2025年2月、EU上場企業が続々とCSRDの初年度開示を行う中、欧州委員会はオムニバス法案を公表し、CSRDの簡素化を提案しました。世界で最も先進的なEUのサステナビリティ開示制度の見直しは、CSRD適用対象企業のみならず、サステナビリティ開示の動向全体に大きな影響を及ぼしています。
2025年2月、EU上場企業が続々とCSRDの初年度開示を行う中、欧州委員会はオムニバス法案を公表し、CSRDの簡素化を提案しました。世界で最も先進的なEUのサステナビリティ開示制度の見直しは、CSRD適用対象企業のみならず、サステナビリティ開示の動向全体に大きな影響を及ぼしています。現行のCSRDの内容、オムニバス法案による改訂案の内容、現在(2026年3月1日)の状況について、日本企業に影響がある内容に限定しご紹介します。
CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)とは、EUにおけるサステナビリティ情報の開示に関する規制です。CSRDは、ESRS(European Sustainability Reporting Standards)に従った環境・社会・ガバナンスの報告と第三者保証を要求しています。目的は、企業のサステナビリティ報告を充実させ、投資家や市民社会などのステークホルダーが比較可能で信頼性の高い情報を入手できるようにすることです。企業のマネジメントレポート内に専用セクションを設けて開示することが求められています。
CSRDは2023年1月5日に発効しました。しかし、2025年2月26日には欧州委員会がオムニバス法案を公表し、CSRDの簡素化を提案しています。
オムニバス法案とは、CSRDを含むEUにおけるサステナビリティ関連規制の簡素化を図る欧州委員会の提案です。目的は、サステナビリティ関連規制の簡素化により、EUの競争力を向上することにあります。本法案は、日本企業を含むCSRDの適用対象企業や適用開始時期、開示内容などに影響を及ぼします。
CSRDの適用対象企業および適用開始時期は、以下の図の通りです。CSRDの特徴は、一定の要件を満たす場合、EU域外の企業にも開示義務が及ぶ点です。日本企業の場合、①EU域内の子会社(「EU子会社」)、➁EU域外企業として日本親会社(「JP親会社」)がCSRDの適用対象となる場合があります。
オムニバス法案により適用対象企業および適用開始時期に変更が生じています。適用開始時期の変更は、2025年4月にEUにて発効し、同年12月末までにEU各国で現地法化予定でしたが、一部の国で遅延しています。適用対象企業の変更は、2026年3月1日現在、EUでの発効待ちの状況で(2026年2月26日にEU官報に掲載、20日後に発効予定)、その後1年以内にEU各国で現地法化されることにより企業に適用されます。
ESRSは、CSRDに基づき企業が報告すべきサステナビリティ情報の具体的な開示内容を定めた報告基準です。
2023年7月に欧州委員会で採択され、2024年1月1日より適用が開始されています。また、ESRSとは別にEU域外企業向けの報告基準が作成される予定です。この基準は、NESRS(ESRS for Non-EU Groups)や第三国基準と呼ばれます。欧州委員会は2025年10月に、NESRSの採択は早くても2027年10月1日以降になると発表しています。
JP親会社を含むEU域外企業は、①NESRS、➁ESRS、➂ESRSと同等とみなされる基準のいずれかに基づいた報告が求められます。ただし、ESRSと同等とみなされる基準はまだ決定されていません。また、NESRSに基づく場合、EU子会社での開示免除規定(会計指令2013/34/EU 19a.(9)および29a.(8)参照)は適用できないことに留意が必要です。
ESRSの構成:ESRSは全部で12の基準から構成されます。横断的基準が2個、環境・社会・ガバナンスのトピック別基準が10個です。
現行のESRSは開示項目も多く、企業の負担が重いとの指摘があり、大幅な簡素化が提案されています。2025年12月上旬に欧州委員会の要請に基づきESRSの改訂を担うEFRAG(European Financial Reporting Advisory Group)が改訂案の草案を欧州委員会に提出しました。12の基準から構成されることに変更はありませんが、開示必須のデータポイント数の61%削減、各種軽減措置の導入、ISSB基準と整合性の向上等、大幅な簡素化が提案されています。2026年夏頃に最終化される見込みです。
参考:EFRAG - EFRAG’s Cover Letter - Technical advice regarding the Amended ESRS, EFRAG - Draft ESRS
CSRDはサステナビリティ情報の信頼性確保のため、財務情報と同様に監査人等の独立した第三者による保証を求めています。適用初年度から限定的保証の取得が義務付けられています。なお、従来のCSRDでは保証水準を将来的に合理的保証へ引き上げることが計画されていましたが、オムニバス法案では当該計画の削除が提案されています。
オムニバス法案の進展により、適用対象やESRSの削減方向性は固まりつつあります。不確実性の完全な払拭を待つのではなく、以下の3点でCSRD対応計画を再構築すべきです。
1)CSRD適用判定と計画更新
EU子会社とJP親会社のCSRD適用有無を再確認する必要があります。EU子会社の適用初年度の期首までの期間は、12月決算の場合は1年弱、3月決算の場合は1年強、と猶予はありません。また、JP親会社は多くの企業でSSBJとの同時対応を見据えた効率的なプロセス構築が求められます。
2)ESRS確定版を待たず、改定案への着手
ESRSの最終確定は今夏と見込まれますが、企業の準備状況によっては、確定を待つことで手遅れになるリスクがあります。改定案ベースで重要領域の準備を先行させることが、結果として円滑な対応につながる場合があります。
3)グローバルな規制動向の把握
欧州・日本に加え、米国や豪州など他国のサステナビリティ開示規制も視野に入れ、グループ全体で重複を排除した計画を策定してください。これが中期的な視座に立った際、経営資源の最適配分を実現する、最も合理的かつ戦略的なアプローチとなります。