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日本とオーストラリアのこれから

二国間の絆が可能もたらす経済安全保障


日本とオーストラリアは、これまで長い時間をかけて、経済と安全保障の両面で強い協力関係を築いてきた。2026年は、その土台となってきた日豪友好協力基本条約の締結から50年の節目にあたり、両国の歩みを振り返る機会である。と同時に、グローバルリゼーションそのものが大きな課題に直面している今、日豪間の連携をより一層深めるうえでも大切な節目といえる。

歴史を振り返っても、日本とオーストラリアは厚みのある貿易・投資関係を築いてきた。日本は1960年代以降、一貫してオーストラリアの主要輸出先国であり続けている。また、投資の観点でも日本はオーストラリアにとって重要なパートナーでもある。2024年時点で、日本からオーストラリア経済への投資残高は2,829億豪ドルに達し2014年からほぼ1,000億豪ドル増加している。このうち、長期的な関与を示す直接投資は1,595億豪ドルで、日本の対豪投資全体の半分以上を占めている。一方、オーストラリアから日本への投資は、依然として相対的に小さく、中心はポートフォリオ投資である。ただし、2015年に日豪経済連携協定(JAEPA)が発効して以降は増加傾向にあり、オーストラリア企業は不動産やインフラ開発など日本経済の複数分野で重要な役割を担っている。

日本とオーストラリアの両国について、マクロ経済の見通しはおおむね良好である。両国の強い貿易・投資関係は、今後さらに協力を深めていくうえで確かな土台となっている。ただし、保護主義の広がりや貿易摩擦を含む厳しい国際環境に対応するには、戦略的な取り組みが欠かせない。安定した経済成長、成熟した貿易関係、エネルギー移行に向けた投資に支えられるオーストラリアと、コーポレートガバナンス改革を進める日本は、いずれも今後の機会をつかみやすい立場にある。

経済レジリエンスの構築の必要性

世界では、2025年以降関税を大きく引き上げる、または引き上げを示唆する動きが見られ、世界貿易環境の悪化と再編の両者を引き起こし得るとして大きな注目を集めている。ただ、ここ数年ですでに進んでいたグローバリゼーションの流れの鈍化の延長線上にあるともいえるかもしれない。こうした厳しい環境の中では、日本やオーストラリアのように価値観を共有する国どうしが、戦略的に経済協力を進めることが、経済安全保障の面でもリスク管理する面でも従来以上に重要となっている。いま強く求められているのは、信頼性・確実性双方の高い関係であり、既存の絆を拡大・強化していくのが望ましい。

こうした問題意識を踏まえ、Deloitte AustraliaのJapanese Services GroupとDeloitte Access Economicsでは、日豪経済のレジリエンス強化について本報告書を取りまとめた。本報告書では、両国の経済、政策、投資、産業の動きをふまえ、日本とオーストラリアの関係の強みと、今後どのような協力が考えられるかを幅広く整理している。

日豪両国が築き上げた緊密な関係は高く評価できるが、これまでの成果に安住することはできない。むしろ、日豪の紐帯は、地政学的リスクの高まりに備えるうえでも、そして経済上の新たな機会を活かすうえでも、今後さらに発展させていく必要がある。AIや量子コンピューティングといった先端技術を可能な限り取り入れることもその鍵となる。

日本とオーストラリアが特に協力を深める余地が大きい分野は、以下の5つである。

両国は共に、2030年までの野心的な温室効果ガス排出削減目標と、2050年のネットゼロ達成目標を掲げている。このため、これまでのエネルギー協力を再生可能エネルギーを含むより持続可能な形へ移していくことが重要になる。日豪は、天然ガス利用に伴う環境負荷を下げるため、炭素回収・貯留(CCS)などの技術も模索している。

クリーン水素・アンモニアの生産、再生可能エネルギー関連インフラ、低炭素液体燃料(LCLF)などの分野でも、新たな日豪協力の可能性が広がっている。重要鉱物をめぐる協力も、近年ますます重要になっている。

日本が持つインフラ投資の知見は、オーストラリアのインフラ需要や住宅不足への対応に役立つ。すでに日本企業は、水素や再生可能エネルギー関連プロジェクトを支える基盤インフラに多くの投資を行っている。加えて、日本の不動産企業はオーストラリアの都市開発にも参加し、住宅供給の拡大に貢献している。

日豪両国は、ともに安定、平和、繁栄を重視している。こうした価値観を守るためには、防衛・安全保障分野での協力をさらに強めることが重要である。日豪の特別な戦略的パートナーシップと相互アクセス協定(RAA)は、その土台となっている。

両国は、ルールに基づく国際秩序を維持し、地域の安定を保つことに尽力している。共同演習、サイバー防衛での連携、日豪米印戦略対話(Quad)や豪米英3国間安全保障パートナーシップ(AUKUS)などの枠組みへの関与は、両国の戦略的な結びつきを具体的に示している。さらに、オーストラリア政府が海軍の汎用フリゲート艦導入計画で日本のもがみ型フリゲート艦を選んだことは、この協力関係を一段と深める動きといえる。

サプライチェーンの混乱は、経済安全保障と国家安全保障の両面で重要な課題であることを改めて示した。COVID-19の流行や貿易摩擦の高まりによってグローバル・サプライチェーンの脆弱性が浮き彫りとなっていることから、供給網を多様化し安全性を高めるための協力は、両国にとって長期的に大きな意味を持つ。日本とオーストラリアには、従来の供給戦略を見直し、できるだけ信頼できる近しいパートナーとの「フレンドショアリング」を進めることが求められる。あわせて、サプライチェーンの透明性と効率を高める技術への投資も欠かせない。

両国間の人的交流の現状は、日本とオーストラリアの経済関係の深さを十分に映し出しているとは言い難い。移住や文化交流等の人的交流をさらに推し進めることは、両国にとって大きなプラスになろう。新コロンボ計画や技能移民関連制度は、国境を越えた専門人材の交流を通じて、経済的な結びつきを深めるうえでも重要な役割を果たす。文化交流や観光の促進も、相互理解を深め、草の根のつながりを強くすることにつながる。

英語版発行以降の主なアップデート

  • 本報告書英語版発行以降、日豪関係は経済安全保障と防衛・安全保障の両面で着実に進展し、首脳・閣僚レベルの合意を通じて戦略的パートナーシップが次の段階へ深化している。
  • 「経済的補完性」と「共通する戦略的利益」という本報告書で触れた枠組みは、エネルギー移行、重要鉱物、サプライチェーン、防衛・サイバー分野で実際の政策として具体化している。
  • 2026年5月の日豪首脳会談では高市総・アルバニージー両首相によって「特別な戦略的パートナーシップ」の強化が確認され、関係の長期的・戦略的性格が一層明確化された。
  • 経済安全保障分野では共同宣言の署名により、重要鉱物・エネルギー・供給網を軸とした協力が制度的に深化した。
  • 特にエネルギー面では、中東情勢リスクを背景に、LNG・石油製品の相互供給を含むエネルギー安全保障の重要性が再認識された。
  • 防衛分野では共同訓練や能力協力に加え、サイバー領域を含む包括的な安全保障協力へと拡張している。
  • また、経済閣僚対話を通じ、通商・エネルギー・供給力強靱化に関する具体的連携も進展した。
  • 加えて、豪州の税制改革は資本配分の変化を通じ、日本を含む海外への投資拡大の可能性も示唆している。
  • 総じて、日豪関係は従来の貿易・投資を基盤としつつ、制度面・実務面の双方で戦略分野の協力を加速させている。
  • 本報告書で示した協力分野は既に政策として具現化しつつあり、日豪関係は想定以上のスピードで実体化・高度化していると評価される。

日本語版刊行に寄せて
吉川 洋介 Partner, Deloitte Australia Japanese Services Group Leader

本報告書は、2025年末にオーストラリアで発行した報告書の日本語版で、当社の専門的知見を結集し、日豪関係のこれまでの発展を踏まえながら、足元の政策・経済環境および今後の投資・協力機会を多面的に分析したものです。

資源・エネルギー、貿易、投資といった従来分野に加え、近年では経済安全保障、重要鉱物、脱炭素化、インフラ、防衛・安全保障、先端技術へと協力領域は大きく拡大しています。

こうした関係の深化は、企業にとって新たな投資機会や事業連携の可能性を創出するものです。

日豪両国は「経済的補完性」と「共通する戦略的利益」を併せ持つパートナーであり、双方向での投資・協力の更なる拡大が期待されます。

実際、近時の首脳・閣僚レベルでの合意や制度面の進展を踏まえると、本報告書で提示した重点分野と政策動向との高い整合性が確認されています。

この点において、本報告書は将来展望にとどまらず、現実の政策・経済動向に裏付けられた示唆を提供するものといえます。

したがって、日本企業の皆様が中長期的な投資および事業戦略を検討される際に、有用な視座をご提供できるものと考えております。

また、当社は長年にわたり日豪間のクロスボーダー案件に携わり、戦略立案から実行・運営に至るまで一貫した支援を提供してまいりました。

制度・規制や商習慣の差異を踏まえた実務的支援を通じ、日豪間ビジネスの円滑な推進をご支援しております。

本報告書が、皆様の今後の取り組みに資する一助となれば幸いです。

プロフェッショナル

吉川 洋介/Yosuke Yoshikawa
Partner, Japanese Services Group Leader

筒井 伸次/Shinji Tstutsui
Partner, Japanese Services Group

村田 俊介/Shun Murata
Principal, Japanese Services Group

太田 和彦/Kaz Ota
シニアマネジャー, グローバル戦略室 シドニー駐在員

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