コーポレートガバナンス・コードが制定されてから10年が経つが、近時においても、ガバナンスの機能不全が原因とされる不正・不祥事が後を絶たない。コーポレートガバナンスとは、投資家、株主、従業員等の利害関係者を守るために企業経営を監視し、監督することであり、不正・不祥事の局面では企業の不正や不祥事を防止し、発生した場合においても公正な判断や健全な経営が行えるように経営者を律し監督することが求められる。その一方で、経営者自らが贈賄や会計不正に直接関与する事例や、直接関与せずとも、過度に業績を優先したり、品質偽装を黙認することで、間接的に関与する事例が多く存在する。
直接であれ、間接であれ、経営者が不正・不祥事に関与する場合、通常のガバナンス・内部統制は機能しなくなる。なぜならば、ガバナンスを含む内部統制の整備・運用責任は経営者自身にあり(金融商品取引法24条1項、会社法362条5項)、指揮命令系統のトップに位置する経営者は、これを容易に無効化することができるためだ。また、内部統制の仕組みの多くは、そもそもが、現場レベルの不正・不祥事を予防するために設計されており、経営者不正の防止を主眼としていない。
そのような経営トップへの権限集中、それに伴う暴走への対処として、コーポレートガバナンス・コードが制定され、社外取締役の義務化や監査等委員会設置会社などが導入されてきたのだが、現時点では、まだ道半ばといわざるを得ない。それは、経営者が関与する不正・不祥事が後を絶たないという結果が雄弁に物語っており、同時に、意識調査にも表れている。
デロイト トーマツが2024年10月に公表した企業の不正リスク調査2024‐2026によれば、ガバナンスで重視する項目として、不正・不祥事やコンプライアンス、グループガバナンスへの対応を上位に挙げる一方で、経営者の監督・監視をあまり重視していないことが明らかとなった。
【図1 企業がガバナンスで重視すること】
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 企業の不正リスク調査白書2024-2026より
また監督機関の課題・障壁に関して、約4割の企業が「特になし、わからない」と回答し、それ以外も総じて低い回答率となっている。これらは「課題がなく、問題がない」というよりは、「重要視していないので、そもそも課題が認識されていない」と解釈するほうが現実に近いと考えるべきだろう。コーポ―レートガバナンス・コードが制定されて10年近くが経過し、社外取締役を3分の1以上にするなど取締役会の機能が見直されてきたが、これらの意識調査の結果は、経営者に対するガバナンスへの意識が低いことを強く示唆している。
【図2 監督機関の課題・障壁】
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 企業の不正リスク調査白書2024-2026より
では、経営者へのガバナンスを機能させるために、何から手を付ければよいだろうか。ポイントとなるのは、不正・不祥事が起きた時のエスカレーションルートの確立だ。最近の企業不祥事に関する調査委員会報告書でも、子会社で発生した不正の親会社への報告が遅れる、重大リスク情報の社外取締役への共有が遅れるといった、然るべき組織体、地位への報告が遅れていたと指摘されるケースが少なくない。あるいは、上長や経営層に報告されていても、対応を先送りにして、事態が深刻化してしまったケースもある。さらには、経営層が関与している、あるいは黙認しているようなケースの場合は、報告するべき先がない、あるいは、報告するインセンティブがないといった組織風土に及ぶ深刻なケースもある。
このような事態を改善していくために、エスカレーションルートを複線化することが望まれる。経営者が関与、あるいはその可能性がある事案に関して、社外取締役や監査役など、独立した立場から経営者を監督するものへの報告ルートを正式に定め、組織成員に認識させておくことが必要である。方法は色々とあるだろう。コンプライアンス委員会などの常設の委員会に社外取締役を関与させ、リスク情報を共有しやすい場を設定することや、万一の有事における危機管理委員会の招集権や委員長への就任資格を社外取締役や監査役に与えておくなどである。不正・不祥事対応は一刻を争う事態であり一貫した対応が求められるため、一定のルール・基準作りも重要となる。例えば、当該事象を経営者、取締役会(社外取締役)監査役会(監査役)にどのタイミングで共有するべきかという問題があるが、不正・不祥事の全貌がすぐに明らかになることはないため、情報が不透明な状態であってもなるべく早くわからないことを含めて共有すべきであることや、不祥事の類型によってエスカレーション先を定めておく、などである
また、内部通報制度の強化も重要だ。多くの日本企業では内部通報制度が「形だけ」の導入にとどまっているケースが多い。匿名性の確保が不十分だったり、対応する専門部署が設置されていなかったりで、職員が安心して通報できる状況になっていない。そういった具体的な施策の裏書があるかたちで内部通報制度を再強化し、企業の「本気度」を職員に示すことで、社員のコンプライアンス意識を向上させることにもつながり、現場からのエスカレーションを促進することが期待される。職員による経営者や上長のガバナンス・監視ということもできる。
不正・不祥事対応に限らず、企業にとってあるべきガバナンスは極めて難しい問題であり、一筋縄ではいかないと考える企業も多いだろう。不正・不祥事対応に限っていえば、執行サイドだけでなく、社外取締役や監査役に具体的な役割を設定して、権限と責任を明確にすることが、ガバナンスの議論の起点となるのではないだろうか。本稿がガバナンスの在り方について改めて考える一つのきっかけになれば幸いである。
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執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジック&クライシスマネジメントサービス
清水 隆之 (マネジャー)
(2024.11.12)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。