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米国保険市場の変化と保険ERM

「国境を越えた保険規制:国際的変化への米国での対応計画」より、国際規制動向に対する米国保険規制の変化と対応(2015.10)

米国の保険制度は、独自の構造を持つが、世界第一の保険市場を有する米国の国際規制に対する発言力も大きいです。米国保険市場の変化を理解することは、今後の日本の保険会社の参考になると共に、国際規制論議の動向を理解する上でも必要となります。

今、米国保険市場に変化が起こっている

IAISを中心とした国際基準の論議の影響が、米国市場にも変化を及ぼしている。法人単体ベースの監督の下で事業を運営することに慣れている米国保険会社にとって、最も明らかな変化の一つはグループベースの監督であり、もう一つは統合的リスク管理(ERM)とコーポレート・ガバナンスの両方が改めて強調されることである。

一方、その変化に対応して、実現される利益の大きさと比較してコンプライアンス費用の増大がどの程度になるのかはまだそれほど明白ではないのも事実である。

規制変更における国際的な影響の増大

金融市場の下落前、米国保険会社の規制はほぼ全体的に米国中心の指標を用いたクローズドなNAICの体制により行われており、IAISやIMFのような組織を通じた影響は比較的限られていました。金融市場の下落後は、既存の組織(IAIS等)に加えて新しい組織(G20等)も保険規制のグローバル化と中央集権化に向けて動き出しました。その結果、米国の規制に対する国際的な影響が増加しました。
出典:デロイト「国境を越えた保険規制」2014年p4より抜粋

国際的規制は、全ての米国保険会社に影響を及ぼしている

国際的な規制要求その他の重要な動向は主に以下の3つから発生する。

● 保険基本原則(ICPs、最終改訂2012年)
● ComFrame(現在実地検証中)
● グローバルなシステム上重要な保険会社(G-SIIs)

ComFrameおよびG-SII規制の直接的影響は少数の大規模会社に限定されるだろう。しかしながら、そのトリクルダウン(浸透)効果は非常に大きくなる可能性がある。特にG-SIIsやIAIGsには次の影響がある。

● システミック・リスクの発生源であるとみなされていること
● 保険事業を複数の管轄区域で営んでいること
● その性質、範囲、規模または複雑性からして、追加的な規制/規制上の期待が求められるものであること

また、NAIC16(ORSA)において、持株会社の直接監督を米国法と整合的な何らかの形で導入しようという動きがある。これはICPsから派生した動きであり、今後の進展が予想される。

国際規制の影響鳥瞰

米国内のみで事業活動を行う保険会社は、ICPs等を通じてIAISの取り組みに間接的な影響を受ける。

一方、米国のグローバル保険会社は、国内での取り組みと国際的な取り組みの両方の影響を受ける。また、ComFrameとシステム上の重要性の問題以外に、各管轄区域の国際規制当局が規制上の要求をそれぞれ異なる方法とスケジュールで導入することも考えられるため、米国のグローバル保険会社は事業活動を行っている全管轄区域の様々な国際規制当局の動きを把握することが必要である。
 

グローバル規制は全ての米国保険会社に影響する

出典:デロイト「国境を越えた保険規制」2014年p9より抜粋

米国保険会社の対応の視点

デロイトUSは、これまでの米国保険規制の変化やサーベイ結果を踏まえ、「国境を越えた保険規制に国際的変化への米国での対応計画」というレポートを出している。その中から、対応の報告制について指摘している、その部分を抜粋する。

これまで法人単体ベースの監督の枠組みの中で事業活動を行ってきた米国保険会社にとっての最大の課題は、米国には現在グループ資本基準が存在しないということである。また、二次的な課題は、何を基準に必要資本を決定すべきかである。
これまで米国の規制当局の目的は常に保険契約者の保護にあった。したがって、必要資本もこの目的を反映して設定される傾向がある。一部の国内および国際機関が主張するように、必要資本を金融システムの安定性を維持するためのツールとしても利用するとの決定が下された場合、要求される資本の水準だけでなく上記のアプローチにも見直しが必要となる。

欧州の保険会社が経験した以下の障害は、米国保険会社にも参考になる。

● 規制変更に対する効果的な計画立案にあたって統一された見解をもつ保険会社はまれであること
● 規制対応能力および洞察が戦略的意思決定に適切に反映されていないため、多くの場合戦略的意思決定を行う経営幹部を十分に支援できていないこと
● 規制変更による現在の大混乱に対処する方法の一つは、規制対応の問題に存在する不確実性を認識するための諸々の行動規制を一つのアプローチに統合することである

これは、例えば、会社全体の様々な主要規制の変更活動の調整を担う機能の設置、それら全活動の全社的な統合、予見可能な規制への調整された対応と未確認事項に対するシナリオ・プランニング手法の適用、緊急対応チームの設置、そして、規制分析を実行可能な計画に落とし込むための枠組みを提供する新しい業務運営方法を最終的に組織に埋め込むことを意味する。

参考:【米国保険規制の特徴】

  • 現在の米国の保険規制は、主として州の管轄で行われている。現在の制度の起源は、州の保険局長がニューハンプシャー州で初めて任命された1851年およびマッカラン・ファ―ガソン法を通じて議会で正式に成文化された1945年に遡る。
  • このような各州の保険規制が連邦保険局(FIO)から重複が多く無駄な高コストにつながっているケースが散見されると批判されている。
  • また、米国の保険規制の分類は一見明快に見えるが、実際上は、厳密には規制当局ではないにもかかわらず大きな影響力をもつ組織の影響を受ける場合がしばしばある。
    例えば、米国の50の州、5つの米国領土およびコロンビア特別区といった各管轄区域の保険規制当局は全て、民間の非営利組織であるNAICに加盟している。NAICは各管轄区域の保険規制当局によって基準設定組織と認められており、ガイダンスマニュアルの発行その他のそれを裏付ける証拠があるにもかかわらず、NAICは法律上認められた規制当局ではない。NAICは、特定の問題についての州の規制当局の過半数が妥当と考える対応方法を反映する「モデル法」を採択することにより機能している。しかしながら、それが法として成立するためには50の各州の州議会がそれぞれ別々にモデル法を可決し、各州の知事がこれに署名しなければならない。
  • 金融危機とドッド・フランク法の成立以降、FRBに一部の保険会社を直接規制する権限が追加された。銀行および貯蓄金融機関の持株会社(保険会社も含まれる)に対する規制権限に加えて、FRBはシステム上重要な保険会社に指定された保険会社(指定はFSOCが行う)も規制する。FIOとOFRはいずれも規制当局ではなく、両者とも米国財務省の一部門である。ただし、FIOは国際的な保険組織において実際に米国を代表している。また、FIOは、NAIC、FRB等とともにIAISに加盟している。

参考:【国際的な保険規制を担う機関】

  • IAISは、最上位のグローバル保険基準である保険基本原則 (ICPs)を策定する責任を負っている。理論上、これらの原則は保険規制における国際間のレベルプレーイングフィールドを設定するものであり、加盟国の保険規制の指針となることが期待されている。IMFは、1999年に制定された一国の金融セクターの包括的かつ詳細な分析である金融セクター評価プログラム(FSAP)を通じてIAISのメンバーに加わっている。IMFはICPsに基づいて各国の保険規制を評価する。

 

「国境を越えた保険規制:国際的変化への米国での対応計画」

英語原文:Insurance regulation without boundaries:How to plan at home for change from abroad(PDF)

国際的な保険規制の設定機関

出典:デロイト「国境を越えた保険規制」2014年p6より抜粋

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デロイト トーマツ グループでは、保険ERM態勢に関し、基礎的な情報提供から、各社固有の問題解決まで幅広く関わり、Deloitte Touche Tohmatsu Limited(DTTL)のグローバルネットワークを駆使し、最新の情報と豊富なアドバイザリーサービスを提供します。

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(ブロシュア、PDF、384KB)

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