2021年にウェルビーイングを経営の中核に据えたデロイト トーマツ グループ。CEOとボード議長がこれまでの軌跡について対話した。
デロイト トーマツ グループは2021年、「人とひとの相互の共感と信頼に基づくウェルビーイング社会の構築」をアスピレーショナル・ゴール(ありたい姿)として掲げた。ウェルビーイングを経営の中核に据え、クライアントサービスの向上と社会価値の創出を両立させることを目指している。この理念は「地球環境」「社会」「個人」の三つのレベルで施策を展開している(詳しくは上記リンク先をご覧ください)。
これまでのウェルビーイング経営の取り組みについて、グループCEOの木村研一とボード議長の永山晴子に聞いた。
永山 私たちは東日本大震災から丸10年となる2021年3月、「人とひとの相互の共感と信頼に基づくウェルビーイング社会」をアスピレーショナル・ゴールとして掲げることを社内外に宣言しました。グループ内外の多くの方々と議論を重ね、私たちデロイト トーマツ グループが社会といかに向き合い、どのような価値を生み出していくのかを改めて明確にしたものです。
このゴールを目指す上では、まず何よりもグループに属する社職員一人ひとりのウェルビーイングを確保することが重要です。そこでデロイト トーマツ グループ自身のウェルビーイングを経営の柱の一つに据え、取り組んでいます。
永山 晴子(ながやま・はるこ)
デロイト トーマツ グループ 及び 有限責任監査法人トーマツ ボード議長
公認会計士。有限責任監査法人トーマツにて総合商社、小売業、グローバル製造業、旅行業、金融業など幅広い業種の日本基準およびIFRS基準の監査業務、連結財務諸表作成支援、IFRS導入支援業務などに従事。また、企業会計基準委員会、日本公認会計士協会の各種委員を務め、会計基準の開発に携わる経験を有する。2022年7月より現職。社会貢献活動として、30% Club Japan Chair、赤い羽根福祉基金運営委員を務める。
—具体的にどのように取り組みを進めていますか。
木村 起点となるのは、社職員のウェルビーイングです。企業に属する個人のウェルビーイングを考える時に難しいのは、どこまでが企業の守備範囲なのかということです。ウェルビーイングというのは人により捉え方や定義が違いますし、また仕事とプライベートをはっきり切り分けられるものでもありません。
そこで私たちは「プロフェッショナル・ウェルビーイング」という言葉を設定しました。私たちデロイト トーマツ グループの使命は、職業人、プロとしてクライアントや社会に価値を提供していくことです。そこで、社職員が学びや刺激を得られる環境を整え、一人ひとりが成長を実感できる状態にすることが、私たちの目指すべきウェルビーイングだと考えています。
木村 研一(きむら・けんいち)
デロイト トーマツ グループ CEO
公認会計士。1991年監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入社。2000年再入社。15年から21年までデロイト トーマツ グループ リスクアドバイザリー ビジネスリーダー、および有限責任監査法人トーマツ執行役を務める。19年から21年までデロイト トーマツ リスクサービス株式会社 代表取締役社長、デロイト トーマツ サイバー合同会社 代表執行者。22年6月より現職。
—取り組みを進める上ではどんな課題がありましたか。
木村 大きな課題は社内のコミュニケーションです。「ウェルビーイング」という言葉は抽象的で、人によって捉え方が違います。これをもう少し具体的に定義しないと会話がかみ合わず、なかなか行動につながらないことに気づきました。しかし「プロフェッショナル・ウェルビーイング」という言葉を見つけたことで一段解像度が上がり、共通認識が持てるようになってきています。
永山 測定指標の設定も、課題の一つです。幸福感は人によって異なるため、なかなか一つの指標で測ることはできません。現在、個人のウェルビーイングを表す明確な指標はまだ設定できていませんが、様々な角度から検討を重ねています。
—取り組みを始めて変化はありましたか。
木村 ウェルビーイング経営を打ち出し、アスピレーショナル・ゴールを設定したことで、一定の方向づけはできたと思います。クライアントをはじめとして社外の方々からも、好意的なお声を頂くことも増えました。実際にグループ内で出てくるウェルビーイング関連企画の数も増えており、発信量、行動量は増えていると思います。
一方で、まだグループ内のすべてのメンバーがウェルビーイングを「自分ごと」として捉えているわけではなく、取り組みへの参加者は特定の人に偏っているのが現状です。例えばデロイト トーマツ グループでは毎年10月の1カ月前後を「Impact Month」と定め、100以上のボランティアプログラムを開催しています。このような取り組みを続ける理由の一つは、社会貢献の経験がメンバーのウェルビーイング向上に寄与するのではないかという期待があるからです。24年の参加者は延べ約5500人と前年の約2300人から倍増しましたが、2万人以上のメンバーを抱えるグループとしてはまだ十分とは言えないのが現状です。今後いかに裾野を広げていくかが課題だと感じています。
—今後取り組みたいことを教えてください。
木村 ファームが導かなくても社員一人ひとりがウェルビーイングを自走できる状態です。2万人超のすべてのメンバーが自らのプロフェッショナル・ウェルビーイングを定義し、社会課題解決に自発的に参画することで、個人、社会、そして地球全体のウェルビーイングを継続的に高めていけると思います。
世の中を変えていくためには、課題に対して1社で立ち向かうのではなく、エコシステムをつくることが重要で、それがまさに私たちデロイト トーマツ グループの得意分野です。例えば、半導体や水素、ブルーエコノミー(海洋資源の保全・持続的な活用に関わる経済活動)などの幅広い分野で、エコシステムをつくり、その中の一プレーヤーとして動いています。私たちは2021年4月にデロイト トーマツ ウェルビーイング財団を創設し、世の中にインパクトを生み出す活動に対して資金、人材の両面から支援しています。こういった試みも引き続き実施していきます。
永山 人口減少に立ち向かうために必要なのはイノベーションです。私たちも自らイノベーションを生み出せる組織になっていく必要があります。そのためには、ウェルビーイングやDEI(多様性、公平性、包摂性)が組織に根付いていなければなりません。私たちデロイト トーマツ グループは日本全国に数多くの拠点を持っています。そういった拠点も活用しながら、日本全国でウェルビーイングを推進していきたいと考えています。
永山 晴子(左)、木村 研一(右)