ナレッジ

インシュアテック時代における保険のイノベーションの加速

未来の保険会社に求められる進化と変革

保険業界はこの数年間イノベーションの必要性を認識し様々な取組を試みてきた。しかし現実的には多くのケースにおいて真の革新よりも従来システムの強化に重点が置かれている。本レポートでは、なぜ革新が阻まれてしまうのか、そして革新を進め未来の保険会社を確立するために必要な視点は何かを述べている。

保険業界におけるイノベーションの現状

今回デロイトは、イノベーションの観点から業界の現状を評価するため、保険会社、インシュアテック・ファシリテーターおよび格付機関へのインタビューを実施した。

 

インタビュー結果によるキーメッセージ(一部抜粋)
  • ほとんどの保険会社は、旧来のシステムや商品、ビジネスモデルの強化を重視する一方、顧客中心主義となる経済において自社を差別化するであろう破壊的なイノベーションへの十分なリソース配分を怠っている。
  • 成熟しつつあるインシュアテック市場に対する投資のうち、保険会社は今年わずか1/4を占めているにすぎない。イノベーションの加速を促進するためには、スタートアップ企業を特定のソリューションを持つ単なるベンダーとしてではなく、共同開発者やパートナーといったエコシステムとして扱うべきである。
  • 保険会社は、ますます厳しくなる格付機関の精査に直面している。格付機関は、保険会社がどの程度効果的にイノベーションを開始し、管理しているかを分析しているが、さらに重要なこととして、測定可能な効果を彼らがどのように立証するかという点が挙げられる。
  • 保険会社における戦略とオペレーティングモデルの根本的な変化を伴わない限り、テクノロジーだけを向上させても持続可能なイノベーションを促進することは不可能である。
  • 最終的に保険会社は、自らのビジネスを時代遅れのものとしないよう周辺領域および変革をもたらす取り組みを活性化させるべく、中核領域のイノベーションから発展させる必要があるだろう。これらは、新たなビジネスモデルと代替的収益源を追及する専門チームにより、既存のシステムの改善と並行して進められる。

 

インシュアテック企業はベンダーではなくイノベーションパートナーとならなければならない (一部抜粋)

成熟するインシュアテック開発のエコシステムにおいて、より影響力のある立場を確保するため、保険会社は迅速に動く必要があるようだ。新規のインシュアテック企業の設立は、過去18カ月間の間減少し実質的に休止状態にあり、保険会社が初期段階から参加する機会は限られている(図参照)。

保険会社自身の投資は、インシュアテックに今年投資された金額のうち4分の1を占めるにすぎず、大抵の保険会社は外から眺める傍観者か、完成されたものを利用する受け身な顧客にすぎない。この傾向は、目に見える成果を求めるがあまり、これまであまり成果が見えなかった斬新なアイディアへの投資ではなく、より確立したインシュアテックの中から投資や導入の選択肢を評価するための目利きを重視したアプローチを業界の大多数が採用していることを示しているだろう。
しかしながらそれは、保険会社がインシュアテック企業とより緊密な関わりを持つべきではないということを意味しているのではない。大きな障害となっているのは、多くの保険会社がインシュアテック企業などの新しい勢力を未だに他のソフトウェアベンダーと同様に扱い、時代遅れの契約やオンボーディング基準(新規の業者を受け入れるための基準)、プロセスに従わせていることである。このような時代にそぐわない思考や行動を破壊するためにこそ、インシュアテック企業は立ち上がってきたと言える。

出所:Venture ScannerのデータをもとにDeloitte Center for Financial Services分析

イノベーションを促進するために組織のオペレーティングモデルとカルチャーを再構築することに対する見通しは、暗いかもしれない。当然のことながら、多くの保険会社が、老朽化したインフラストラクチャーの維持および強化のために必要な漸進的な修正やアップグレードを行うことに注力している。しかしながら、インタビューを実施した人々は、社会や経済が急速に変化する中において、時流に乗り、競争力を維持し、収益性を保つために必要な差別化をもたらすイノベーションを成し遂げるべく、保険会社はこれまでよりもはるかに大胆により系統立った方法で考え、行動するべきだと繰り返し強調している。

 

保険会社は始めに次のステップを検討する必要がある:

  1. 持続可能なイノベーションについて、より大きなコラボレーションを促すビジネスアーキテクチャーを社内外で構築する
  2. イノベーションに対する期待値を管理し、測定可能な目標やベンチマーク、報酬によって実験的取組みにインセンティブを与える
  3. 迅速に学び、ギアをすばやくシフトする
  4. テクノロジーにとどまらず、イノベーションに欠かせない他の要素、特に人材を変革する

 

未来の保険会社をつくる

社会や経済が劇的に変化する局面においては、現状のシステム、販売オプション、ビジネスモデルを維持するための漸進的イノベーションでは十分とは言えないだろう。保険会社がどのように経営し、いかようにして価値を提供するのかを根本的に変えることが成否を分かつ結果となりつつあるのは必然だ。

これは、ほとんどの保険会社が単にイノベーションをかじるだけではいられなくなるということを意味している。保険会社にはイノベーションを通じてゲーム運びの腕を上げ、他者に破壊されたり取って代わられたりする前に、自らの手で創造的破壊を行う時間がまだ残されているのだ。

(原文):Accelerating insurance innovation in the age of InsurTech(PDF)

 

原著・注意事項
本誌はDeloitte Center for Financial Servicesが発表した内容をもとに、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社が翻訳・加筆し、2020年5月に発行したものです。和訳版と原文(英語)に差異が発生した場合には、原文を優先します。



お役に立ちましたか?