「障がいの有無に関係なく、一個人としてフラットに見てくれる」「キャリアや目標を会社にサポートしてもらえる」——本プログラムを通じて入社したメンバーは、このように仕事へのやりがいを語る。
2023年にスタートしたデロイト トーマツの「Diverse Abilities インターンシッププログラム」は、障がいのある人々を対象に、デジタル人材を育成する約5カ月間のインターンシッププログラムだ。障がいを「Disability(障がい)」ではなく「Diverse Ability(多様な能力、以下DA)」ととらえ、個々の能力をビジネスの現場で生かすことを目指している。
2025年12月には第5期が始まった本プログラムは、現在どのような状況にあるのか。インターン生の受け入れ側として本プログラムを推進するデロイト トーマツ 執行役員 マネージングディレクターの小林恭平と、インターンを経てデロイト トーマツで活躍する米田達矢、杉本実世に聞いた。
デロイト トーマツには、グループ全体で約400名のDAメンバーが在籍し、バックオフィス業務やIT系業務から園芸・農園まで、幅広い領域で活躍している。デロイト トーマツにおける業務は、大きく分けると広く社会で課題解決に取り組み専門家として価値を提供する「クライアントサービス」と、デロイト トーマツ グループを運営する「コーポレート業務」の2つの領域がある。
以前は、デロイト トーマツの中でも「障がい者雇用はコーポレート業務の中で担うもの」という考え方が主流だった。しかしDAメンバーの多様な特性はクライアントにとっても価値を生む可能性があることから、現在はデジタルをキーワードに、クライアントサービスにおいてもその能力を生かせるような取り組みを模索している。
その代表例が「Diverse Abilities インターンシッププログラム」だ。これは、主にニューロダイバーシティ(神経多様性)、つまり発達障がいなどの特性がある学生や既卒者向けに、デジタル人材育成と就労支援を行う約5カ月間の育成プログラムだ。一般的な短期インターンとは異なり、ITスキルの習得、仮想プロジェクト、そして実際の部署でのOJTまで、段階的にステップアップできるように構成されている。
このようなプログラムをスタートした背景には、法的義務としての雇用率達成だけでなく、プロフェッショナルファームとして常に一歩先を見据えて社会課題の解決に取り組むというデロイト トーマツの強い意志がある。特にニューロダイバーシティのあるメンバーとITスキルの親和性は高く、彼らの持つ「強み」を生かせるという意図が込められている。
「Diverse Abilities インターンシッププログラム」は、以下の3つのステージで構成される。
「どんなレベルの人にも分かりやすいよう徹底されていた。基礎から一通り教えてくれるプログラムだった」と第3期生として受講した米田は振り返る。
単なるスキル教育だけでなく、専門医や臨床心理士によるカウンセリングやメンタルケアが組み込まれている点も本プログラムの大きな特徴だ。自分の特性を理解し、受容した上で対処法を学ぶことで、中長期的にプロフェッショナルとして自立する力を養う。
合同会社デロイト トーマツ マネージングディレクターの小林恭平
「Diverse Abilities インターンシッププログラム」に深く関わり、その卒業生たちを積極的に受け入れているのが、デロイト トーマツでアジャイルやリーンスタートアップを基にした新規事業開発、基幹システムリプレイスなどを手がける、マネージングディレクターの小林恭平だ。
アジャイルコーチとして以前より人材育成にも積極的に関わっており、講演活動や大学の非常勤講師も務めている。大学では聴覚障がいのある学生にITを教えていた経験もあり、障がいは個性であり、仕事をする上での障害ではないことをよく知っていた。このためデロイト トーマツで本プログラムの話を耳にしたときは、「他の誰かがやらないなら自分が手を上げよう」とすぐに受け入れを決めた。
小林のチームでは、累計9名のDAメンバーを受け入れている。小林は、彼らを特別視することなく、一つのチームとして機能させるために「アジャイルな働き方」を活用している。アジャイルの本質は、密なコミュニケーションを通じてお互いの力を引き出し合い、難しい課題にチャレンジすることにある。
「不確実な問題に取り組むには、多様な人を集めた方が成功確率が上がることが分かっています。チームメンバーも彼らを受け入れることに対して大きな抵抗はありませんでした」(小林)
実際に受け入れて驚いたのは、DAメンバーの圧倒的な「ハングリー精神」だったと小林は言う。成長への意欲や貢献したいという気持ちは、他の社員と比べても遜色なく、むしろ高いと感じることすらあるそうだ。
「彼らが業務を効率化してくれたことで、コンサルタント数人月分以上の人件費削減効果が出ている。 加えて、仕事に対する真摯な取り組みは、一緒に仕事をしていて本当に気持ちがいい」(小林)小林がここまで積極的にDA推進にのめり込む背景には、「社会の仕組みを変えたい」という熱い思いがある。小林は2012年にアジャイル開発を得意とするチームを立ち上げてソフトウエア開発者として実績を重ね、2021年にチーム全員でデロイト トーマツに入社したという異色の経歴を持つ。入社の際、小林が数ある候補の中からデロイト トーマツを選んだ理由が、「社会の仕組み」を変えられることだった。
「事業会社だと特定のサービス開発が主になってしまいます。自分はもっと社会の仕組みを変える、ソートリーダーのようなこともしたいと考えています」(小林)
小林にとって、DAメンバーの活躍を推進することは、単なる人材育成ではない。多様な個性が混ざり合うことで不確実な課題に立ち向かう「アジャイル」な組織を体現し、ひいては日本社会のあり方を変えていくための重要な一歩だと捉えている。
合同会社デロイト トーマツ ジュニアスタッフの米田達矢
現在、ビジネスの現場で活躍するDAメンバーたちも、それぞれの目標を見据えている。
大学で情報系を専攻していた米田は、前職のゲームデバッガーとしての経験を経てプログラムに参加した。現在はGoogle Cloudなどのインフラ領域に興味を持ち、すでにAssociate Cloud Engineer認定資格を取得している。
「今後はインフラエンジニアとして、クラウド関係でチームの手助けができる存在になりたい。スキルアップにも引き続きチャレンジしていきたい」(米田)
合同会社デロイト トーマツ ジュニアスタッフの杉本実世
一方、杉本は「生きづらさを抱える人をITで助けたい」という強い願いを持ち、未経験からITコンサルタントを目指している。現在は文章力や論理的思考力を磨くため、難関のITストラテジスト資格の勉強に励んでいるという。
「デロイト トーマツでは、障がいの有無に関係なく、一人の人間としてフラットに接してもらえるのが大きな魅力です。これまでの人生では、ときどき偏見や、いわゆる「ガラスの天井」(昇進や活躍を阻む見えない壁)の存在を感じることもありました。でも、ここにはそれはありません」(杉本)
Diverse Abilities インターンシッププログラムがスタートして約3年。2025年に第5期がスタートした本プログラムは、実践を通じてさらに磨き上げられている。
例えばDAメンバーの評価基準は「平均点以上」をとることよりも「強みにフォーカスする」形に変更された。未達の部分があっても、強みがそれをカバーすれば良いという考え方だ。また成果に応じて昇進するなど、DAメンバーがキャリアを形成できるよう人事制度も整えられた。組織全体がDAメンバーの自立を支える形へと変わりつつある。
今後の展望について、小林はさらに大きなスケールで語る。彼の目標は、DAメンバーの力を借りてクライアントサービスを支えるデロイト トーマツ グループ全体のIT環境をさらに発展させることだ。
「例えば新たなツールを導入する際に、まず私たちのチームで成功モデルを作り、それをグループ全体に波及させるようなことを考えています。将来的には、チームとともにグループ全体のIT環境をパワーアップし、クライアントサービスをまた違う角度から支えていくことが目標です」(小林)
小林がデロイト トーマツへの入社時に抱いた「社会の仕組みを変えたい」という思いは、DAメンバーたちとともに着実に形になりつつある。
「目標があるのに叶えられる場所がないと悩んでいる方は、ぜひ検討してほしい。仲間として一緒に働けることを楽しみにしています」(杉本)
デロイト トーマツが目指すのは、誰もが「多様な能力」を存分に発揮し、当たり前にプロフェッショナルとして認められる社会だ。その挑戦は、これからも加速していく。