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先進企業の実践例に学ぶ、投資家と企業をつなぐインパクト活用の最前線

企業価値創造につなげる実践的インパクト活用

合同会社デロイト トーマツは、「企業価値創造につなげる実践的インパクト活用~先進企業の実践例に学ぶ、投資家と企業をつなぐインパクト活用の最前線~」をテーマに、対面セミナーを開催しました。本セミナーでは、「インパクトをどのように評価するか」から、「評価したインパクトをどう活用するか」に視点を移し、最新の潮流や実践的アプローチを紹介しました。

「企業価値創造につなげる実践的インパクト活用~先進企業の実践例に学ぶ、投資家と企業をつなぐインパクト活用の最前線~」対面セミナーの集合写真

サステナビリティと企業価値向上

パリ協定・SDGsから10年あまり、TCFD、人的資本、SSBJを中心とした開示要請対応を契機に、日本企業におけるサステナビリティの取り組みは経営に一定浸透した状態になっています。一方で、投資家や株式市場からの企業価値向上に対する継続的な要請もあり、サステナビリティが経営に対して本質的な価値の提供ができているのか、改めて問われる時代になってきています。

ESGからインパクトへ AIが加速させる不可逆的な潮流

オープニング講演には、インパクト志向金融宣言で運営委員長を務める金井司氏が登壇し、ESGからインパクトへと潮流が変化している背景、AIがその変化をどのように加速しているのか、さらにインパクトと企業価値の関係をどのように捉えるべきかについて解説しました。

金井氏はまず、ESGがSRI(社会的責任投資)を源流として発展してきた経緯を振り返りました。そのうえで、ESGは多様な関係者を巻き込むうえで有効な概念であった一方、その曖昧さゆえに、企業活動が社会や環境にもたらした成果を十分に捉えきれないという課題もあると指摘しました。こうした課題を補う考え方として位置付けられるのが、インパクト投資です。ESG投資が「企業はESGリスクに耐えうるか」を主な問いとするのに対し、インパクト投資は「どのような社会的・環境的変化を生み出すか」に焦点を当てるものです。さらに近年では、個別企業の取り組みにとどまらず、人間社会や自然環境といったシステム全体の健全性を捉える「システムレベル投資」という新たな考え方も広がりつつあることが紹介されました。

また、企業がインパクトに取り組む意義として、社会への貢献を通じて企業成長につなげられること、インパクトの追求そのものが企業戦略の検討に資すること、さらに事業活動から社会価値・企業価値へ至る道筋を可視化できることなどが挙げられました。

講演の後半では、インパクトを可視化するための考え方と、AIがもたらす変化についても取り上げられました。インパクトを企業価値と結び付けるには、どのような活動が成果につながり、最終的にどのような社会的・環境的インパクトを生み出すのかを整理することが不可欠です。従来、このような検討には多くの時間と労力が必要でしたが、現在はAIの活用によって大幅な効率化が進みつつあります。今後は、自社の活動が社会に与える影響の分析や、インパクト指標の設計もAIによって高度化される可能性があると示されました。

インパクト志向金融宣言 運営委員長 金井司氏

企業価値創造につなげる実践的インパクト活用

基調講演では、デロイトトーマツ Strategy Unit ディレクターの田中晴基が登壇し、実際に取り組みを進める企業側の視点でインパクト活用の事例を紹介しました。

冒頭、多くの企業が「インパクト創出は企業価値創造につながるのか」という問いに関心を寄せていることに触れました。その問いに向き合うためのアプローチとして示されたのが、インパクト評価です。インパクト評価は、従来の経済価値に社会価値・環境価値を加味し、企業や事業活動の「本来価値」を測る考え方として位置付けられます。

田中は、インパクトは目的ではなく手段であり、企業価値を高めるためには、「何のためにインパクトを可視化するのか」という戦略的なWhyを明確にすることが重要であると強調しました。そのうえで、インパクト評価の活用目的を大きく3つに整理し、具体的な事例とともに紹介しました。

  1. コミュニケーション強化:可視化されていない社会的大義に光をあて、製品・事業の正当性を強化する
  2. 事業戦略の推進:海外・新興国事業などで、現地ステークホルダーにもたらす社会価値を可視化し、パートナーシップ強化を図る
  3. 経営管理の高度化:社会価値を財務・顧客価値につながる指標として定義し、戦略的意思決定(投資判断や事業ポートフォリオ管理)に繋げる

講演の最後には、インパクト活用にあたっては、戦略的Whyを明確にすることに加え、自社の状況や事業特性を踏まえて、インパクトと企業価値をどのようなストーリーで結び付けるのかが重要であると示しました。また、その目的に応じて、評価項目や算出方法を柔軟に検討する必要性にも言及し、インパクトを企業価値創造に活用するための実践的な視点を提示しました。

デロイトトーマツ Strategy Unit ディレクター 田中晴基

インパクト可視化と活用へのチャレンジ

実践企業講演では、アステラス製薬株式会社 サステナビリティ部門長の飯野伸吾氏が登壇し、同社におけるインパクト可視化の取り組みを紹介しました。

飯野氏はまず、同社が非財務価値の可視化に取り組む背景として、経済的価値と社会的価値はトレードオフではなく、本業を通じて両立し得るものだという考えを示しました。また、サステナビリティ関連情報開示への要請が高まる中で、非財務情報を将来の財務価値につながる先行指標として捉える重要性を強調しました。

具体的な取り組み事例として取り上げられたのが、マレーシアでのBEAUTY & Healthプログラムです。同国ではがんに関する知識やヘルスリテラシーの不足により、多くの患者が後期ステージで診断されるという課題があり、同社は現地団体と連携し、がん啓発セッション・検診促進・教育データベースの整備などを支援しました。インパクト可視化の結果、約1.5億円の投資に対し、約6.8億円(ROI約4.6倍)の社会的インパクトを創出する可能性が示されました。

また、製品・人財・環境・Access to Healthの4領域で全社のインパクト評価にも取り組んだ結果、特に製品インパクトが大きいことが確認され、本業である医薬品の創出こそが、同社にとって最大の社会価値の源泉であることを再認識する機会となったと言います。また、可視化の結果は、非財務活動の価値を伝える有効なコミュニケーション手段として活用され、社内においては施策の優先順位付け・投資判断、経営層や各部門の理解促進などに、社外においても、サステナビリティ活動の理解浸透などに繋がっているとのことです。

最後に、飯野氏は、今日においてサステナビリティ活動は、財務リスクの低減や市場からの信頼獲得に直結する重要な要素であると主張しました。そのうえで、企業に求められているのは価値への転換と証明であり、その鍵は、活動の意義を相手に応じて伝える「翻訳力」と、成果を定量・定性の両面から示す「見える化」にあると締め括りました。

アステラス製薬株式会社 サステナビリティ部門長 飯野伸吾氏

企業価値創造につなげるインパクト活用の今後の方向性

「企業価値創造につなげるインパクト活用の今後の方向性」をテーマにしたパネルディスカッションでは、金井氏・飯野氏に加え、カディラキャピタルマネジメント株式会社で代表取締役社長を務める坂本一太氏を迎え、

「インパクト創造は企業価値創造につながるのか」「インパクトを企業の意思決定にどう織り込むべきか」「インパクト活用の未来をどう考えるか」という問いを軸に、投資家や事業会社の視点から議論が行われました。

投資家である坂本氏は、インパクトを企業価値につなげるには、Purpose・Vision・Missionと経営戦略が一貫していることが重要だと述べました。また、カディラキャピタルマネジメントで活用するIIV(Impact Integrated Value)に触れ、ポジティブ・ネガティブ双方のインパクトを企業価値評価に織り込むことや、役員報酬・KPIとの連動により経営陣の行動変容を促す仕組みが重要だと説明しました。

飯野氏は、アステラス製薬でインパクト評価を始めた当初、社内でも意義が十分理解されず、データ提供にも苦労があったと振り返りました。そのうえで、経営戦略やマテリアリティとの関係を示し、実際に数値として可視化することで、関連部門や経営層との対話が進んだと言います。

金井氏は、スタートアップではインパクトと利益が比較的結び付きやすい一方、大企業では事業や組織が複雑化し、その関係が見えにくくなると指摘しました。また、インパクトに取り組むにあたっては、人的資本・自然資本・社会関係資本などの資本循環や因果関係を可視化し、経営管理システムと接続することが不可欠だと強調しました。

議論を通じ、インパクトは開示対応にとどまらず、経営判断、投資家対話、企業価値創造をつなぐ共通言語になり得ることが示されました。
 

(写真左から)デロイト トーマツ マネージングディレクター 森田寛之、カディラキャピタルマネジメント株式会社 代表取締役社長 坂本一太氏、アステラス製薬株式会社 サステナビリティ部門長 飯野伸吾氏、インパクト志向金融宣言 運営委員長 金井司氏

本セミナーは、インパクトの活用可能性について多角的に捉える有意義な機会となりました。インパクトはサステナビリティ部門だけが扱うテーマではなく、経営戦略、事業活動、投資判断、ステークホルダーとの対話とも密接に関わるテーマです。企業が今後持続的な企業価値創造に取り組むためには、インパクトを経営に組み込み、意思決定やコミュニケーションに活用していくことが期待されます。

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