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経済安全保障で加速する日豪間投資

Financial Advisory Topics 第50回

国際情勢の不安定化や保護主義の高まりにより、経済安全保障関連分野における日豪間協力・日豪間投資が加速しています。今後どのような分野でどのように進展するか考察します。

はじめに

国際情勢の緊迫化や保護主義の高まりを背景に経済安全保障の重要性が増している。

資源に乏しい日本にとって、自国のみでこれらの自律性を高めることは難しく、信頼できる国々との連携が不可欠である。その重要な相手の一つが同志国・オーストラリアだ。

2026年の日豪首脳会談で、経済安保を軸に重要鉱物、防衛、エネルギー、サイバー協力を強化。

図1

2026年5月の日豪首脳会談でも、防衛・エネルギー・重要鉱物・サイバーセキュリティにおける協力強化が確認されている(図1。詳細記事:「日豪首脳会談で深まる「準同盟」的パートナーシップ」)。

今後、日豪の経済安全保障協力・投資はどのように進展し得るのだろうか。

国際社会におけるオーストラリアの立ち位置

その前に、豪州の国際社会における立ち位置を確認したい。同国は言わずと知れた資源国であり豊富な資源の採掘と輸出をドライバーに経済成長を遂げてきた。輸出品目の上位を天然資源が占めており、輸入品目には工業製品が並んでいる(図2)。

2025年豪州貿易は、輸出が鉄鉱石・石炭・天然ガス中心、輸入は石油製品・乗用車・電子機器が中心。

図2

また、資源の中でも石油精製品のような加工製品は輸入しているⅰ。端的に言えば、原料を採掘して輸出し、加工されたのちに工業製品として輸入し直す構造となっているのである。元々、「Lucky Country」を自認するほど資源に恵まれており原料輸出だけで十分に稼ぐことができたこと、そして経済成長に伴って人件費が高騰して国内製造業がコスト面で不利となり育たなかったことがこの構造の背景にある。

安全保障面では、どの大陸からも遠いことを背景に平和を謳歌できた。ただし、昨今の中国の台頭や米国の影響力の相対的低下により、豪州を取り巻く環境は大きく変化している。AUKUSやQUADへの関与はその表れである。さらにホルムズ海峡危機を通じて、遠く離れた地域における紛争に対しても豪州は脆弱であることが浮き彫りになり、危機意識はかつてなく高まっている。

日豪経済安全保障協力・投資の期待される領域

では、日豪間の経済安全保障協力・投資が期待される領域には、具体的にどのようなものがあるのだろうか。

防衛

まず、防衛産業である。象徴的なのが、豪州海軍の汎用フリゲート艦導入計画で三菱重工のもがみ型フリゲート艦が採用されたことだ。全11隻中3隻を三菱重工が製造・輸出するが、残り8隻は技術供与を受けながら豪州にて製造される方向である。豪州側としては防衛能力を高めるのみならず自国防衛産業を育成し、戦略的自律性を高める意図がある。一方の日本側にとっては防衛産業育成に加え、共通装備の製造・保守機能の事実上のバックアップを国外に持つこととなるため、意義は大きいⅱ。

重要鉱物

次に、重要鉱物分野のサプライチェーン強靭化である。重要鉱物の対中依存と中国による輸出規制リスクは、調達先多様化とフレンドショアリングの重要性を改めて浮き彫りにした。この点、豪州は世界有数の産出国であり日本の同志国でもあるためこの上ない連携先であり、既に双日等の日本企業がJOGMECと連携し豪州からの調達を拡大している。豪州側としても、この分野において中国が圧倒的な供給能力と価格競争力を持つ中、日本企業から長期間にわたる安定的な買い付けを受けることは、持続的な事業運営と探査・採掘設備等投資の回収の観点で歓迎すべきものと考えられる。

ただ、現在は採掘された資源の純粋な輸出が大半であり、中流工程 (精錬・加工) や下流工程( 製品製造)の多くは豪州外で行われている。これに対し豪州政府は、上流に偏る現在の国内産業構造に対する反省も踏まえ、2023年に策定した国家戦略『Critical Minerals Strategy 2023-2030』ⅲにおいて、重要鉱物の精錬・加工能力を国内に持つことを一つの重要な柱として掲げている。我が国にとっても、せっかく同志国・豪州から重要鉱物を調達できたとしても、精錬・加工を結局中国等の第三国に委ねてしまっては経済安全保障上の意義が薄れてしまうわけであり、精錬・加工は豪州で実施されるほうが望ましいといえる。したがって、本領域における日豪連携をより持続的かつ互恵的なものとする意味でも、いずれは精錬・加工についても協力が進むのではないだろうか。

エネルギー

また、エネルギーも両国のサプライチェーン強靭化の観点で日豪協力が期待される分野だ。先述の通り、豪州は産油国でありながら石油製品は輸入に依存している。このため、イラン紛争に伴う石油供給の不安定化は国民不安増大や物価上昇をもたらしている。短期的には石油製品の安定確保が至上命題であり、日本も既に安定供給継続の旨を表明している。

他方、中長期では、日豪双方が2050年までのネットゼロ達成を国家目標として掲げており、化石燃料依存・輸入依存からの脱却は共通課題である。移行期においては環境負荷の小さなLNGが重要であり、日本は輸入量の約4割を豪州に依存しているのだが、豪州では目下、国内ガス需要の増加、老朽火力発電所の退役、ガス田減産と新規開発の停滞等を背景に需給が逼迫しつつある。これを受け、豪州では連邦政府による輸出規制・課税強化の可能性が取り沙汰されるなど、状況には留意が必要である。

さて、脱炭素の切り札として日豪間では水素活用に向けた協力が行われてきた。豪州は国家戦略『National Hydrogen Strategy』を掲げ、水素産業における世界のリーダーになることを目指している。実際、国際エネルギー機関 (IEA) は、豪州が2030年までに世界第2位のクリーン水素の純輸出国になることを見込むなど期待は大きい。日豪間では、2022年に世界初の液化水素国際サプライチェーン実証プロジェクトとなる『Hydrogen Energy Supply Chain』プロジェクト (豪州で製造した水素を液化して専用船で日本へ輸送) が、日豪6社のコンソーシアムの参加のもとに行われるなど複数のプロジェクトに日本企業が参画してきた。

豪州の主要水素案件で、コスト増や需給不安、政策・戦略見直しにより縮小・中止・棚上げが相次ぐ。

図3

ところが、水素は製造コストが高く政府補助金が頼りとなる中で、州議会選挙に伴う政権交代で政策が変更となり補助金の追加出資が停止となったり、公的支援が供給サイドに偏ってきたことで需要拡大が十分に見込めなくなったりで、プロジェクトそのものが縮小・中止・計画変更等に追い込まれて日本企業も撤退を余儀なくされるケースが出るなど不透明な状況となっている (図3)ⅳ 。

中長期的にみれば両国のネットゼロ実現に向けた重要なステップであることは間違いないものの、日本企業にとって豪州市場のリスクが顕在化した分野でもあり、慎重な進め方が求められる。

インフラ

最後に、インフラも日豪で共同歩調を取り得る領域である。移民受け入れで人口が増加する豪州では、住宅はもとより各種インフラの整備が追いついていない。この点、国内外で多数の実績を有する日本企業は多く、既に双日、丸紅、URなどが公共交通や都市開発の案件に参画している。

加えて、近年注目されるのがデータセンターである。AI需要の拡大により不可欠な社会インフラとなる一方、その機能・データを国内で保持する観点から経済安全保障上の重要性も高い。データセンターは高性能サーバーを常時冷却しながら稼働させ続ける必要があり、大容量の電力が安定供給されることが前提条件となるため、電源確保と一体で整備する必要がある。この点で、既にJ-POWER等が豪州の発電事業に投資していることもあり、日本企業間の連携を通じた電源開発を含む提案力が新たな事業機会を呼ぶ可能性がある。

また、この領域においては日本から豪州への一方通行ではなく、豪州の事業者が日本に投資しており、互恵の観点で好ましい。具体的には、AirTrunk・Goodman Group・NextDCなどが千葉や大阪において施設を展開しており、AirTrunkのKhuda CEOは電力供給や政治・規制上の安定性の高い日本をアジア太平洋地域において豪州・シンガポール/マレーシア・インドと並ぶクラウド・AIの主要拠点となるとメディアのインタビューで述べている。ⅴ

終わりに

かつて日本企業による対豪投資は資源・エネルギー分野が中心だったが、近年は経済安全保障にかかわる多様な分野へと広がっている。米・欧・中東を巡る不確実性が高まる中、安定感のある豪州は日本企業にとって魅力のある投資先となりつつある。

豪州側にとっても、日本企業からの投資は経済安全保障と国内産業育成の双方に資する。同志国間の経済圏として日豪の企業活動がさらに融合していく可能性は高い。

さらに、経済安全保障関連のM&Aをはじめ各種投資が加速した場合、周辺領域・産業にも波及し得ることは見逃せない。例えば、フリゲート艦を豪州で製造・保守できるようにするためには、そのためのインフラ・設備、そして携わる人々の生活基盤の整備が求められるわけであり、防衛産業外の企業にも投資機会・事業機会が生まれる可能性が示唆される。

図4

当社では、デロイト オーストラリアの専門家とともにレポート「日本とオーストラリアのこれから - 絆がもたらす経済安全保障」 (図4) を発行している。詳細は当該レポートもご参照いただきたい。

ⅰ Australian Government Department of Foreign Affairs and Trade Trade and foreign investment statistics Australia’s top goods and services 2025
ⅱ 井上麟太郎『オーストラリア国防戦略の構想と実態』
ⅲ Department of Industry Science and Resources 「Critical Minerals Strategy 2023–2030」
ⅳ ジェトロ 地域・分析レポート 2024年10月25日「クリーン水素プロジェクトは増加するも伸び悩む水素需要」
ⅴ NNA ASIA 2026年7月13日 【特別インタビュー】日本は4大重要AI拠点の一角 豪DC大手エアトランクCEOインタビュー

執筆者

合同会社デロイト トーマツ
グローバル戦略室
シニアマネジャー・シドニー駐在員 太田和彦

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