有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示などに関連し、企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正が行われています。
2026年3月20日公開
2026年2月20日に、金融庁より「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和8年内閣府令第5号)等が公布・施行され、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という)及び「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」(以下「開示ガイドライン」という)が改正された(以下これらを「本改正」という)。
また、同日金融庁より「『企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令』(案)等に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下「パブコメ」という)も公表されている。
本稿では、本改正の概要について、パブコメで示された金融庁の考え方も踏まえつつ解説する。
本改正の概要は、以下のとおりである。
【1】 サステナビリティ開示基準の適用開始に向けた環境整備
(1) サステナビリティ開示基準の適用
(2) SSBJ基準の適用に伴う開示項目の追加
(3) スコープ3温室効果ガス排出量の虚偽記載等に係るセーフハーバー・ルールの整備
【2】 人的資本開示に関する制度見直し
【3】 その他の改正事項 (1) 総会前開示への対応 (2) 特定有価証券に係る半期報告書の提出期限延長申請に係る手続規定の整備 (3) 株式転換条項の付された社債券について、あらかじめ定められた条件に基づき株式を発行する場合には「有価証券の募集」に該当しない旨の明確化
■適用時期
上記【1】は、2028年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書(以下「有報」という)等から適用される。ただし、東京証券取引所プライム市場に上場する会社(以下「プライム上場会社」という)のうち、平均時価総額3兆円以上の会社については2027年3月31日以後に終了する事業年度に係る有報等から適用される1。開示ガイドラインについては、施行日から適用される2。
上記【2】及び【3】(1)の総会前開示については、2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有報等から適用される1。
■改正の背景
サステナビリティ開示基準(以下「SSBJ基準」という)は、金融庁による法令上の手当てがなされることを前提としているため、適用対象や強制適用時期等についての具体的な定めはない。2025年7月17日に公表された「金融審議会ᅠサステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループᅠ中間論点整理」(以下「中間論点整理」という)において、2027年3月期から、時価総額が一定規模以上のプライム上場会社に対し、段階的にSSBJ基準の適用を義務付ける方針が示された。これを受け、必要な制度整備を行うため、開示府令及び開示ガイドラインの改正が行われた。
① 適用対象会社
開示府令第19条の9の新設により、プライム上場会社のうち、平均時価総額1兆円以上の会社は、有報等の「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目に記載すべき事項3について、SSBJ基準に従って記載することを段階的に義務付ける方針が示された(図表1参照)(開示府令第19条の9第1項、4項、5項)。
■開示府令第19条の9(サステナビリティ情報の記載方法)
■SSBJ基準の適用時期(開示府令第19条の9第1項及び第2項並びに改正附則第2条第1項)
■平均時価総額
平均時価総額は、有報等を提出しようとする日の属する事業年度の直前事業年度の前事業年度の末日及びその前4事業年度の末日における時価総額の平均値により判定する。例えば、2027年3月期の適用の有無の判断に用いる平均時価総額は、2022年3月期~2026年3月期の各末日の時価総額の平均値で算定する(図表2参照)。ただし、当該前事業年度の末日までに上場後5事業年度が経過していない場合には、経過した事業年度の各末日における時価総額の平均値により判定する(開示府令第19条の9第3項)。
また、提出会社がプライム上場会社である場合は、有報等の「主要な経営指標等の推移」において、当事業年度の前5事業年度及び当事業年度の各事業年度の末日における株券等の時価総額(開示府令第19条の9第3項第1号に規定する時価総額をいう)及び平均時価総額(同項に規定する平均時価総額をいう)を注記する6(開示府令第二号様式記載上の注意(25)h、第三号様式7記載上の注意(5)a)。
■補足説明
● 適用時期
● 平均時価総額
上記、補足説明は、パブコメで示された金融庁の考え方や、その他報告書等で明らかにされている考え方などを、参考として記載している(以下同様)。
② 二段階開示
SSBJ基準の適用開始年度及びその翌年度については、SSBJ基準に従って「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目に記載すべき事項を有報等に記載しないことができる。その場合には、それぞれの翌期の半期報告書の提出期限8までに、当該事項を記載した訂正報告書を提出することによって、二段階開示を行うことができる(開示府令改正附則第2条第2項)(図表3参照)。
■補足説明
● 二段階開示
SSBJ基準の適用に伴い「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載を定めた開示府令第二号様式記載上の注意(30)及び第三号様式記載上の注意(10)が改正された。
① 開示府令第19条の9第1項又は第2項の規定の適用を受ける者9がSSBJ基準により開示することとされている事項を記載する場合
冒頭に、次に掲げるような事項を記載した上で、SSBJ基準により開示するとされている事項を記載する(開示府令第二号様式記載上の注意(30)a、第三号様式記載上の注意(10))。
② 上記①以外の場合
当連結会計年度末11現在における連結会社のサステナビリティに関する考え方及び取組の状況(人的資本(人材の多様性を含む)に係るものを除く)について、次ののような事項を記載する。記載すべき事項の全部または一部を有報等の他の箇所において記載した場合には、その旨を記載することによって、当該他の箇所において記載した事項の記載を省略することができる(開示府令第二号様式記載上の注意(30)b、第三号様式記載上の注意(10))。
③ 連結会社の人的資本
当連結会計年度末現在における連結会社の人的資本(人材の多様性を含む)について、SSBJ基準の適用の有無にかかわらず次のような事項を記載する。ただし、SSBJ基準に従って、次の事項と同様の事項を記載しているときは、この限りでないとされている(開示府令第二号様式記載上の注意(30)c、第三号様式記載上の注意(10))。
④ スコープ3定量情報の記載
スコープ3温室効果ガス排出に関する定量情報(以下「スコープ3定量情報」という)を記載する場合、以下のような事項を記載する(開示府令第二号様式記載上の注意(30)d、第三号様式記載上の注意(10))。
■補足説明
● サステナビリティに関する考え方及び取組の記載
■半期報告書におけるサステナビリティに関する考え方及び取組等に関する特記事項
前事業年度の有報に見積りの方法により算定した数値がある場合、当中間連結会計期間中に当該数値に係る確定値が判明し、当該数値と確定値との間に差異があるときは、半期報告書に当該差異の状況及び当該差異が生じた理由を記載することができる(開示府令第四号の三様式「第一部ᅠ第2【事業の状況】」及び同様式記載上の注意(9-2))。
開示ガイドラインの改正により、これまでセーフハーバーの対象であった「将来情報」14に加えて、新たに「スコープ3定量情報」が、セーフハーバー・ルールの対象に追加された(開示ガイドライン「B基本ガイドライン」5-16-2)。一般に合理的と考えられる範囲で差異が生じる要因や推論過程、社内の開示手続等に関する記載がされている場合には、虚偽記載等の責任を負うものではないとの考え方が示された。
■補足説明
● セーフハーバー・ルールの整備
■改正の背景
2025年6月に公表された「経済財政運営と改革の基本方針 2025」、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025改訂版」、「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクションプログラム2025」において提言されている人的資本に関する開示の拡充のため、開示府令について改正が行われた。
この改正は、2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有報等から適用される15ため、2026年3月期の有報の作成にあたり留意が必要である。
有報等に「人材戦略に関する基本方針等」の記載欄を新設し、次のような開示を行う(開示府令第二号様式記載上の注意(58-2)、第三号様式「第一部ᅠ第4【提出会社の状況】」及び同様式記載上の注意(39-2))。
※1 連結会社の事業活動の特性上、臨時従業員が果たす役割が重要である場合には臨時従業員を含む
※2 提出会社が子会社の経営管理を行うことを主たる業務とする会社の場合、提出会社及び最大人員会社についての方針を記載する。最大人員会社とは、外国会社を除く連結子会社のうち、従業員数が最も多い会社をいう。最大人員会社の従業員数が連結会社の従業員数の過半数を超えない場合には、次に従業員数の多い会社も含む。
■補足説明
● 人材戦略の開示
① 開示の拡充
「従業員の状況」の開示の拡充として、有報等の「従業員の状況」に次のような開示を追加する(開示府令第二号様式記載上の注意(58-3)、第三号様式「第一部ᅠ第4【提出会社の状況】」及び同様式記載上の注意(39-3))。
※1 提出会社が子会社の経営管理を行うことを主たる業務とする会社である場合には、当該提出会社及び最大人員会社についての記載が求められている。最大人員会社については、本稿3(1)※2を参照。
② 記載場所の移動等
有報等の「従業員の状況」の記載場所を移動した上で、使用人のみを対象としたストックオプション等の記載などを「従業員の状況等」にまとめて記載できるように改正された(開示府令第二号様式記載上の注意(58-3)、第三号様式「第一部ᅠ第4【提出会社の状況】」及び同様式記載上の注意(39-3))(図表4参照)。
■補足説明
● 使用人のみを対象としたストックオプション等の記載
■改正の背景
2025年3月に金融担当大臣より上場会社に対して「株主総会前の適切な情報提供について(要請)」が送付され、有報を株主総会前の望ましい時期に開示する取組を進めるための第一歩として、2025年3月期の有報を株主総会の前日ないし数日前に提出することの検討が要請された。
金融庁が公表した「総会前開示の状況(令和7年3月期)」によれば、2025年3月決算では、上場会社のうち57.7%が総会前開示を行っており著しく増加(2024年3月期は1.8%)している。しかし、1週間以上前に総会前開示を行った会社は44社であり、ほとんどの会社は総会の前日ないし数日前の開示にとどまっている。
総会前開示は、投資家が定時株主総会で議決権を行使するにあたり、議案を検討する十分な時間を確保し、より適切に議決権を行使できるようにすることを目的としている。そのため、最も望ましいとされる3週間以上前の総会前開示の実現に向けて更なる取り組みが必要とされている。
① 総会前開示を行う場合の有報記載の見直し
改正前の開示府令第三号様式記載上の注意(1)gでは、総会前開示を行う場合、有報に記載した事項及びそれらの事項に関するものが、定時株主総会又はその直後の取締役会における決議事項になっているときは、その旨及びその概要をそれぞれ該当する箇所に記載するとされていた。
会社の開示負担を軽減し、総会前開示を促進する観点から、以下のような改正が行われた(開示府令第三号様式記載上の注意(1)g)。この改正は2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有報から適用17とされているため、2026年3月期に総会前開示を行う場合、留意が必要である。
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有報の該当箇所 |
留意点 |
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自己株式の取得等の状況 |
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主要な経営指標等の推移 |
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配当政策 |
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配当に関する注記事項(株主資本等変動計算書関係) |
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参考:金融庁「有価証券報告書を定時株主総会前に提出する場合の留意点」2026年2月20日更新
② 半期報告書の「大株主の状況」及び「議決権の状況」
半期報告書において中間会計期間末日現在における「大株主の状況」及び「議決権の状況」の記載が求められている。本改正では、中間配当の基準日(会社法第454条第5項の規定による中間配当に係る同法第124条第1項に規定する基準日)を、当中間会計期間の末日から半期報告書の提出日までの間のいずれかの日と定めた場合、当該中間配当の基準日における「大株主の状況」及び「議決権の状況」を記載することとされた。ただし、これによりがたい場合にあっては、当中間会計期間の末日現在の「大株主の状況」及び「議決権の状況」を記載することとされている(開示府令第四号の三様式記載上の注意(15)及び同様式記載上の注意(16))。
この改正は2026年4月1日以後開始事業年度に係る半期報告書から適用される。
■補足説明
● 半期報告書の「大株主の状況」及び「議決権の状況」の記載
特定有価証券に係る半期報告書の提出義務者が、提出期限の延長申請をする場合の承認手続が明文化された(特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第28条の2の新設、第六号様式記載上の注意(20)g)。この改正は、2026年3月31日以後に終了する計算期間に係る有報等から適用される。
開示ガイドライン「B 基本ガイドライン 2-4-1」に⑪が新設され、株式転換条項の付された社債券について、あらかじめ定められた条件に基づき株式を発行する場合には「有価証券の募集」に該当しない旨が明示された。この改正は、施行日(2026年2月20日)から適用される。
本改正のうち、【2】人的資本開示に関する制度見直し及び【3】(1)総会前開示への対応に関する改正は、2026年3月31日以後に終了する事業年度から適用されるため、3月決算の会社では早急な検討と実務対応が求められる。本稿が有報作成の際の一助となれば幸いである。
以 上