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「スタートアップの発展は地域経済の成長エンジンとなるか」について話し合う有限責任監査法人トーマツ 地域未来創造室の香月稔と静岡県知事 鈴木康友氏、一般社団法人静岡ベンチャースタートアップ協会代表理事 篠原豊氏の3名

スタートアップの発展は地域経済の成長エンジンとなるか

スタートアップは、革新的なビジネスモデルによって社会にイノベーションを起こす原動力であり、社会課題解決の担い手にもなる存在だ。そのため自治体とスタートアップとの連携が推進されているが、まだまだ実績は少ない。背景には、優れた連携事例のノウハウの共有機会が少なく、横展開が進みにくいことがある。

有限責任監査法人トーマツ(以下トーマツ) 地域未来創造室の香月稔が、スタートアップの成長の後押しや誘致に注力し、県の産業振興を図る静岡県知事 鈴木康友氏と、一般社団法人静岡ベンチャースタートアップ協会代表理事 篠原豊氏に「スタートアップの発展は地域経済の成長エンジンとなるか」をテーマにお話を伺った。

スタートアップは地域の持続的な成長の基盤になる

香月:
鈴木知事は浜松市長時代からスタートアップ支援に力を入れてこられました。2014年の段階で起業促進事業「はままつスタートアップ」に着手されましたが、圧倒的当事者意識を持ち、スタートアップ支援・政策に取り組むことを一丁目一番地にしてきた理由から教えてください。

スタートアップ支援・政策に取り組む理由を尋ねる香月

有限責任監査法人トーマツ 地域未来創造室 パートナー 香月 稔

鈴木知事:
2007年に浜松市長に初当選し、翌年にリーマンショックが起きました。その後、浜松の開業率は激減して全国平均以下に。廃業率ははるかに大きくなり、愕然としました。

浜松は元祖スタートアップのまちです。繊維産業、楽器産業、二輪車産業、四輪車産業などの町工場が世界のリーディングカンパニーへとみるみる成長してきました。地域の産業基盤が強くなれば地域経済が大きく発展することを私たちは目の前で見てきましたし、世界に目を向けると、経済成長を遂げている地域にはほぼ例外なくスタートアップが集積しており、地域を活性化させる様々な相乗効果をもたらしています。

もう一度、浜松を活性化するには、スタートアップが生まれ育ち、集まる土壌をつくる必要があり、「やらまいか」の精神で臨みました。

浜松とスタートアップの関係性について説明する鈴木知事

静岡県知事 鈴木 康友氏

香月:
スタートアップのメッカ、アメリカ・シリコンバレーでは、特有のコミュニティが形成されていることが知られています。いかにスタートアップ精神を持つ人たちのコミュニティをつくるか、さらにはどのように関係性を深めていくかが、まずは課題であろうと想像します。

鈴木知事:
その通りです。当時は手探りでしたが、浜松にあるベンチャーの要素や志を持つ企業に集まってもらい、「浜松ベンチャー連合」を立ち上げました。集まる場を設けたり、意見交換を重ねたりしていくうちに、「市や行政に頼っていてはいけない」と自ら動き出すメンバーが出てきました。

機運をさらに高め、本気になってもらうには、私自身が熱量を見せなければいけない。スタートアップ関連のイベントにはすべて参加しました。イベントのTシャツを着て最初から最後までピッチの審査員をしたし、ピッチ後の交流会にも行きました。

香月:
知事ご自身が20代で起業した経験をお持ちですから、影響力は大きかっただろうと思います。その後は、資金調達支援などにも着手されますね。

鈴木知事:
はい、ベンチャーキャピタルと連携した「資金調達支援」、経費の補助や実験場所の提供をする「実証実験に対する支援」など自治体としての促進事業を強化していきました。

必要なのはスタートアップ・エコシステム

香月:
2024年5月に知事に就任してからは、浜松での機運をオール静岡にしていこうと取り組まれています。就任直前の4月には一般社団法人静岡ベンチャースタートアップ協会を立ち上げられました。

鈴木知事:
本県のスタートアップ・エコシステムは地域に分散しており、県全体での意見集約や提言機能が不足していました。特にアーリーステージにおけるスタートアップに対してベンチャーキャピタルやコーポレートベンチャーキャピタルとの交流や支援が不足しており、結果として企業・人材の流出が起きていました。県全体での成長環境の整備が求められるなかで、団体をつくることはマストでした。

さらに、本県の主要産業である自動車産業は、EV化や自動運転といった100年に1度の大変革期に直面していますし、それ以外の産業においても、人口減少に伴う市場縮小や労働力人口の減少、デジタル化の進展などへの対応が求められています。県内企業の9割以上を占める中小企業が、こうした社会情勢や経済環境の変化に対応するためには、新分野・新事業への進出や、新製品開発等に向けた取り組みを促進することが必要で、先端技術により新たな市場を生み出すスタートアップは欠くことができないプレイヤーだと考えます。

地域でスタートアップが生まれ、育ち、事業化してイグジットしていく。そしてまた新たな社会課題を見つけた起業家がスタートアップを立ち上げる。さらに、スタートアップが集まるから投資家も集まる。こうした好循環、スタートアップ・エコシステムを作り上げることが重要であり、実現のためには行政による支援や環境整備も不可欠です。

香月:
静岡県には今、個性豊かなキーマンが集まってきていますね。

鈴木知事:
西部地区にはものづくりの集積という特長があり、中部地区にも東部地区にも高いポテンシャルがあると感じています。

一例を紹介すると、駿河湾では海洋関連産業のマリンオープンイノベーションプロジェクトが進んでいます。沼津市では県が開設した研究拠点施設「AOIーPARC」でAOI(アグリ オープン イノベーション)プロジェクトを始めて、農業のさまざまなスタートアップが動いています。CNF(セルロースナノファイバー)関連産業が活気づいているのが富士市です。長泉町はファルマバレープロジェクト(富士山麓先端健康産業集積プロジェクト)の中心地。医療機関などの産業クラスターが形成されています。

地域資源を最大限に活用し、実証フィールドとして提供することで、多くのスタートアップを誘致できるはず。その際には、東部・中部・西部の地域性の違いこそが、本県の強みになると考えます。

AOIプロジェクトの拠点「AOIーPARC」(所在地:沼津市)

香月:
伊豆では温泉旅館をリノベーションして、支援拠点やサテライトオフィスを整備することが大きな話題になりました。スタートアップの積極的な誘致がはじまっていますね。

鈴木知事:
誘致に当たっては、私が市長時代に実践し、誘致効果が高く大きな経済波及効果を生んだ「資金調達支援」や「実証実験に対する支援」などを全県展開することで、スタートアップ支援を充実・加速化していくつもりです。

香月:
農業分野もプロジェクトが動いておりますが、取り組みをお教えいただけますでしょうか。

鈴木知事:
掛川ではとてもいい和栗が生産されていますが、農家が減り、衰退してしまっています。掛川栗を復活させて世界に発信していこうと、「遠州・和栗プロジェクト」が進行しています。また静岡といえばお茶ですが、「お茶はタダ。お茶農家や茶商の皆さんはこのままでいいのか」「日本全体でお茶が盛り上がり出した今、静岡がリードしていくべきだ」という声も上がってきて、お茶畑にしつらえを整え、茶器、所作など、一つひとつに価値をつけた高単価のお茶ツーリズムが形になろうとしています。

香月:
静岡県では各地域において強みのある産業や、県が進める次世代産業関連プロジェクトとスタートアップをマッチングしていることがとても興味深いですし、「やらまいか」の精神を感じます。

鈴木知事:
地方は大手デベロッパーの再開発でまちづくりをすることはできません。ですが、スタートアップの存在によって、社会課題の解決であったり、多様な人材の交流を活発化して地域活性、地元企業の発展を図ったりすることはできると考えます。

若い世代の起業マインドを醸成

香月:
オール静岡で取り組んでいくには、スタートアップと全く縁がなかった人たちの巻き込みが重要と思います。篠原さんは、スタートアップの誘致、育成、コミュニティづくりを進めていく上でどんなことが重要になるとお考えですか?

篠原:
県内でスタートアップを育成していくことについては、間違いなく若い世代がカギになります。

学生のうち、Day1の段階からグローバルを目指して「自分にもできるのではないか」という感覚を持たせる。もしくは体験させる。これが一番いいと思っています。

スタートアップの育成は若い世代がカギになると説明する篠原氏

一般社団法人静岡ベンチャースタートアップ協会代表理事 篠原 豊氏

鈴木知事:
おっしゃる通りだと思います。高校生のピッチもすばらしいですから。

篠原:
学生たちがアイデアを発表して、例えばインドや東南アジア、アフリカなどに派遣する。すると、日本と真逆の課題だらけの現状を知り、今度は「自分は静岡だけでなく、世界を救える」「何かを変えられる」そういった感覚が芽生える。そこからグローバルを最初から目指せるような企業が出てくるのではないでしょうか。

そもそも日本は、世界の先進国の中で一番起業しやすい国だと僕は思っています。人種は関係ないし、親に資金があるなしに関わらず進学できる。学歴の敗者復活もある。選抜を勝ち抜かなくても起業のチャンスを与えられますし、実績がなくても補助金を使える。こんな国は他にはなかなかないですね。

鈴木知事:
私の高校時代には、世界を目指すという人生設計は誰も持っていませんでした。大学に行って、企業に入るという発想しかなかった。けれど世界に目を向けると、インドでも中国でも、優秀な人材は起業している。起業がキャリアのひとつなんだという文化が日本でも根付くといい。もちろん、スタートアップマインドを持つ人たちが企業人として育っていくことも必要です。

篠原:
起業はしやすいけれど、1回目のチャレンジではほとんどの人が失敗するということには目を向けなければなりません。その際は、地域の支援者に受け皿になってもらい、もう一度プランを練って、失敗した経験をもとに2回目のチャレンジをして欲しい。これがコミュニティの礎になります。

鈴木知事:
スタートアップの成長には、ロールモデルとなる先輩起業家が身近に存在し、リアルに顔を合わせて、お互いに切磋琢磨するコミュニティの形成が大変重要ですからね。

それから、昔は失敗したら二度と再起できないようなところがありましたが、日本も失敗に寛容な国、いい環境になってきたのはよい傾向だと感じます。

香月:
同感です。ただ、2回目のチャレンジを失敗した時のセーフティーネットをどう作るかは考えないとなりません。

篠原:
そうですね。夢は大きく、ホームランを狙っていただきたいですが、挑戦の中で空振りや三振があることを前提に、支えて応援する文化をつくらないとなりません。

香月:
篠原さんは長く東京で仕事をされて、国内外でスタートアップを複数立ち上げた経験をお持ちです。どういった地方のスタートアップならグローバルを目指せると思いますか?

篠原:
言語依存型の、いわゆるソフトウェアアプリのようなものでは、世界のトップは取れないという結果が残念ながら出てしまっています。一方で、静岡で成功した自動車、バイク、光電子部品といった技術は非言語依存。地方では、ディープテックや一次産業のDXの分野は可能性があるのではないでしょうか。実証実験も社会実装も、大都会・東京では場所もないし、様々な制限を受ける。ですが地方には広大な土地もあります。

香月:
シリコンバレーも地方だから強いのですよね。

篠原:
そうですね。地方だから、自動運転モデルの試験走行が大々的にできるのです。ニューヨークやロサンゼルスではそうはいきません。

これは静岡に限った話ではなく、地方にチャンスがあるということでもあります。ただ静岡は、首都圏にも関西や中京圏にもアクセスが良好。これは大きなアドバンテージだと思います。

香月:
人口減少が進む中、二拠点居住への関心が高まっている点からもアクセスの良さは強みになり得ますね。

鈴木知事:
移住が叫ばれていますが、ハードルは非常に高い。二拠点で活動して、コミュニティを形成、活性化していくことは進んでいくのではないかと期待しています。各地域において強みのある産業や、県が進める次世代産業関連プロジェクトとスタートアップをマッチングし、協業や共創につなげていきたいです。

スタートアップとコミュニティについて話し合う3名

海外・国内他都市との連携を促進

香月:
2024年、知事はインド西部のグジャラート州を訪問し、友好協定を締結されました。スタートアップ支援を推進する大学施設も訪問されましたね。

鈴木知事:
グジャラート大学とスタートアップ支援に関する覚書も締結しました。この覚書に基づき、インドのスタートアップを「TECH BEAT Shizuoka」に招聘し、県内企業との協業を促進していきます。

香月:
県内での今後も動きも教えてください。

鈴木知事:
スタートアップ・エコシステムの構築に当たっては、県をまたぐ広域的な連携は必須。本県もCentral Japan Startup Ecosystem Consortiumに参画し、東海各県との協力体制に基づく取り組みを推進していきます。

さらに、今後も静岡ベンチャースタートアップ協会などの関係者の皆さん、静岡県産業振興財団や各プロジェクトのコーディネータ、商工会議所等と協力・連携して、より地域に密着したコミュニティの構築を推進するとともに、コミュニティ間の連携を強化することで、県全体でコミュニティの活性化を図っていきます。

篠原:
スタートアップの存在は日本でも根付いてきていますが、大事なのはここからです。ポテンシャルがあるここ静岡から、挑戦と共創の輪を広げ、実践的な支援を拡大をしていくつもりです。

スタートアップ事業者はもちろん、行政関係者、支援機関、金融機関、企業、教育関係者など、静岡県内のスタートアップ支援に関わる幅広い方々巻き込んでいきたいです。

香月:
エコシステムの強化には様々な手法や留意点がありますが、志のあるプレイヤーを応援・支援するマインドが最も重要だと対談を通じて感じました。ありがとうございました。

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