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東京証券取引所(2025年2月4日公表)『親子上場等に関する投資者の目線』について

Financial Advisory Topics 第43回

東京証券取引所が2025年2月4日に公表した「親子上場等に関する投資者の目線」の要点について、特に親子上場会社における開示状況や投資家からの指摘事項の観点から解説します。

はじめに

2025年2月4日、東京証券取引所は「親子上場等に関する投資者の目線」を公表した。本資料は、国内外の多数の投資家との面談を通じて寄せられたフィードバックをもとに取りまとめられたものであり、「資本コストや株価を意識した経営の実現」に向けた要請も踏まえつつ、中長期的な企業価値向上を目指した経営資源の適切な配分の観点から、親子上場の在り方に関する検討および情報開示のニーズが高まっていることを指摘している。

また、これに先立ち東証は2023年12月に、「少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実」を公表し、親子関係にある上場会社やその他の関係会社・関連会社の関係にある上場会社を対象に、コーポレートガバナンス報告書(CG報告書)における開示内容のポイントを整理した。

この中で、上場親会社および上場子会社には、CG報告書において少数株主保護に関する方針、支配株主が関与する重要取引に関する情報、さらにグループ経営に対する考え方についての情報開示が求められている。また、上場持分法適用会社に対しても、開示が望まれる項目については任意での情報開示が推奨されている。

しかしながら、投資家からは依然として、「親子上場という形態を取る意義について、投資家の視点を踏まえた十分な検討がなされていない」、「投資家が期待する水準の情報開示と、実際の開示内容との間にギャップがある」といった厳しい指摘が寄せられている。
本稿では、こうした動向を踏まえ、当該資料の要点を簡潔に解説していきたい。

親子上場の現状

市場区分の見直しに関するフォローアップの一環として、グロース市場のさらなる機能発揮に向けた対応の中で実施された第2回IPO連携会議(2025年3月10日開催)の添付資料である「足元の東証の取組みについて」によれば、日本における親子上場の件数および比率は、2014年以降、緩やかながらも着実に減少傾向を示している。それでもなお、2024年現在国内には上場子会社が230社存在し、これは上場企業全体のうち約6%を占める水準となっている。

単純に数値だけを見ると親子上場の比率は目立たないように見えるものの、日本は海外と比べて相対的に親子上場が多いとされており、背景には、親会社に課せられている「信任義務」の存在が挙げられる。この義務は、親会社が自らの支配権を行使する際、少数株主の利益を損なうような行動を制限するものであり、違反があった場合には親会社が責任を追及されるリスクが生じる。

具体的に言えば、親会社が支配権を有している場合であっても、その権限の行使は、単に自己の株主権に基づく行為というだけでなく、実質的には少数株主から信託された権限を代理的に行使しているものとみなされる。このため、仮に子会社の経営が不調に陥り、それが親会社の関与不足や不適切なガバナンスに起因していた場合には、「経営に関与していなかった」とする主張は認められず、親会社はその責任を免れることができないのである。

こうした欧米における親子上場に関する制度と比べて、日本においては、このような制度的な整備が限定的であるという実情を要因の一つとして、親子上場の形態が許容されてきたと考えられるだろう。

相次ぐソフトローの改正

こうした状況を受けて、日本における親子上場を取り巻く環境も大きく変化しつつある。2015年に金融庁と東証が共同で「コーポレートガバナンス・コード」を策定して以降、政府や関係省庁、証券取引所によるソフトロー(法的拘束力を持たない準則や指針)の整備が相次いでいる。

例えば、経済産業省は「グループガバナンス・ガイドライン」や「事業再編実務指針」、「公正なM&Aの在り方に関する指針」などを公表しており、東証においても「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」が設けられ、親子上場に伴う利益相反やガバナンスの在り方についての議論が進められている。また、2023年3月には、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」が発表され、形式的なガバナンス対応にとどまらず、企業に対して実質的な経営改善や株主還元の強化を促す動きが加速している。

これらの流れは、企業にとってはグループ体制を見直す契機となる一方で、アクティビスト(いわゆる物言う株主)にとっては、経営陣に対して株式価値の向上を求める有力な根拠として機能し得ると考えられる。こうしたソフトローの整備が後押しとなり、親子上場をめぐる議論は、今後さらに活発化していくことが予想されるだろう。

親子上場等に関する投資者の視点

では、投資家は親子上場等の形態を取っている企業の開示に対して具体的にどのような懸念を抱き、企業にどのような対応を求めているのだろうか。ここでは、東証が公表した「親子上場等に関する投資者の目線」の内容を踏まえ、その主要な指摘事項や期待される対応について整理したい。

現行の開示制度について2023年12月に取りまとめられたCG報告書における少数株主保護やグループ経営に関する開示についての記載上のポイントの概要は下表の通りである。

上記の通り、記載上のポイントが整理されたものの、現在実質的な開示は進んでいるとはいえないのが実情である。現時点の開示状況ならびに投資家たちから寄せられた指摘事項について、「親子上場等に関する投資者の目線」より抜粋し、以下の通り整理する。

【親子上場の親会社側】グループ経営

開示状況

東証が実施した開示状況の調査によれば、親会社による総論的な事業ポートフォリオ戦略に関する考え方を開示している企業は49%にとどまっている一方で、個々の子会社を保有・上場し続けることの合理性に関する記載は82%と比較的高水準である。ただし、その内容を見ると、「取引先の拡大」や「市場からの資金調達」といったメリット面の言及が中心であり、デメリットへの触れ方や、完全子会社として保有することなど、他の保有形態との比較を通じて合理性を説明するような事例は数少ないのが実情である。

投資家からの指摘事項

この点について投資家からはグループの企業価値向上や資本効率の観点から、グループとして親子上場の形態が最適であることの説明が要求されている。具体的に紐解いていくと、親会社が自社の将来目指すバランスシートの姿やキャッシュアロケーションの方針を検討する中で、上場子会社をどのように位置づけ・活用していくかについて議論・説明するべき、また、ベストオーナーの原則に基づいた、子会社の企業価値を最大化する保有主体であるかという視点も重要であるとしつつ、一部子会社を売却した事例を高く評価すると指摘がなされている。また、資本効率の観点から、子会社の資本収益性(ROEやROICなど)が、資本コストを上回っているのかという定量的な分析も必要であるとの指摘がなされている。

【親子上場の親会社側】少数株主保護

開示状況

子会社の取締役の選任に関する記載については、「子会社の判断を尊重する」といった抽象的な表現にとどまるものが多く、親会社として実際に関与しているか否か、また関与している場合にどのような内容・程度の関与が行われているかまで具体的に記載している事例は、この2割に満たない水準にとどまっており、さらに限定的である。

投資家からの指摘事項

この点に関連して、投資家からは、少数株主保護やガバナンスに関して親会社に説明を求めても、「子会社の独立性」を理由に拒まれる事例が多いと指摘し、親会社には子会社のガバナンスに関する説明責任があり、適切に応じるべきとされている。また、少数株主を軽視するような議決権行使が見られることにも言及したうえで、取締役の選解任権限や重要契約に関する判断については、親会社が説明責任を果たすべきであるとした。

【親子上場の子会社側】グループ経営

開示状況

実際の開示状況を見ると、親会社の事業ポートフォリオ戦略における自社の位置づけ、たとえば複数ある事業セグメントのうち自社がどこに属しているかを記載する事例は33%と比較的多い。一方で、親会社側の開示が限定的であるため、子会社側が親会社の方針を代替的に開示している構造となっており、整合性や透明性に課題がある。加えて、利益相反が懸念される事業領域の棲み分けの状況や、親会社との間で資金管理を行うことの意義にまで言及している事例は、それぞれ23%、7%と依然として低水準にとどまっている。

投資家からの指摘事項

投資家たちはこれらの観点を含め、親子上場の形態を選択する意義について、子会社では単に「親会社の意向」として、子会社が自らの企業価値向上について検討・説明されていないケースが多いとした。親会社と同様に、資本収益性やベストオーナーかどうかという視点で子会社自身が自ら検討すべきだとの指摘がなされている。

【親子上場の子会社側】少数株主保護

開示状況

特別委員会に関する記載としては、独立社外取締役で構成されていることや、親会社との間で利益相反が生じ得る重要な取引を審議対象としていることを明記する事例は多く見られる。しかしながら、審議項目の具体的な内容や、委員会の実際の活動状況にまで踏み込んだ開示を行っている事例は少数にとどまっている。

投資家からの指摘事項

このような開示がない中では、独立社外取締役との対話も有効であるものの、親子上場の企業では合理的な理由なく断られるケースが多いことを指摘した。取締役会や特別委員会における実効性や、取締役の選解任や特別委員会の設置における親会社の関与の有無について適切に開示・説明がなされるべきであるとしている。

【上場持分法適用会社】

開示状況

「2024年10月17日実施の従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会(第二期) 第6回 東証説明資料」によると、上場関連会社を保有する上場企業は61社、その他の関係会社を保有する企業は44社存在し、それらの企業は、何らかの情報開示を行っているとの記述がある(集計は2024年7月12日現在)。ただし、正確な開示率は把握されていないが、親会社に該当しないものの、20%以上の議決権を保有する大株主を有する企業は約1,000社程度存在すると推定され、現時点では、開示事例そのものが依然として限定的であると評価されている。

投資家からの指摘事項

投資家はこのような関連・関係会社においても親子上場と同様の問題認識を持っており、前段で述べた通り、グループ経営および少数株主保護の両面から開示や投資者との対話を通じて、適切に説明責任を果たすべきであるとした。

親子上場等に関する今後の見通し

東証が公表した「親子上場等に関する投資者の目線」は、単なる形式的な開示の充実を求めるにとどまらず、親子上場という形態の下で、企業が実質的な資本効率性やガバナンス体制の構築に真摯に向き合っているかという点に主眼を置いている。そのため、今後は、投資家からの厳しい監視のもと、親子上場の意義や少数株主保護への対応、グループ全体の資本コストや企業価値の向上といった観点から、企業の対応がより一層問われることになるだろう。実際、こうした投資家の要請を背景に、親子上場を継続する意義を再検討する動きや、完全子会社化・持分売却といった解消に向けた対応も一部で進展している。今後も、企業による前向きな取り組みが期待されるとともに、東証や関係省庁によるソフトローの整備が後押しとなって、親子上場をめぐる実質的な改善が加速していくだろう。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレート ファイナンシャルアドバイザリー
パートナー 成瀬徳一
シニアコンサルタント 栗野隆世
コンサルタント 東條克哉
アナリスト 増永裕太

デロイト トーマツ エクイティアドバイザリー合同会社
マネージングディレクター 中島大

(2025.7.17)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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