サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、2025年3月5日に我が国初のサステナビリティ情報の開示基準(SSBJ基準)を公表しました。SSBJ基準について最新情報を解説します。
2026年7月更新
サステナビリティ基準委員会(以下「SSBJ」という)は、2026年6月11日に、サステナビリティ開示実務対応基準第1号「温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて『気候基準』の定めに従う場合の開示」(以下「実務対応基準第1号」という)を公表した1。この実務対応基準第1号は、SSBJが2026年1月に公表した公開草案(以下「公開草案」という)に寄せられた意見に基づいて再審議を実施し、公開草案における提案を修正する形で公表したものである。
本解説記事では、実務対応基準第1号の概要について、公開草案からの変更点も踏まえて解説する。なお、併記している項番号については、特段の記載がない限り、実務対応基準第1号における項番号を指す。
SSBJが公表したサステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」(以下「気候基準」という)は、温室効果ガス排出について、原則として「温室効果ガスプロトコルの企業算定及び報告基準(2004年)」(以下「GHGプロトコル(2004年)」という)に従って測定しなければならないとしているが、法域の当局又は企業が上場する取引所が、温室効果ガス排出を測定するうえで異なる方法を用いることを企業の全部又は一部に対して要求している場合、企業のその部分について、当該方法を用いることができるとしている(気候基準第49項ただし書き)。気候基準BC125項は、気候基準第49項ただし書きにある「法域の当局又は企業が上場する取引所が、温室効果ガス排出を測定するうえで異なる方法を用いることを要求している場合」に該当すると考えられる例として、「地球温暖化対策の推進に関する法律」(以下「温対法」という)における「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」(以下「SHK制度」という)に基づく温室効果ガス排出量の報告が該当すると考えられる、と説明している。
2025年3月の気候基準の公表後、その適用を準備している関係者から、気候基準第49項ただし書きの取扱いを選択し、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて気候基準の定めに従った開示を行う場合に、以下の3点について見解が分かれているとの情報がSSBJに寄せられた。
こうした点についての見解が分かれていることにより、企業の実務における対応に多様性が生じ、気候基準の趣旨や企業間の比較可能性が損なわれる可能性があるとの懸念がSSBJに寄せられた。また、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いた場合は気候基準の定めに従った開示を行うことができないとの解釈があり、その解釈によった場合には企業において実務負担が生じる可能性があるとの情報がSSBJに寄せられた。
こうした状況を踏まえ、SSBJは上記の3点について明確化を図ることとし、実務対応基準第1号を公表した。
実務対応基準第1号は、温対法におけるSHK制度の対象となっている企業が、気候基準第49項ただし書きの取扱いを選択し、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて、気候基準の定めに従った開示を行う場合に適用される(第2項)。
なお、温対法におけるSHK制度の対象となっている企業が、気候基準第49項本文に基づき、GHGプロトコル(2004年)に従って温室効果ガス排出を測定するにあたり、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定した温室効果ガス排出を基礎として調整計算を行う場合、実務対応基準第1号は適用されない(第3項)。
気候基準第49項ただし書きの取扱いを選択し、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて測定を行う場合、以下の温室効果ガス排出を、スコープ1温室効果ガス排出及びスコープ2温室効果ガス排出のそれぞれに含めて開示することが要求されている(第7項)。
なお、これらの温室効果ガス排出については、いずれも追加の調整を行わない。ただし、後述(2)に記載のとおり、温対法におけるSHK制度の算定期間とサステナビリティ関連財務開示の報告期間の相違についてのみ、期間調整を行う(第9項)。
気候基準第49項ただし書きの取扱いは、企業に選択を認めるものであると考えられることから、実務対応基準第1号における定めは、スコープ1温室効果ガス排出とスコープ2温室効果ガス排出のいずれか又は両方に適用することができることを明確化した。ただし、開示される情報が不明瞭にならないよう、スコープ1温室効果ガス排出又はスコープ2温室効果ガス排出のいずれに適用しているかを開示することが要求されている(第8項)。
温対法におけるSHK制度では、温室効果ガスの種類によって、温室効果ガス排出量の算定期間が以下のように定められている(「温室効果ガス算定排出量等の報告等に関する命令」第3条)。
3月決算企業の場合、サステナビリティ関連財務開示の報告期間は4月1日から翌年3月31日までであるため、例えばハイドロフルオロカーボン類(HFCs)については、温対法におけるSHK制度の定める温室効果ガス排出量の算定期間とサステナビリティ関連財務開示の報告期間が異なることとなる。
このような場合、温室効果ガス排出の測定にあたっては、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出について、サステナビリティ関連財務開示の報告期間に合わせるよう調整することが要求されている(第9項)。
温対法におけるSHK制度の温室効果ガス排出測定の基本構造は、対象とする温室効果ガスの種類や対象とする温室効果ガス排出量の測定範囲等の観点から、GHGプロトコル(2004年)と類似していると考えられるが、その間には測定範囲や測定方法等について差異が存在する。例えば、温対法におけるSHK制度に関する環境省のウェブサイトに掲載されているQ&A4では、主に工場・事業所等の敷地外で使用している営業車や公用車は、温対法におけるSHK制度のもとでは温室効果ガス排出の算定対象外である旨が説明されている。
こうした差異を追加調整すべきかどうかについて、気候基準第49項ただし書きの取扱いは、法域の当局又は企業が上場する取引所が要求する方法とGHGプロトコル(2004年)に定める測定方法との間で差異が存在することを前提にしていること、また、測定範囲や測定方法の差異については、温対法におけるSHK制度の設計において重要性の判断がなされ、取り入れられなかったものと考えられることから、期間調整以外の追加の調整は不要とされている。
温対法におけるSHK制度においては、基礎排出量と調整後排出量の報告が要求されている。気候基準は、気候基準第49項ただし書きの取扱いを選択し、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いる場合に、基礎排出量と調整後排出量のいずれを基礎として用いるのかを明らかにしていない。
このうち、調整後排出量については、GHGプロトコル(2004年)のスコープ2温室効果ガス排出の測定では考慮されないオフセット項目が含まれていること等を踏まえ、調整後排出量よりも基礎排出量の方がGHGプロトコル(2004年)の測定方法との親和性がより高く、比較可能性を確保する観点からはGHGプロトコル(2004年)により近いものが望ましいと考えられたことから、実務対応基準第1号においては、温室効果ガス排出の開示にあたり、基礎排出量を基礎として用いることとした。
気候基準第53項においては、ロケーション基準によるスコープ2温室効果ガス排出の開示が要求されている。また、気候基準第54項においては、主要な利用者の理解に情報をもたらすために必要な契約証書に関する情報がある場合には、当該契約証書に関する情報又はマーケット基準によるスコープ2温室効果ガス排出量のいずれかを開示することが要求されている。
この点、実務対応基準第1号では、温対法におけるSHK制度に基づく間接排出について、マーケット基準によるスコープ2温室効果ガス排出に含めて開示することなく、実務対応基準第1号第7項(2)②に従い測定したロケーション基準によるスコープ2温室効果ガス排出(温対法におけるSHK制度に基づく間接排出に係る活動量に、環境大臣及び経済産業大臣が公表する平均的な排出係数を乗じる方法により算定した温室効果ガス排出量)のみを開示することは認めないとされている(BC31項)。
したがって、気候基準第49項ただし書き及び実務対応基準第1号に基づき温室効果ガス排出に関する開示を行う場合、ロケーション基準によるスコープ2温室効果ガス排出とマーケット基準によるスコープ2温室効果ガス排出の両方を開示することとなる。
実務対応基準第1号の開発にあたり、SSBJは、温対法におけるSHK制度以外の温室効果ガス排出報告制度についての検討は行っていない。企業が気候基準第49項ただし書きの取扱いを選択し、温対法におけるSHK制度以外の制度の定める方法を用いて気候基準に従った開示を行う場合は、個別に判断する必要があると考えられる。
企業が気候基準第49項ただし書きの取扱いを選択し、法域の当局又は企業が上場する取引所が要求する方法を用いて温室効果ガス排出に関する開示を行う場合、一般的には、当該方法が気候基準が定める温室効果ガス排出に関する開示のうち、どの部分に相当する開示を要求しているのかについて、法域の当局又は企業が上場する取引所が要求する方法ごとに判断することが必要になると考えられる。
しかしながら、実務対応基準第1号は、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて気候基準の定めに従う場合についての判断を示している。これにより、SSBJ基準を適用する企業の便宜を考慮し、企業が個別に判断することなく、わが国の温室効果ガス排出の測定実務において広く浸透している既存の温室効果ガス排出の報告に関する制度を最大限活用できるように、当該判断を示すことで企業の利便性を高めることを意図したものである。
実務対応基準第1号は、2027年3月31日以後終了する年次報告期間(2027年3月期)に係る気候関連開示から適用され、早期適用も可能である(第11項)。なお、実務対応基準第1号はSSBJ基準を構成するものであるため、SSBJ基準への準拠表明を行う際には適用される。一方、金融商品取引法に基づき有価証券報告書等においてサステナビリティ情報を開示する場合において、執筆日現在、金融庁長官が告示指定するサステナビリティ開示基準を改正する件についてのパブリックコメントが実施されており5、2026年6月11日までにSSBJから公表されたサステナビリティ開示基準に改正することにより、実務対応基準第1号がサステナビリティ情報の作成及び開示に関する基準を構成することになると予想される。
1 https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/2026-0611.html
2 基礎排出量のうち、「他人から供給された電気及び熱の使用に伴うエネルギー起源CO2」以外の温室効果ガス排出量をいう(第4項(3))。
3 基礎排出量のうち、「他人から供給された電気及び熱の使用に伴うエネルギー起源CO2」の温室効果ガス排出量をいう(第4項(4))。
4 https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/qa.html
5 https://www.fsa.go.jp/news/r7/shouken/20260624/20260624.html
2026年4月更新
サステナビリティ基準委員会(以下「SSBJ」という)は、2025年3月5日に、わが国最初のサステナビリティ開示基準となる、以下の3つのサステナビリティ開示基準(以下あわせて「SSBJ基準」という)を公表した1。
SSBJでは、SSBJ基準の開発にあたり、SSBJ基準を適用した結果として開示される情報がIFRSサステナビリティ開示基準(以下「ISSB基準」という)を適用した結果として開示される情報との比較可能性を大きく損なわせないものとなるようにするという方針のもと、SSBJ基準公表後の対応が定められている。この内容は適用基準の結論の背景に記載されており、その対応の1つとして、国際サステナビリティ基準審議会(以下「ISSB」という)により既存のISSB基準が改訂される場合、SSBJ基準における取扱いについて可及的速やかに検討を開始するとされている(適用基準BC19項(1))。
2025年12月に、ISSBにより、IFRS S2号「気候関連開示」(以下「IFRS S2号」という)における温室効果ガス排出に関する要求事項の一部を修正することを目的として、「温室効果ガス排出の開示に対する修正―IFRS S2号に対する修正」(以下「IFRS S2号の修正」という)が公表された。
SSBJは、こうしたISSBの動きに対応するために、2025年12月15日にSSBJ基準を改正するための公開草案を公表した2。これには、IFRS S2号の修正の内容を取り入れるために気候基準における温室効果ガス排出に関連する定めを修正することが主な目的であった。これらの公開草案は、コメント募集とSSBJでの再審議を経て確定基準となり、以下の3つのサステナビリティ開示基準(以下あわせて「改正SSBJ基準」という)として2026年3月13日に公表された3。
本解説記事では、改正気候基準における改正内容に焦点を当て、改正SSBJ基準の概要を解説する。
SSBJは、SSBJ基準の開発にあたり、基準を適用した結果として開示される情報が国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとなるようにするという方針に基づき、原則としてISSB基準の要求事項をすべて取り入れることとしている。SSBJはこの基本的な方針に基づいて、2025年12月にISSBから公表されたIFRS S2号の修正の内容をすべて改正気候基準に取り入れたうえで、ISSB基準の要求事項に代えて企業が適用を選択することができる追加的な選択肢や、ISSB基準に含まれない追加的な定めは設けないこととした。
このような対応により、改正気候基準においては、主に以下の定めに関する改正が行われた。
気候基準では、スコープ3温室効果ガス排出について、「温室効果ガスプロトコルのコーポレート・バリュー・チェーン(スコープ3)基準(2011年)」に記述されているスコープ3カテゴリーに従い、報告企業の活動に関連するカテゴリー別に分解して開示することを要求する定めが設けられている(第55項)。
この定めを適用するにあたり、スコープ3カテゴリー15に関する定めについて、IFRS S2号の修正における要求事項と整合するように、以下の改正が行われた。
気候基準では、報告企業が商業銀行又は保険に関する活動を行う場合、ファイナンスド・エミッションに関する追加的な情報の開示を要求する定めが設けられている(第57項、C5項及びC6項)。
この定めについて、IFRS S2号の修正における要求事項と整合するように、以下の改正が行われた。
気候基準では、温室効果ガス排出の測定において、法域の当局又は企業が上場する取引所がGHGプロトコル(2004年)とは異なる方法を用いることを要求している場合、当該方法を用いることができるとの救済措置が定められている(第49項但書き)。
この救済措置について、IFRS S2号の修正における要求事項と整合するように、報告企業全体のみならず、報告企業(グループ)の一部にも適用可能であることを明確化した(第49項但書き)。
気候基準では、7種類の温室効果ガスをCO2相当量に変換する際に、報告期間の末日において利用可能な、最新の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の評価における、100年の時間軸に基づくGWPを用いることを要求する定めが設けられている(第66項、第68項)。
この定めについて、IFRS S2号の修正における要求事項と整合するように、法域の当局又は企業が上場する取引所が異なるGWPを用いることを企業の全部又は一部に対して要求している場合、企業のその部分において、当該異なるGWPを用いることができるとする救済措置を追加した(第66項但書き、第68項但書き)。
改正SSBJ基準は、2027年1月1日以後開始する年次報告期間から適用され、早期適用が可能である(改正適用基準第92-2項、改正一般基準第41-2項、改正気候基準第101-2項)。これらの適用時期及び早期適用の定めについては、IFRS S2号の修正における発効日の定めと整合するように定められている。
1 https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/2025-0305.html
2 https://www.ssb-j.jp/jp/domestic_standards/exposure_draft/y2025/2025-1215.html
3 https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/2026-0313.html
4 IFRS S2号の修正においては「スコープ3カテゴリー15の温室効果ガス排出の合計」と「その合計に含まれるファイナンスド・エミッションの小計」の2つの項目の開示を要求している(IFRS S2号第29C項)が、気候基準においてはスコープ3温室効果ガス排出をカテゴリー別に分解して開示することが要求されており(気候基準第55項)、「スコープ3カテゴリー15の温室効果ガス排出の合計」の開示を要求する定めはすでに含まれている。
5 気候基準におけるこれらの定めは、IFRS S2号の要求事項に代えて企業が適用を選択することができる選択肢として設けられたものであったが、改正気候基準においては不要となったため削除された。
2025年3月更新
SSBJ基準の内容は国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が2023年6月に公表したIFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)と整合したものとなっており、温室効果ガス排出量についてはスコープ3まで開示が義務化されることとなります。
グローバルなサステナビリティ開示の基準であるISSB基準と、日本のサステナビリティ開示基準であるSSBJ基準の開発者と基準の構成は以下の通りです(図表1参照)。SSBJ基準は、わかりやすさの観点から、我が国におけるIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」に相当する基準を、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関して開示すべき事項(以下「コア・コンテンツ」という)以外の基本となる事項を定める適用基準と、コア・コンテンツを定める一般基準とに分けています。
図表1 ISSB 基準と SSBJ 基準の開発者と基準の構成
SSBJ基準の適用対象企業や適用時期については、現在金融庁が検討を行っているところです。現在の事務局案に基づけば、時価総額に応じて2027年3月期から段階的に東証プライム市場の上場企業は開示が義務付けられることとなり、また開示義務化の翌年からは第三者保証も義務化されることとなる見込みです(図表2参照)。
図表2 SSBJ 基準の適用対象と適用時期の検討状況
SSBJ基準が開示を要求しているのは、投資家の意思決定に影響を与えるようなサステナビリティ関連のリスクと機会についての情報です。財務諸表に開示されていないこれらの情報が、近年投資家の意思決定にとって急速に重要性を増してきていることが基準開発の背景にあり、日本のみならず多くの国地域において同様の開示基準の開発や開示・保証の義務化の動きが見られます。なお、投資家の意思決定に関連しないサステナビリティ情報については、SSBJ基準は開示対象として扱っていません(図表3参照)。これはシングルマテリアリティや財務マテリアリティと呼ばれるアプローチです。
リスクと機会の開示は、TCFD提言でおなじみの4つの構成要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標)で行います。リスクと機会を適切に識別することが、開示の第一歩であり、最も重要なポイントになると考えられています。
図表3 SSBJ 基準で開示が要請されるサステナビリティ情報