障害者雇用促進法に定める法定雇用率は、2026年7月より民間企業で2.7%へ引き上げられた。企業にとって障がい者雇用は継続的な経営課題であり、定着・活躍のハードルは依然として高い。
そんな中、デロイト トーマツ グループは、テクノロジー領域での長期インターンシッププログラムを実施し、雇用拡大のドライバーとしてきた。現在は、自グループのみならず社外からの参画を募り、テクノロジー領域での障がい者活躍を社会全体に広げていこうとしている。
本対談では、合同会社デロイト トーマツ Human Capitalディレクターの大熊朋子、同マネジャーの川北文昭、デロイト トーマツ グループ合同会社 マネジャー 青野路子が「Diverse Abilitiesインターンシッププログラム」を共同で設計・運営するKind Agent株式会社 代表取締役の茅原亮輔氏、同プログラムを採用し、自社の障がい者雇用・活躍を進める ビー・エム・ダブリュー株式会社 人事総務本部長の岡田裕文氏を迎え、取り組みについて語り合った。
川北 法定雇用率の引き上げは、企業にとって採用や人材活用のあり方を見直すきっかけとして受け止めるべきだと考えています。
多くの企業様が共通しておっしゃるのは、2.7%の水準を安定的に維持するためには、既存の職種や業務を増やすだけでは限界があるということです。従来は、特例子会社や人事部内で集中的に雇用を行い、事務作業・軽作業を切り出す形が多く採用されてきました。しかし、リモートワークや生成AIの普及によって事務作業そのものが減り、さらなる業務の切り出しは難しくなっています。今回の2.7%はあくまで通過点です。新たな職種や活躍領域を生み出さなければ、今後の対応はますます難しくなるでしょう。
合同会社デロイト トーマツ Human Capitalマネジャー 川北文昭
——具体的に、企業からはどのような声がありますか。
川北 現在、採用マーケットはかなり売り手市場になっており、特に身体障がいのある方については採用競争が非常に激しくなっているというお声を耳にします。一方で、精神・発達障がいと診断される方は近年増加傾向にあります。法定雇用率2.7%を考えると、これまであまり雇用が進んでいなかった精神・発達障がいのある方の採用にも取り組んでいくことになりますが、 企業の皆様がおっしゃるのは「受け入れの体制が整っていない」ということです。精神・発達障がいの特徴として、障がいの特性や必要な配慮が外見から見えにくく、個人差も大きいため、「何かあったらどうしよう」という漠然とした不安を多くの企業が感じられているのだと思います。
茅原 私どもに寄せられるご相談は、大きく二つあります。一つは「どのような業務で活躍してもらうか」という業務設計。もう一つは、精神・発達障がいへの理解不足から生じる現場の不安です。
Kind Agent株式会社 代表取締役 茅原亮輔氏
——デロイト トーマツ グループ自身は、どのような取り組みをしてきましたか。
青野 私たちは、今年7月の引き上げに対し、6月時点ですでに2.7%を達成できるように動いてきました。グループは現在2万2000人、雇用義務のある法人は、17社という規模です。
もともとは監査法人の特例子会社や、コーポレートと呼ばれる管理部門を中心に、多様な人材を採用してきました。ただ、数年前から雇用率の2.7%への引き上げが分かっている中で、コーポレートの中だけでは達成は難しいという予測をしていました。農園やカフェでの雇用なども導入しましたが、多様な人材の採用には限界があり、従来の領域だけを広げることが本当に適切なのか、という疑問も生まれました。
そこでこれまでの延長の対応ではなく、持続可能な「採用活動」をするべきだと考えました。
企業としては経験やスキルのある人を採用したい。一方で、障がいがあることを理由に、経験を積むことが難しい社会的な状況があることも、この領域の担当者としては理解しています。そこで、経験を積み、スキルを身につけながらキャリアを積める仕組みを導入することで、ともに働く領域を増やせるのでないかと検討し、たどり着いたのがインターンシップでした。
2021〜22年ごろから議論を始め、2023年にKind Agentさんと、テクノロジー領域でのキャリアを希望する障がい当事者を広く対象としたテクノロジースキルの育成とセルフケア支援を行う「Diverse Abilitiesインターンシッププログラム」を立ち上げました。
——なぜITだったのでしょうか。
青野 デロイト トーマツ グループでは以前から、多くの知的障がいや精神・発達障がいの当事者メンバーが、IT部門において貸与パソコンの初期設定作業などに従事していました。その経験を通じ、テクノロジーやデジタルの世界は、発達障がい等の特性があるメンバーの興味関心がマッチしやすかったり、エラーも分かりやすく安心感を持てたり、力を発揮しやすいのではないか、という実感がありました。採用の間口を初期設定作業などから上流工程まで広げたら、さらに多様な人材が関心を持って集まってきてくれるのではないかという期待もありました。
2022年ごろから日本でもニューロダイバーシティという考え方への関心が高まり、これまでの取り組みにおける実体験と掛け合わせて、テクノロジーに関心のある層に募集をかければ、グループの採用ニーズにもマッチした魅力的な取り組みができるのではないか、と考えるようになりました。
デロイト トーマツ グループ合同会社 マネジャー HR DEIグループ Coリーダー Diverse Abilities Planningチーム 青野路子
茅原 Diverse Abilitiesインターンシッププログラムの期間は約半年間です。インターンシップというと一般的には1日や2日といった短期のプログラムが多いですが、私自身、長く人材業界にいる中で、数日のプログラムでどこまで人の人生に貢献できるのだろう、と感じていました。人が育つには時間が必要です。そうした議論を重ね、半年という時間を設定しました。
——Diverse Abilitiesインターンシッププログラムのカリキュラムを教えてください。
茅原 カリキュラムは三つの柱を大切にしています。一つ目は、実務に直結するIT・デジタルのスキル育成です。二つ目は心理教育で、自己受容を深め、自らの特性を理解して対処法を身につけます。そして三つ目はキャリア教育で、「働くとは何か」という基礎から学びます。
期間は三つのステージに分け、それぞれ約2か月ずつ。基礎学習、応用学習、そして現場でのOJTという形で、段階的に成長を図ります。
雇用は分かりやすいゴールではありますが、各企業様には、まずこのインターンシップ期間が参加者にとって貴重な財産になることを目指しましょう、とお話ししています。「このインターンシップがあったから、その先の人生が変わった」といってもらえる、そんなプログラムを目標にしています。
ビー・エム・ダブリュー株式会社 人事総務本部長 岡田裕文氏
岡田 BMWはドイツ企業ですが、ドイツをはじめとしたヨーロッパでは、当たり前に障がいのある方が働いています。ですから、本社からすると障がい者雇用についても「普通に採用すればいいじゃない」という感覚なのです。ただ、正規採用にはヘッドカウント(採用枠)が必要で、ポジションに合う人材を見つけるのも容易ではありません。インターンシップなら、そのハードルを大きく下げられます。
茅原 BMWさんとのプログラムでは、学生さんに向けたインターンシップをやりたいというご要望をいただき、議論する中で最終的に1年になりました。
岡田 最初に教育期間があるので6か月だと短いと思いました。今回インターンシップに来ていただいた方は現在8か月目です。4か月の研修期間を経て、すでに4か月近く働いていただいています。
配属先は人事部としました。ゆくゆくはセールスやマーケティング、ファイナンスにも広げていきたいのですが、まずは状況を把握しやすい人事でパイロット的に始めよう、と考えたからです。日々どのような業務が発生し、どんな想定外が起こりうるのか、私たち自身が想像しきれていなかったこともあり、社内には慎重な見方もありました。
——実際に受け入れてみて、いかがでしたか。
岡田 事前の想定は、良い方向に裏切られました。当初から積極的に学ぼうとする姿勢があり、業務の話になると的確な質問が返ってきます。分からないことはその場で確認し、「私はこう思います」と自身の考えも出してくれるので、チームで議論しながら進められています。
ちょうど人事部は業務効率化が必要な時期でした。業務を棚卸ししてみると、やめるものややり方を変えるものを除いた残りの大半は、デジタライゼーションで対応すべきものでした。ただ、どう進めればよいか、私たちもはっきりと分かりません。そこで手伝ってほしい項目を書き出してお見せしたところ、「勉強してきましたので、これとこれはできると思います」と返ってきたのです。すでに2つが完成し、いまは3つ目に取り組んでいただいています。本当に想定以上の活躍です。
合同会社デロイト トーマツ Human Capitalディレクター 大熊朋子
大熊 我々デロイト トーマツに寄せられるご相談の多くは「雇用率を上げたい」というものです。しかしながら、雇用率は採用だけでは解決できず、採用後の活躍を描けていないことが雇用率を上げることに対するハードルになっています。インターンシップの良さは育成期間があることで、本人の適性や強みを把握しながら、活躍できる領域を検討できます。
障がい者雇用では、採用後の活躍の場が特定部門・特定業務に限られている企業も少なくありません。ITのような専門領域で活躍できれば、働く場の選択肢は大きく広がります。インターンシップのご紹介を通じて、「雇用」だけでなくその後の「活躍」を考えていただくことができると思っています。
岡田 今回は、部署のメンバーに本人の特性や配慮事項をあらかじめ共有した上で受け入れました。そこがスムーズに進んだ理由の一つだと思います。ただ、お客様と接する多忙な現場では、そうした対応が十分に行き届かない可能性もあります。受け入れ側が継続的に対応方法を確認できる仕組みが必要です。
大熊 まさに、私たちは組織風土なども含めた職場の受け入れ体制も大変重要であると考え、ご支援の中でも重視しています。採用と受け入れ体制の整備をセットで設計しなければ、障がい者の活躍は組織に根づきません。
青野 デロイト トーマツ社内でも受け入れの裾野は広がっており、今ではさまざまな部門が「受け入れたい」と手を挙げています。当初はハードルが高いと考えていたコンサルティング部門でも受け入れが始まり、16名がクライアントサービスチームの後方支援や、企画など上流工程のサポートに携わりポジティブな評価を得ています。本人たちからも「一人のコンサルタントとして評価されることを目指したい」という声が上がっており、手応えを感じています。
大熊 「障がい者雇用」という言葉は雇用を始めるところに目が向きがちですが、採用はあくまでもスタートです。その後の長い職業人生を見据え、受け入れ体制、キャリアパス、給与や評価などの人事制度まで含めて、一人の組織メンバーとして活躍できる仕組みをつくる必要があります。近年、多くの企業で経営戦略の実現に向けた人材ポートフォリオ策定が行われています。その中で、障がいのある方々も多様な人材の一員としてどのように活躍することが期待されるかが描かれ、自然に位置づけられることが理想だと考えています。
岡田 私たちも障がい者雇用についてはまだ道半ばですが、今回参加したインターンシップはここまで非常に順調に進んでいます。今後はこの取り組みをさらに広げ、学生のうちからインターンシップとして働いていただき、そのまま新卒採用につなげることも視野に入れています。
そうした経験を重ねれば、組織にも受け入れや育成のノウハウが蓄積されます。それは、多様な人材を生かす組織全体のマネジメント力にもつながると思います。
茅原 インターンシップに参加する方々と接していて感じるのは、一人ひとりが大きなポテンシャルを持っているということです。障がいという一つの属性だけで能力を判断するのではなく、それぞれの強みが発揮できる環境をどうつくるか。そのための選択肢の一つとして、このインターンシップを企業の皆様と育てていきたいと考えています。
法定雇用率2.7%への対応を、単なる法令遵守で終わらせるのか。それとも、多様な人材が力を発揮できる組織づくりへとつなげるのか。企業にはいま、採用人数を増やすだけでなく、採用後の活躍までを見据えた人材戦略が求められている。
デロイト トーマツでは、インターンシッププログラムと組織・人事コンサルティングの知見を掛け合わせ、雇用方針の策定から受け入れ組織、人事制度、定着支援までを一貫して支援している。