2026年3月30日、デロイト トーマツはゲーム・エンタメ業界のリーダー陣を招き、「東京ゲームエンタメサミット Linking game & entertainment ecosystem」を開催した。本記事では、業界エコシステムの発展に向けて行われた当日の模様をダイジェストでお届けする。
本イベント責任者であるメディア&エンターテインメントセクター マネージングディレクター大橋 克弘による司会のもと、同セクターのリーダー佐室 奈々の挨拶を皮切りに各セッションがスタートした。
最初のセッションでは、デロイト トーマツ でエンターテイメントゲーム業界を長年支援しているシニアマネジャー今村 美都紀が登壇。「2026年以降のゲーム業界の展望」と題し、マクロな市場動向と成長の鍵について解説した。
今村は、ゲーム市場は今後も緩やかな成長が見込まれ、特にインドや中東といった新興市場の拡大が期待されると分析。その成長を牽引するためには、攻めのドライバーである、AIによる制作効率化とパーソナライズされた体験提供、クラウドゲーミングの普及、VR/AR技術による没入感の進化等と、守りのドライバーとしての持続性を考慮したゲーム開発、これらのバランスが重要であると述べた。
その上で、今後の成功の鍵は「クリエイターが生み出す『アート』としての魅力を、データ分析や戦略的なビジネスモデルといった『サイエンス』の力で支え、世界的なヒットへと繋げること」だと強調。デロイトがその「サイエンス」の部分を強力に支援していく姿勢を示した。
続くパネルディスカッションでは、「エンタテインメントとファイナンスの融合~トークンエコノミー市場の発展にむけて」をテーマに、デロイト トーマツのフィンテックブロックチェーン領域のリーダーである赤星 弘樹と、ソニー銀行株式会社 デジタルアセット事業部フェロー及びBlockBloom株式会社 常務取締役の金森 伽野氏によって、ブロックチェーン技術が、エンタメ業界とファンの関係をいかにして変革し得るか、その未来像と実践例が語られた。
まず赤星による解説では、ブロックチェーン技術が、国境を越えてクリエイターを直接応援したり、コンテンツ自体を資産としてファンが投資したりする「リアルワールドアセット」に変化していると指摘。その中核技術であるNFTは、単なるデジタル画像ではなく「ファンであることの証明」や「功績の記録」を可能にするものだと位置づけた。
これに対し金森氏からは、コンサートで配布する来場証明NFTや、実物の高級盆栽を所有しながらデジタルで楽しむ「デジタルとフィジカルの融合」など具体的な取り組みが紹介された。さらに、位置情報とゼロ知識証明を活用した「参加証明NFT」は、プライバシーに配慮しつつリアルイベントへの参加を証明する技術だ。リアルイベントの参加者だけがゲーム内で特典を得るなど、現実世界での活動とデジタルな体験を安全に繋ぐ新しいゲーム設計の可能性が示された。
議論を通じて、新技術導入は「IPの世界観を尊重した体験設計」と「複雑な法規制への対応」が課題であることが浮き彫りになった。金森氏は、一緒にIP価値を高めることを考えていくのが重要であると述べた。
続いてのセッションでは、ソニー株式会社 XR事業部門 パートナー戦略課Product Partnerships & Alliances Managerの南 翔太氏が登壇。「XYNで実現する新時代のクリエーション」をテーマに、テクノロジーがコンテンツ制作プロセスをいかに変革するかが語られた。
セッションの核心は、生成AIの潮流と並行して「現実世界をキャプチャーする」技術の重要性にある。南氏は、現実の物や人の動きを忠実にデジタル化することで、フォトリアリスティックな表現や、クリエイターの意図を即座に反映した試作が可能になると説明。これにより、制作の初期段階における手戻りが削減され、クリエイティビティの向上に繋がるという。
その思想を具現化する技術として、軽装・簡易なモーションキャプチャーや、高品質な3DCGを生成する空間キャプチャーソリューションを紹介。クリエイターが専門知識なしに高度なデジタルアセットを扱える環境が整いつつある現状を示し、制作プロセスの民主化が加速していく未来像を提示した。
グローバル市場での大型タイトルの開発において大規模・高リスク化が進む中、外部の専門スタジオをパートナーとして活用するグローバルな「共同開発」モデルの動きが加速している。独立系スタジオは、単なる制作委託先ではなく、開発エコシステムに不可欠な存在となっている。
独立系ディベロッパーの一つであるVirtuos Tokyoのプロダクションディレクターである中川 亮氏が登壇し、「グローバル開発パートナーとしてのサポート戦略と軌跡」について紹介した。
中川氏によると、同社の戦略の核は、世界中のVFXやエンジン技術など各分野に特化した専門スタジオと連携し、組織内に多様な専門性を戦略的に蓄積してきた点にあるという。これによりIPホルダーは、単に作業を委託するのではなく、プロジェクトに必要なスペシャリストをパートナーとしてチームに迎え入れることが可能になるという。開発エコシステムにおけるパートナーとして、アート制作からエンジン統合までを一貫して担う共同開発体制について語られた。
続いて、UGCゲーミングプラットフォームのRoblox Japanからデベロッパーリレーションズを率いる辻 潤一郎氏が登壇。UGCエコシステムが現代のクリエイター像とブランドと消費者の関係性をいかに変革しているかが語られた。
辻氏は、Robloxのようなプラットフォームが「クリエーションの民主化」を加速させていると語る。かつては大規模なスタジオでなければ不可能だったゲーム開発が、今やアイデアと数名のチーム、時には個人で巨大なビジネスを生み出せる時代になったという。これにより若きクリエイターが次々と台頭し、ユーザーは消費するだけでなく、自らがヒットメーカーになる機会を得ているそうだ。
さらに、この変化は企業と消費者の関係性にも影響を与えていると語った。企業がIPを開放し、ファンであるクリエイター達がそのIPを用いて魅力的なコンテンツを自発的に創造・発信する手法はZ世代やα世代に響きやすいという。企業がコミュニティの創造力を信頼し活用することが、現代のブランド戦略の鍵であることが語られた。
イベント最終盤のパネルディスカッションでは、パルコ、講談社、松竹という出自の異なる3社が登壇。エンタメ社会学者・中山 淳雄氏の進行のもと、各社の三者三様のアプローチが議論された。
「編集者」の思想でクリエイターに伴走
出版社の講談社・片山 裕貴氏が示したのは、クリエイター発掘段階から関わる伴走型のスタイルだ。一作の成否に囚われず、作家が持続的に活動できるまで支援する姿勢は、まさに漫画編集者の思想そのもの。作品の壁打ちからメンタルケアまで、出版で培ったクリエイター支援のノウハウこそが独自の提供価値だと説明した。
「IP展開」を見据えたパートナーシップ
映画・演劇事業を母体とする松竹の京井 勇樹氏は、グローバルに向けたIPとして有望な作品を見出し、市場展開を支援するパートナーシップを基本戦略とする。IP展開力という強みを活かし、将来の映像化や舞台化という多彩な出口を持つこと自体が、同社の特徴だと京井氏は語った。
「リアルな接点」を提供
商業施設を運営するパルコの西澤 優一氏は、有望なクリエイターと作品を市場に送り出すパブリッシャーの役割として参入。その戦略を支えるのは、全国の商業施設という物理アセットを、オフラインイベント開催などの「リアルな接点」という価値に変換する力であると西澤氏は述べた。
時代が求める共通点
このように、クリエイター育成に根差す講談社、IPの出口戦略を持つ松竹、リアルな場を活かすパルコと、各社の戦略は自社本来の強みと深く結びついている。ファシリテーターの中山氏は、これらの多様なアプローチが生まれる背景として、プラットフォームの変革などにより「15年前とは参入の仕方が違う」現代的な特徴を指摘。「まさにゲーム勃興期だ」という言葉で、異業種参入が業界に新たな価値をもたらす時代の到来を予感させ、セッションを締めくくった。
ゲーム業界がAI活用やIPの多様化といった変革期を迎える中、企業間の連携を促す「ハブ」となることを目指し企画された本イベントには、ゲーム業界を取り巻く40社以上からリーダーが参加した。
各領域の専門家が登壇したセッションとネットワーキングの場を通じて、技術の深化からビジネスの拡大まで、業界の未来を形作る多角的な知見が共有された。
執筆者
今村 美都紀/Mitsuki Imamura
合同会社デロイト トーマツ シニアマネジャー
メディア・エンタメ領域を中心に、成長戦略立案や事業立案、事業戦略策定、業務改革等のコンサルティングサービスに従事。近年は数々のグローバルコンサルティングプロジェクトに従事し、英語圏(アメリカ・イギリス等)だけでなく、フランス、ドイツなどの他言語圏においての調査実績も豊富。
監修
大橋 克弘/Yoshihiro Ohashi
合同会社デロイト トーマツ マネージングディレクター
テクノロジー・メディア・通信業界における事業戦略策定、M&A戦略、デジタルトランスフォーメーション、業務プロセス改革、組織・人事変革、経営管理高度化などの構想策定から実行支援の経験を豊富に有する。近年は特にメディア&エンターテイメント領域を中心としたコンサルティングに従事。
外部サイト掲載記事
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