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四半期決算の会計処理及び開示に関する留意事項

有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 木村 寛人

本稿では、2026年3月期の第1四半期決算(2025年4月1日から2025年6月30日まで)の会計処理及び開示に関する主な留意事項について解説を行う。

2026年3月期に適用される又は早期適用が可能な新会計基準等には、下記ⅠとⅡがある。

【目次】

【2026年3月期に適用される会計基準等】

Ⅰ 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正

  • 改正企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」
  • 改正企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」
  • 改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」
  • 改正企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」
  • 改正実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」

【2026年3月期に早期適用が可能な会計基準等】

Ⅱ 改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」

 

なお、上記のほか、2026年3月期に早期適用が可能な会計基準等として、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等がある。本誌2024年11月号(Vol.579)及び12月号(Vol.580)において解説しているため、そちらをご参照いただきたい。

Ⅰ 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という)は、2025年3月11日に、2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正として、次の企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告(以下「本会計基準等」という)の改正基準等を公表した。

(1)包括利益の表示に関する改正
  • 改正企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」(以下「改正包括利益会計基準」という)
  • 改正企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」(以下「改正株主資本適用指針」という)
(2)特別法人事業税の取扱いに関する改正
  • 改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下「改正法人税等会計基準」という)
  • 改正企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「改正税効果適用指針」という)
(3)種類株式の取扱いに関する改正
  • 改正実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」(以下「改正実務対応報告第10号」という)

1. 公表の経緯

ASBJでは、原則として年に一度、4月1日を基準日として、ASBJが公表した企業会計基準等の要変更事項の検出作業により検出された事項について、変更後の記載及び「企業会計基準及び修正国際基準の開発に係る適正手続に関する規則」に基づいて必要とされる手続を検討の上、必要に応じて複数の企業会計基準等の改正又は修正をまとめて行うプロジェクト(年次改善プロジェクト)が行われている。

2024年年次改善プロジェクトでは、当該検出作業により検出された事項に加えて、当該作業後の企業会計基準等の開発の過程で検出された事項についても対象に含め、検討が行われた。当該検討の結果として、企業会計基準等の改正が必要と判断された事項について、公開草案の公表を経て、本会計基準等の公表に至っている。

なお、2024年年次改善プロジェクトにおいて検出された事項のうち、企業会計基準等の修正が必要と判断された事項については、2024年11月1日に「2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の修正」として公表済みである。この企業会計基準等の修正は、会計処理及び開示に関する定めを実質的に変更するものではない。

2. 本会計基準等の改正内容の概要

(1)包括利益の表示に関する改正

改正包括利益会計基準及び改正株主資本適用指針では、その他の包括利益の取扱いに関して、これまでに公表された複数の会計基準等で使用されている用語の一部が、連結財務諸表上の取扱いに関する記載に使用されるべき表現となっていなかったため、用語の見直しを図ることを目的として以下の改正が行われている(改正包括利益会計基準第20-5項及び改正株主資本適用指針第21-2項)。この点、企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」(以下「包括利益会計基準」という)が当面の間、個別財務諸表には適用されない(包括利益会計基準第16-2項)ことから、本改正は個別財務諸表には影響しない。

① 改正包括利益会計基準

これまでに公表された会計基準等で使用されている「純資産の部に直接計上」、「直接純資産の部に計上」及び「直接資本の部に計上」という用語について、連結財務諸表上は「その他の包括利益で認識した上で純資産の部のその他の包括利益累計額に計上」と読み替える(改正包括利益会計基準第16項)。

② 改正株主資本適用指針

株主資本等変動計算書において、株主資本以外の各項目の当期変動額は純額で表示するが、主な変動事由ごとにその金額を表示することができる(企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」第8項)。改正株主資本適用指針では、連結株主資本等変動計算書において、株主資本以外の各項目の当期変動額を主な変動事由ごとに表示する場合の例として示す項目について、「純資産の部に直接計上されたその他有価証券評価差額金の増減」等の用語が使用されていた。このため、個別株主資本等変動計算書に関する定めと連結株主資本等変動計算書に関する定めを分けた上で、連結株主資本等変動計算書の用語について見直しが行われている(改正株主資本適用指針第11項、第11-2項及び第21-2項)。

③ 適用時期等

改正包括利益会計基準及び改正株主資本適用指針は、連結財務諸表における従前の取扱いを維持することを明確化するものであるため、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度の期首から適用することとされた(改正包括利益会計基準第16-6項及び第42-3項並びに改正株主資本適用指針第14-4項)。

(2)特別法人事業税の取扱いに関する改正

特別法人事業税は、2019年3月27日に成立した「特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律」(平成31年法律第4号)において国税として創設され、2019年10月1日以後に開始する事業年度から課せられている(改正法人税等会計基準第25-3項)。

企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下「法人税等会計基準」という)は、具体的な税金を挙げて、当該税金について規定する税法を参照することにより特定して会計処理及び開示について定めているが(法人税等会計基準第1項及び第4項)、改正前の法人税等会計基準においては、特別法人事業税の取扱いについて個別の定めが設けられていなかった(改正法人税等会計基準第25-4項)。

このため、改正法人税等会計基準では、特別法人事業税の取扱いの明確化を図るための改正を行うとともに、改正税効果適用指針では、税効果会計における特別法人事業税の取扱いについても所要の改正が行われた1。

① 改正法人税等会計基準

改正法人税等会計基準では、特別法人事業税の地方税法の規定により計算した所得割額(税率については地方税法に規定する標準税率による)によって課すもの(以下「特別法人事業税(基準法人所得割)」という)について、所得に対して課される税金である点で共通の性質を有している事業税(所得割)と同様の取扱いを行うこととなることを明確化するための変更が行われた(改正法人税等会計基準第4項(4-2)、第5項、第29-11項及び第29-12項)。

また、開示に関する定めについて、改正前の法人税等会計基準第9項における「法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目をもって表示する」とする記載における「法人税、住民税及び事業税」が表示科目の例を示していることがより明確となるように表現の変更が行われた(改正法人税等会計基準第9項、第13項、第14項、第15項、第40-2項及び第40-3項)。

② 改正税効果適用指針

改正税効果適用指針では、法定実効税率の算式に特別法人事業税率が含まれることが明確化されるとともに(以下【図表1】参照)、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率に関する定めに関して、特別法人事業税は国税であることから、特別法人事業税(基準法人所得割)について法人税及び地方法人税と同様の取扱いが行われることが明確化された(改正税効果適用指針第4項(11)、第46項、第74-2項及び第150-2項)。

③ 適用時期等

i.適用時期

改正法人税等会計基準及び改正税効果適用指針は、改正の影響を受ける企業の数が限定的と考えられ、一定の周知期間又は準備期間を確保する必要性は高くないと考えられるため、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされた(改正法人税等会計基準第20-4項及び第44項並びに改正税効果適用指針第65-4項及び第164項)。

ii.経過措置

改正法人税等会計基準及び改正税効果適用指針は、改正の影響を受ける場合には一定の負荷が生じる可能性があると考えられる一方で、改正による影響について金額的重要性がある企業の数は限定的と考えられることを考慮し、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の資本剰余金、利益剰余金及び評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができることとされた(改正法人税等会計基準第20-5項ただし書き及び第45項並びに改正税効果適用指針第65-5項ただし書き及び第165項)。

また、改正法人税等会計基準は、過年度に課税された特別法人事業税(基準法人所得割)に関する表示方法について、これまでの表示方法と異なることとなる場合、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができることとされた(改正法人税等会計基準第20-6項及び第46項)。

なお、改正法人税等会計基準と改正税効果適用指針のいずれか一方の経過措置を適用した場合には、他方の経過措置も併せて適用する必要があることに留意を要する(改正法人税等会計基準第20-5項ただし書き及び第45項並びに改正税効果適用指針第65-5項ただし書き及び第165項)。

(3)種類株式の取扱いに関する改正

2024年年次改善プロジェクトにおいて、改正前の実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」(以下「改正前実務対応報告第10号」という)の「目的」の脚注における同実務対応報告の適用対象となる種類株式に関する定めについて、会社法の施行に伴い削除された商法(以下「旧商法」という)の条文を参照したままとなっていたことが検出されたため、会社法を参照する定めに変更することとされた。

① 用語の定義

改正実務対応報告第10号では、当該実務対応報告の適用対象となる種類株式について、会社法第108条第1項に従い内容の異なる2以上の種類の株式を発行する場合の標準となる株式以外の株式として定義することとされた。

この点、会社法第108条第1項では、旧商法で認められていなかった種類の株式を発行することが可能とされ、旧商法で認められていた種類の株式についても設計の柔軟化が図られているため、会社法第108条第1項を参照する定義とすることにより、改正実務対応報告第10号の適用対象は、改正前実務対応報告第10号の開発時において想定されていなかった種類株式に拡大することとなる(【図表2】参照)。

② 適用時期等

改正実務対応報告第10号は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後取得する種類株式について適用することとされた。

また、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首より前に取得した種類株式のうち、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の前連結会計年度及び前事業年度の末日において保有する種類株式については、次のいずれかの方法を選択できることとされた。

i.従前の会計方針を継続する。

ii.改正実務対応報告第10号を2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の末日から将来にわたって適用する。

iii.改正実務対応報告第10号を2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から将来にわたって適用する。

Ⅱ 改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」

ASBJは、2025年3月11日に、改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「本実務指針」という)を公表した。

1. 公表の経緯

本実務指針第132項では、企業が投資する組合等への出資の評価に関して、当該組合等の構成資産が金融資産に該当する場合には企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という)に従って評価し、当該組合等への出資者である企業の会計処理の基礎とするとしている。この点、金融商品会計基準は、市場価格のない株式について取得原価をもって貸借対照表価額とする(金融商品会計基準第19項)としているため、企業が投資する組合等の構成資産が市場価格のない株式である場合、これらについても取得原価で評価することとなる。

当該定めに関して、近年、ファンドに非上場株式を組み入れた金融商品が増加しており、これらの非上場株式を時価評価することによって、財務諸表の透明性が向上し、投資家に対して有用な情報が開示及び提供されることになり、その結果、国内外の機関投資家からより多くの成長資金がベンチャーキャピタルファンド等に供給されることが期待されるとして、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式を時価評価するように速やかに会計基準を改正すべきとの要望が聞かれた。

こうした状況を受けて、ASBJで検討が行われ、本実務指針の公表に至った。

2. 本実務指針の概要

(1)範囲

本実務指針では、本実務指針第132項の定めにかかわらず、一定の要件を満たす組合等への出資は、当該組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることができるとされている(本実務指針第132-2項)。

この点、ASBJの審議の過程では、対象となる組合等の範囲に関して、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等を定義するか否かについて議論がなされたものの、最終的に直接的な定義は行われていない。

(結論の背景)

対象となる組合等の範囲に関して、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等とそれ以外の組合等を明確に区分することは困難と考えられたため、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等を直接的に定義することは行わないこととした(本実務指針第308-3項)。

一方、組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価の信頼性を担保するために、対象となる組合等の範囲に関して、次の要件が設けられている(本実務指針第132-2項)。

① 組合等の運営者は出資された財産の運用を業としている者であること

② 組合等の決算において、組合等の構成資産である市場価格のない株式について時価をもって評価していること

(結論の背景)

要件①は、市場価格のない株式の時価の信頼性を担保するためには、組合等の構成資産である市場価格のない株式の評価者に十分な能力が備わっている必要があると考えられることから、組合等の運営者が市場価格のない株式に対する投資を業として行っている者に限定すべきとして設けた要件である。ここで「組合等の運営者」とは、我が国におけるベンチャーキャピタルファンドの多くで用いられている投資事業有限責任組合の形態においては、無限責任組合員が該当すると考えられる。また、他の法形態に基づく組合等については、投資事業有限責任組合における無限責任組合員と類似の業務を執行する者が該当すると考えられる。

要件②は、我が国の実務における市場価格のない株式の時価評価に関する体制の整備状況についての懸念が監査人、財務諸表作成者及び財務諸表利用者から聞かれている中、組合等の決算において、組合等の構成資産である市場価格のない株式について時価をもって評価している場合には、市場価格のない株式の時価評価に関する体制の整備がなされていることが期待できることから、時価評価に関する懸念を一定程度緩和できるとして設けた要件である。ここで、「時価をもって評価している」場合とは、組合等が適用している会計基準により市場価格のない株式について時価評価が求められている場合のほか、市場価格のない株式について時価評価する会計方針を採用している場合が含まれると考えられる。また、時価評価の方法としては、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」に基づいた時価で評価する場合のほか、国際財務報告基準(IFRS)第13号「公正価値測定」又はFASB Accounting Standards Codification(米国財務会計基準審議会(FASB)による会計基準のコード化体系)のTopic 820「公正価値測定」に基づいた公正価値で測定している場合が含まれると考えられる(本実務指針第308-3項)。

(本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の選択に関する方針)

本実務指針第132-2項の定めの適用にあたり、組合等への出資者である企業は、当該定めを適用する組合等の選択に関する方針を定め、当該方針に基づき、組合等への出資時に当該定めの適用対象かどうか決定することとされており、当該定めを適用することとした組合等への出資の会計処理は、出資後に取りやめることはできないこととされている(本実務指針第132-3項)。

なお、当該方針については、原則として継続適用であるが、大きな状況の変化により見直すことはあり得るとされている。見直す場合、見直し後の方針は、方針を見直す前に出資された組合等には適用せず、方針を見直した後に出資された組合等に適用することとされている。

(結論の背景)

審議において、組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価評価について、範囲に含まれるすべての組合等を適用対象とするか、組合等の単位で選択できるようにするかについて議論を行った。この点、組合等への出資の目的や性質が異なる場合があると考えられることから、範囲に含まれるすべての組合等について一律に適用対象とするのは必ずしも適切でないと考えられる。このため、組合等への出資者である企業が本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の選択に関する方針を定め、当該方針に基づき、組合等への出資時に本実務指針第132-2項の定めの適用対象かどうか決定することとした。

また、企業の意思により自由に本実務指針第132-2項の適用を終了することを認めることは、会計処理の透明性や比較可能性の観点から適切ではないと考えられるため、本実務指針第132-2項の会計処理を出資後に取りやめることはできないこととした。

なお、本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の選択に関する方針については、原則として継続して適用すると考えられるものの、従来行っていなかった種類の組合等への新規の出資や重要な企業結合など、大きな状況の変化により見直すことはあり得ると考えられる。ここで、組合等への出資時に本実務指針第132-2項の定めの適用対象かどうか決定することとしていることから、見直し後の方針は、方針を見直す前に出資された組合等には適用されず、方針を見直した後に出資された組合等に適用されると考えられる(本実務指針第308-5項)。

(組合等が別の組合等に出資しているケース)

企業が直接出資する組合等について本実務指針第132-2項の定めを適用することを選択しており、かつ、ファンド・オブ・ファンズのように組合等が別の組合等に出資しているケースにおいては、組合等が出資する別の組合等ごとに、上述の本実務指針第132-2項の2要件を満たすか判定を行い、要件を満たした別の組合等についてのみ、その構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、その組合等への出資者の会計処理の基礎とすることになるとされている(本実務指針第308-5項)。

(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式)

組合等の構成資産に出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式が含まれる場合、その組合等への出資者の会計処理の基礎とするにあたり、これらの株式を時価をもって評価するかどうかが問題となるが、本実務指針では、時価をもって評価する対象からは除かれている(本実務指針第132-2項)。

(結論の背景)

本プロジェクトにおいて、組合等の構成資産に出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式が含まれることは想定しておらず、また、子会社株式及び関連会社株式については取得原価をもって貸借対照表価額とすることとされていること(金融商品会計基準第17項)を踏まえ、出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式は時価をもって評価する対象から除くことを明確化した(本実務指針第308-5項)。

(組合等が連結子会社又は持分法適用会社に該当する場合の連結上の取扱い)

本実務指針第132-2項の定めを適用する場合において、組合等が連結子会社又は持分法適用会社に該当するときの連結上の取扱いについては明確化されていない。これは、本実務指針第132-2項の定めを適用する企業として主に想定されているのはリミテッド・パートナーシップ出資者であること、及び本実務指針の改正のプロジェクトは国内外の機関投資家からより多くの成長資金がベンチャーキャピタルファンド等に供給されること等が副次的な目的とされており、できるだけ速やかに会計基準を開発することが期待されていたことが理由とされている(「移管指針公開草案第15号(移管指針第9号の改正案)『金融商品会計に関する実務指針(案)』に対するコメント」の「論点の項目」5)から8)についての「コメントへの対応」参照)。

(「総額法」及び「折衷法」の取扱い)

本実務指針第132-2項の定めは本実務指針第132項のいわゆる「純額法」の定めを前提としている。いわゆる「総額法」及び「折衷法」の取扱いについては、組合等が連結子会社に該当する場合の連結上の取扱いと密接に関連するものであることから、上記のとおり組合等が連結子会社に該当する場合の連結上の取扱いを明確化しないことに合わせて、取り扱わないこととされた(上記「コメントへの対応」参照)。

(2)会計処理

上記(1)に記載のとおり、本実務指針では、本実務指針第132項の定めにかかわらず、一定の要件を満たす組合等への出資は、当該組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることができるとされている(本実務指針第132-2項)。

(結論の背景)

組合等の解散までに現金で清算されることが見込まれるため、組合等への出資者の貸借対照表において、組合等の構成資産である市場価格のない株式について時価をもって評価したものを組合等への出資者の会計処理の基礎とするのは、最終的に得られるキャッシュ・インフローの予測に資する観点から有用と組合等への出資者である企業が判断する場合があると考えられる(本実務指針第308-4項)。

ここで、組合等への出資者である企業が、最終的に得られるキャッシュ・インフローの予測に資する観点から有用と判断する場合もあれば、企業によってはそのような判断を行わない場合もあると考えられることから、時価評価の適用は強制ではなく、オプションとされている(「移管指針公開草案第15号(移管指針第9号の改正案)『金融商品会計に関する実務指針(案)』に対するコメント」の「論点の項目」26)についての「コメントへの対応」参照)。

また、評価差額の持分相当額は、当期の損益として処理せず、純資産の部に計上することとされている(本実務指針第132-2項)。

(結論の背景)

評価差額の持分相当額を当期の損益として処理するか又は純資産の部に計上するかについては、両者とも支持する意見が聞かれた。審議の結果、その他有価証券に関する会計処理など、他の現行基準との内的整合性を重視する観点から、市場価格のない株式の評価差額の持分相当額を純資産の部に計上することとした(本実務指針第308-4項)。

本実務指針第132-2項の定めを適用する場合の組合等への出資の会計処理のイメージは【図表3】のとおりである。

【図表3 本実務指針第132-2項の定めを適用する場合の組合等への出資の会計処理のイメージ】

(本実務指針第132-2項の定めを適用する場合の減損処理)

第132-2項の定めを適用する組合等の構成資産である市場価格のない株式については、市場価格のない株式等の減損処理に関する定め(本実務指針第92項)に代わり、時価のある有価証券の減損処理に関する定め(本実務指針第91項)に従って減損処理を行い、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることとされている(本実務指針第132-4項)。

(結論の背景)

本実務指針第132-2項の定めを適用した場合についてのみ適用する減損処理に関する新たな定めを設けるのは過度な対応と考えられることから既存の定めを活用するとして、本実務指針第132-2項の定めを適用する場合、組合等の構成資産である市場価格のない株式については、時価のある有価証券の減損処理に関する定め(本実務指針第91項参照)に従って減損処理を行い、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることとした(本実務指針第308-6項)。

(3)注記事項

本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等への出資については、企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下「時価算定適用指針」という)第24-16項で定める事項の注記に併せて、次の事項を注記することとされている。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(本実務指針第132-5項)。

① 本実務指針第132-2項の定め(組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とする定め)を適用している旨

② 本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の選択に関する方針

③ 本実務指針第132-2項の定めを適用している組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額

(結論の背景)

開示に関して、時価算定適用指針第24-16項は、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資(本実務指針第132項及び第308項)については、時価の注記を要しないこととし、その場合、注記していない旨及び時価算定適用指針第24-16項の取扱いを適用した組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額を注記することとしている。

ここで、本実務指針第132-2項の定めを適用する場合には、これらの注記に併せて、当該定めを適用した影響を財務諸表利用者が理解できるように、本実務指針第132-2項の定めを適用している旨、当該定めを適用する組合等の選択に関する方針、及び当該定めを適用している組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額を注記することとした。なお、本実務指針第132-2項の定めを適用している組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額は、時価算定適用指針第24-16項の取扱いを適用した組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額の内数に該当すると考えられる(本実務指針第308-7項)。

(4)適用時期等

① 適用時期

本実務指針は、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされている。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができることとされている(本実務指針第195-20項)。

(結論の背景)

本実務指針第132-2項の定めを適用するにあたり、組合等への出資者である企業が定めた当該定めを適用する組合等の選択に関する方針によっては、方針に合致するすべての組合等を対象として、その構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とする準備を行うのに時間を要する可能性があると考えられる。このため、十分な準備期間を確保するように、本実務指針については、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとした。

一方、本実務指針第308-2項に記載のとおり、本実務指針の検討は、国内外の機関投資家からより多くの成長資金がベンチャーキャピタルファンド等に供給されること等を副次的な目的として開始されたものであり、できるだけ速やかに適用可能とすることへのニーズは一定程度あると考えられる。このため、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本実務指針を適用することができることとした(本実務指針第357項)。

② 経過措置

本実務指針の適用初年度において、組合等の構成資産である市場価格のない株式について本実務指針第132-2項の定めを適用する場合、適用初年度の期首時点において組合等への出資者である企業が定めた方針に基づいて当該定めを適用する組合等を決定し、次の会計処理を行うこととされている(本実務指針第205-2項)。

i.適用初年度の期首時点において、本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とする。この場合、適用初年度の期首時点での評価差額の持分相当額を適用初年度の期首のその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減する。

ii.適用初年度の期首時点において、本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価のある有価証券の減損処理に関する定め(本実務指針第91項)に従って減損処理を行い、組合等への出資者の会計処理の基礎とする。この場合、減損処理による損失の持分相当額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減する。

(結論の背景)

組合等への出資者である企業が定めた方針に合致する組合等を過去に遡って決定することを求めるのは、実際には行っていなかった判断を事後的に求めることになることから、適切でないと考えられる。このため、本実務指針の適用初年度においては、本実務指針の適用初年度の期首時点において、組合等への出資者である企業が定めた方針に基づいて第132-2項の定めを適用する組合等を決定することとした。

会計処理の遡及適用に関しては、市場価格のない株式の時価の算定には見積りの要素が多く含まれ、事後的判断を利用せずに市場価格のない株式の時価を遡及的に算定することは実務上困難であると考えられること、及び過去に遡ってどの時点で時価のある有価証券の減損処理に関する定め(本実務指針第91項)に基づく減損処理が必要であったか識別することは困難であると考えられることから、本実務指針については、遡及適用を求めず、適用初年度の期首から将来にわたって適用することとした。この場合、本実務指針の適用後の当期純利益等への影響が適切となるように、経過措置を設けることとした(本実務指針第358項)。

1 なお、当該改正を受け、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則及び連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」が2025年3月31日に公表・施行されている。

2 ASBJが2025年2月20日に公表した補足文書「2025年3月期決算における令和7年度税制改正において創設される予定の防衛特別法人税の税効果会計の取扱いについて」では、防衛特別法人税の影響を反映する場合の法定実効税率の算式は以下のとおり示されている。なお、防衛特別法人税の創設による法定実効税率への影響については、本誌2025年4月号(Vol.584)「2025年3月期決算の会計処理に関する留意事項」を参照のこと。

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