政府の方針である「骨太の方針2025」・「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2025改訂版」(以下、「骨太の方針2025」)が令和7年 6月 13日に閣議決定されています。本報では、その中の医療施策に関連する項目についてまとめていきます。
まず、骨太の方針2025の第1章「マクロ経済運営の基本的考え方」における医療政策に関係する記載は、「3.人口減少下における持続可能な経済社会の構築」の中にあります。「人口減少が本格化する2030年代以降も、こうした成長を実現するとともに、医療・介護給付費対GDP比の上昇基調に対する改革に取り組み、PBの一定の黒字幅を確保していくことができれば、長期的な経済・財政・社会保障の持続可能性が確保される。」との記載は、骨太の方針2024から継続したものとなっており、DX活用等による給付の適正化・効率化などに取り組んでいくことが求められています。
一方で、骨太の方針2025の第3章「中長期的に持続可能な経済社会の実現」では、社会保障関係費について、「高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」と記載されており、昨今の物価上昇による影響等について、経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げにつながる取組を進めることが盛り込まれています。特に、「医療・介護・障害福祉等の公定価格の分野の賃上げ、経営の安定、離職防止、人材確保がしっかり図られるよう、コストカット型からの転換を明確に図る必要がある」との記載もあり、2026年度の診療報酬改定にも影響するものと考えられます。
病院淘汰時代とは
医療機関を取り巻く経営環境は、少子高齢化、人口減少等を背景に大きく変化してきています。そのような環境変化に適時に対応できていないために、診療圏における病床機能とベッド数が需要とバランスがとれていない状況があり、地域医療構想として、国や自治体単位で必要な病床機能とベッド数についての議論がなされてきました。
一方で、COVID-19がもたらしたコロナ禍を経て患者の受療行動に変化が生じ、コロナ禍は収束したものの、受診控えで減少した患者がコロナ禍前の水準に戻っていないと言われています。
さらには、近年、看護師をはじめとした職員の人件費が高騰し、物価高騰により水道光熱費や材料費、委託費、保守費が上昇していますが、物価上昇トレンドにおいては、2年に1度の診療報酬改定は後追いの改定にならざるをないため、こうした状況も医療機関の経営を圧迫しています。
「2025年上半期の医療機関の倒産は35件となり、過去最多のペースで推移」(帝国データバンク2025)しています。厳しい経営環境の中、補助金等を得ても経常損益がマイナスとなっている病院は、財務基盤が脆弱な病院として淘汰される時代に入っていくと考えます。そのような時代であるからこそ、経営の基本に立ち返り、財務数値の意味するところを理解した上で、経営判断を行うことが重要と言えます。そこで、財務数値の見る上での留意点をいくつかご紹介したいと考えます。
AIについて
AIは、1950年代の第一次ブーム・1980年代の第二次ブームに続く、第三次ブームにあると言われ、自動車の自動運転技術など、生活のあらゆるところで実利用が始まっています。また、近年では、「GPT(Generative Pretrained Transformer)」が発表されて以降、現在に至るまで空前のAIブームとなっており、2020年代初頭、特に2022年から第四次AIブームが始まったと捉える研究者もいます。AIの実用化の裏には、これまで人間の手で膨大なデータを分類・整理してコンピュータに入力していた作業をコンピュータが自動で処理(機械学習)することで、従来では処理できなかった規模の量のデータ(以下、「ビッグデータ」と言います)を収集・処理することができるようになったことに加え、ディープ・ラーニングという技術によって、ビッグデータを基にコンピュータが自ら知識を定義する要素を発見・習得するようになったことが大きなきっかけとなっています。