2025年2月、EU上場企業が続々とCSRDの初年度開示を行う中、欧州委員会はオムニバス法案を公表し、CSRDの簡素化を提案しました。その後、オムニバス法案を受けて、CSRDの適用時期の一部延期、適用対象企業の縮小、開示内容の簡素化が行われました。2026年7月に欧州委員会が採択した改訂版ESRSを含むCSRDの現在の状況について、日本企業に影響がある内容を中心にご紹介します。
CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)とは、EUにおけるサステナビリティ情報の開示に関する規制です。CSRDは、ESRS(European Sustainability Reporting Standards)に従った環境・社会・ガバナンスの報告と第三者保証を要求しています。目的は、企業のサステナビリティ報告を充実させ、投資家や市民社会などのステークホルダーが比較可能で信頼性の高い情報を入手できるようにすることです。
CSRDは2023年1月に発効しましたが、2025年2月には欧州委員会がオムニバス法案を公表し、簡素化が行われました。
オムニバス法案とは、CSRDを含むEUにおけるサステナビリティ関連規制の簡素化を図る欧州委員会の提案です。目的は、サステナビリティ関連規制の簡素化により、EUの競争力を向上することにあります。
本法案を受け、2025年4月に適用時期を一部2年延期する「ストップ・ザ・クロック指令」が発効され、2026年3月に適用対象企業を縮小する「コンテンツ指令」が発効されました。さらに、2026年7月、開示内容を簡素化する改訂版ESRSが欧州委員会により採択されました。
CSRDと日本企業の関係は、①EU域内の子会社に対する域内適用、②日本親会社に対する域外適用、③CSRD適用対象外企業の3つに整理できます。EU域内適用企業は改訂版ESRSおよびEUタクソノミー、EU域外適用企業はESRS-40aまたは改訂版ESRSに基づいて開示します。また、CSRD適用対象外企業については、任意で開示をする場合に適用できるVS(Voluntary sustainability reporting standard)が設けられています。
ESRSは、CSRDに基づき企業が報告すべきサステナビリティ情報の具体的な開示内容を定めた報告基準です。
現行ESRSは2024年1月より適用が開始されていますが、オムニバス法案を受け、改訂が進められています。改訂版ESRSは、2026年7月に欧州委員会が採択済みで、EU理事会・欧州議会の異議申し立て期間を経て、2026年11月頃に発効見込みです。
改訂版ESRSは、現行ESRSから必須データポイントを61%削減し、定性情報を中心に開示要求を大幅に簡素化しています。主要な改訂ポイントは以下の5つに分類することができます。
マテリアリティ評価においては、企業の戦略や事業モデルなどの全般的な情報から重要なIROを特定する、トップダウン・アプローチを採用できることが明確化されました。また、開示は、重要でない情報は一部の例外を除き開示してはならないことが明文化されました。企業には、網羅的に情報を開示するのではなく、利用者の意思決定に重要な情報を的確に識別することが求められます。
企業の実務負担を考慮し、報告の範囲や指標の情報収集範囲の限定や過度なコストや労力がかかる情報収集の免除など、負荷軽減措置が導入されました。企業は、各措置の適用条件と必要な追加開示を確認したうえで、どの措置を利用するか検討する必要があります。
環境・社会・ガバナンスの各トピック別基準について、大幅な開示要求の削減と伴に、実務上の課題を踏まえた見直しが行われました。例えば、GHG排出量の報告範囲のアプローチの柔軟性向上、汚染物質や人権インシデントなどに関する要求事項が明確化されています。企業は、従来のデータポイントとの対応関係を見直し、改訂版ESRSに基づいて開示事項を再マッピングする必要があります。
企業の実務負担を考慮し、段階的に開示体制を整備し、情報収集し開示できるよう、一定期間に渡り一部の開示を免除する経過措置が設けられました。企業は、利用可能な経過措置を確認し、段階的な開示のロードマップを策定することが重要です。
改訂版ESRSでは、重要な情報を利用者に分かりやすく伝えるため、報告書の構造に関する自由度が高まりました。エグゼクティブサマリーを追加できるほか、EUタクソノミー開示や詳細情報を別添とすることも認められています。企業は、重要な情報を埋没させないよう、開示内容の削減と併せて報告書全体の構成を見直す必要があります。
ESRS-40aは、CSRDの域外適用を受けるEU域外企業向けの開示基準です。 EFRAG(European Financial Reporting Advisory Group)が2026年7月に公開草案を公表しており、今後、欧州委員会の採択などを経て2028年1月からの適用開始が予定されています。
ESRS-40aでは、企業が環境や社会に与えるインパクト・マテリアリティの観点からの開示が要求されます。基準開発は、改訂版ESRSを土台としつつ、ファイナンシャル・マテリアリティに関する要求事項の削除や、域外適用に必要な要求事項の追加などを行う形で進められています。
また、気候変動以外のトピックについて、報告範囲を「EU関連のインパクト」に限定できるMixed Approachオプションが提案されています。
CSRDは、サステナビリティ情報の信頼性を確保するため、域内適用・域外適用いずれも適用初年度から独立した第三者による保証を受けることを求めています。
域内適用について従来計画されていた合理的保証への段階的な引上げは、オムニバス法案による見直しの中で削除されました。
改訂版ESRSにより開示要求は大幅に削減され、企業の実務負担は軽減されます。一方で、重要な情報の特定や軽減措置の利用について、企業自身による判断の比重はこれまで以上に高まります。したがって、単に従来の対応計画を縮小するのではなく、新たな適用要件と改訂版ESRSに基づき、マテリアリティ評価、データ収集、開示内容、保証対応を一体として見直すことが重要です。
また、一部の日本企業には、SSBJ基準への対応も見据えたグローバルな開示体制の構築が求められます。制度ごとに個別のプロセスを構築するのではなく、共通する情報、データ、内部統制を可能な限り一元化し、制度固有の要求を追加する形で対応することが効率的です。
改訂版ESRSの確定を受け、企業は「何を開示するか」だけでなく、「何を開示しないか」「どの軽減措置や経過措置を利用するか」を含めた方針を明確にする必要があります。そのため、以下の6つの観点から、CSRD対応計画を再点検することが推奨されます。