2025年11月、デロイト トーマツは国立情報学研究所(以下、NII)と連携し、ヒューマノイド型ロボットを活用したPhysical AIプロジェクトをスタートしました。本稿では、デロイト トーマツの松川達也とNII小林泰介氏がヒューマノイド型ロボットにおける遠隔操作技術の最新動向、研究現場での課題など語りました。
関連記事
松川 まず、NIIが研究されている遠隔操作についてお伺いしたいです。具体的にどのようなことをされているのか。またどこが難しいのか、不確実性の高い部分やチャレンジしている点などを教えてください。
小林 現在、ヒューマノイド型ロボットの遠隔操作では、手先の位置・姿勢や腰の高さを操縦しています。操縦者の動きをインターフェースデバイスで取得し、その値をロボットに伝達することで制御しています。ヒューマノイド型ロボットは二足で立っているので、腕を大きく動かすと全身のバランスが崩れやすい。そのため、安定して立ち続けるためのローレベル制御が不可欠です。加えて、手先を自由に動かすにはさらに高度な制約が必要になります。NIIのシステムでは、手先の目標位置・姿勢だけでなく、重心やバランスも同時に評価し、追従精度と安定性の両立を最適化技術で実現しています。
ヒューマノイド型ロボットは自身の姿勢を正確に把握するのが難しく、IMUなどのセンサー誤差が蓄積されて姿勢推定がずれることも課題です。こうした問題をローレベル側で解決しながら、手先の動きを操作するためには階層的な制御が求められます。
世界的には、遠隔操作で人間の動作データを収集し、それを学習してロボットの自律動作に活かす「模倣学習」や「ロボット基盤モデル」が注目されています。ヒューマノイド型ロボットでも遠隔操作デモを通じてデータを蓄積し、最新の模倣学習手法で学習を進めています。遠隔操作によるデータ収集と学習を通じて、最終的にはロボットが自律的に動作できるようにするのが、現在の技術トレンドです。
松川 今回の共同研究では、自動制御と遠隔操作を組み合わせたハイブリッド型のシナリオを検討しています。遠隔操作で物を操作するだけでなく、歩行動作も含めて制御することや、一度停止してから動作を切り替えるなど、動きの安定性をどう担保するかが課題です。安全性を重視すると、歩行とマニピュレーション(物体操作)を明確に切り替えて制御する方が確実ですが、どこまで同時に動作させるべきか、シナリオ設計で悩んでいるところです。
小林 世間一般でも、歩行と物体操作を組み合わせることの難易度は高いです。最近の強化学習(RL)ベースの手法であれば、ロボットが歩行(下半身の運動)を学習する際に、上半身をランダムに動かしながら訓練することで、歩行中に上半身を遠隔操作してもバランスを崩さないようにできます。こうした上半身と下半身の相互作用をしっかり考慮できれば、歩行と物体操作を同時に行うことも十分可能です。
松川 上半身がさまざまな動きをしている間も、下半身が安定して歩行できるように学習させていれば、同時に動作させることも可能ということですね。
松川 全体として、ロボットの社会実装の未来をどう考えるかということを伺いたいと思います。最近はロボットの自律動作がかなり進んできている印象です。現状の技術進歩や、今後3年くらいでどこまで実用化が進むのか、小林さんはどう見ていますか?また、ロボットが進化しても人間の価値は残ると私は思っています。ロボットに完全に任せていいこともあれば、人間が最終的に制御すべきこと、あるいはロボットを使うべきでない領域もあるのかなと感じています。このあたりについてもご意見を伺いたいです。
小林 正直、3年後がどうなっているかは予測が難しいですが、現状で言えば、ロコモーション(移動)の技術はかなり進んでいて、限定的な室内環境や整備された場所での歩行は、ほぼ問題なくなってきていると思います。ただ、量産化や本格的な実用化については、まだ課題も多く、今は楽観と悲観が入り混じっている状況ですね。
松川 技術の進歩は感じますが、実際に現場でどこまで使えるかはまだ見極めが難しいですよね。特に、人間のような素早い判断や緊急対応が求められる場面では、ロボットのレスポンスや意思決定の遅さがネックになるのではないでしょうか?
小林 その通りです。マニピュレーション(物体操作)技術も進んでいますが、現状は人の動作データを学習させて汎用性を高める方向でやっています。ただ、コストや効率という観点では、まだ人間に及ばない部分が多いです。単純作業を長時間繰り返すことはロボットの得意分野ですが、判断ミスが許されないクリティカルな場面や、緊急性が高い作業は、現時点では人間が担当する必要があると感じています。
松川 やはり、単純作業や多少遅れても問題ないタスクならロボットの強みを発揮できそうですが、急ぎの作業や失敗が許されない場面では、まだ人間の方が優位ですよね。
松川 今後しばらくは、業務全体をロボットに任せるというよりも、緊急性が低く、反復的な作業をロボットにやらせて、人間とハイブリッドで業務をこなす形が現実的なのかなと思います。例えば、ファミレスの配膳ロボットも、人間ほど速くはありませんが、急ぎでない配膳には十分使えていますよね。
小林 そうですね。最初の落としどころとしては、そういった使い分けになると思います。しかも、ロボット自体が高価だと導入メリットが薄れるので、特定のタスクに特化した廉価なロボットが求められるでしょう。今はある程度何でもできる汎用ロボットを目指す流れが中心的ですが、今後は用途ごとに特化したモデルに再び回帰するケースが増えていくかもしれません。
松川 たとえば、「ダンボールを組み立てるだけ」みたいな特化型ロボットが普及して、将来的にはそうした技術が組み合わさって汎用化につながる、という流れが現実的なのかもしれませんね。最終的には「ロボットに任せた方が圧倒的に効率的」なキラーユースケースをいかに見つけるかが重要になりますね。
小林 その通りです。今後1〜2年で、そうした人間とロボットの最適な役割分担が具体的に見えてくるのではないかと考えています。
Physical AIは、社会の変革を促す新しい技術領域です。ヒューマノイド型ロボットの自律動作と遠隔操作技術の進化は、現場での人とロボットの協働をより現実的なものにしています。
今回の共同研究の成果として、デロイト トーマツのAI Experience Centerにヒューマノイド型ロボットが登場します。同記事でも語られているシナリオをぜひ体験ください。
今回の共同研究を通じて得られた知見は、今後の社会実装や新規ユースケース創出に大きなヒントを与えてくれるかもしれません。デロイト トーマツは、最先端の技術と現場の声を融合し、Physical AIの社会実装を加速させていきます。今後も、実現可能な未来に向けて、挑戦と発信を続けていきます。