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監査業務への導入が進むAIを活用した不正検知モデル

AI・データドリブンによる監査の高度化で不正リスク低減とガバナンス向上に貢献

有限責任監査法人トーマツでは、AIを活用した不正検知モデルを監査業務に導入しています。財務諸表全体の不正リスク評価に不正検知モデルを活用し、勘定科目ごとのリスク評価には個別カスタマイズしたAIやデータ分析を実施しています。複合的異常検知モデル等とも組み合わせ、AI・データドリブンによる監査の高度化を目指します。

不適切会計の増加とリスクの抑制

2015年以降、不適切会計が明らかになった企業の数は増加しており、ビジネスの多様化と複雑化、経済環境の変化の加速状況を勘案すると、今後もこの傾向は続くと考えられます。こうした会計不正の発生は、企業に大きな損失をもたらすものであり、いかに不正リスクを抑えるかが急務の課題であると言えます。

AIを活用した不正検知モデル

ここの課題を解決するために、トーマツではAIを活用した不正検知モデル(特許第7216854号、2023年1月取得)を導入しています。

これまでは、監査人は監査先の財務データに対し、異常とみなす基準値や予算との比較、前期からの趨勢把握などによって、監査で重点的にフォローするグループ会社や勘定科目を選別していました。不正検知モデルでは、上場企業等の過去の不適切会計の傾向をAI・機械学習モデルに学習させており、監査先から入手した財務データを投入することで、予測モデルが不正リスクスコアを計算し、不正リスクが高い会社、勘定科目及び財務指標を識別できます。これにより監査人は不正リスクの分析を広範囲に効率的に行えるとともに、従来は識別しえなかった不正パターンの識別が可能となり、不正検知モデルで検知された不正リスクの兆候に基づいて監査人が監査先企業との議論をより深化させることで企業のガバナンス向上に貢献します。

不正検知モデルの概要

不正検知モデルでは、予測性能に優れる勾配ブースティング技術を採用し、2005年以降に公表された有価証券報告書および訂正報告書に含まれる財務諸表と業種などの定性情報をAIに学習させて、複数の財務指標から不正企業と正常企業との相違性を見出し、その結果を不正企業との近似度として0~1の間でスコアリングします。また、どの指標がスコアに影響しているのかに加え、会社別の各指標の時系列推移や、指標値の算定に使用した勘定科目の実数値を詳細に確認することができるため、AIが算出したスコアがなぜ高いのかを理解することが可能です。あわせて、不正リスクが高いと評価された企業と類似した不正シナリオを持つ過去の不正企業を参照できる仕組みも構築しています。

複合的異常検知モデル等との組み合わせによる深度ある不正リスク対応

グループ企業各社の財務諸表レベルに対して実施した不正検知モデルで、リスクの高い会社及び勘定科目を絞り込んだのちに、その会社の当該科目において不正リスクが高い取引を具体的に絞り込んでいく必要があります。分析対象を段階に応じて変更することで、財務諸表全体の俯瞰的なリスク評価から、個別科目のリスク評価や具体的な取引の検出に至るまでAI・アナリティクスを活用するアプローチを確立しています。これにより、従来は漠然とした質問や広範囲のサンプルテストで対応せざるを得なかったところ、具体的なグループ会社、具体的な取引先/商流/品目等の推移・増減・取引といった具合に解像度の高い絞り込みが可能となったため、監査人はよりリスク実態に合った対応に注力でき、また対応する監査先担当者の負担軽減に繋がります。

リスク評価の解像度をさらに上げる、複合的異常検知モデルの概要

上述したように、監査人はリスクが高いと評価した会社・科目の取引から、具体的に不正リスクの高い異常な取引の抽出を行います。この際、監査先のビジネスモデルを踏まえたリスクシナリオをベースに複数のリスク評価指標を設定して対応するなど、ビジネス実態に合わせた工夫を行っています。しかし、いずれかのリスク評価指標で突出した値でないと異常取引として識別しづらいことや、どの評価指標に重点を置くべきかの判断が難しいという課題がありました。複合的異常検知モデル(特許第7143545号、2022年9月取得)では、評価指標ごとに付与した異常度のスコアをAIにより複合的に組み合わせて統合スコアを算出することで、異常取引の識別を可能にしています。これにより監査人は従来のリスク評価手続を効率化するとともに、従来は識別が困難であった複数のリスクシナリオの組み合わせによる異常取引の識別が可能となり、監査の高度化が期待されます。


不正検知モデルの活用

不正検知モデルの利用は拡大しており、海外子会社等の財務諸表に潜む不正や誤謬の発見に繋がっています。被監査会社からは「AIによる客観的な視点で検討できる点に期待している」「小規模な会社にもスポットを当てられるため、グループ会社管理の強化に繋げられる」等のフィードバックをいただています。今後、不正検知モデルの更なる精度向上に向けて、海外の不正事例の追加学習や非財務データの有効活用などを予定しています。

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