London Climate Action Week(LCAW)では、脱炭素を進める目的そのものが、「環境のため」から「エネルギー安全保障や国家安全保障のため」へと変化していることが大きなテーマとなっていた。一方で、Climate Week NYC 2026で議論の中心となっていたのは、さらにその目的を「どう実現するのか」という問いであった。本稿では、現地で印象的だった議論を「発電」「電化」「グリッド(送配電網)」「AI」の観点から整理するとともに、日本企業への示唆について考察する。
太陽光や、蓄電池は既に経済合理性がある技術として評価されており、企業で導入が進んでいくことが期待される。なかでも太陽光発電はその代表的な事例である。過去15年間で太陽光発電のコストは毎年大きく低下し、累積では99%低下した。結果として、世界の多くの地域ですでに最もコスト競争力のある電源になっている。
さらに興味深いのが、「そろそろ太陽光の成長は鈍化する」と予測され続けてきたにもかかわらず、実際には導入量が伸び続けている点である。現在の太陽光パネルの製造能力は年間導入量を上回っているため、供給能力の面からも今後さらに拡大する余地がある、とされている。
また、議論の中でもう一つ非常に強調されたのが蓄電池である。
蓄電池についても急激なコスト低下と導入拡大が起きており、その結果、世界の約80%で「太陽光+ 蓄電池」が石炭火力より安く、かつ信頼性のある電力を提供できる状態になっている。
これはとても重要な変化である。
従来、太陽光には、
「安いけれど、夜は発電できない」
「変動電源なので安定供給できない」
という弱点があった。しかし蓄電池の価格低下によって、太陽光+蓄電池を一つの電力システムとして見たときの競争力が石炭を上回る地域が急速に増えている。
さらに蓄電池のコスト低下はEVにも波及する。
EVの新車販売はすでに急速に増えており、特に中国が市場を牽引している。ただし、「新車販売に占めるEV比率」と「道路上を走っている自動車ストック全体」は別であるため、EV販売が増えても、既存のICE車が大量に残っていることから、保有車両の入れ替わりには長い時間がかかる点は、エネルギー転換を見るうえで大事なポイントである。
再生可能エネルギーのコストは大幅に低下しており、前述のとおり太陽光発電と蓄電池の組み合わせによる競争力向上も進んでいる。しかしながら、現時点では世界全体の石炭火力発電容量は依然として減少していない。
特にアジアには比較的新しい石炭火力発電所も多いため、
など、単なる新規設備のコスト比較では解決できず、課題として残る。
経済合理性が成立してきたとしても、自然に移行が進むわけではない。特に新興国では、既存の石炭資産を早期退役させるコストと、代替電源・グリッド・地域経済転換への投資を同時に資金面で支える仕組みが求められる。
現在、最終エネルギー需要に占める電力の比率はおおむね20~25%。これを将来的には60%超へ引き上げる必要があるとされた。
具体的には、
という形で、化石燃料を直接燃やすシステムから電力を使うシステムへ変えていく。
セッション中では船舶の電動航行を実現するモジュール型の海洋エネルギー貯蔵システムを開発するFleet Zero の事例が紹介されたが、電化領域で起こりがちな「鶏と卵」の問題をどう解決したのか、の好事例であった。
港湾で船を完全電動化しようとすると、
「まず港に巨大な充電設備を作らないと船を導入できない」
一方、電力会社からすれば、
「その充電設備を誰が利用するのか。電動船がまだ存在しないではないか」
となり、典型的な鶏と卵の問題に陥る。そこでFleet Zeroは、船に大型バッテリーを搭載しつつ、船内発電能力も残す。したがって港に大型充電設備がなくても運航できる。さらに言えば港に充電設備が整備されれば、より電動運航比率を高め、経済性も改善できる。
つまり、インフラ完成 → 船を導入ではなく、
船を先に経済的に成立させる → 船が増える → 充電インフラへの投資合理性が生まれる
という順序にしている点が特徴的である。
Fleet Zeroが現在建造している洋上施設向け支援船は、実証船ではなく実際に貨物輸送に使われる商用船で、しかも補助金・助成金なしで経済的に成立している点が強調された。
電化の議論の中で示唆的だったのは、「電化と自動化・自律化は別々のトレンドではなく、強く結びついている」という指摘である。
一般的な船舶には20人程度の乗組員がいることがあるが、Fleet Zeroによると、乗組員の多くは実は「船を操縦するため」ではなく、ディーゼルエンジンなどの推進システムを運転・保守するために必要とのこと。船を電動化すると、この機械的な保守作業が大幅に減るため、
「船を電動化した時点で、自律運航船への道のりの90%くらいまで来ている」
という趣旨の発言があった。
しかもディーゼルエンジンは、購入時のコストだけでなく、生涯にわたって部品交換やメンテナンスにかなりお金がかかる。一方、電動化すればそれも減る。
つまり電化によって、
燃料・排出削減
→ メンテナンス削減
→ 必要人員削減
→ 自動化が容易になる(「船の操縦」は、ディーゼルエンジンの保守業務と違い自動化しやすい)
→ 運航コスト低下
という連鎖が生まれる。
自動化・自律化は「AIで操縦する」という話だけではなく、むしろ、「機械そのものを電動化・単純化することが、その前提条件となる。
一方で、hard-to-abate sector(既存の技術や方法では二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出を減らすことが極めて困難な産業や部門)は存在する。
などの領域である。つまり、乗用車なら「ガソリン車→EV」という比較的明確な技術代替があるが、製鉄やセメントではそう簡単ではない。
さらに、既存の巨大な産業設備そのものを低炭素設備へ置き換える必要がある。
しかしグリーンスチール(低炭素鉄鋼)、グリーンセメント、持続可能な航空燃料(SAF)などは、まだ従来製品よりコストが高い。
「技術があります」
「企業がプロジェクトを発表しました」
だけでは設備投資の意思決定まで行かない。
脱炭素化が困難な産業について、billionsではなく“trillions”規模の追加投資が必要となる。
脱炭素投資を「民間が投融資出来る案件」に変換すること。長期購入契約による需要保証、公的資金や呼び水となる資金によるリスク低減、信用補完、グリーンボンド等の資本市場活用を組み合わせ、民間資金が参入できるリスク・リターン構造を作る必要がある。
建物の制御、AI、蓄電池、需要シフトなどを使ってピークを下げる。つまり、需要が増えたら送配電設備をそのまま増設する、という発想から脱却するということである。建物を単なる電力消費者ではなく、太陽光・蓄電池・ヒートポンプなどを持つ双方向の電力網を支える分散型資源として扱うという見解が示されていたが、「1MW節電できれば、実質的に1MWの供給余力を作るのと同じ」という考え方である。
「電力網は時間平均では45%しか使われていない」
という指摘もあった。
問題は年間総容量ではなく、特定時間帯・特定地点への需要集中であり、したがって、
このような取り組みにより、かなりの余地があるという点が提示された。
この論点に関しては、大型車電動化のセッションが一番具体的に語られていた。従来は「このトラック基地には最大100MW必要 → 100MWを常時供給できる配電網が完成するまで接続できません」という発想になりがちなところ、それに対して、柔軟な系統接続を認める。たとえば最初は40MWだけ使い、混雑時間には充電を落とし、夜間には増やす。系統増強に合わせて段階的に容量を増やす。
さらに電力需給に応じたスマート充電やEVから電力網への給電(V2G)を使って、EVを「グリッドに負荷をかけるもの」ではなく、分散型蓄電池=DERとして使うという発想が示された。
AIデータセンターについては今回かなり重要なテーマであったため、後述でも整理するが、 ここで示されていたのは、データセンターを電力需要を柔軟に調整し、電力網と協調する存在にするという考え方である。具体的には、ピーク時には計算処理を抑える、処理を別地域・別時間帯へ移す、蓄電池を併設する、オンサイト電源を持つ、といった方法である。
AI×原子力のセッションではさらに具体的で、物理情報AIによるグリッドデジタルツインを展開する ThinkLabsAI の話として、従来数か月かかる系統接続の事前検討をAI/デジタルツインで高速化して、「接続できる/できない」ではなく、「どういう条件なら接続できるか」を探すという話があった。
例えば「20MWだけ出力抑制を受け入れれば接続可能」「蓄電池を置けば可能」「別地点なら可能」「この送電増強まで待てば可能」といった選択肢を提示し、より柔軟な系統接続の可能性を探るというものである。
だからといって、「AIで最適化すればグリッド増強はいらない」という話ではない。
「電化+クリーン電源+蓄電+送配電網の増強」を同時に進める必要がある。
ただし今回の議論の特徴は、
電力需要増→発電量増→送配電網への負荷増
と単純に全部増設するのではなく、
効率化→需要調整→蓄電→電力網の最適化→それでも必要な部分を増強
という順番で考えるべきだ、という方向性が示されたことであった。
EV Realty (https://evrealtyus.com/)は2018年頃からEV充電インフラを開発してきたが、「2020~21年頃と現在では状況が全く違う」と語った。以前は、土地を確保してプロジェクトを設計してから、「では電力会社から電気を引きましょう」という順番だったが現在は、
Power comes first today.
つまり、「まず電力が取れる場所なのか」を確認してからでないと、土地やプロジェクトの話に進めない。
なぜならEV充電事業者だけでなく、データセンターやAIなど、巨大な電力需要家との電力争奪戦になっているからである。
EV化 → 電力需要増
AI・データセンター→ 電力需要増
産業電化 → 電力需要増
上記が全て同時に起きる。
したがって「EVを普及させるか」という個別産業の問題ではなく、限られたグリッド容量を誰にどう割り当てるのかというシステム全体の問題になっている、ということである。
今回のClimate Week NYCでは、AIは単なる技術テーマではなく、エネルギー転換や産業競争力を左右する重要な要素として位置付けられていた。議論を整理すると、AIには4つの側面がある。
AIは例えば、
など、Climate TechのR&Dを加速できる
AIで建物の日射遮蔽や冷却を自動制御したり、建物を電力網の一拠点として使ったり、データセンターの廃熱を地域熱供給に利用する事例も紹介されている。
AIそのものが巨大な電力需要を生み出す存在となっている。
米国のデータセンターは2030年までに118GWの需要を追加し、米国平均電力需要の約12%、2035年には約20%に達する見通しである。(BloombergNEF:Stephanie Diaz氏のコメントより)
つまり、AI/データセンターによる巨大な電力需要が生まれたことで、これまで経済的に成立させにくかった新規原発や送電網への大型投資に、需要側の根拠が生まれた。
米国には80~90年前の変圧器まで残っている。しかし電力需要がそれほど増えない時代には、大規模な設備更新への投資インセンティブが弱かった。しかしそこへAI/データセンターが登場し、
AI普及 → 電力需要急増 → 発電・送配電能力不足 → 新規投資が必要 → 原発・送電網・蓄電池等への投資が成立
という構図が生まれた、と捉えることが出来る。
これだけ巨大な電力需要・設備投資需要が突然生まれるなら、それをClimate Techの利用大規模展開/商用化・量産化すればよい、と考えているわけである。
対象として挙がったのが、
などの領域である。
例えば、非営利投資機関のElemental ImpactはAmazon、Google、Meta、Microsoftと組み、データセンターの持続可能性と次世代技術の実証を目的としたData Center Innovation Initiative (DCII)を開始した。1
約400社の応募から5〜10社を選び、1案件50万〜500万ドルを投入して、実際にDCで使えることを実証する。
LCAWから繰り返し述べられているように、化石燃料依存を減らして、再エネ・EV・蓄電池へ移れば安全保障上有利になる。ところが、そのクリーンエネルギー技術のサプライチェーンを中国が握っている。
そこで、化石燃料依存 → 中国依存に置き換わるだけではないか、という問題が出てくる。
たとえば、中国のCATLのバッテリーがスポット市場で約35ドル/kWhという圧倒的な価格競争力を持っており、米国が今後10年で普通に競争して追いつくのは極めて難しい。ここで米国の中にも二つの考え方がある、と語られた。
一つは、「気候移行を早めたいなら、中国の安いEV、バッテリー、変圧器、重要鉱物を活用すればよい」
という考え方。
もう一つは、「これは米中の大国間競争なのだから、中国への依存そのものが国家安全保障上のリスク」という考え方である。
この二つが真正面から衝突している。
「The U.S. is clearly going to have to reindustrialize at the fastest pace we’ve seen since World War II.」
という発言もあったほどだ。
背景には、米国が過去25年間、重要な製造能力を中国などにアウトソースしてきたことがある。
問題なのは完成品だけではなく、重要鉱物、金属、モーター、アクチュエーター、磁石、バッテリー、原子力関連材料など、産業のもっと上流まで中国依存になっている。
そしてこれらは、
などに共通して必要であり、つまりクリーン技術のサプライチェーン = 産業サプライチェーン = 防衛サプライチェーンになってきている。
よって「脱炭素産業政策」と「防衛・経済安全保障政策」の境界がかなり消えている。
米国は発明・イノベーションでは依然として非常に強いが、量産化・エンジニアリング・製造
が弱い、と指摘されていた。
中国はスマートフォンなどの生産拠点になることで、何十年もかけて製造エンジニアリング能力を蓄積してきた。それにより現在は単に「欧米技術をコピーする中国」ではなく、中国自身がエンジニアリングで先行する領域が出ている、という認識である。
では米国はどうするのか、の一つの答えが
AI + ロボティクス+自動化である。つまり、AIは米国が製造業を国内回帰させ、中国の製造能力に対抗するための技術として位置づけられている。
個別トピックレベルでLCAWとの最も大きな違いは、AIデータセンターだった。AIデータセンターは、急増する電力・水需要や電気料金、土地利用等を背景に、単なるインフラ投資から急速に地域社会・政治の問題へと変化している。
AIデータセンターをめぐる懸念から参加者による抗議が相次ぎ、一部の参加者が退場を求められる場面も見られた。
そんな中で、繰り返し語られた言葉が
「AI data centers can be good citizens」
彼らが言うgood citizenとは、単なる「環境に優しいデータセンター」より広い概念であり、特に重要なのがflexibility(電力需要の柔軟性)である。
通常、データセンターは巨大な電力需要家なので、
データセンター増加 → 電力需要増加 → 発電設備・送電網増強 → 設備投資増加 → 一般家庭の電気料金にも転嫁という懸念があるが、DC事業者は「AIデータセンターは必ずしも24時間100%の電力を同じように使う必要はない」と主張する。
たとえば猛暑日に家庭のエアコン使用が急増して電力網が逼迫したら、データセンター側の一部の処理を一時的に落とす。あるいは、ある地域の電力網が逼迫したら、計算処理を別地域のデータセンターへ移す。
つまり、電力需要にAIコンピューティングを合わせるのではなく、AIコンピューティング側を電力供給状況に合わせるという発想である。
データセンター内の仕事には、絶対にリアルタイムで処理しなければならないものと、多少遅らせても問題ないものがある。
例として、
などが挙げられる。
電力が足りない瞬間には、それらを少し遅らせたり、別地域へ移したりできる。
しかもデータセンターは工場などと違い、計算処理というデジタルな負荷なので、計算処理/処理負荷を世界の別の場所へほぼ瞬時に移せる。
この特徴を、
「AIデータセンターは巨大な電力需要家である一方、その需要をデジタルに制御できる」
と説明していて、従来のデマンドレスポンス(需要調整)よりもはるかに巨大で制御可能な需要調整資源になる可能性がある、としている。
彼らが言うgood citizen(地域・電力システムと共存する存在)とは、
①電力網に負担をかけない
②クリーン電力を増やす
③送配電インフラに投資する
④雇用・地域経済を生む
⑤税収を地域へ還元する
というかなり包括的な概念を指している。
「技術的には解決策が見え始めている。しかし地域社会から事業を受け入れてもらうという点では、まだ追いついていない」
グリッド: 新設ありきではなく、まず既存資産を最大限活用する。需要調整、蓄電、AIなどを活用し、それでも足りない分を増強する。
資金面: 公的資金だけに頼るのではなく、リスク構造を変えることで民間資本を呼び込み、それでも不足する部分を公的資金や呼び水となる資金で補う。
経済合理性:個別技術だけで考えるのではなく、例えばEVの場合
①安い・高性能な車両
+ ②高稼働率の用途選定(走行距離・稼働率が高く、燃料費等の削減効果を得やすい用途から導入)
+ ③共同充電拠点
+ ④電力需給に応じた充電制御
+ ⑤蓄電池・太陽光・マイクログリッド
+ ⑥保守費用の削減+ ⑦場合によっては自動運転
+ ⑦自動運転との組み合わせによる運行コストの削減(適用可能な用途の場合)
まで含めてシステム全体として組み直すことで、補助金がなくても成立する事業性を作る。
つまりClimate Week NYCの「どう実現するのか?」は、政府が全部やる/企業が全部やるのではなく、「既に存在する資産・技術・民間資本をどう動かすか」という全体設計の議論だったように思う。
今回繰り返し語られていたのは、太陽光、蓄電池、EV、AIなど、一つひとつの技術があるかどうかではなく、それらをどう組み合わせれば、補助金に依存せず事業として成立するかという視点だった。
例えばEVも、車両価格だけでガソリン車と比較するのではなく、高稼働率となる用途、共同充電拠点、スマート充電、蓄電池・太陽光、保守費用削減、さらには自動運転まで含めてシステム全体を設計することで、経済合理性が大きく変わる。
日本企業にとっても、脱炭素を「環境技術への追加投資」と捉えるのではなく、エネルギー、設備、オペレーション、デジタル、資金調達まで含めて事業モデルそのものを再設計することが重要になる。
日本企業は技術開発に強みを持つ一方、今回の議論では、技術そのものよりも、送配電網への接続、許認可、資金調達、需要の確保、地域社会の受容などが実装のボトルネックとして繰り返し挙げられた。
したがって、技術開発や実証実験だけで終わらせず、誰が買うのか、どう資金を呼び込むのか、必要なインフラをどう確保するのか、地域社会にどう受け入れてもらうのかまでを、事業化の初期段階から組み込む必要がある。
特に、脱炭素化が困難な産業では、「技術が存在すること」と「民間投資が可能な事業になること」の間に大きなギャップがある。ここを埋めることが、今後の競争力を左右する。
LCAWからClimate Week NYCまで一貫していたのは、脱炭素がもはや環境部門だけのテーマではないという点である。
AI・データセンター、EV、産業電化によって電力需要が増える一方、送配電網、発電能力、蓄電、重要鉱物、製造能力までが制約となる。また、クリーン技術のサプライチェーンは、産業政策や経済安全保障とも不可分になっている。
日本企業にとっても、サステナビリティ戦略を独立して考えるのではなく、成長戦略、エネルギー戦略、サプライチェーン戦略、AI・デジタル戦略、経済安全保障を一体として考える必要性が高まっている。
今回、AIは少なくとも複数の側面から議論されていた。
第一に、AIは、電力需給の最適化、建物のエネルギー管理、新素材の探索など、脱炭素を加速する技術として活用できる。
一方で、AI・データセンターの急拡大そのものが巨大な電力需要を生み出し、発電・送配電網・蓄電設備への新たな投資を必要としている。さらに、その需要の大きさが原子力、蓄電池、地熱、長時間エネルギー貯蔵などの新技術への投資を促す側面もある。
また米国では、AIを支える電力・データセンターだけでなく、変圧器、重要鉱物、モーターなどを含むサプライチェーンの確保が、産業競争力や経済安全保障の問題として議論されていた。AIとロボティクス・自動化を活用し、国内の製造能力そのものを再構築しようという議論にもつながっている。
したがって日本企業にとっても、AIを単に「業務効率化のためにどう使うか」というデジタル戦略の問題として捉えるだけでは十分ではない。AIの普及によって、電力需要、設備投資、製造業、サプライチェーン、立地、競争力がどう変わるのかを、自社の事業戦略に織り込む必要がある。
特に日本の製造業にとっては、AI時代に必要となる電力・設備・部素材・製造能力のどこに自社の強みを位置づけるのか、逆に電力や重要部材の制約が自社の成長をどこで阻む可能性があるのかを、AI戦略・エネルギー戦略・事業戦略を一体として考えることが重要になる。