量子技術は、教育DXや教育行政の高度化という観点から見れば、将来的に重要な基盤技術となる可能性があります。本稿では、量子技術が教育分野にどのような影響を与えうるのか、その可能性を探ります。
教育現場で量子コンピュータが活躍する未来は、まだ先かもしれない。しかし量子技術は、教育を支える社会・情報基盤を静かに変え始めている。
日本政府は、2021~25年度の「第6期科学技術・イノベーション基本計画」で、量子技術を社会経済および安全保障上の国家戦略の一つに位置づけた。基礎的な研究開発から社会実装までを一貫して推進する戦略のもと、産学官の連携と共創を通じ、国際連携、人材育成、社会機運の醸成など様々な取り組みが動き出している。
今後社会実装が見込まれる量子技術が次世代の教育分野においてどのように活用されうるのか。近年の生成AIの急速な普及により、教育DXへの関心は高まる一方、量子技術については「教育現場で何に使うのか」が十分に理解されていない。本稿では、量子技術を教育現場への直接的な適用対象としてではなく、「教育を支える社会基盤」、「教育行政の意思決定を支える基盤」として捉え、その可能性と今後の政策的示唆について考察する。
現在、生成AIや学習データ活用等のデジタル空間を中心とした変革(教育DX)が進展している。今後は物理面を伴う教育サービスとして、ヒューマノイドや自律型ロボット等のフィジカルAIが進展することにより、学校現場における人的支援、特別支援、施設運営等の教育サービス構造そのものが変化する可能性がある。
教育における技術導入の重要な特性として、「技術的に導入可能」であることと「教育現場に導入することが適切」であることは必ずしも一致しないことが挙げられる。
次世代の教育現場にフィジカルAIなどの先端技術を導入する際にも、安全性や安定性の観点は不可欠である。フィジカルAIの挙動を制御するためには膨大な計算リソースが必要であり、量子コンピューティングや量子センサー、量子通信などの既存の情報基盤を越えた先端技術の発展が求められる。
図表1:次世代の教育システムを支える技術イメージ
図表2:未来社会における量子技術活用イメージ
出所:内閣府「量子未来社会ビジョン~量子技術により目指すべき未来社会ビジョンとその実現に向けた戦略~」https://www8.cao.go.jp/cstp/ryoshigijutsu/ryoshi_gaiyo_print.pdf
2022年に内閣府が公表した量子未来社会ビジョンにおいても、量子技術は様々な領域において活用される社会基盤となるイメージが示されており、将来的な量子技術の教育への活用の余地は大きいと推測される。現時点で教育分野における量子技術の活用事例は限定的である。しかし、教育行政や教育DXを支える社会インフラへの波及可能性は大きい。
NEDOが公表する量子技術のユースケース事例集では、化学シミュレーションや材料開発、最適化問題など、従来の計算機では計算負荷が高い特定の計算領域に強みを持つと期待されている。これらの社会実装が進むことで未来の教育現場への適用が進む可能性がある。教育分野においては、その中でも学校配置や教員配置、時間割編成といった最適化問題への応用可能性が比較的イメージしやすい。また量子センサーや量子通信の進展は、将来の教育インフラそのものの高度化にも寄与する可能性がある。
図表3:量子技術の将来の教育分野における適用可能性イメージ
今後の教育DXは、教育現場のみならず、社会基盤、そしてそれを支える情報基盤まで含めて考える必要がある。量子技術は、直ちに教室で使われる技術ではなく、また教育そのものの形を直接的に変えるものでもない。しかし教育を支える社会基盤や情報基盤に変化をもたらす可能性を考慮すれば、教育政策としては、短期的な導入効果だけではなく、中長期的な影響までも見据えていく視点が今後求められるだろう。
参考文献:
1.内閣府「量子未来社会ビジョン~量子技術により目指すべき未来社会ビジョンとその実現に向けた戦略~」https://www8.cao.go.jp/cstp/ryoshigijutsu/ryoshi_gaiyo_print.pdf
2.国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2026), 「量子コンピューター ユースケース事例集 第二版」https://www.nedo.go.jp/news/other/ZZCD_100085.html
若菜 俊之
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