームと、補助金が無いスキームに分けて詳述する。
図表5:WSPによる商業借入を促進するための主要スキーム
最初に進展したのは、事業費に補助金を組み合わせるスキームである。2014年~2018年に、世界銀行等が支援して実施されたOutput-based Aidプログラムは、都市部の低所得層の地域における水道・衛生セクターのサービス拡大を目的に、WSPの商業銀行からの借入を促進した。同プログラムでは、完工後に事業費の60%に相当する補助金が元金返済の原資として支払われるスキームであった。このスキームにより、貸付金利が約17%と高い環境下でも、約50件の借入が成立し、2,500万米ドル以上の民間資金活用につながった。例えば、WSPの一つであるムランガ南水・衛生会社(Murang'a South Water and Sanitation Company)は本スキームを活用して1,758万ケニアシリング(約2,143万円、1シリング=1.21909円)の借入11を実現した。このように、Output-based Aidプログラムでの借入は金額自体は大きくはないものの、商業借入の実績づくりという点で意義があった。
さらに2016年からは、KfW等が支援するAid-on deliveryのスキームが実施されている。同スキームでは、完工後に支払われる補助金の割合を事業費の50%に引き下げる一方で、対象案件の事業費は2,000万~1億5,000万ケニアシリング(約2,438万円~18,286万円)と設定した12。これにより、補助金依存を抑えつつ、より商業性の高い資金調達への移行が促されている。
上述のスキームに続き、事業費への補助金に依存しないスキームの模索が進められた。米国USAIDによる2016年~2022年に実施したWASH-FIN13および2022年開始のWASH-FIN2.014は、ケニアを含む7カ国で展開され、水道・衛生の資金ギャップの縮小を目的とするイニシアチブであった。この取り組みでは、Output-based Aidプログラムの経験の上に、ケニア政府によるリボルビング・ファンドの形成のための調査を支援した。
さらに、世界銀行が2024年から支援するK-WASHプログラムでも、商業銀行からの借入促進を図るにあたり、事業費に対する補助金を伴わないリボルビング・ファンド型の持続的スキームを志向し、このスキームにより約800万米ドル規模の商業融資を活用につなげることを目標としている15。同ファンドは、WSPが実施する事業費の50%をファンドが、残る50%を商業銀行が融資するものとなっており、金利負担を軽減するものである。さらに、同プログラムの支援対象のWSPは、パフォーマンス改善アクションプランを策定し、運転・維持管理費カバー率の向上等を通じて、借入能力の強化も進めている。
この流れの中で、国際協力機構は、2022年~2026年にかけて技術協力「水道事業体の融資可能な事業形成能力強化プロジェクト」16を実施し、WSPへの融資活性化を目指した。合同会社デロイト トーマツは、本プロジェクトにおいて財務モデルの作成や商業銀行との交渉支援、ならびに主管官庁である水・衛生・灌漑省によるWSPへの融資活性化のためのアクションプラン策定支援などを担当した。
ケニアでは、年金基金資産が2025年末には、2.810兆ケニアシリング(GDP比16.05%、約3.4兆円)へ増加する一方、運用先は政府証券が52.14%を占めている17。そのため、投資先の多様化を目的としてインフラ事業への資金活用の試みが進んでいる。2018年には5つの年金基金がケニア年金基金投資コンソーシアム(KEPFIC)を設立し、IFC等の支援を通じて住宅プロジェクト2件への投資を実現した18。
こうした動向を背景に、水道セクターでも資本市場での債券の発行による資金調達が模索されている。オランダ政府の支援により2016年から開始されたKenya Pooled Water Fund19は、複数のWSP向け融資を裏付け資産とする債券発行を構想したが実現に至らず、2023年に終了した20。その後、ケニア政府は、債券発行モデル、実施上の障壁とその克服策、行動計画の策定のための調査を行った21。同調査は、債券発行のための法制度の整備に加え、WSPの良好な経営と、債券への保証の組み合わせなどがあれば、債券発行による資金調達の可能性があると結論づけた20。現在は、個別のWSPによるグリーンボンド発行による資金調達の支援が進行している22。
しかし、ケニアの社債市場は、企業の高いデフォルト率と企業破綻時の社債保有者への補償メカニズムの欠如により、投資家の信認が低く、資産規模が大きい現地銀行セクターからの借入の方が容易と指摘されている23。
小規模な水道事業者や水道関連企業による民間資金活用の取り組みとしては、Water.orgの旗艦イニシアチブ「WaterCredit」が挙げられる。これは、ケニアを含む各国で、現地金融機関を通じて水・衛生分野の資金ニーズに対する少額融資を実施するものである。なお、Water.orgは、寄付・助成金を主な原資としており、譲許的資金の活用したものとして位置づけることができる。これによって、現地の商業銀行やマイクロ・ファイナンス機関などのパートナーを通じて、水・衛生セクターに関わる事業者・個人向けの融資商品を展開しており、平均融資額485ドルと少額であるが、総額で2.4百万ドルの融資が実施され、返済率99%の実績を有している24。
また、2017年に在ナイロビのオランダ大使館が拠出したシード資金で設立されたケニア水のための革新的ファイナンスファシリティ(Kenya Innovative Finance Facility for Water)は、ケニアの水セクターに特化し、プロジェクト準備段階のための事業化可能性調査、環境社会影響評価、技術設計といった案件形成に要する初期費用を共同スポンサーとして負担し、案件形成のための知見も提供することで民間資金の呼び込みにつなげている25。対象とする事業規模は、最大200万ユーロ以上とWaterCreditよりも大口である。
世界銀行は、WSPによる商業銀行からの借入を支援したOutput-based Aidプログラムの成功要因として、バンカブルな事業計画の作成支援を含む技術支援の重要性を挙げている26。これを踏まえて、ここでは、2.で概観した民間資金活用の手法が活用された場合に、ファイナンスされやすい、つまりバンカブルと見なされる可能性のある事業の特徴の示唆を以下に示す。
途上国では、全般的に商業銀行の貸付金利が高いことが、収益性の低い公益事業ではネックとなっている。ケニアでは、加重平均貸出金利が2022年の約12%から2024年には最大17.2%まで上昇し金融環境が大きく変化した。このような高金利かつ金利変動幅が大きい環境であることを考慮すると、工期が短期で早期に元利金返済の原資増加につながることが望ましい。
例えば、既設施設の補修・リハビリのように、大規模な新規投資を伴わずに、短期間で直接的に料金収入の増加につながる事業が考えられる。これに対し、新規の浄水施設建設とそれに付随した送水・配水網の整備など、複数パッケージにまたがる一体的な整備を要し、全体が完工しなければ料金収入の増加に結びつかないプロジェクトは、工期が長く、料金収入の増加に至るまでの障壁が多い。そのため、商業融資に適するように形成することが難しいと考えられる。
ケニアを始めとして途上国では、インフレ率の変動が激しい。しかし、インフレにより事業費が増加した場合でも、借入額を柔軟に見直すことは困難である。そのため、コスト増に応じて事業スコープを縮小しても収益性を維持できる、スコープの切り分けが実施できるような事業が望ましい。
もっとも、以上はあくまでも一般的に考えられる想定である。水道セクターにおけるバンカブルな事業形成は、民間資金提供者のリスク受容度と期待収益性に左右される上に、同セクターの財務リターンが不安定と見なされがちであることと相まって、困難かつ複雑な課題であるとの指摘がある点に留意が必要である27。
しかし、ケニアを始めとする途上国の水道セクターで、資機材の納入やEPCの受注を目指す日本企業は、拡大が見込まれるファイナンス手法との整合性を踏まえつつ、最適な事業規模の検討や、品質・コストのバランス確保を図ることが重要である。
途上国の水道セクターは、収益性に乏しい一方でリスクが大きいと見なされ、民間資金が集まりにくい分野である。このため、各ドナーは限られた公的資金を触媒として活用し、民間資金の活用を図る取り組みを支援している。今後も、米国の対外援助体制の見直しや欧州ドナーによるODA予算の縮小といった傾向のなかで、民間資本を呼び込むことで資金の効果を高める取り組みは一層拡大すると見込まれる。
本稿では、こうしたグローバルな潮流の一例としてケニアの事例を紹介した。ケニアにおいても、複数のドナーが活発に活動をしているものの、取り組みは必ずしも順調に進んでいるわけではない。それでも、民間企業が途上国の水道事業への参画を深めるには、こうした資金スキームの動向を踏まえ、適切な事業規模の設定やコストと品質のバランスを考慮した採用されやすい技術を提案していくことが重要である。
※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。
合同会社デロイト トーマツ
インフラ・公共セクターアドバイザリー
マネジャー 芝田 聡子
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
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