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金融セクターにおけるAI規制の現状

AIの機会とリスクのバランスの確保と金融機関に求められる説明責任

人工知能(AI)は、利用可能なデータの量の増加と計算処理能力の向上により、金融サービス・セクターにおいて広く利用されるようになってきている。AIは、フリクション・コストの低減や生産性の向上などを通じて、より一層の効率化や収益性の向上に寄与し得るなど、金融サービス・セクターにおける伝統的なビジネス・モデルを変革する可能性を有している。他方で、AIは、既存のリスクを増幅し、また、新たなリスクを生じさせる懸念がある。AIのその「見えざる手」が社会の利益のために利用されることを確保するため、AIを適切に規制する必要があると認識されいている。

本稿では、特に、AIの規制の動向に焦点をあて、国際的な議論や金融セクターにおける取組みなどを紹介しつつ、金融機関としてどのようにAIのリスクに対峙すべきであるかを考察している。具体的には、2019年のOECD AI原則のほか、UNESCOの「AIの倫理に関する提言」(2021年11月)、G7首脳の広島サミットにおける合意(2023年5月)などのAIの規制にかかる国際的な動向を整理するとともに、主要な国・地域のイニシアティブとして、欧州連合(EU)のAI法(2023年6月採択)(表1)、英国の「AI規制の枠組み(案)」(2023年3月)、日本の「「AIに関する暫定的な論点整理」(2023年5月)について概説している。加えて、金融セクターの動向として、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)、欧州保険・年金監督局(EIOPA)および証券監督者国際機構(IOSCO)の取組みを紹介しながら、金融機関としてAIを利用する上で説明責任を果たすことが重要となること、また、適切な規制・監督が必要となることを指摘している。

なお、本レポートは、「保険セクターにおける人工知能(AI)の規制・監督の現状」(Center for Regulatory Strategy US, Deloitte)と相互補完関係にあり、両レポートを合わせてお読みいただくと、グローバルなAIの規制の全体像がよりご理解いただけます。

 

【表1. EU AI法における許容できないリスクと高リスクの概要】

(出所)EU AI法案(2023年6月14日版)をもとに、筆者作成。網羅的なリストで無いことに留意されたい。

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